年を跨いで行う初詣。それが『二年詣り』。

※この作品には作者投稿作品に登場するキャラクターが出てきます。
※登場キャラは、大学生という設定です。

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二年詣り

 年の瀬を迎えたその日、氷川洸夜は居間に置かれたこたつに入り暖をとっていた。すると、居間の扉が開かれ1人の少女が室内へと入ってくる。

 

「こたつに入って丸まっているなんて、まるで猫みたいね」

 

 その言葉と共に艶やかな銀髪を揺らした少女、湊友希那はそのまま何事もなかったかの様にこたつへ自身の体を入れる。

 

「……猫ねぇ」

 

 気怠げな表情と共に顔を上げた洸夜は、隣辺に座した同居人(友希那)の方へと視線を向ける。

 

「猫だったら、こたつの中で丸くなってるだろうな」

 

 ジト目を伴い友希那へと返答した洸夜は、こたつの上に置かれていた煎餅を1つ手に取るとそれを口へ運ぶ。

 

「硬……」

 

 惰性に満ちた表情で煎餅を食す洸夜。友希那はそんな彼のことを、微動だにせず眺めている。するとその視線の意図に気付いた洸夜が口を開く。

 

「いや、入んねぇからな?」

「何故?」

「俺は猫じゃないから」

 

 きっぱりと答えた洸夜は、そのままテレビを付け面白げな番組を探しチャンネルを回していく。その傍ら、友希那はこたつの中へ潜ったかと思えば彼の隣から這い出てくる。

 

「なんでここ入ってくるんだよ」

「寒いからよ」

「こたつに入ってるんだから暖かいだろ」

 

 正論をぶつけた洸夜は、煎餅の隣に積まれていたみかんをとると、その皮を剥き始める。

 

「しっかし年末って見るもんねぇな」

 

 ボヤきながら皮を剥いたみかんをちぎり口に放り込む洸夜。すると隣で口を開け彼の方を見る友希那の姿が映る。

 

「……あの、食べたいならそこにありますけど」

「食べさせてちょうだい」

「自分で剥けよな……」

 

 渋々と言った表情を取った洸夜は半ば折れる形で友希那の口にみかんを放り込む。すると友希那は、怪訝な表情を見せる。

 

「……酸っぱいわね」

「んじゃハズレかもな」

「同じみかんなのに?」

「うん。知らんけど」

 

 嘘か誠か。それをはぐらかす一言を添えた洸夜は、わずかに口角を上げ薄い笑みを浮かべる。対する友希那は、呆れたように溜息を吐く。

 

「何故そんなに平然と答えられるのか不思議でしょうがないわ」

「経験故、かな」

「私と同い年じゃない」

 

 不満気な表情で呟いた友希那は、再び彼の方を向きながら口を開く。洸夜の方も反論する気などはないらしく、ちぎったみかんを友希那の口へ入れる。

 

「これは甘いわね」

「あー、今度はアタリか」

 

 友希那の表情を見た洸夜はわざとらしく肩を落とす。対する友希那は、間髪入れずに彼の肩へ強烈な一撃を放つ。

 

「イタ……酷いことするなぁ」

「あなたがいけないのでしょう?」

 

 ため息交じりに言葉を溢した友希那は、視線を年末番組の流れるテレビ画面へと移す。そうして暫しの間、茫然とテレビ画面を眺める2人。すると突然友希那が口を開く。

 

「それにしても、退屈ね……」

「そうだな……」

 

 その言葉と共に天井を仰ぐ洸夜。すると何かを思いついたらしく、友希那の方へと向き直りとある提案をする。

 

「……なら、二年参りでも行くか?」

「二年参り?」

 

 洸夜の口から飛び出した聞きなれないであろう言葉に首を傾げる友希那。対する洸夜は、彼女の反応が予想の範疇だったらしく間髪入れずに説明を始める。

 

「大晦日から元日にかけて行う初詣のことだな」

「そうなのね。なら、この後から出かけるということかしら?」

「だな。家にいても、退屈なだけだし良いかなと思うんだけど」

 

