高重力場発生装置後藤ひとり   作:月兎耳のべる

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書いててとなりのトトロ感あった。(こなみかん)


Track10 裸でなにが悪い

 また会ったね、伊地知虹夏だよー。

 趣味は家事全般! そしてここ最近は料理の研究してたりするよー! 食べた人にいっぱい美味しいっていってもらいたいからね!

 

 え? 最近あった嬉しかったこと? えーっと……。

 ……この前、意図せず結束バンド全員でお泊り会をしたんだけど……ぼっちちゃんが隣にいたから、その、ついね? つい手を伸ばしたら……ぼっちちゃんも握り返してくれたこと、かなー……?

 

 そ、それはともかく!

 

 今日も今日とて練習の日。

 たまの祝日でも結束バンドは全力全開!

 それぞれの夢を目指して猛練習をする……はずなんだけど。

 

 ぼっちちゃんが来ていない。

 というか、ぼっちちゃんと全く連絡がつかない。

 

 いつもなら集合場所に誰よりも早く来て、

 まるでダンゴムシみたいに隅っこでひっそり隠れてるのに、どこにもいない。

 ゴミ箱の中も、ダンボールの中とか、カーペットの下とかもしつこく探したけど、駄目だった。

 

「ぼっちちゃん……どうしたのかなぁ」

 

「……そうですね。どうしたんでしょうひとりちゃん……全然返答が返ってこないです」

 

 ぼっちちゃんLOVEの喜多ちゃんも、落ち着かなさそうにしている。

 というか、私もそうだ。

 L〇INEの返答は昨日の夕方からぷっつりと途絶えている。

 

 普段だと既読だけは秒でつけて、たっぷり20分くらいかけてスタンプが帰ってくるのに……。

 

 何かあったのかな。

 喜多ちゃんはともかく、私のにも返答くれないのは流石に異常だ。

 

 うぅ~~~~~……。

 

 うん。決めた。ぼっちちゃんを探しに行こう。

 

 同じ気持ちだったのかな。

 喜多ちゃんと目が合い、思わず頷き合ってしまった。

 

「ぼっちちゃんを探しに行こう」

 

「そうしましょう。伊地知先輩」

 

 こんなそわそわした気分じゃ練習なんて出来ないよ!

 早くぼっちちゃんを見つけないと……!

 

「虹夏。郁代。どこ行くの?」

 

 ──そこに、リョウの声がかかった。

 

「……聞いてなかったのリョウ? ぼっちちゃんを探しにいくんだよ。流石にあの子が来ないのはおかしいって」

 

「そうですよリョウ先輩! ひとりちゃんに何かあったら……」

 

「たった10分来ないだけで? 流石に過保護すぎ」

 

 っ……。

 リョウの目がいつになく冷たい……?

 

「私達は高校生。法律的には子供かもだけど、一人で考えて行動も出来る年。メンバーの誰それが遅れる。そんなのよくある事。いちいち大袈裟」

 

「でも。ひとりちゃんはいつもなら来てるのに……」

 

「ぼっちだって人間。たまに遅れる事くらいある。練習しながら待ってればいい」

 

「……リョウ。ぼっちちゃんの事心配じゃないの? ちょっと薄情じゃない?」

 

「心配はしてる。けどむやみに騒ぎ立てる必要はないって言いたいだけ。1時間とか2時間経って初めて動いた方がいいんじゃない?」

 

「……」

 

「それに今出てったらスタジオ代が無駄になる」

 

「……っ、だったら私がリョウの分払ってあげるよ。これで満足? 探しにいっていい?」

 

「っ、そういう問題じゃなくて……!」

 

「──リョウにとってはそういう問題でしょ!? どうせお金の心配だけしてる癖に!」

 

 思わず私は立ち上がって睨み返していた。

 

 私はリョウの事を友人だと思ってる。

 けどね。流石に我慢できない。

 いつもいつも自分の事にしか興味がないところとか。

 すぐにお金のことを考えちゃうこととか!

