高重力場発生装置後藤ひとり   作:月兎耳のべる

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虹夏のターン!



Track6 ラブソングは歌わない方がいい

 やっほー、あたしは伊地知虹夏!

 『結束バンド』のメンバーで実質リーダーな所あるドラマーだよ。

 

 将来の夢は超人気なバンドになってSTARRYをもっともっと有名にすること!

 最初はもーぼろぼろのぎったんぎったんだけど、何とか軌道に乗ってきたって感じ?

 

 それはともかく。

 今、あたしが夢中になっているぼっちちゃんのことを話させて欲しいな。

 

 ぼっちちゃんはね、あたしの人生の中で一番ひどいコミュ障なの。

 そんじょそこらの人見知りとは格が違うって断言出来る。

 

 視線はほとんど合わないし。

 常にビクビクしてるし。

 独り言は多いし。

 気付いたら落ち込んでるし。

 ゴミ箱やダンボールに入りたがるし。

 時々地面を這ってるし。

 『青春』に重度のアレルギーあるし。

 急に奇声を上げるし。

 なのにステージダイブするクソ度胸はある。

 

 あ、あははは。こうして書き出すとほんとにやべー人だねぼっちちゃん……。

 

 でもね。ぼっちちゃんは、すごいんだよ。

 

 圧倒的なギターの才能とセンス。

 聞き惚れるほどのテクニックを中学から毎日6時間練習して培ったんだってさ。

 あのぼっちちゃんが実はオーチューブで登録者10万以上いる『ギターヒーロー』なんだよ? 信じられないでしょ?

 

 そして……『ヒーロー』らしくあたし達のピンチを何度も助けてくれたんだよ。

 

 喜多ちゃんを引き止めた時も。

 STARRYでのオーディションの時も。

 初ライブの時も。

 学園祭の時だってそう。

 

 ほんと、どれも格好良かったなぁ……。

 

 ぼっちちゃんを誘ったのはなんとなくだったけど、大事な時に引っ張ってくれたのはいつもぼっちちゃんだった。……本当は私がしっかりしないといけないのにね。

 

 

(だから……私がしっかり恩返しするんだ)

 

 

 時刻は17時。場所は我が家。

 なんとぼっちちゃんが風邪気味という事でバイト中断。休ませています。

 

 正直、あたしもぼっちちゃんが風邪かっていわれると「うーん」って感じしてるけど、おねーちゃんがああ言ってるし、まあいいかって思ってる。

 

(それにぼっちちゃんをお世話する機会って中々ないしねー)

 

 不謹慎だけど、ぼっちちゃんが風邪ひいたってのになんだか胸が弾んじゃう。

 

 とんとことーんと扉をノック。

 そして返事も待たずに聞いてみる。

 

「ぼっちちゃーん、体調はどう?」

 

「あぅ、に、虹夏ちゃん……え、えっと検温しましたけど体温も全然問題なくて……ばば、バイトとか全然できそうですよ……!」

 

「まあまあまあ~。おねーちゃんも言ってたでしょ。風邪はひき始めが肝心! 今日はゆっくり休んでいきなよ」

 

「し、しかし……バカは風邪引かないという大前提を崩すわけには……!」

 

「それは崩していいんじゃないかなぁ!?」

 

 あたしのベッドに座り込んでるぼっちちゃん。

 

 うん……やっぱりこうして見ると、ぼっちちゃんって可愛いよね。

 普段変顔ばっかりするから気付きにくいかもだけどさ。

 

 お目々もつぶらだし。まつ毛長いし。

 肌も綺麗だし。髪もさらさら。

 不安そうにこっちを覗き込む表情も素敵だし。

 あと、あたしより大きなお胸も………………。

 

(……うぁ。顔、赤くなっちゃった)

 

「……虹夏ちゃん?」

 

「う、うぅん!? 何でもないよ何でもないよ!」

 

 あ、危ない危ないー!