 小さく笑いながら答えた洸夜であったが、壁に掛けた時計の針が目に留まるなり渋い表情を浮べる。

 

「げ、まだ6時にもなってねぇじゃん……出るにはちと早いな」

 

 困ったように溜息を吐いた彼は、こたつから己の身を抜き立ち上がるとそのまま扉の方へと進んでいく。

 

「何処へ行くの?」

「少し寝るわ。んじゃ、おやすみ」

 

 それだけ言い残した洸夜は足早に居間を去っていく。1人残された友希那は、暫くの間こたつに入ったまま画面を凝視していたが、立ち上がるとテレビを消し、こたつの電源を落とす。

 そして最後に居間の明かりを消した彼女も、居間を後にしていくのであった——

 

 

 

 

 

 年が明けるまで残り2時間程となり、賑わいを見せる原宿駅前。その人混みの中で、互いの手を固く握りながら並んで歩く洸夜と友希那の姿があった。

 

「……あー、全然寝れなかった。寧ろ疲労が溜まったんですが」

「そう。それは残念だったわね」

 

 素っ気ない態度で返答した友希那とは対照的に、洸夜は顰めっ面を見せる。

 

「他人事みたいに言うなお前。というかシャワー浴びてきたせいで寒いんだが」

「あそこまで白熱してしまったのが悪いんじゃないのかしら」

「誰のせいだ誰の」

 

 内心にある不満を吐露した洸夜は小さくそっぽを向く。そんな洸夜に対して呆れた表情を見せながら、友希那は口を開く。

 

「そう言いながらもあなた、結構乗り気だったように思えたけども?」

「……否定できねぇ」

 

 どこか悔しそうに、歯を食い縛り俯く洸夜。そんな彼の頬は微かに赤みを帯びていた。

 

「とりあえず……風邪は引くなよ」

「本当にそういうところよ……それで、今はどこに向かっているのかしら?」

 

 気恥ずかしそうに返した友希那は、自身の中に現れた疑問を洸夜へと投げる。問われた彼は、視線を友希那の方へと戻しながら応答する。

 

「明治神宮に行こうかなと」

「明治神宮って、あの?」

「そうそう。こっちを年内最後の参拝にしようかなと思って」

 

 微笑しながら答えた洸夜は、懐から携帯を取り出しその画面へ視線を向けたかと思えば僅かに驚きの表情を浮かべる。

 

「どうかしたの?」

「ちょっと急いだほうがいいかな、と思ってさ」

 

 目前に広がった人の波を見据えながら苦く笑う洸夜。友希那は周囲を一瞥した後に、小さく首を縦に振る。

 画して2人は、人波を掻き分けながら鳥居の前に辿り着くと一礼し園内へと進入していく。

 

「広いわね」

「ああ。祀っている人達が、凄い人だからね」

 

 短く洸夜が述べた後、2人の間には静寂が訪れる。周囲の参拝客らの発する声が生み出した雑踏の中、洸夜は呆然と微かな明かりが灯る夜空を眺めていると、不意に彼の左腕が締め付けられる。不思議そうに傍らを確かめると、頬を膨らませながら腕に抱きつく友希那の姿を捉える。

 

「……友希那?」

「寒いから少し、こうさせてちょうだい」

 

 そっぽを向きながらの友希那に告げられた洸夜は小さく笑みを溢しながら、空いている右手で彼女の頭を撫でる。

 

「じゃあ俺も、暫くこうさせてくれ」

「……好きにして」

 

 微かに頬を赤らめながら答えた友希那は、そのまま洸夜にされるがままであったがどこか満更でもない表情を見せる。そうして互いに身を寄せながら列に沿ってゆっくりと参拝道を進むこと数十分、2人は本殿の前へと到達する。

 

「拝礼の仕方は分かる……よな?」

「それぐらいわかるわよ」

 

 短いやり取りの後、賽銭箱の前に赴いた2人は賽銭を入れ拝礼を行い黙祷(もくとう)する。1分程祈りを捧げた両者は賽銭箱の前から退くと並んできた道を戻って行く。

 