 大体が最近ぼっちちゃんに冷たくしてさ、なんでそんなこと言えるの!

 

「ち、違う……そんな事……!」

 

「ただ忙しくて遅れてるだけならいいよ?! でも本当に何かあったらどうするの! その時私達は呑気に練習してましたって……そんなの私は嫌だよ!」

 

「……わ、私は、ただライブも近いから練習に集中しないとって……ただ、それだけで……!」

 

「私もです。ひとりちゃんは結束バンドの……私達の大事なメンバーなんです。だからリョウ先輩。練習したいなら一人でしていてください」

 

「…………に、虹夏、郁代……」

 

 私達は、リョウを通り抜けてスタジオを飛び出した。

 

 今日という今日こそリョウに呆れた。

 もう知るもんか。

 そっちが謝らない限り絶対に口を利いてやるもんか。

 

 

 

 

 

「──────なんで…なんでぼっちだけ……あ。う…ごめ、ごめん……ごめんなさい……にじか……ごめんなさい……っ!」

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

「もしもしお姉ちゃん!? ぼっちちゃんから連絡来てない?」

 

『虹夏か……いや。あたしの所にも来てないな』

 

「そっかぁ……どこ行っちゃったんだろう」

 

『ご家族にも確認したんだが昨日は家に帰ってないらしい。私も毎朝のおはようのL〇INEに既読が付かないから怪しいと思ってたんだが……』

 

「うへぇ。お姉ちゃん……ま、まあいいや。何か情報あったら教えてね。私も駅前とか色々探し回ってみるからさ!」

 

『分かった』

 

 悪い予感が的中した。

 まさか、本当に昨日から行方不明だなんて……!  

 ぼっちちゃんは普段は奇行は目立つけど、凄く可愛いから『もしかして』はありえそうだ。

 ううん。私が男の人だったら思わず声かけてるもん。可能性はすごく高い……!

 

「喜多ちゃん。ぼっちちゃんは昨日家に帰ってなかったみたい」

 

「そんな……! も、もしかして誘拐……」

 

「まだ決まってはないよ。でも、とりあえずぼっちちゃんが良く行きそうな所探してみようよ」

 

「はい。私もイソスタで目撃情報とかないか聞いてみます!」

 

 ふつふつと沸き上がる悪い想像をかき消しながら私達は探し回る。

 秀華高校前。高架下のトンネル。駅前の楽器店。じめじめした路地裏。アー写を撮ったビル前。排水溝の下……でもどこを回っても姿も形も、痕跡も見えない。

 

 時間が経つにつれ焦りが支配する。

 ぼっちちゃんがひどい目に合ってる事を考えるだけで胸が痛い。

 

(ぼっちちゃん。お願いだから無事でいて……!)

 

 こぼれそうになる涙をこらえながら聞き込みをし、声をあげて探し回る。

 

 しかし時間だけは過ぎて、日は高く上り。

 私達が途方に暮れかけた……その時だった。喜多ちゃんが声をあげたのは。

 

「み、見てください伊地知先輩! これ……!」

 

「え……?」

 

 喜多ちゃんが見せてくれたイソスタの画面には、廣井さんとぼっちちゃんが夜の路上でライブをしている様子があった。

 

 投稿時刻は……昨日の深夜。

 

 ……。

 

 おい。まさか。そのまさかか?

 

「──……あんの酔っ払いが」

 

 私は鬼電を開始した。

 

 かけて。出なかったら留守電に一言。

 かけて。出なかったら留守電に一言。

 かけて。出なかったら留守電に一言。

 

 間隔を空けずにひたすらに電話をかけ続ける。

 無理やり渡されたアドレスだったけど、一応登録しておいてよかった。

 この時ばかりは当時の私に感謝。

 でも廣井。お前は早く出ろ。

 

「……私は星歌さんに連絡しておきますね」

 

「お願い。私は電話し続けるから。あとライブしてた場所どこか分かる?」

 

