私は後藤ひとり。
家族以外と視線を合わせ続けると心臓のBPMが200を超える女。
最近の日課は何故か最近頻度が増した皆へのL〇INEの返答と、ジミヘン(犬)と序列争いをすること。
前に増してギターを触る時間が増えた最近。
喜多さんと一緒に練習したり、メンバーでセッションしたり、実際にバンドしたり……。しかし押し入れで孤独に弾く時間は格段に減った気がする。
脱ぼっちぷろぐれす、こんでぃしょんおーるぐりーん。
このままいけばジュクで金のブリンブリンつけてライム刻みながら練り歩くのもそう遠くない未来かもしれない。
……いや、やっぱりその世界線は消滅させたい。
それはともかく。
ここ最近は結束バンド中心の生活という感じだ。
片道2時間かけて学校へ。
学校が終わったらSTARRYへ直行。
バイトをしたりセッションしたり。
そして家へ帰ったらもう一日終わり。
みんなと過ごす毎日は発見と驚きに満ちていて。
幼小中の日常がいかに灰色だったのかがよく分か――ぐおぉおぉぉおォォおォッ?! 掘り起こすな黒歴史ィッ、願わくばリライトしてぇええぇえぇぇ!
「おーい、ぼっちちゃーん。また発作出てるみたいだけどー」
「え。えへ。えへへへ……怠惰ですみません……ぼっちですみません……自首します……」
「なんで出頭するのさ!? もー戻ってきてよー!」
今日も今日とてSTARRYでバイト。
私と虹夏ちゃんはドリンクコーナー担当。
喜多さんは受付。
リョウさんは後方彼氏面しながらバンド眺めてる。リョウさん仕事して欲しいです。
別のバンドが演奏中の間は、ちょっとだけ暇になる。
私達はあてもなくバンドを眺めていた所だった。
「大丈夫? 顔やすってあげようか?」
「だ、大丈夫です……」
「ホントー? ムリシテナイー? まーいつものことだけど……やっぱりぼっちちゃんって面白いよね」
「へ……えへ、えへへへ……」
「うん。なんとなく表情の意味もわかってきた。面白いって言われて嬉しい反面、『面白い』ってなんか芸人みたいでちょっと微妙な評価だなぁ……って思ってるでしょ?」
「う゛っ」
「あたし、ぼっちちゃん検定あったらそろそろ一級くらい取れるかも」
その資格は社会では全く必要とされないしただの不名誉では?
あ、あと……やっぱり虹夏ちゃん顔が近い。
結束バンド顔良いランキングだと不動の最下位私を除いて、全員が1位になるくらい可愛い。
もし私が男の人だったら全力で勘違いしちゃうと思うからやめよ?
「……」
「……」
そして私達は無言で耳を傾けはじめる。
このバンドは私達より年上、なのかな?
大学生っぽい人達で、とっても場慣れしている。
流行りの恋愛ソング。
それをカバーして、観客を魅了している。
『――――――♪』
特にドラムの人が上手い。
どっしりとしたリズムは安心感があるし、ところどころのアレンジも自然に溶け込んでいる。
「ドラムの人、うまいね」
どうやら虹夏ちゃんも同じことを思っていたようだ。
視線はバンドで固定。
無意識にリズムを刻んで、ノっている。
けど、その顔は曲を聴いて楽しんでいるというよりかは……思い詰めているように見えた。
私は、私達は虹夏ちゃんが下手だなんて思ってないけど、本人はそうではないらしい。
ぱっと見じゃ分からないけど、皆の足を引っ張ってしまってないか時々不安そうな仕草を見せるのを、私は知ってる。
……虹夏ちゃんなら大丈夫だよって伝えようかな。
でで、でもいきなりそんな事言い出すのって何? ってなるだろうし、無責任な事言わないでって言われたら私は崩れ落ちて土に還りそう。むむ。むむむむむむむ。むりかもむりかもむりかも。
お、落ち着こう。素数を数え……素数ってなんだったっけ。わ、分からない……なら
これはリョウさん考案。原価率良すぎファンアイテム。
1個500円でアクセサリにもなるし、物をまとめる事も出来るすぐれものだ。私達モチーフの色合い4種揃えております。バイナウ!
で。その余りをくるくるしてきゅっとして。
くるくるしてきゅっとして。
ちょっと繋げればあら不思議。カラフル四輪出来上がり。
黄色。桃色。青色。赤色が絡み合って強固な結束バンドの絆がここに。うへへへ……。
「あーぼっちちゃん! それ売り物!」
「うぃひっ!? すすす、すみませんすぐに戻しますすぐに戻しま……あ、あれ?」
「結束バンドは一度でも入れ込んじゃったら元に戻せないよ。そうなるともう切るしかないんだから……あーあ。減給かなーこれはー」
げ、減給!? これ減給もの……?
この一瞬で私2千円なくしたの……?
