——とある寒い冬の日の放課後、自分
陽平「早く帰ってゲームするか」
たわいもないことを考えながら昇降口を出ると、1人の少女と鉢合わせる。
?「おや、今から帰るのかい」
女性でありながらも、すらっとした長身と綺麗な紫の髪をポニーテールに結った髪型が特徴的な彼女は
陽平「そうだけど、なんで?」
薫「それならば、少し手を貸してくれないかい?」
陽平「突然だね……というかなんで自分?」
薫「君が1番適任だからさ」
彼女の口から出た言葉に首を傾げる。はて、どういうことなのだろうか。
陽平「何するの?」
薫「大道具を運ぶ人手が足りなくてね。運ぶのを手伝ってもらいたいんだ」
陽平「なるほど。でもそれ、自分を選んだ理由になってないぞ」
薫「相変わらず君は痛いところをついてくる……フフッ、儚い」
陽平「あ、自分帰りますね。お疲れ様です」
薫「ま、待ってくれ……」
無視して帰ろうとしたら慌てた様子で止められた。なんなんだろう、すごく調子が狂う。
薫「現状頼めるのが君しか居ないんだ……」
陽平「それって、男手の伝が自分ぐらいしか無い、って意味で捉えて良いんですか?」
ぶっきらぼうに返してみると、コクリと頷く瀬田さん。へー、なるほど……そういうことね。
陽平「分かりました。手伝います」
薫「本当かい?」
陽平「ええ。そういう風に頼まれたんじゃ断れませんからね」
というわけで瀬田さんの頼み事を引き受けた自分は、彼女に連れられて演劇部の倉庫へと赴いた。
陽平「運ぶ予定の大道具というのはどれなんです?」
薫「ああ、こっちにある背景を運んでほしいんだ」
奥へと進んでいく瀬田さんに続いていくと、様々な背景が描かれたパネルが安置されている。
陽平「これ、全部ですか?」
薫「そうだよ。頼めるかい?」
陽平「分かりました」
1つ頷いた自分はパネルを倉庫から運び出し、講堂へと持って行く。これを何回も何回も繰り返す。
陽平「——よし、これで最後……っと」
最後のパネルを講堂へと運び終えた自分は、額から滴る汗を拭う。
陽平「終わりましたよ」
薫「どうやらその様だね。ありがとう。お礼と言ってはなんだが、これをあげよう」
その言葉と共に差し出された紙を受け取る。これは……チケット?
陽平「なんのチケットですか?」
薫「クリスマスイヴである明日にやる舞台の招待状さ。もし予定がなければ、見に来てくれないかい?」
陽平「まあ、折角なので見に来ますね。じゃあ、自分はこれで」
それだけ言い残して、帰路に着く。道中貰ったチケットを眺めながらあれこれ考えていた。
陽平「ただのお礼だとしても、チケットなんてくれるか?」
ただただそのことだけが気になっており、結局その日はモヤモヤとしたまま床に入った——
翌日、休日であるにも関わらず学校へとやってきた自分は、講堂で瀬田さんが主演の舞台を観終え、1人講堂に座していた。
陽平「凄かったな……」
誰もいない空間で呟いた声は、反響して酷くうるさいものへと姿を変える。すると、その後に混ざってこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
薫「やあ、楽しんでくれたかい?」
陽平「ええ。とても楽しめました」
薫「それは良かったよ。それで、何故こんなところに1人でいるんだい?」
陽平「少し余韻に浸りたくて、ですかね」
苦笑しながら嘘偽りなく答えてみると、瀬田さんが意外そうな表情を見せる。
薫「そうだったのかい。ところで、この後空いていたりはしないだろうか?」
陽平「空いてますね。いかんせん、もとより予定がなかったものでして」
薫「なら私と、カフェでもどうだい」
唐突な瀬田さんから飛び出した提案に驚きを隠せなくなる。瀬田さんいきなりすぎますって。
陽平「構いませんけど、何故?」
薫「そうだね……君に少し興味がある、というのではダメだろうか」
どこか気恥ずかしそうに答えた瀬田さんは、普段のような王子様といった印象はなく、等身大の女の子に見えた。
陽平「十分ですよ。それじゃあ、行きましょうか。折角瀬田さんが、お誘いしてくれましたから」
微笑しながら荷物を手に取った自分は瀬田さんと共に学校を出ると、イルミネーションに彩られた街へと繰り出していくのであった——