私は後藤ひとり。
人生の8割をギターに捧げた結果圧倒的コミュ障になった哀れな女。
最近の目標は校内に広がる『ダイブ女』という悪評を完全にリライトすること。
ゲリラライブでもすれば上書きされるのかな……放送室ジャック。前向きに検討しよう。
それはともかく。
今や寝ても覚めてもバンド漬けの生活だ。
皆も前よりやる気にあふれてて、私はとてもいい環境にいるのではと思う。
そしてそんな中で思ったのは……メンバーの成長が目覚ましいこと。
虹夏ちゃんは安定感が増した。
リョウさんはキレが増した。
私は……前より合わせられるようになった。気がする。
でも誰よりも成長してるのは喜多さんだ。間違いない。
最初はベースとギターを間違えて買うぐらい何も知らなかったの喜多さん。
それが今では声色に自信が溢れ、コードによどみがなくなっていた。
学園祭もそうだ。
私がやらかしたギターソロ。
それをアドリブで引き継いでくれた時は、驚いた。
……驚いたし、すごく嫉妬した。
こんな思いを抱くのもおかしい話だけど……思っちゃうよ。
喜多さんは『ずるい』。
私に無いものを全部持っている。
眩しい。眩しい。そんなに光るなよ。
わたしのダサイ影がより色濃くなってしまうだろ。
『――なんでこんな熱くなっちゃってんだ。止まんない――!』
『馬鹿なわたしは歌うだけ――!』
『うるさいんだって心臓――!』
時刻は16時。某所スタジオ。
今日は喜多さんとの個人レッスンの時間だ。
熱を込めて歌う喜多さんにあわせて私も弦をかき鳴らす。
うん。本当に上手くなった。
ギターを弾きながらでも。
歌いながらでも。
どちらも疎かにしないテクニックと、熱量。
演奏が終わると同時に拍手をしようとしたら、その前に喜多さんが飛びついてきて心臓が破裂するところだった。
「ひとりちゃん今のどう!? 私は結構いいなって思ったんだけど!」
「ひっ! え、ええと、い、いまそう言おうと思ってました……」
「やっぱり! ふふふっ、ありがとうひとりちゃん! これもひとりちゃんのお陰よ!」
「え、わ、私はそ、そんなだいそれたことは……」
そう。学園祭をまたいで。私の呼び名が変わった。
『後藤さん』から『ひとりちゃん』へのレベルアップ。
しかしレベルアップしたのは呼び名だけでなくスキンシップもだ。
手を握るのは当たり前。
挨拶代わりのハグに、やたらと近い距離。
その距離といったら虹夏ちゃんが注意するくらいだ。(喜多さんは全然反省する気なさそうだけど)
私は別にいいんだけど……一つ言えることは心臓に悪いこと。
特に喜多さんのキターンって顔!
顔が良いしもう眩しすぎて、浄化されそうになる。
だから常に半目になるのは許して欲しいです……。
「ここのAメロ入る前のソロ、いっぱい練習したのよ!」
「う、うん。前より安定感増してるし……歌も、すごい。うまく……言えないですけど喜多さんらしさが出てきたというか……私は、とっても好きだと思いました……」
「~~~~っ♪」
え。追いハグされた。なんで?
私ハグされるブーム来てるんですか?
抱きまくら後藤ですか?
……あっ、そのままイソスタ上げするのだけはやめてください。私にモザイクかけないと『良くないね!』が万超えますよ!
「どうして? ひとりちゃんも凄く可愛いと思うのに……」
「ち、地面でひっくり返ってるセミを可愛いと思う人はいないと思います……死に際に発狂することはできますが、それで世間の皆さまを驚かせるのは心苦しい……」
「自分をセミファイナル扱い!?」
で、でででも本当にそうだと思います。
イソスタは超パリピーマンだけが利用出来るカーストトップSNS……! 私のような下等生物が活用したら秒でBAN間違いなし……!
うっ。自尊心がマイナスになる……後でオーチューブのコメント見て回復しなきゃ……。
「もー! ひとりちゃんは大げさに考え過ぎ! ほら、一枚くらいいいでしょ?」
「で、でも……う゛っ?!」
「――ひとりちゃん♥」
ま、まずい。例のアレが来てしまった。
に、逃げなければ……あっ。あぁぁぁっ。
「ねっ。ひとりちゃん? 一緒にイソスタ撮らない?」
背後にすり寄り。耳に顔を寄せ。
両肩を掴んで揺さぶる。
ただそれだけで私からひゅるひゅると力が抜けていく──!