「そ、そんな死にそうな顔しないでよっ。冗談だって! 結束バンドは原価安いからお金は取らないよっ」
「ほ……っ」
「でも作り直さないと駄目かなー。これお手製だから作って貰わないとかなー」
「はい全身全霊で作り直しますすみませんすみませんすみません」
注意一秒陰キャ消滅。
私の不注意が憎い……うぅ今日は残業になりそう。
って虹夏ちゃん、何でハサミを取り出したんですか?
「流石に売り物にならないからね~えいっ」
あぁぁ。私達の結束が。結束がなくなっていく。
赤が切られて青が切られてとうとうふたりぼっちに……。
「……」
あれ? 何でそこで動き止めるんですか……?
「虹夏。暇。構って」
「……リョウー? バイト中は暇になる事基本無い筈だけどー?」
「床は拭かれたがらないようだから私の仕事は終わり」
「もうすぐ曲終わってお客さん掃けたら仕事あるでしょ? 持ち場に戻る戻るー」
「嫌」
「嫌じゃないでしょー!」
リョウさんのウザ絡み……め、珍しい気がする。
後ろからがばって抱き着いて肩に頭を乗せる無自覚イケメン専用イケムーブ……!
喜多さんがされたら多分絶叫して喜びの余り匂わせイソスタしまくるんだろうな。
でも堪えた様子もなく引きはがす虹夏ちゃんは流石に慣れた感じだ。
「虹夏。明日遊び行く」
「えーもう相変わらず唐突だなー。ダメだよ、明日はぼっちちゃんと予定あるから」
「えっ……」
「えっ……」
「だよね? ぼっちちゃん」
「あっはい……」
こ、断れねぇ~~~~~!!
あとリボンをいじったって事はもしかして例のアレだろうか。
アレはひょんなことで始めちゃったけど、それくらい溜まってるってことなのかな……。
「ほらほらリョウはお仕事もどったもどったー」
「……」
ひぃっ!? リョウさんが氷点下の目で見てくる!? なんで!? ナンデ!?
§ § §
「……んー」
「あ。あの虹夏ちゃん……い、いかがでしょうか……」
「……あと30分。30分だけいい?」
「は、はい……」
「…………」
場所はSTARRY2階。時刻は18時。
虹夏ちゃんの部屋で私達は二人きり。
そして私は虹夏ちゃんに強く抱きつかれている。
これも変化の一つ……だと思う。
きっかけは私の家に遊びにきた虹夏ちゃんとじゃれ合った時だった。
正座で痺れて転びそうになった私を虹夏ちゃんが抱き留めようとして正面ハグ。なんかその感触にハマったのか、もう一回いい? もう一回いい? っておねだりするようになった。なんで?
私がだらしない豚みたいな肉付きしてるから抱き心地がいいんだろうか。
匂いとかもカビ臭いんじゃなかろうか。
でも本人的には私でいいらしく、今では驚異の週イチローテになりつつある。なんで?
(一回気になって香水つけたら「ぼっちちゃんの匂いじゃない。何これ?」って問い詰められて怖かった)
でも。
ぽつぽつと本心を語ってくれる時はこの時だけだ。
いつも明るく振舞っているからこそ溜まる疲労もあるらしい。
色んな悩みを私に教えてくれる。
分かる。私もいつも陰キャだからこそ溜まる疲労がある。
「……いつもごめんねー。ぼっちちゃん」
「い、いえいえ……わ、わわ、私程度でよければい、いくらでも……」
「ほんと? って甘えちゃダメなんだろうけど……どーにも心地よくてさー……」
ぐりぐり。はすはす。
犬にするようなスキンシップをする虹夏ちゃん。くすぐったいです……。
「に、虹夏ちゃんは頑張ってますよ……」
「……ううん。まだ足りないかな」
「虹夏ちゃんは、す、すごいと思います……みんなをちゃんとコントロールしてますよ……」
「……でも失敗もしちゃう。いつも。いっぱい。折角ここにヒーローがいるのに、足ひっぱってごめんね……」
「私は……ヒーローなので、その時は助けますよ……虹夏ちゃん抜きの結束バンドは、私は考えられません……」
「…………うん」
リボン越しに頭を撫でながら、何度目かの慰めでようやく声色が上向きになり。私はほっとした。
頑張れ愛玩犬後藤ひとり……!
あまんじて犬になり、虹夏ちゃんを癒すんだ……そのためならこの体犠牲にしても構わない……!
「……ずっとこうしてたいなー」
あ。でも時々は人間に戻してくれると嬉しいですすみません。
ぼ虹は光。
虹夏の不安を受け止めるための受け皿になりてぇよなぁ!!!
お母さんを亡くした悲しさとか、色々な疲れとかを全部受け止めて抱擁して頑張ってねっていいてぇ。いいてぇ……!それででろでろに甘えさせてぇよなぁ!