「何をお願いしたの?」

 

 道すがら、唐突に友希那が洸夜へと問いかける。問われた洸夜は、少し考える所作を見せた後に口を開く。

 

「今年1年の感謝と、来年度の平穏を少々ってところかな」

「そう」

 

 友希那が小さく反応したところで2人の会話は途切れ、ただ黙々と原宿駅を目指して歩いていく。すると突然、友希那が静寂を破る。

 

「私の願いについては聞かないの?」

「うーん、なんか人の願いを聞くのは無粋な気がするので。どうしても聞いてほしいのなら聞くけど?」

「結構よ。それで、今度はどこへ向かうのかしら?」

 

 洸夜の言葉を軽くあしらった友希那は、大きくため息を吐いた後に新たな疑問を彼へと投げる。問われた洸夜は、時計に視線を落としながら返答する。

 

「神田明神だから……秋葉原とか御茶ノ水だな。次に来る列車次第でルート考えようかと思ってるから、とりあえず駅に向かってる。はい」

「そうなのね」

「うん。目標としては年明け前に向こうに着きたいなとも思ってる」

「なら急ぎましょう」

 

 友希那の返しにコクリと頷いた洸夜は、彼女の手と手をつなぐと足早に駅へと進んでいく。そして駅に着くなりホームへと進入してきた列車に乗り込む。

 

「混んでるな……」

「そうね」

 

 平時よりも人の多い車内で人に揉まれつつ、列車に揺られる2人は隣の代々木にて乗り換えを挟み、御茶ノ水駅へと降り立った。

 

「久々こっち側で降りたなー」

 

 駅を出てすぐにある(ひじり)橋を渡りながら辺りを見渡す洸夜。どこか幼なげな表情を浮かべる彼を見ながら、友希那は頬を綻ばせる。そうして進んだ2人が国道17号線沿いに出ると、参拝客と思しき列が目に留まる。

 

「もしかして……アレ?」

「そう……だわ」

 

 頬を引き攣らせながら首を縦に振る洸夜。対する友希那は、彼とは対照的に澄ました顔のまま、彼の手を引いていく。

 

「ほら、早く行きましょう。年を越してしまうわ」

「お、おう」

 

 戸惑いを見せながらも応じた彼は、友希那と共に列に並ぶ。先程の明治神宮よりも進みは早く、10分程で2人は本殿前まで到達する。

 

「あの白い場所にお賽銭を投げるのかしら?」

「そうそう。投げるの失敗して変なところ飛ばすなよ?」

 

 冗談まじりに返された友希那は、眉間に皺を寄せ不機嫌さを醸し出す。それを向けられた洸夜は、どこ吹く風と言った具合で賽銭を、本殿の少し前に備えられた白い台へと投げ拝礼、黙祷を行なっていく。友希那もまた、彼に遅れて同じ動作を行なう。

 

「……ちょっと早かったかな」

 

 黙祷を終え列から逸れた直後、洸夜が小さく溢す。その直後、何処からともなく鐘の音が鳴り響き始め、洸夜は反射的に時計へ視線を向ける。

 

「あ、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう」

「本年も、よろしくどーぞ」

「こちらこそ」

 

 普段と変わらぬ様子で挨拶を交わした2人は、見つめ合ったかと思えば互いに笑い合う。

 

「んじゃ、帰るか」

「待って」

 

 そう言って洸夜が踵を返した途端、友希那が制止と共に彼の手を掴む。不思議そうに彼が振り返ってみると、何かを躊躇う様子の友希那の姿がそこにはあった。

 

「どうした?」

「折角だし……初日の出も拝みたいわ」

 

 普段の彼女の口から出てこないような頼みを聞いた洸夜は驚きの表情の後、優しげな笑みを返す。

 

「良いよ。けど、それまでどうする?」

「少し、歩きたいわ」

「了解」

 

 友希那の提案に頷いた洸夜は、未だ鳴り響く除夜の鐘の音に耳を澄ませながら、友希那と共に神田明神を後にする。新たな年の始まりを、大切な人と共に過ごせていることにお互いが感謝しながら——


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