高重力場発生装置後藤ひとり   作:月兎耳のべる

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一日遅れの更新だよッ
リョウ視点。セイシュン

次で完結です。


Track13 フラッシュバッカー

 私は……山田リョウ。

 自分のせいでメンバーと喧嘩をしてしまった愚かなベーシスト。

 

 今日の予定は練習だったけど、その予定は立ち消えた。

 ぼっちが居なくなったからみんなそれを探しに行ったからだ。……私一人を置いて。

 

 私しか居ないスタジオは広すぎて。

 練習する気にもなれず、ただただベースを抱いて宙を眺めていた。

 

 ……どうしてこうなっちゃったのかな。

 

 最初は虹夏から誘われたバンド活動だった。

 売れ線だけを目指すバンドが嫌になり、一度は脱退した矢先に誘われた。

 演奏や技術が上手いからとかそういうのではない。

 「リョウのベースが好きだから」という誘い文句にやられてしまった。

 

 それから。

 コミュ障のぼっちが来て。

 流行り好きの郁代が来て。

 結束バンドは慌ただしく転がりだした。

 

 当初はどうなるかと心配していたが、

 皆と過ごす日々が。皆と演奏する日々が私達に活力と自信を与えてくれた。

 

 悪くはなかった。

 むしろこんな日がずっと続けばって思ってた。

 

 それなのに。

 学園祭を超えてから歯車がずれ始めた。

 

 皆の視線が急にぼっちを向き始めた。

 郁代も。虹夏も。そして星歌さんでさえも。

 

 何につけてもぼっちぼっち。

 どんな時でもぼっちぼっち。

 

 気持ちは……分かる。

 ぼっちは魅力的だ。

 行動のひとつひとつが憎めず。ほっとけない。

 そしてぼっちが起こすミラクルが今の結束バンドを作ったというのも認める所だ。

 

 だけど。どうしても疎外感を覚えてしまう。

 

 誰も振り向いてくれなくなったのが辛かった。

 虹夏でさえもそうだった。

 今までは付かず離れずずっと一緒だったのに。

 一番最初に仲良くなった筈なのに。

 その虹夏がずーっとぼっちを構いっぱなしなのが許せなかった。

 

 だから……見当違いなんだろうけど、ぼっちを恨んでしまった。

 ぼっちは毎日を必死に過ごしてるだけなのにね。

 

「………………」

 

 午後16時半。スタジオ。

 私は午前中から何をするでもなくずっとぼーっとしていた。

 

 頭の中でリフレインし続ける虹夏と郁代の言葉。

 それが、あまりにも痛くて。

 でも自分が悪いのが分かってしまうから、どうしても動けなかった。

 

『──どうせお金の心配だけしてる癖に!』

『──練習したいなら一人でしていてください』

 

 半分やっかみのつもりだった。

 みんながぼっちに構いすぎてるから釘をさすつもりでもあった。

 けど……結局、二人が私よりぼっちの事が大事なんだって分かって辛くなるだけだった。

 

「……結束バンドに、もう居場所なんてないんだ」

 

 だって二人にとって自分は邪魔者なのだから。

 こんな銭ゲバ奢らせ常習犯生活力皆無社会不適合ベーシストなんて、居るだけ迷惑だ。居なくなった方がいいだろう。

 

 …………。

 

 ………。

 

 ……。

 

 それにしても先程からスマホが五月蝿い。

 

 のそのそと取り出し見れば、虹夏からの電話だった。

 

 ディスプレイに出る虹夏という名前。

 それを見るだけで胸が痛くなり、思わず通話拒否のボタンを押してしまう。

 話す気力はないし、もう虹夏に会ってもなんて言えばいいか……分からない。

 

「………………最後に1曲だけ弾こう」

 

 壁にかかった時計。

 その長針が一番上を向いたらこのスタジオから追い出される。

 それまでは結束バンドで。そこからはただの女子高生に戻ろう。

 

 そう決めて、私はゆっくりと弦をかき鳴らし始める。

 選んだ曲は『フラッシュバッカー』。

 ぼっちが作った、思い出を形にした曲だ。

 

『転換点、いつかノートに書いたあの言葉たちは』

『きっと泡になって消えた。行方なんて知らない』

 

 リズムを支えるドラムもない。

 ストーリーを歌うボーカルもない。

 メロディを奏でるギターもない。

 ただ重低音を響かせるベースだけが、悲しく空転している。

 

『振り切った白いチョークが、はらはらと落ちていった』

『まるで。星屑みたいだと見とれていたんだ。嗚呼』

 

(……なんで、この曲選んだんだろう?)

 

 ぼっちの思い出は、結束バンドの思い出だ。

 結束バンドの思い出は、私の思い出だ。

 だからだろう。私は思い出をなぞるように演奏を続けていった。

 

『いつかは消えてしまうけど、誰かの記憶には残れるかな』

『この瞬間を切り取ってさ』

 

 ──ど、どうもプランクトン後藤です……。

 

 ──あっ、あの! 次は絶対いい歌詞書いてきます!

 

 ──けっ結束バンドの結束力! 観てください!

 

『光る朝が。朝が。あまりに眩しい。眩しいからさ』

『なんかもうそれだけで、心が宙に舞う』

 

 ──何でもしますからあの日の無礼をお許しください~~!

 

 ──先輩分のノルマ……貢ぎたい!

 

 ──私のギターを見て貰えませんか……!

 

『君の言葉がずっと離れない、離れない』

『フラッシュバッカー。今も思い出してる』

 

 ──暇ならベースやって!

 

 ──ちょっとガチで感謝されると胸が痛むじゃん! も~たくさん食え!

