私、喜多郁代!
楽しくてキラキラしたものが大好きな『結束バンド』のボーカル!
喜多ちゃんって呼んでね♪ 郁代だけはやめて。
趣味はイソスタ更新! 最近はひとりちゃ……じゃなくて結束バンドの活動をよく投稿してるの。結構みんなに好評だから今後も続けていくつもり! 前にあげた星座になれたらデュエットは特に反応良かったわ♪
それはともかく。
私、今のバンド活動がとっても気に入ってるの。
ひとりちゃんと一緒に演奏してる時は特に。
バンドのきっかけはリョウ先輩だった。
路上でひとり演奏する先輩がかっこよくて、私も同じ場所にいれたらって思ってはじめたけど……今は違う。ひとりちゃんを支えたい。その思いで活動してる。
ほんとはね。みんなみたいに「特別な才能」が欲しかった。
私はそこそこ勉強もできる。運動もできる。友達だって多い。
でも……それだけ。言ってしまえば普通だ。
楽しいけど、なんとなく味気ないなってずっと思ってた。
だからこそ普通じゃない道を歩こうとしてた。
そしたら……その先にひとりちゃんがいた。
ひとりちゃんは私と正反対な子だった。
極度の人見知りで、目も合わせられない。
すぐに形が崩れるし。何もしなくても落ち込む。
でも。ギターの才能だけはあった。
それが私にはとっても輝いて見えていた。
(──だから、決めたの)
私には輝くような才能はないけど。
その輝きに合わせることはできるって。
貴方をもっと輝かせることが出来るはずだって。
そして──貴方の隣なら、私だって輝ける。
ひとりちゃんが私の事を、あんなに想ってくれるなら。
時刻は22時。場所はSTARRY2階、伊地知先輩邸。
本日はひとりちゃんが風邪気味なので、みんなでお泊り看病することにしたわ。
幸いなことにひとりちゃんの病状は軽そうだったけど、それよりも私には先輩の動向が気が気じゃなかった。
(む~~~……ずーっとひとりちゃんにベタベタしてる……)
伊地知先輩からひとりちゃんに注がれる大きな矢印。
それが単なる友情ならいいけど、私にはソレ以上の何かがあるとしか思えなかった。
頻繁に二人きりで会ってるみたいだし、こっちを牽制してくるしで良い気がしない。
「ぼっちちゃんご飯どーだった? 美味しかった?」
「あ、あの……お、おいしかった……です」
「そっかー! へへっ、おねーちゃんの代わりにいっぱい料理してきたからね! 気に入ったらいつでも食べに来てもいーよ?」
「おい。私も料理くらいできるぞ」
「虹夏。私も料理くらい食べれる」
「なんでおねーちゃんは張り合ったし……リョウは張り合いにもなってないし」
ぐっ……悔しいけど、伊地知先輩の料理は私の目線でも美味しかった。
私だって少しくらいは料理出来るけど、これには白旗を上げざるを得ない……。ちょっとでも味濃かったら「ひとりちゃんを脳卒中・心筋梗塞・高血圧性疾患・糖尿病・肝硬変・慢性腎不全にする気ですか……!」って言おうと思ったのに。
というかですね、伊地知先輩。
スキンシップ多すぎですよ。
なんで事あるごとにひとりちゃんに触れようとするんですか?
「あ、ぼっちちゃん口元ついてるよ。ぬぐったげるね」
さも当然のように伸ばした手を、私はとっさに掴んでいた。
「……喜多ちゃん? この手はなにかな?」
「ひとりちゃんは子供じゃないですよ? ちょっと過保護すぎませんか?」
「ぼっちちゃんは風邪を引いて弱ってるんだからお世話は必要だよね」
「あんまり甘やかし過ぎるのは、ひとりちゃんのためにはなりません」
「……喜多ちゃん、キミはぼっちちゃんのなんなのさ?」
「……伊地知先輩こそ、ひとりちゃんのなんなのですか?」
「……」
「……」
「ほらぼっちちゃん、んーってしろ。私が拭いてやるから」
「んぃ……んぃぃぃ~……」
「「おねーちゃん」「店長さん」何してんの!?」
し、しまった!
先を越された……ぐぅっ、この人もなんでしれっと混ざろうとするんですか!
「に、虹夏。私もついてると思う」
「自分で取ってね。それで寝る場所だけど……ぼっちちゃんはあたしのベッドだとして、喜多ちゃん達はどうしようかなー」
「私はひとりちゃんの隣でいいですよ?」
「ぼっちちゃん、私のベッドはふかふかでいいぞ……」
「……虹夏の隣……」
「こらこらこら結束しろー! 病人優先!」
せめてものここだけは譲れない……!
ひとりちゃんは私が守らないといけないから……!
