私は山田リョウ。
世間から理解されない孤高の天才ベーシスト。
夢は印税生活でネオニートになること。
そしてヒルズでタワマンに住まい、夜景を見ながらワインを嗜む生活をすること。
やりたい音楽を、やりたいバンドでやるという夢。
それは叶えられつつある。
皆と仲良くなるにつれ、一体感も出てきた。
まだ荒削りなのは否めない。
でも、このまま順当に成長すればそのうちレーベルデビューするんじゃないかな。私の勘はよく当たる。
だから誰か早めにパトロンになって私達に無限に投資して。
そろそろ新しいエフェクターが欲しい。
よろしくお願いします。
それはともかく。
各々の夢と目標に向かって、結束バンドは今日も元気いっぱい活動中だ。
強固な絆と様々な個性がつむぐ音楽は、中々にない色を出している。
順調……といっていいのかわかりかねる。
だって良くない変化が目に見えてあるのだから。
「じゃ、じゃあ……今日はこれで上がります……お先に失礼します……」
「はーい、ぼっちちゃんお疲れー! 明日はバイトよろしくね!」
「お疲れさまひとりちゃんっ!」
「お疲れぼっち」
場所はスタジオ。
借り切った狭い密室は熱がこもっている。
結束バンドイチのコミュ障。ぼっち。
初手は
コミュニケーション力に難はあるけど、時折見せる有り余る技術力には一目置く所がある。
ぼっちのことは私も好きだ。悪くはない。
そう思っていた矢先のことだった。
「……」
「……」
「……」
あぁ……やっぱり始まった。
さっきまで見せていた満面の笑み。
それがスンッ……て消え去る。
そう。ぼっちは……何故か知らないけど今ではバンドの中核になっていた。
ぼっちがいれば結束バンドは花開く。
逆にぼっちがいなければ宙ぶらりん。
空気は唐突に死ぬ。
特に虹夏と郁代の間の謎の緊張感ときたらたまらない。
原因? そんなの猿だってわかる。
もちろんぼっちだ。
「──ねえ喜多ちゃん。昨日のイソスタみたよー? あれ何?」
「あっ、伊地知先輩見てくださったんですか? ありがとうございますっ♪ よく撮れてました?」
「うんうん~、と~~~~~~ってもね。ギター同士重ねたり、ぼっちちゃんと頬くっつけたり、あまつさえ星座の下で二人で撮影? ちょっとやりすぎだよね」
「でも結束バンドの宣伝にもなりますし、一石二鳥じゃないですか?」
「バンドの宣伝だっていうんだったらみんなに許可撮るのが普通だよね。なのに勝手に上げるのはちょっとどうかと思うなー?」
「友達同士で撮影なんて、イソスタじゃ普通ですよー」
「それ、喜多ちゃんの中での普通だよね。ぼっちちゃんは嫌がってるんじゃないかな」
「ひとりちゃんはもっと誘ってって言ってましたよ?」
「……断れなかっただけだと思うけどなぁ。ぼっちちゃん優しいからさ」
「……」
「……」
(く、苦しい……い、息が出来ない……!)
二人の背後にバハムートとベヒーモスが見える……!
虹夏も、郁代も口を開けばぼっちぼっちぼっち──ぼっち、一体二人に何した。今すぐ何とかしろぼっち。本当今すぐ。
「に、虹夏。郁代。それよりも新曲の感想教えて欲しい」
「えっ……あぁ~そうだね、あたしは良いと思ったよ。サビの部分は結構好きだったな~」
「私もですっ! 流石はリョウ先輩ですねっ。特にBメロ入る前のギターとベースソロとか」
「あ~そこねー! ドラムソロもノリいいの入れてくれたもんね、リョウ。分かってんじゃん」
「ふふん。あがめたてまつれ」
よし。ちょっとは回復したかもしれない。
「このギターソロ、ぼっちちゃんが演ったら格好いいだろうな~」
「あ~それ、絶対格好いいですよね~」
「そうそう! 目に浮かぶな~。ドラムソロの後で弦をかき鳴らすぼっちちゃん……! くぅ~痺れるなぁ」
「そうですねぇ。ひとりちゃんのソロが格好良く入れるように前座頑張ってくださいねっ、伊地知先輩っ」
「……あ、あはは。そうだね~いや~もう頑張っちゃいますよ~。喜多ちゃんも外さないようにね? 今日もちょっと走ってたしさ。大丈夫?」
「……! も、もちろんですよ~。あはは……あと先輩のそれ、気になってたんですけど何のアピールですかね? 腕に桃と黄の結束バンド? そういうのどうかと思いますよ」
「ん? あぁ、これね。ぼっちちゃんが巻いてくれたんだよ~、いいでしょ」
「伊地知先輩こそ、ひとりちゃんに無理強いしてたんじゃないんですか?」
「まさか! 喜多ちゃんじゃないしそんな事しないよ。これは正真正銘ぼっちちゃんが巻いてくれたんだからさ。あげないよ?」
「……いりませんよ。そんな色がついたの」
「……」
「……」
(こんなの結束バンドじゃない。ただの拘束バンドだよ──!)