「私、ひとりちゃんと一杯楽しい思い出を作りたいの。ひとりちゃんも私と作りたくない……?」
「ァウン」
「本当!? 良かったぁ! じゃあどういうの撮ろうか? 定番のツーショットから初めて。手を握ってちょっとポーズ撮ったりもしましょうか! あとは、私達のギターを並べあったショットを入れたりするのもいいわねっ! それと、ひとりちゃんのジャージと私の制服を交換して撮影も――」
「ァウン。ァウン」
ああぁあああぁぁ。自分の意思と反して頷いてしまううぅぅぅぅ。でもこの耳元の甘ったるい声で囁かれると抵抗ができないんですぅぅぅぅ────!!
「ね。ひとりちゃんはどれがいい? お互いハグしあってみたりする? あっ、できるなら星空が流れてるところでやりたいなっ、それで『星座になれたら』を二人で演ってみた~なんて動画を上げるのもいいかも……いえ、そうしましょう!」
「キョウハイエニカエルカンジデ……」
「違うでしょひとりちゃん♥」
「ァウン」
──この後めちゃくちゃイソスタ撮影会しまくった。
喜多さんの映えへの熱量を甘く見すぎていた。
よ、夜20時超えてるのマジか……?
気付いたら私は河川敷の地べたで寝転がっていた。
「ゼーハー……ゼーハー……セイザニナリタイ……セイザ……セイザニ……」
「はー撮った撮った~、ありがとうひとりちゃんっ。お陰様でとっても素敵なものが取れたわ♪」
キターンとした喜多さんの表情。プライスレス。
かろうじて残った気力でサムズアップ。
ま、満足そうなら何よりです……でも出来るならこれは年一回ぐらいにしていただきたい……じゃないと私のMPが……ん?
「……喜多さん……? どうかしました……?」
「……あっ。ううん。何でもないわよ? どうしたの?」
「い、いえ……ききき、気のせいだったらすみません……ちょっと表情が辛そうだったから……な、なにかあったのかな……って」
「っ」
きゅ。と手を握ったのが見える。
なんだろう? 本当に何かあったのかな……?
顔を覗き込むと、喜多さんは観念したようだ。
「その……ごめんねひとりちゃん。私、ひとりちゃんの気持ちも考えずに連れ回しちゃって」
「えっ……いや、べべべ、別に私は……」
「ううん。分かってるの。ひとりちゃんはイソスタ苦手だし、本当はじめじめして暗い所でじっとしながら一人でギター弾きたかったんでしょ?」
「う゛っ」
「私……ちょっと自分勝手過ぎたわよね。ひとりちゃんがあんなにも思ってくれたから……応えたいって思って暴走しちゃった」
「え。あ。え。えぇっと……」
思って……? ――え。勝手に嫉妬したことバレてるー!?
あわわわわ。ま。ままままずい。
これってあれだよね。私みたいな下等生物ごときがイソスタ大臣様に嫉妬するなんて一億光年早いっていいたいんだよね!? イソスタに上げるのはようするに……公開処刑!?
「だから……って何で土下座してるのひとりちゃん!?」
「ごごごごごごご、ごめんなさい。ごめんなさい。すみません喜多さん。平にご容赦いただければばば……!」
「なんでそうなるんですかー!?」
慌てて駆け寄った喜多さんに手を取られていた。
「わ、私がいいたかったのは……支えるって決めて、ひとりちゃんを振り回しちゃったのを悔やんでるっていいたいの!」
「……支える?」
「本末転倒じゃない……それで貴方を疲れさせちゃってるんだったら」
「そ、そそんなことないです……よ……!」
確かに疲れはした。
疲れたけど……これは「良い疲れ」だと思った。
怠惰に過ごしてムダに労力を使うのとは違う。
「……わ、私は……ひとりだったらきっと一生イソスタなんてやらなかった。私の知らない世界……喜多さんはそれを教えてくれた……」
「……」
「なんだか、それが心地いいんです……。だから……ありがとうございます……。あの、時々でいいのでまた、誘ってくれませんか?」
「ひとりちゃん……!」
ぱぁ。と喜多さんの顔が花開く。
こ、これ……ちゃんとした回答になってるかな良かったかな……?
でも本当に。本当に時々でいいんです。そこだけは重々ご理解を……。
「──うんっ! 勿論……いっぱい誘うわねひとりちゃん、早速明日から毎日やりましょ!」
「あっ。あの……あぁあぁ。あぁああぁぁぁぁ────……!」
そして。私は気づけば他人のアカウントでイソスタデビューを果たし。
他メンバーからのL○INE頻度が何故か更に増すのだった。
ぼ喜多は星。
光を通り越して星。
星座になりたいがぼ喜多ソングなのは周知の事実ですが、ぼっちが作詞したのを本人に歌わせるっていう高度なプレイが強すぎる。無敵か?無敵だろこれ…。