 また抱きつきたくなっちゃった、なんて言えるわけない。

 多分……言ったらまたさせてくれるんだろーけどさ。風邪ひいてる(?)子にお願いするなんてあんまりにもおかしいでしょ。

 

「さ。とりあえず布団かぶってさ! 寝るだけ寝ていきなよ!」

 

「でででもでもでもでも……い、今から寝たら私帰れなく」

 

「あ。それだけどおねーちゃんがぼっちちゃん家に連絡しておいてさ、今日は泊まりでもOKだよー」

 

「えっ」

 

「着替えとかパジャマはあたしかおねーちゃんのがあるからさ。ゆっくりしていってよ。何事もなかったら明日うちから学校いけばいいっしょ?」

 

「……で、でででも……! そしたら虹夏ちゃんはどこで寝るんですか……!?」

 

「うーん、おねーちゃんのベッドかなー」

 

「わ、わわわわわわ……! わ、私はそこの壁とベッドの隙間で十分なので虹夏ちゃんはこのベッドで……!」

 

「ちょいちょーい! 病人をそんな場所に寝かせる訳ないでしょー!」

 

 あーもうぼっちちゃんは相変わらずぼっちちゃんだなぁ!

 私はわちゃわちゃしてるぼっちちゃんに無理やり布団を被せる。

 

「ぼっちちゃんは普段頑張ってるんだからさ。今日くらい休もうよ」

 

「で、でも……き、今日は、まだ全然働けてないのに……このままじゃ皆さんの迷惑に……」

 

「いいの」

 

「しかし……」

 

「いいったらいいの!」

 

「あっはい……」

 

 うん。ようやく大人しくなった。

 ぼっちちゃん、本当真面目だよね。

 そこがまた好きな所なんだけどさ。

 

「ぼっちちゃんはさ。いつもあたしの事を助けてくれた」

 

「……?」

 

「だからあたしも、ぼっちちゃんの事を助けさせてよ。ね?」

 

「……」

 

 頭を撫でて言い含めると、こくりと頷いてくれた。

 

 ぼっちちゃんがヒーローなら、

 あたしはそのヒーローを助ける人になりたい。

 そう思うのは……普通のことだよね?

 

 だから。ゆっくり休んでよ。

 あたしだけのギターヒーロー。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 時刻は19時半を回ってもうすぐ20時。

 

 一度おねーちゃんがおかゆを作りに来たけど、あたしが作ってると知ってしょんぼりしながら退散したのを見届けた以外は特に平和だ。

 

 ……おねーちゃんも大概ぼっちちゃんの事大好きだよね。

 可愛いもの好きだからかなぁ。

 でもあの年でぬいぐるみ抱いて寝てるのホントどうかと思う。

 

 ま、それはいいや。

 とりあえず濡れ布巾と着替えを用意して。

 ぼっちちゃんにご飯食べれるか聞いてみなきゃ。

 

 ──ピンポーン。

 

(……あ。なーんか嫌な予感)

 

 恐る恐るインターフォンを見てみると、そこは無人。

 

 ……ん? あたしの気のせい?

 

 念のため外を見ようと玄関扉を開けたら、いきなり扉がばーん!って開け放たれた。

 

「ひとりちゃんは無事ですか!?」

 

「ちょ、喜多ちゃん!?」

 

 ぶわっ、喜多ちゃんが全速力でぼっちちゃんのところへ?!

 なになになにが起こってんの!?

 

「虹夏ごめん。止めれなかった」

 

「リョウ~~~~……!」

 

 どうやら喜多ちゃんが暴走したらしい。

 リョウと共に部屋へ向かったら、ぼっちちゃんにまたがった喜多ちゃんがいた……!

 

「ひとりちゃん大丈夫?! これエナジードリンクとマムシドリンクっ、あとヴィダーゼリーとカポリと風邪薬と目薬と座薬を買ってきたわ! ゆっくりでいいから急いで飲んでください!」

 

「ぐぇ、ぐご……ごぶ、ごごごご……!」

 

「はい喜多ちゃんストップー!」

 

 ほんっと、喜多ちゃんって……喜多ちゃんってさぁ!