修羅場なんて笑って眺めるくらいが丁度いい。
なのに、それが他ならぬ身内の修羅場だと思うとこんなにも胃が痛くなるとは……た、耐えられない。
「……に、虹夏。それよりも今日こそ家いきたい」
「えぇ~だからもうあらかじめ言っといてよ~」
「今日もだめ。昨日もだめ。一昨日もだめ。最近虹夏の家に全然行けてない。このままだと私の香りが家から消えてしまう。いいの?」
「どういう聞き方さ?!」
「リョウ先輩っ、応援してますよっ!」
「? おう」
「そこっ、誤解する言い方やめてくれないかなー?」
虹夏の家は私の第二の故郷だ。
私と虹夏だけのひみつ基地。(星歌さんはいるけど。)
そこで私は虹夏と何をするでもなくぼーっとする。
目的も決めずにベース弾いたり映画見たり。
それがただ好きなだけ。なのに。
「だから……ぼっちちゃんと予定あるんだってば~。次開けておくから! ね?」
今の虹夏は、ぼっちを優先する。
ひとりぼっちが好きなぼっちを。
私より後から入ってきたぼっちを。
それは……やだ。
あまりにも寂しい。
いかに私が孤高な天才ベーシストだとしても限度がある。
「ちょ、リョウー? なんで抱きつくのかなー?」
「虹夏。今度私のおごりでカフェ行こう」
「……おごりって、リョウが?」
「昔の機材売ったらお金出来た。だからおごる。前のお金も返せる。すごい?」
「すごいと言うか……お金はいつも返しなよ……」
「いつもニコニコ出世払い」
「あたしはいつまで待てばいいのさー!」
……出来るなら、虹夏から借りたお金だけは返したくない。
最悪なのは分かってる。
でも借金もまた虹夏とのつながりだ。
線が残っていたら、縁は切れない。
虹夏にはこれからもスネを齧らせてもらわないと、いやだから。
「今度の店は有名なドラマーも来店してる所……だから虹夏もきっと楽しめる」
虹夏のつむじ。虹夏のうなじ。虹夏のリボン。
虹夏の匂い。虹夏の体温。虹夏の柔らかさ。
うん……落ち着く。
ずっとこうしていたい。
思わず頭を撫でたくなって、その手が少しだけリボンに触れてしまった。その瞬間、
「やめて」
──虹夏に手を振り払われていた。
「あ……」
「……リョウー? いい加減にしないと怒るよー? ほら、戻った戻った」
リボンが虹夏の大切な物なのは分かっていた。
だから迂闊に触れちゃだめなのは知ってた。
でも、前もこんなに冷たかったか?
こんなに冷たい目で私を見ることがあったか?
「に、虹夏……あの」
「リョウ先輩も遊びたがってるようですし。明日くらいいいじゃないですか?」
「いやー明日はぼっちちゃんと次のMVの話しないとだからさー」
「……ごめ……虹夏……」
「MVの話ならバンド全体の話ですよね? 私も参加しますよっ!」
「いやいやいや。喜多ちゃんは明日お家の用事あるって言ってたじゃん。そっち優先しなよ」
「……」
「いえいえ! 私にとってはひと……結束バンドの話の方が大事ですよ!」
胸が、痛い。
なんで。虹夏、違うよね。嘘だよね。
虹夏がこんなに冷たくなるなんて。
これも……ぼっちのせいなの?
「──もーうるさいなー! リョウ、ねえ、リョウ!」
「……へ?」
「結束バンドも大事だけど、家庭の方も大事だよ。そうだよね?」
「う……うん。それはそう」
「ほら! だから喜多ちゃんは優先事項を間違えないの! ちゃんとMVの話は伝えるからさ」
「そう言ってひとりちゃんと一緒に居たいだけじゃないんですか?」
「ちょっと邪推しないでよ喜多ちゃん~、ほら今日は練習終わりだし帰っていいよ? ね?」
「……伊地知先輩こそひとりちゃんの迷惑のこと考えてないですよね。今確認しましょうか? きっとひとりちゃんも嫌だって思ってますよ」
「──あの。私、帰る。お疲れ……」
「喜多ちゃんしつこいよ? 喜多ちゃんほどじゃないってさっきも言ったじゃん」
「っ大体、伊地知先輩いつまでぼっちちゃんって言うんですか? ひとりちゃんはもうぼっちなんかじゃ──」
私は修羅場となったスタジオから逃げ出すように飛び出していた。
あんなに輝いていたのに。
もう結束バンドは千切れそうなのか?
私は憎らしく思う。
今頃何も知らずに呑気にしているであろうぼっちを
こんなギスギス拘束バンドになってほしくないし幸せになって欲しいけどみんなの色んな側面が見たくなってしまうから仕方ないんだ許してくれるかい許してくれるねグッド二次創作。