「えっと……フォロワーさんによると、下北の南西口すぐの飲み屋街みたいです!」

 

 ぼっちちゃんの誘拐の真犯人が、まさか身内だったとは。

 犯罪の可能性は下がったのは喜ばしい事だけど……あの人、出禁にしてもらわないと駄目なんじゃないかな。

 

 私達は足早に飲み屋街を急いでいた。

 電車に乗ってえんやこら。

 すると、途中で聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「──うえぇぇぇぇぇぇん、ぼっちちゃあぁぁぁあん! ぼっちちゃーんどこ行ったのぉぉぉぉ、早く出てきてよぉぉぉ……! お願いだからぁぁぁぁ! 私の命がかかってるんだよぉぉぉぉぉぉぉ──……!」

 

 ガラガラ声で必死に排水溝の下を探るその不審人物。

 

 それは恐らくSICK HACKのボーカル兼ベーシストで。

 間違いなく年中酒を浴びて、無茶苦茶に暴れまわってそうで。

 私の家に勝手に上がってシャワーを浴びてただ飯を喰らう。

 目下ぼっちちゃん誘拐未遂の疑いがかかってる犯罪者だった。

 

「廣井さん」

 

「ひっ!」

 

 びくんっ、と大袈裟に飛び跳ねた酒クズが、ぎこちない動きで振り向いた。

 

「ぼっちちゃん。どこに行ったか知りませんか?」

 

「……あ。あははは。こんにちわ妹ちゃん、い、いい天気だね……?」

 

「どこに行ったか知ってますよね?」

 

「……ご、ごめんなさい。知りません……」

 

 酒クズが分かりやすく動揺し、後ろに後ずさればすでに喜多ちゃんが逃げ道を阻んでいた。

 

「酔っ払いさん。昨日ひとりちゃんと飲み屋街にいましたね?」

 

「は。はひ……そ、そんな事は別に~……」

 

「素敵な路上ライブですね? お隣の方はご存知ですか?」

 

「はい……後藤ひとりちゃんっていう方です……」

 

「「きりきりとすべて話せ」」

 

 そして酒クズは路上で女子高生二人に対して正座を始めた。

 疑惑は確信に代わった。

 じゃあ問題は、どうしてぼっちちゃんがいないか、だ。

 

「あの……ぼっちちゃんは何か悩み事があったみたいでさ……お、おねーさんほら、大人として悩みを解決してあげようと……」

 

「年中無休で酔っ払ってる人が大人?」

「生活能力皆無の人が大人?」

 

「あひぃぃ……そ、それで悩みをパーっと解決するために社会経験を積ませようと居酒屋に……」

 

「は!? まさかぼっちちゃんに飲ませたの!?」

 

「ち、違う違う違うってあはははははまさか未成年に飲ませる訳ないじゃんご飯食べただけでこ、こんな世界があるんだよ~って伝えたくて……そ、そしたらぼっちちゃん酔っぱらっちゃって……」

 

「コイツ……」

 

「み、水と間違えて飲んじゃったみたいなの! ほ、ほんとだよ~! 嘘じゃないよ! だからその冷たい目はやめてぇぇ! おねーさん必死に吐かせたんだけど、ぼっちちゃんでろでろになっちゃったから私の家で介抱しよーとしたんだよ~! そ、そしたら朝起きたら家から居なくなってて……! だ、だから探してるの!」

 

 ほら証拠!って懐から取り出したのは……。

 はぁ!? 何そのピンクのブラ!? デッッッッッッッ──! ……じゃなくて何てもの取り出してんのさ!?

 

「────スゥーーーーーーーーッ…………っ! 本当だ。ひとりちゃんだわ……!」

 

「喜多ちゃん? 今なにした? ねぇ?」

 

「あの子、今スマホも何も持ってないんだよぉ! 早く……早く見つけてあげないとぉ!」

 

 もう、尋問どころじゃない。

 私達は下北沢の街の中を再び走り出すのだった。




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