 

 ──これからも皆を頼るんだよ! バンドなんだから。

 

 

 脳裏をよぎる、かけがえのない思い出の数々。

 コードを刻むたびに浮かぶ心象風景が私の胸を打つ。

 

 私は、それらの思い出を過去のものにしようとしている。

 

 何十何百と演奏したこの曲を演奏し終えたら、私の結束は終わり。

 そう決めたのに。

 それが終わるのが嫌で嫌で……仕方がなかった。

 

「君の言葉をぎゅっと。離さない……フラッシュバッカー。今も思い出している……」

 

 ドラムの代わりに足がリズムを刻み。

 ボーカルの代わりは私の低い声。

 ギターの代わりに、ベースが伴奏を流す。

 

 どこまでも悲しい。一人の結束バンド。

 

 頬を伝う熱い涙を抑えることも出来ずに、

 とうとう演奏を終えようとした──その時だった。

 

「……リョ、リョウさん……っ!」

「リョウ……ッ!」

「リョウ先輩!」

 

 防音室の扉が慌ただしく開いた。

 そこには息を切らした結束バンドのみんなが勢ぞろいしていた。

 

 私もみんなもお互いにぎょっとしていたと思う。

 そしてそんな中誰よりも動いたのは……私でも虹夏でも、郁代でもない──ぼっちだった。 

 

「え──」

 

 普段の鈍臭さが嘘のように、俊敏に私と距離をつめたと思えば……そのまま、私は抱きしめられていた。

 

「……ぼ、ぼっち。何?」

 

「──」

 

「や、やめて。お願いだから離して……」

 

「──」

 

「やめて……やめてったら……やめてよ……!」

 

「嫌です」

 

 首に両手を回し。まるでしがみつくような強い抱擁。

 がんじがらめのハグで苦しさを覚えたのと。

 こんな恥ずかしいところを虹夏達に見られたくないのと。

 泣き顔を見せたくないのでぐしゃぐしゃになって暴れてしまう。

 

 ……でも、ぼっちはびくともしなかった。

 

「リョウさん……私の事は、嫌いですか?」

 

「っ、やめてっ、いいから離れて……!」

 

「虹夏ちゃんや喜多さんが私ばっかり構うのが嫌でしたか……? 結束バンドが嫌いになってしまいましたか……?」

 

「離して……離してったら! やめて……やめ、ろよ!」

 

「私は、私は結束バンドが大好きです。そして同じくらいリョウさんが大好きです……!」

 

「ッ……!!?」

 

 ──何。何を言ってるの。何なの? 何なんだよ?!!

 

「訳、わからないこと言わないで……! 私は、結束バンドの邪魔者なの! 結束バンドには、ぼっちがいればいい! 私なんていらない……!」

 

「要らない訳がないです……! リョウさんが居なかったら結束バンドにならない……!」

 

「嘘……! 虹夏だって、郁代だって、みんながみんなぼっち、ぼっち、ぼっちって……みんなぼっちに夢中だもん……!」

 

「私は、リョウさんにも夢中です」

 

「変なこと言わないで……もう放っといてよ! お金も返す! 変なこと言ったことも、みんなの気分を害したことも謝る……! 謝るから……あやまるから……放してよぉ……!」

 

 嗚咽を漏らして、子供のようにダダをこねてもぼっちは放してくれない。

 髪を引っ張っても、腕をつねっても。

 ずっとずっと私を抱きしめ続け……私はとうとう抵抗を諦めてしまった。

 

「ばかぁ……はなして……はなしてぇ……!」

 

「……ちょっとだけ歯車がずれてたんです。ちょっとだけ。仲が良すぎたんです。だ、だから……元の結束バンドに戻りましょう?」

 

「いまさら……戻れない……わ、わたしは……わたしは……ぴぃっ!?」

 

 え、なに!? ななな、何で耳を噛まれて……!?!?

 

「──戻りましょう? 私の大好きなリョウさん……」

 

 耳元をくすぐる。良く響く低音。

 普段のぼっちとは思えない蠱惑的な声。

 背筋がぞくぞくぞくっと震え。

 手足からだらんと力が抜ける。

 それは思わず腰が砕けそうな、未知の感触だった。

 

「……」

 

「……あ、あの……リョウさん。みんなと仲直りしてくれませんか……?」

 

「ぁ……」

 

 ふっと拘束が解ける。

 視界いっぱいに広がっていたぼっちの顔が遠ざかる。

 柔らかい感触と温もりがなくなるのに名残惜しさを感じつつも、残された二人を見れば。

 虹夏と郁代が、私と同じく目一杯に涙を溜めてこっちを見ていた。

 

「──リョウ、ごめんっ!」

「──リョウ先輩ごめんなさいっ!」

 

 そして、二人は同時に胸に飛び込んできて泣き出すものだから。

 私も恥じらうことも忘れてつられて泣いてしまった。

 

 

 謝った。謝りあった。

 我慢してたこと。思っていたこと。

 嫌な思いをさせてしまった事。

 

 そして願った。願いあった。

 これからもずっと友達で居続けること。

 もっとたくさんの思い出を作りたこと。

 そして……みんなともっともっと演奏し続けたいことを。

 

 

 

 

 

 そして、約束の17時を超えてもなお。

 私は結束バンドで居続けたのだった。

 

 

 

 




フラッシュバッカー鬼リピしながら書きました。
やっぱり私は……みんなが仲良い結束バンドじゃなきゃダメなんだよぉ!

ぼっち「1号さんと2号さんの言う通りだった……抱き着いて耳を噛んで囁く……! は、恥ずかしかったけど教わってよかった……!」
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