笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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不意を突かれ、不覚にも気絶してしまった真緒達。
次に目覚めた場所は……。


囚われの勇者

 ピチョン……ピチョン……ピチョン。

 

 「んっ、んん……ん……」

 

 薄暗い部屋。壁の隙間から漏れる太陽の光が唯一の光源。天井から滴り落ちる水滴が、真緒の頬に伝う。その冷たさと何とも言えない気持ち悪さから、真緒は目を覚ます。

 

 「…………うっ!? 何なのこの臭い……!?」

 

 まだ頭が完全に起きていない為か、目の前の景色がボンヤリと映る。しかし、目覚めたのと同時に牛乳をふいた雑巾の様な悪臭が鼻を襲い、意識が一気に覚醒する。

 

 「ここはいったい何処……?」

 

 意識がハッキリとした事で、視覚も正常に働き始める。ヌルヌルと濡れた木製の床や三方向の壁。よく見れば所々に白カビや緑の苔が生えており、更に目の前は鉄格子に覆われていた。どうやらここは牢屋の様だった。

 

 「どうしてこんな所に……?」

 

 目覚めたばかりで、未だに記憶が混濁している。両手で頭を抑えながら眉を寄せて、必死に思い出そうとする。

 

 そこから脳裏に過るのは、クリアビーチにて起こった一件であった。

 

 「……そうだ、確かクリアビーチで海水浴をしていて……そしたら、イルカが現れて……えっと、それから……」

 

 それ以上、詳しくは思い出せなかった。良くて記憶の断片が飛び飛びで浮かび上がるだけ。フォルスの怒号、突然の頭痛と吐き気。そして目の前が真っ暗になったかと思えば、気が付くと牢屋の中にいた。

 

 「……そんな事より、皆は?」

 

 自身の記憶よりも仲間の安否を最優先する。慌てて牢屋内を見回すも、自分以外誰もおらず、鉄格子越しから外を見渡すが、人影らしき物すら感じられなかった。

 

 「……ふん!! ふっ!!! んぐぐっ……!!!」

 

 ここから抜け出そうと、両手で鉄格子を力の限り押したり引っ張り試みるが、見た目以上に頑丈な様で、びくともしなかった。

 

 「はぁ……はぁ……それなら、武器で無理矢理……あれ?」

 

 素手が無理なら武器を使おうと、腰に携えている純白の剣に手を伸ばすが、そこにある筈の剣が無かった。

 

 「そんな!? どうして!?」

 

 必死に足下や辺りを見回すが、近くに落ちている様子は無かった。

 

 「……仲間もいない……ここから脱出する手段も無い。いったいどうすれば……」

 

 などと、どうにもならない現状に頭を悩ませていると、扉が開く音が響き渡り、足音がこちら側に近付いて来る。

 

 「おっ、漸くお目覚めか」

 

 そこに現れたのは、赤と白のストライプ柄のバンダナを付け、意図的に袖と裾を破ってギザギザにした半袖と長ズボンを履いた、ヒゲモジャで人相の悪い筋肉ムキムキな男だった。

 

 起きた事を確認すると、ニヤニヤとヤラシイ目付きで品定めでもするかの様に、観察して来た。

 

 「……あなたが私を閉じ込めたんですか?」

 

 しかし、真緒は臆する事無く、果敢に目の前の男に質問をした。すると男はニヤリと口元を歪ませて答える。

 

 「フッ、そうだ」

 

 「他の皆は何処ですか?」

 

 「安心しな、全員無事だ。今の所わな……へっへっへっへ」

 

 「!!!」

 

 やはり仲間達も自分と同じ様に、ここでは無い何処かに囚われている。それが分かっただけでも満足だが、更に情報を引き出そうと考える。

 

 「あなた方の目的は何ですか? 私達を捕まえて、何をするつもりなんですか?」

 

 「そりゃあお前、若い男女にさせる事と言ったら一つしかないだろう」

 「ひぃ……!!!」

 

 そう言いながら、男は真緒の体を見て舌舐めずりした。それを見て、ゾッと体全体から寒気を感じた。

 

 「慌てなくても、そう遠くない内にお前の番が回って来る。それまで精々、大人しくしているんだな」

 

 喋りたい事を喋り終わったのか、男は早々にその場から立ち去ろうとする。

 

 「あっ、ちょっと待って下さい!! まだ話は…………!!!」

 

 流石に情報が足りなさすぎる。何とか引き留めようと、鉄格子に顔を引っ付けてまで声を掛ける。すると男は何かを思い出したかの様に、歩みを止めた。

 

 「あっ、そうそう。言い忘れてたけど、ここから逃げようだなんて考えない方が身の為だぜ。最も、誰もここから逃げられないんだがな。はっはっはっはっは!!!」

 

 牢屋に対する絶対的な自信があるのか。高笑いを浮かべながら、その場を去って行った。

 

 再び一人になった真緒。この先、どうして良いか分からず、塞ぎ混んでしまう。

 