「やっぱり同年代同士気兼ねない方がいいと思うんですよね。リョウ先輩もそう思いますよね?」
「……! う、うん。そう思う。思わざるを得ない……!」
「何かあった時にすぐ対処出来るのは家主である私しかいないよ? だから私が隣じゃないと」
「ぼっちちゃん、私は結構体温高いからあったかいぞ……」
「ひとりちゃんも私と一緒の方がいいよね♥ ねー、ひとりちゃん♥」
「あ、あの……あっ……あっあっあっ……!」
「洗脳禁止ー! ……ぼっちちゃんは私と一緒がいいよね? ね?」
「っ……ぼっちぃぃぃぃぃ……!」
「ひぃっ……りょりょ、リョウさん……?!」
「ぼっちちゃん、寒くなったら私がぎゅっとしてあげるからな……」
「リョウはなんでぼっちちゃん睨むのさ! あとおねーちゃんさっきからアピールが怖い!」
最終的に「ひとりちゃんはどこがいいの!?」って全員で問い詰めたら「押入れがいいです」って涙目で答えたので、リビングで川の字になって寝ることになった。こんな順番で。
郁 ひ 虹 リ
代 と 夏 ョ
り ウ
……まあ、一応隣だから許してあげますけど。
ひとりちゃんと二人きりが良かった。
本当はお互いの気持ち、もっと二人きりで共有したいって思ってたから。(ちなみに店長さんは自室に追いやられて涙目になってた。なんなんだろあの人……)
(大体、伊地知先輩とか何でちょっかいだすんだろ……『星座になれたら』を聞いたら私とひとりちゃんがどれだけ両思いなのか、分かる筈なのに……!)
ぼっちちゃんにこの歌詞を渡された時。
私は平静を装うのに必死だった。
これが本当にそういう意味で捉えていいのか、分からなかった。
でも……歌詞を何度もなぞるにつれ、私の気持ちは固まっていった。
ひとりちゃんの苦悩。憧れ。想い。
それがどのフレーズにも乗っていて。
私にどんどん伝わってきて嬉しかった。
学園祭の時に、それをお披露目しちゃうのが惜しいくらいに、好きになっていた。
(……ひとりちゃん)
寝顔……可愛いなぁ。
私は相当面食いな自覚はあるけど。
なんというか、そこらの女優、俳優よりも惹かれちゃう。
さらりと流れる桃色の髪を見ると、どんな匂いがするんだろって思っちゃうし。
触れると柔らかそうなほっぺを見ると、どんな感触がするんだろって思っちゃう。
薄明かりを反射する唇を見ると、どんな味がするんだろって──。
(…………)
気づけば体を寄せてしまう。
ゆっくりと、物音を立てないようにこっそりと。
ひとりちゃんは風邪を引いてるんだもの。
きっと心細い筈。だから……私がそばにいてあげなきゃ。
重ねた布団の中でひとりちゃんの元へ向かう。
あと30cm。あと20cm。
私達の距離が縮まっていく。
あと10cm。
もう目と鼻の先。あなたが近くにいる。
そして、驚かせないようにゆっくりと手を体に伸ばして──。
──不意にその手が。ぎゅ、と握られた。
(……っ!)
温かい。ちょっと汗ばんだ手。
女の子らしい柔らかさと、所々に感じる練習痕。
苦しいんだろうか。緊張してるんだろうか。
まるで私を確かめるように何度も握り返してくるその手に、大丈夫だよ、と握り返してあげる。
すると安心したのか、その手は優しく力を抜いてくれた。
(……ふふ。ひとりちゃん……♥)
健やかに眠り続けるひとりちゃんの寝顔。
多分、バレないように寝たふりをしている。
なら。私もバレないようにしないと。
じっくり、ゆっくり。まじまじと。
お互いの手の形を確かめあう、つたないワルツ。
親指。人差し指。中指。薬指。小指。
なぞり、なぞりあい。肌を這わせ、くるくるり。
ただ手をつないでるだけなのに、変な気分になってしまいそう。
(嬉しいなぁ……♥)
気持ちが伝わってくるよ。
やっぱり、そういう事なんだよね……?
なら、今度は二人きりでお泊りしようね。
みなが寝静まる暗い空間。
私たちはずーっと手を繋ぎ続けた。
喜多(ひとりちゃん……♥ 昨日は情熱的だった……♥)
虹夏(ぼっちちゃん……。昨日は優しかったなぁ……ちょ、ちょっとえっちだったけど)
ぼっち(な、なんかお腹に幽霊がまたがってる夢を見た……え、縁起が悪い……!)
山田(虹夏にふとん剥ぎ取られた……寒い……ぐすん)
星歌(ぼっちちゃんがいない布団……寂しいよ……ぐすん)
なおお風呂シーンとパジャマ合わないシーンはカット。