笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
ここから、ハーメルン限定物語の始まり始まり~
海水浴
照り付ける太陽。心地好い潮風。波打ち際から聞こえる波の音は心安らぐ。
ここは“クリアビーチ”。四季や気候に一切囚われず、年中最適な環境が約束された正に地上の楽園。ビーチの砂浜は肌に触れる事無くサラサラと流れ落ち、海はまるで鏡の様に透き通っている。
そんな夢のリゾートに五人の男女が訪れていた。
「それっ!!」
「きゃあ!! やったなー!!」
「マオぢゃん、見で見で。海の底で貝拾っだ!!」
「もうハナコさんったら、こんな所でも食欲が勝るんですね」
「「「あははははは!!」」」
三人の女性陣は水着姿で水を掛け合ったり、海の底で貝を取ったりしていた。すると真緒は、ビーチでパラソルを立てて座りながらこちらを見ている男性陣に、手を振って声を掛ける。
「師匠ー!! フォルスさん!! 一緒に泳ぎましょう!! 気持ちいいですよ!!」
「嬉しい申し出ですが、今回は遠慮しますよ~。生憎と水着を持って来ていないので~」
「俺も折角だが遠慮しておく。羽が水に濡れると面倒臭いからな」
「えぇー、そんなー」
「私達は私達で楽しんでいますから、マオさん達も気にせず楽しんで下さいね~」
「……はーい」
エジタスにそう言われ、渋々ながらも真緒は三人で楽しむのであった。そんな三人を見ながら、エジタスが大の字になって横になり始める。
「う~ん、やっぱり海は良いですね~。波が奏でる音色はどんな楽器にも勝り、美しい景色は心をも潤しますよ~」
「だけど……」
「ん~?」
海水浴に満足げなエジタス達を他所に、フォルスだけは何処か浮かない表情を浮かべていた。
「俺達以外、誰もいないってのは奇妙じゃありませんか?」
周囲を見渡すも、海にも浜辺にも真緒達以外の人は誰も見当たらなかった。
「仮にもここは観光地としても有名な場所……にも関わらず、人っ子一人いないなんて、ちょっと不気味だ……」
「ふ~ん、奇妙なのか不気味なのか。あっ、略して奇不味。なんちゃって~」
「ふざけないで下さい。こっちは真面目に言ってるんです」
おちゃらけたエジタスの返しを一喝するフォルス。一方で両手の掌を真上に向け、両手首を頭の横まで持っていき、冗談が通じないなというジェスチャーを見せるエジタス。
そんな道化師を見向きもせずに、フォルスはずっと不安そうな表情を浮かべながら、じっと海を眺める。
「嫌な予感が……何か良くない事が起きる気がする。そんな予感が……」
「まぁ、そうなったとしても、いざって時は私の転移魔法で逃げれば大丈夫ですよ~」
「だけど……」
そう言い掛けるも、エジタスがフォルスの両肩に片腕を回す。
「フォルスさんは心配し過ぎなんですよ~。それよりも今を楽しみましょう~」
「それでも警戒した方が……」
「何の為に~?」
「それは勿論、仲間を守る為です」
「マオさん達だって子供じゃないんですよ~。自衛くらい出来ますって~」
「万が一という事も……」
「……それはつまり、彼女達を一切信頼していないという事ですか~?」
「!! それは断じて違う!!!」
エジタスの嫌味ったらしい問い掛けに、思わず声を荒げてしまうフォルス。
「…………」
「す、すみません……ちょっとカッとなってしまって……」
ふと我に返り、フォルスは怒鳴ってしまった事をエジタスに謝罪する。
「いえいえ~、こちらも意地悪な質問をしてしまいましたからね~。申し訳ありません」
フォルスの謝罪に応えるかの様に、エジタスも自身の非礼を詫びた。
「……あいつらの実力は誰よりも知ってる。頭では分かっているんです。だけど、あいつらは若すぎる上にまだまだ経験不足……だからこそ、大人の俺が確りしないと……」
「私は別に彼女達を守るなと言っている訳じゃありませんよ~。只、あんまり気を張り詰め過ぎると、いざという時に適切な判断が出来なくなってしまうから、適度に休んだ方が良いと思っただけで~す」
「エジタスさん……そうですね。ここ最近、立て続けに危険な目に遭遇していたから、少しピリピリしてました。今日くらい、ゆっくりと……文字通り“羽”を伸ばします」
そう言いながら、バサバサと自身の羽を動かして見せる。
「適度なガス抜き、良いですね~。その調子ですよ~。一段落ついた所で、お休みなさ~い」
問題が解決するや否や、再び大の字になって寝転がり始める。そんなエジタスの見よう見まねで寝転がるフォルス。
「「「きゃあああああああああ!!!」」」
「っ!!! 今の悲鳴は!!?」
その直後、海の方から真緒達の悲鳴が上がった。
「くそっ!! 俺とした事が!!」
悲鳴を耳にし、慌てて起き上がると弓矢を片手に真緒達の下へと駆け出した。それに遅れて、エジタスもゆっくりと上半身を起こした。しかし、向かうつもりは無さそうだった。
「……意外と早かったですね~」
***
フォルスが駆け付けると、真緒達三人はワナワナと体を震わせながら、海面にいる“何か”を見つめていた。
「マオ、ハナコ、リーマ!! 大丈夫か!!?」
「フォルスさん……」
