私は伊地知星歌。
ライブハウス「STARRY」を運営する元バンドマン。
最近の日課は妹たちとぼっちちゃんの活躍を見守ること。
特にぼっちちゃんの活躍は余すこと無く記録に残している。(無許可)
それはともかく。
『結束バンド』──バンド名こそセンスは微妙だが、将来が楽しみなバンドだと思う。
最初こそ虹夏の思い出作りのために設けたライブ枠。
急ごしらえで揃えたメンバー達の演奏はそりゃひどいもんだったが、今では
虹夏のドラム。
山田のベース。
喜多のボーカル。
そして……ぼっちちゃんのギター。
バンドの全体感が増し、原石達はさらに勢いに乗り、きらきらと輝きだしている。
虹夏があんなに楽しそうに演奏をしているのを見ると、こっちまで嬉しくなる。
しかし。身内の甘い評価を除けば……メンバーの中ではぼっちちゃんが抜きん出てるのは間違いない。
才能と個性。そしてそれを裏付けする圧倒的技術力。
他人に合わせるのが苦手な面はあるが、合間合間に覗かせるセンスに、私でさえ夢中になってしまう。
本人が重度のコミュ障っていう問題点はあるが……そんなのは些細だ。
ぼっちちゃんはひたむきだ。可愛いし。努力家だし。頭撫でてあげたいし。真面目だし。ついつい目で追ってしまう可愛さがある。正しい方向に導いてあげれば、きっと大化けする。家で飼いたい。
(だから私がちゃんと見てあげないといけない──大人として)
「……」
「……ひっ、て、店長さん……な、なんでしょうか……?」
「……いや。頑張ってるなーって」
「そ、そそそ、そうです……か?」
「うん。まあ、焦らず自分のペースでね。ぼっちちゃん」
「は、はい……」
(ぼっちちゃんは今日も可愛いなあ)
(う。うぅぅぅ……今日も見られてる……む、胸が痛い……優しいはずなのに怖い……!)
ぼっちちゃんがバイトに入る日。
それすなわち癒やしの日だ。
彼女は……残念だがバイトとしてみれば落第だ。
きびきびとは動けないし。
はきはきと喋ることはない。
全然視線は合わせてくれないし。
いついかなるときも挙動不審だ。
(でも──それがぼっちちゃんの良さなんだよな)
きびきびと動けないのは慎重に行動しているから。
はきはきと喋れないのは相手を傷つけたくないから。
視線を合わせないのは不要ないさかいを避けるため。
いつでも挙動不審なのは考えることがたくさんあるから。
ぼっちちゃんは思慮深く、優しい。
だからこそ許せるところがある。
また時給を上げたくなるのも無理はない話だ。
……おい。顔良いだけの山田は仕事しろ時給下げるぞ。
「あの。オレンジジュースいいですか?」
「ひぎゅ……こ、こここここちらになりますすすす……ごごごごゆゆゆっくりりりりり……」
「今、局地的地震とか来てますか!?」
(がんばれぼっちちゃん。いいぞ。接客サマになってきてるぞ……!)
今日も今日とて私のスマホがシャッターを切り続けている。
ぼっちちゃん記録集はつい先日Vol.10を突破。
願わくばこっそり撮るんじゃなくて、本人とツーショットとかしたいし……仲良くなりたい。でもまだ
多分ぼっちちゃんは恥ずかしがって言い出せないんだろう。
私ともっと仲良くしたい。でも言い出せない。
そのジレンマは分かる。
私も素直になれない時期があった。
(──私はいつでも待ってるよ)
だからといってこっちから詰め寄るのは、違う。
それは、ぼっちちゃんが描き出した覚悟をないがしろにしてしまうから。
(だって『星座になれたら』──あれは私を想って書いた歌だろ?)