 穴という穴に様々な液体を流し込もうとした喜多ちゃんを羽交い締めにして止めた。

 

「今ぼっちちゃんが休んでたところだよ! 邪魔しないで!」

 

「邪魔? どうせ二人きりになれないのが嫌なだけですよね。私が看病するので先輩はゆっくりしてください!」

 

「病人叩き起こして無理やり栄養注入するのが看病? 看病の仕方も知らない子の方が邪魔でしょ。さっさと帰って!」

 

「先輩に任せるのが怖いからここにいるんです! 先輩こそ帰ってください!」

 

「ここ私の家なんだけど!?」

 

「虹夏。郁代。ぼっちが白目剥いてる」

 

「「えっ!?」」

 

「………………(チーン)」

 

「いやぁぁぁぁ! ひとりちゃん戻ってー! 戻ってきてよぉぉぉ!」

「ぼっちちゃあああん! カムバックぼっちちゃぁあぁあん!」

 

 

 ──この後、ぼっちちゃんをめっちゃ揺さぶってどうにか現世に引っ張った。

 

 

「み、みみ、皆さんどうしてここに……?」

 

「いやー、みんなぼっちちゃんのことが心配だったみたい」

 

「ひとりちゃん熱は大丈夫ですか? 吐き気は? 食欲は?」

 

「ぼっち。元気出せ」

 

「……!」

 

 あ。ぼっちちゃんの頬が緩んだ。

 みんなにちやほやされるのが嬉しいみたい。

 

「だだ、大丈夫です……も、もういつものように歯ギターもできるので……!」

 

「いや、いつもやってないでしょぼっちちゃん……」

 

「でも安心したわ。予想以上にひとりちゃんが元気そうで……」

 

「あ。ありがとうございます……あの、私のファンの1号さん2号さんも大丈夫?ってL○INEもらったので……ご、ご心配おかけしました……」

 

「……ぼっちちゃんの風邪情報誰か流した?」

「いえ……私は特に」「……コワ~……」

 

「ま、まあいいや。それよりも今日はぼっちちゃん泊まりだからさ。この様子だと大丈夫そうだから明日には復帰出来ると思うよ。だから──」

 

「じゃあ私も泊まりますね!」

 

「私も」

 

「いや、そうじゃなくてさー!」

 

 あぁもう。それじゃぼっちちゃんが休まらないじゃんかよぉ!

 

「え、お、お泊り会するんですか?」

 

「はいっ、そうですよひとりちゃんっ!」

 

「ぼっち嬉しい?」

 

「……え。えへ……お、お泊まり会……こ、子供の頃の夢が叶いました……」

 

 うっ……ぼ、ぼっちちゃんの笑顔……! 眩しい……!

 

「し、仕方ないなぁ……寝るスペースは全然ないから、各自確保してよね」

 

「じゃあ私はひとりちゃんの隣で♥」

 

「私は虹夏の隣でいい」

 

「はい、そこ勝手に決めない!」

 

 はぁ~……もう予定狂っちゃったなぁ……。

 とりあえず布団だけでも用意しなきゃ。

 

「……手伝う」

 

「あ。リョウ。ありがと」

 

 ……お? リョウが率先的に手伝ってくれるなんて。

 明日はあられでも降りそうだ。

 なんだろ。何かやましいことでもあったり?

 

「……お金返すの、もうちょっと待ってっていいたいの?」

 

「ちがっ……! そ、ソレはすぐ返せる……ただ久々に虹夏の家に来てテンションあがってるだけ」

 

「テンション上がったら手伝うんかいっ」

 

 リョウも大概変な子だよね。

 私の事振り回して振り回して……もー。

 やれやれと思ってたら、何か言い辛そうにしてるリョウの顔が見えた。ほんとになんだろ?

 

「……あの。前はリボン勝手に触ってごめん。そんなつもりはなかった……」

 

 あー。

 

「……いいよ。私も冷たくしちゃってごめんね」

 

「……」

 

「……」

 

 来客用の布団をよいせよいせと二人で運ぶ。

 

 別に気にする必要はないのに……リョウってこういうとこあるよね。

 うざ絡みする割に怒られると子犬みたいにしゅーんってなっちゃう感じ。

 何を怖がってるんだろ? そんな事で絶交なんてしないし、私たちはずーっと友達のままなのにさ。

 

「あ、あと虹夏……部屋から私の私物が無くなってるんだけど……も、もしかして捨てた……?」

 

 ……あぁ。なるほどね。

 そーゆーことかぁ。

 

「もー捨てるわけないじゃん!」

 

「! うん。虹夏を信じてた……!」

 

「ちゃんと箱にまとめてるよ! あとで持って帰ってね?」

 

「………………はい」

 

 あれ。またリョウの表情が曇った。なんで???




最近思った。
言うほど高重力でてないなって。
無意識にレビテトを打ってしまう己の弱さ…!

あと山田虐待タグをつけていいか真剣に迷っている。
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