 「ハナコちゃん……リーマ……フォルスさん……師匠……」

 

 今まで仲間の力を借りる事で、幾つものピンチを乗り越えて来た真緒だが、今回それは出来ない。仲間達が無事かどうか分からないが、自分の身も安全とは言えない。心配と不安に襲われ、真緒の精神は崩壊寸前だった。

 

 「……はい!! くよくよするの終わり!!」

 

 すると、真緒は暗い雰囲気を吹き飛ばす為、両手で自身の頬を同時に強く叩き、無理矢理元気を出して声を張り上げる。

 

 「きっと皆は大丈夫。それよりも今は私自身の事を考えなきゃ!!」

 

 一念発起する真緒。そして徐に周囲を探索し始める。まず、注目したのが壁と床だった。

 

 「抜け穴は……無さそう。強度は思ったよりも頑丈そう。ハナコちゃんなら兎も角、私じゃこの壁は破れそうにもない」

 

 次に鉄格子の柱部分に注目する。

 

 「太さはそれなり。柱と柱の間……んんっ、流石に通り抜けられる程の隙間は空いてないか……」

 

 何とか通り抜けられないか、無理矢理隙間に体を押し付けるが、手足が限界で頭どころか体すら出す事が出来なかった。

 

 「中からの脱出は、ほぼ不可能に近い。そうなるとやっぱり外部からの助けを待つしかないのかな」

 

 真緒はその場にじっと留まり、思案する。しかし、どう考えても外からの助けなど皆無。男の話では、仲間達は全員捕らえられてしまっている。それが真実ならば、助けが来る事に期待するのは愚かという物。

 

 「んー……あれ?」

 

 その時、真緒はある“違和感”に気が付いた。

 

 「揺れてる?」

 

 そう、今まで歩き回ったり周囲の状況に気を取られたせいで気付かなかったが、微かに部屋全体が揺れている事に体全体で感じたのだ。

 

 「地震? にしては、揺れが不規則で安定していない。それに何となく地震じゃない気がする」

 いったい自分は何処に連れて来られたのか。この揺れと何か関係があるだろうか。そんな疑念が真緒の脳裏にこびりつき、離れようとしなかった。

 

 「どうにかして外の様子を確かめないと。この牢屋の明かり……壁の隙間から漏れる太陽の光で照らされてるとしたら、壁の向こう側は必然的に外になる筈……」

 

 この時、真緒は運に恵まれていた。もし、外が曇りであったなら、もし、起きたのが夜中であったなら、恐らく太陽の光には気付かなかっただろう。

 

 真緒は比較的大きめな、外を眺められる壁の隙間を探す。そして、それらしい隙間を見つけると、片目を壁の隙間に近付け、漸く目覚めてから初めて外の様子を見る事に成功した。

 

 「…………え!?」

 

 そこに広がっていたのは、何処までも続く地平線と一面真っ青な海だった。時折、波がこちらにぶつかり、大きな音を立てる。

 

 「あれが本当に海だとしたら、私は海の真上にいる!? もしそうだとしたら、私がいるこの場所は……“船”の中って事!!?」

 

 現在地が船だという事に驚く一方、その真上……甲板では海の男達が汗水滴しながら世話しなく働いていた。

 

 「おらっ、帆を畳め!!」

 

 「ロープをこっちに持って来い!!」

 

 「お前、監視塔に登って状況を逐一報告しろ!!」

 

 「アイアイサー!!」

 

 それは先程、牢屋に姿を見せた男と全く同じ格好をした男達だった。そんな中、船首に他の者達とは異なり、黒に金色の装飾が施されたコートを身に纏い、頭にはこれまた黒に金色の装飾が施された三角帽子を被っていた。

 

 左目に眼帯を付けているが、見た目は三十後半。牢屋に来た男に負けず劣らず悪そうな顔つきだった。

 

 そんな男の下に甲板で作業していた男がやって来る。

 

 「“船長”!! ご命令通り、帆を畳終わりました!!」

 

 「ご苦労!! では、再び帆を張り直せ!!」

 

 「アイアイサー!! 聞いたなお前ら!! 今すぐ帆を張り直すぞ!!」

 

 急な無茶振りに文句一つ言わず、畳んだ帆を再び張り直し始める男達。その様子を眺めながら、船長と呼ばれた男は顔を上に向ける。

 

 「例え何者であろうと、俺達の航海は止まらない」

 

 視線の先にある物。それは、マストの先端に掲げられたドクロマークが付いている旗であった。

 

 「俺達は自由を愛する“海賊”だ」

 

 不運にも、真緒達を捕らえたのは海賊だった。そして真緒達がいるここは、紛れもない海賊船だった。




海賊登場!!
果たして真緒達を拐った目的とは!?
そして、真緒は無事に仲間達と再会出来るのか!?
そんな所で今日はここまで!!
また次回もお楽しみに!!
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