「いったい何があった!!?」
「これ……見て下さい……」
「ん?」
三人がフォルスに道を開ける。するとそこには……。
『キュー』
「は?」
ツルツルとした水色の肌に白いお腹。クチバシの様に尖った口元、特徴的な背ビレと何とも言えないつぶらな瞳を持った“イルカ”がいた。
「……これは?」
「イルカですよ!! フォルスさん、イルカ!!」
「海で遊んでいだら、ごの子が寄っで来だんだぁ」
「もうあまりの可愛さに、私達思わず悲鳴を上げてしまいました」
「…………」
「それにこの子、凄く人懐っこいんですよ。頭だって撫でさせてくれるんです。フォルスさんもせっかくだから撫でさせて貰ったらどうですか?」
「ま……紛らわしい真似をするなぁあああああああ!!!」
「「「!!?」」」
慌てて駆け付けて見れば、大した事態では無いと知り、ホッと一安心すると同時に怒りが込み上げて来た。フォルスの怒号にビックリする真緒達。
「俺はお前達が危険な目にあっていると思ったんだ!! それなのに慌てて来て見ればイルカだと!!? そんなのでいちいち悲鳴を上げるな!!」
「あ、あの……ごめんなさい……」
「ごめんなざいだぁ……」
「すみませんでした……」
頭を下げる真緒達の姿を見て、フォルスは冷静さを取り戻した。
「フォルスさん、最近何だか疲れてるみたいだったから、少しでも癒されて欲しくて……」
「ぞれで海なら休まるがなっで……」
「そうしたら、偶々イルカが来てくれて……その……嬉しくてつい……」
「本当にごめんなさい」
「(……そうか、俺が変に気を張っていたせいで皆に余計な心配を掛けていたのか……)」
“あんまり気を張り詰め過ぎると、いざという時に適切な判断が出来なくなってしまうから、適度に休んだ方が良いと思っただけで~す”
「(エジタスさんの言う通り、俺は皆の事を信頼しきれていなかった。皆は俺の事を考えてくれているというのにな。俺もまだまだだ……)」
真緒達の想いを聞いたフォルスは、脳裏に先程のエジタスの台詞がフラッシュバックすると共に、己の未熟さを反省した。
「いや、本来謝るべきなのは俺の方だ。すまなかった。お前達の気持ちも考えず、頭ごなしに怒鳴ったりして」
今、すべき最優先事項は謝罪。自身の過ちを正す事。フォルスは真緒達に頭を下げた。
「そんな!! 私達こそ、フォルスさんに迷惑を掛けてしまって!!」
「それならこれでお互い不問としよう」
「は、はい!!」
「それでだ……あぁ、俺にもイルカを撫でさせてくれるか?」
「えぇ、勿論良いですよ。あっ、でもまだいますかね?」
フォルスの怒鳴り声で逃げたりしていないか。真緒達が振り返ると、そこには平然とした様子のイルカがいた。
「どうやら逃げ出してはいないみたいですね」
「良がっだだぁ」
「さぁ、フォルスさん。遠慮せずに」
「お、おう……」
恐る恐る手を伸ばす。今にも頭に触れようかというその瞬間、何と向こうからフォルスの手に頭を擦り付けて来た。
『キュー、キュー』
「凄い!! この子、フォルスさんに懐いていますよ!!」
「そ、そうか。何だか照れるな」
『キュー』
気持ち良さそうに声を漏らすイルカ。その可愛らしい声に、その場にいる全員が思わずうっとりとしてしまう。
「確かにこれは癒されるな。それにしても、こんな所にイルカなんて珍し…………」
その時、フォルスの撫でる手が止まった。全身に寒気を感じる。海に浸かっているからとか、そんなレベルでは無い。文字通り“鳥肌”が立った。
「(そもそも、何故こんな所にイルカなどいるんだ? イルカは群れで行動する生き物だ。仲間とはぐれた? だとしても、何故こんな浅瀬にやって来た?)」
「フォルスさん?」
「(マオ達の楽しそうな声に惹かれて来たのか? いや、それ以前に飼い慣らされたイルカなら兎も角、こいつは野生のイルカ。人になど慣れている筈が無い。にも関わらず、この甘え方は明らかに人に慣れてる証拠。まさか……まさかとは思うが……このイルカは……)」
杞憂であって欲しい。そう思いながらイルカの顔を見る。そこにいたのは、今までの可愛らしいイルカでは無く、目を細めてニヤリと口元を歪ませる。ズル賢そうな表情を浮かべるイルカだった。
「しまった!! これは罠だ!!」
「「「えっ?」」」
『キュオオオオオオオオン!!!』
「ぐがぁ!!? こ、これは!!?」
「な、何これ……頭が……」
「急にクラクラと……」
「オ、オラ……もう駄目だぁ……」
イルカが鳴き声を発したかと思うと、突然目眩に襲われ、次々と意識を失って倒れてしまった。
「ちょ、超音……波……くそ……油断した……」
唯一残ったフォルスも遂に両膝を付き、倒れてしまった。彼が最後に見た光景は憎たらしいイルカと、その背後に現れた一隻の船。ドクロマークを旗に掲げる“海賊船”であった。
「さてさて、新しい物語の始まり始まり~」
そんな一部始終を既に浜辺から離れ、遠くで眺める一人の道化師がいた。
そして新たな1ページが刻まれる。
今回はここまで!!
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