あの日、星に導かれた私は、今日も星に導かれる。

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キズナ

 

 

 

「行ってきまーす」

 

 家から一歩踏み出す。この時期の外気は冷たすぎて、踵を返して家の中に戻り、そのまま二階に駆け登って布団に潜り込んでしまいたくなる。

 

 駅へと歩き始めると、冷たい北風が早く行けと後ろから急かすように強く吹き付ける。戸山香澄は、いつもより重い荷物を持ちながらも、足早に駅へと向かう。

 

 

 

 

 

 チンチンチン。その音で扉が閉じて、東京さくらトラムの路面電車は発車する。冬の早朝、しかも、学生が冬休みの時期に入ったこともあってか、乗車している人は少ない。香澄は空いている席に腰を下ろした。

 

 香澄はもう、音の流れていないイヤホンを装着するのはやめていた。心を閉ざしていた過去の自分の象徴。音楽を聴いているのだから、寂しいわけでも、退屈なわけでもない……と、いうフリをするためのイヤホン。そんなものを着ける必要はなくなったから。

 

 カバンを開けてスマホを取り出す。メッセージアプリの「ポピパ」のグループを開いて、少し前のメッセージをうっとりと見つめる。そこには、「ポピパで合宿やってみない?」と有咲から三日前に送られてきたメッセージがあった。予定は、今日から蔵で行うことになっている。本当は二泊三日で行おうとしていたが、りみが実家に帰省する日と被ってしまうので、一泊二日になった。

 

 香澄にとって、友達と集まって合宿、もといお泊まり会なんて初めてだった。中学生、そして高校生になって、あの日、星に導かれて有咲と出会うまでそんなことなんて考えられもしなかった。毎日毎日、サイテーだな、なんて思いながら過ごしていたから。

 

 でも、ポピパを結成してから、そんな毎日は目まぐるしく変わった。毎日がキラキラドキドキの連続になっていった。放課後も休みの日も、皆で蔵に集まって練習するようになった。少し前の花咲川高校の文化祭では、初めて五人でライブをした。自分たちのオリジナル曲も披露した。五人で奏でる音楽(キズナ)は、今までで一番最高だった。

 

 そして、再び年明けの商店街での演奏が近づいていた。

 

 

 

 

 

 路面電車が早稲田停留所に入線する。香澄の他に数人が降り立つ。香澄が駅舎から出ると、家を出た時は少ししか顔を覗かせていなかった太陽が、周りを照らし始めていた。

 

 花咲川高校に入学してから、いつも下を向いて歩いていた道。しかし、今の香澄にそんなことはなく、顔を上げて歩けている。

 

 花咲川高校へのいつもの通学路を歩いていくと、小さく光るものが見える。側溝のブロックに貼られたマスキングテープには、銀色のマーカーで書かれた星と矢印が描かれていた。多くの人は見逃してしまうような一筋の小さな光が、慎ましく輝いている。

 

 ☆

 →

 

 それの示す方向には、また同じように星と矢印がある。香澄にとっての奇跡の印。初めてこれを見つけた時のように、香澄は星を追って歩みを進める。いくつかの路地の角を通り抜け、コインランドリーの入り口、古びた室外機、ブロック塀の下、植木鉢、ガードレール……と、いくつもの星の軌跡を辿っていく。大きな広場に突き当たり、その次は電信柱、銭湯の階段。途中にあったブロック塀の上で、猫が丸くなって寝ていた。

 

 もうすぐだよ☆←

 

 その矢印の先には、ポールが立っている。

 

 これが最後☆→

 

 道の右側に立つポールに書かれた最後の矢印は、有咲の家を指し示している。最初の頃は、緊張しながら有咲の家の扉を叩いていたが、今となっては慣れたものだった。有咲の祖母に挨拶をして、家の中庭へ。そこに建っている白塗りの壁の建物。ポピパの練習拠点で、様々な思い出が詰まった、蔵だ。

 

 香澄が蔵に入ると、皆はもう揃っているようで、談笑する声が聞こえる。ここが、ようやく手繰り寄せた自分の居場所。

 

「皆、おはよう!」

 

 今日も香澄は、皆と音楽(キズナ)を奏でていく。

 

 

 


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