この曲を学園祭で聞いた時、正直震えた。
もしかして、とは思っていたが。
まさか本当にそうだったとは──。
『もうすぐ時計は6時、もうそこに一番星』
これは一番星=STARRYでのバイトの事を指している事は言うまでもない。
私とのバイトが終わってしまった時の憂鬱がよく現れている。
『どんなに探してみても一つしかない星。何億光年離れたところからあんなに輝く』
何億光年はぼっちちゃんの自宅と私の店の物理的距離。
そして……星=星歌。つまりどう聞いても私のことだ。
私という存在がまぶしく。
そして羨ましそうにしている。
様々な子達に分け隔てなく交流する私に、自然と距離を置いてしまっているぼっちちゃんの悩みを深く感じる。
『君と集まって星座になれたら、星降る夜。一瞬の願い事』
誰が聞いたって分かる。
君はつまり……私のことだ。
星座は星と星をつなげて作る。
より深い仲になりたいという直喩だ。
一瞬の願い事で締めていることから、勇気を出せないいじらしさも同時に表現している。
(ただ、星座になれたらって……に、匂わせが強すぎるぞぼっちちゃん……!)
そもそもが最初から疑惑はあった。
STARRYに初めて来た時、ここを「私の家」だって言い張っていたこと。
私の誕生日が近いのを知って、欲しいプレゼントがないか聞いてきたこと。
『ギターと孤独と蒼い惑星』では『ぶちまけちゃおうか 星に』ってもろに私を頼ろうとしていたし。
と言うか、ぼっちちゃんの作詞は全体的に『星』が多い。
そこまでしたら私が気付かない訳……ないだろ。
(あぁ。こっちだって『つないだ線は解かない』からなぼっちちゃん)
だから私は待っている。
ぼっちちゃんが来るまで、見守る事にしたのだ。
「……(ゾクゾクッ)」
「ん? ぼっちちゃんどしたの?」
「い、いえ……何か寒気がして……」
「そういえばぼっちちゃん前も風邪ひいてたもんねー、大丈夫? またぶり返してきたとか?」
「あ……あれはその……氷風呂のせいでして……」
「え……氷風呂? 水風呂じゃなくて氷風呂!? なんで!?」
「い、いいいいいいえいえいえいえ氷風呂というかたまたま氷が風呂に浮いていまして熱湯コマーシャルの逆版ってどういう気分なのかなって想ったらつい試したくなってそれで気付いたら20分くらい──」
「しかも20分も入ってたの!? 修行僧かなにか!?」
(……風邪!?)
「ぼ、ぼっちちゃん大丈夫か? 熱があるのか?」
「うぇ、おねーちゃん地獄耳すぎない? 今のよく聞こえたね……って前髪上げんな! ぼっちちゃん風化しちゃうから!」
「温かいお茶とかいるか? ホットドリンクは自由に飲んでいいからな。あと気分悪いなら上で寝ててもいいし……あとは、あとは……」
「いえっ、いえいえっ、平気っ、平気ですからっ、多分平気だと思うんで!」
「バカ。風邪はひき始めが怖いんだ……おい虹夏。ぼっちちゃん休ませておけ」
「おねーちゃんったら……ま、いいか。じゃあぼっちちゃん上行くよー」
「後で私も行くから看病任せた。ドリンクは引き継いどく」
「あ。あ。あの。あのあの虹夏ちゃん店長さん私は別に大丈夫で……あぁ、あの、あぁぁ~~~」
はぁ。後で親御さんに連絡を入れておかないとだな。
……と言うか、そうだな。いっその事泊まらせた方がいいのでは?
虹夏も喜ぶし……私も嬉しいし。
うん。それがいい。
今日は腕によりをかけておかゆを作ろう。
「……あれ? ひとりちゃん? 店長さん、ひとりちゃんは?」
「あぁ喜多か。ぼっちちゃんは風邪っぽくてな。上で休ませた」
「風邪!? そんな……私も見舞わせてください!」
「おいおい。バイト中だろ。虹夏は行かせたから安心しろ」
「っ!? いえ、それでも心配というか……わ、私が」
「はぁ……虹夏も抜けて喜多も抜けたら回らなくなる。頼むから持ち場に戻ってくれ」
「……」
「うちの妹はああ見えて家事は優秀だ。看病もな。だから任せておけって」
「……わかり、ました」
悔しそうな顔をした喜多が戻っていく。
……やれやれ、ぼっちちゃんは本当に好かれているな。
まあかくいう私もそうなんだけどさ。
「あぁそういや……ぼっちちゃんに合うパジャマあったかな?」
ぼ星が……公式の可能性……あります!
29歳恋愛クソ雑魚偏愛お姉ちゃんは好きですか?
私は大好きです。