笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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前回、海賊船の牢屋に囚われてしまった真緒。
一方、他の仲間達はいったい何処へ?


強制労働

 船長と呼ばれる男の命令により、帆を畳んだ船員達だったが、畳終わった直後また張り直せと命令され、船員達は慌てて帆を張り直し始める。

 

 「おらおら、もたもたしてるんじゃねぇぞ!! おい、さっさと帆を張り直しやがれ!! さもないと海に放り込むぞ!!」

 

 バタバタと動き回る船員達に、渇を入れる大柄な船員。そんな中、揺れる船の上で上手く歩く事の出来ない人影に脅し文句を掛ける。

 

 「無茶言うな、無理矢理連れて来られた上に、船にすら乗った事が無い俺が帆の作業なんて出来る訳が無いだろう!!」

 

 クチバシに羽、鋭い鉤爪を持ったその人影は、誰であろうフォルスだった。真緒達と共に捕まった彼は、男手という事もあり、甲板でこき使われていた。しかし、空を生きる鳥人。元々地上が苦手である故に、ましてや不安定な海の上など立っているのがやっとの状態である。

 

 「お前達の仲間、ハナコと言ったか? 見てみろ、誰よりも率先して帆を張り直している。女の癖にやりやがる。俺達も見習わないとな。時々、あいつが捕虜だって事を忘れるよ」

 

 マストを見上げると、そこでは先頭でロープを引っ張って、帆を張り直しているハナコの姿があった。素人の彼女に負けてられないと触発され、他の船員達もいつも以上にやる気を出していた。

 

 「あいつその……純粋だから……だが、俺は違う!!」

 

 「これは船長からの命令だ。例外は認めない!! それにお前は鳥人だろ、飛んで上の連中を手伝ってこい!!」

 

 「お前らの言う事なんか、誰が聞くか!! 海に放り込みたければ、放り込むが良い!!」

 

 「おっと、確かに海に放り込むとは言ったが、誰をとは言わなかったな。お前が言う事を聞かないのなら、牢にいるあの女を海に放り込んでやるぞ!!」

 

 「!! マオには手を出すな!!」

 

 「だったら、素直に言う事を聞くんだな」

 

 「くっ……!!」

 

 真緒が人質となってしまった現状、例えこの船員よりもフォルスの方が強くても、逆らう事は出来なかった。黙って言う事を聞く他、選択肢は無かった。しかし……。

 

 「す、すまない……俺は鳥人だが……空を飛ぶ事は出来ないんだ……」

 

 「はぁ? 何言ってるんだ? そんな見え透いた嘘で、この俺を騙せるとでも…………」

 

 その時、フォルスの体が船の揺れとは関係無く、小刻みに震えている事に気が付いた。決して目を合わせようとはせず、表情も何処と無く暗かった。その様子に大柄な船員は、片手でアゴヒゲを掻きながら面倒臭そうに答える。

 

 「……あー、じゃあ良いわ。飛べねぇなら、甲板にいたって邪魔なだけだ。荷物置き場に向かって、他の連中と一緒に在庫の整理をしてこい」

 

 「分かった……」

 

 「ったく……鳥人の癖に飛べないとか、価値ねぇじゃねぇか……」

 

 「…………」

 

 去り際にボソッと呟かれた言葉。波の音で掻き消されるが、フォルスの耳には確りと聞こえ、頭からこびりついて離れなかった。

 

 揺れる船で転ばない様、壁を伝いながら荷物置き場の扉を開く。

 

 「「「…………」」」

 

 「…………」

 

 そこには数人の船員達が、在庫の整理を行っていた。甲板にいる船員達と比べ、細身で小柄な体格をしていた。突然やって来たフォルスに対して、何人かが視線を向けるが、興味を無くしたのか直ぐ様作業に戻った。

 

 「フォルスさん、フォルスさん!!」

 

 フォルスを呼ぶ声が聞こえる。しかも、聞き覚えのある声。声のした方向に顔を向けると、そこにはリーマの姿があった。

 

 「リーマ、無事だったか!!」

 

 「フォルスさんこそ、大丈夫でしたか!?」

 

 「あぁ、俺の方は何とも無い」

 

 「良かった……ハナコさんは?」

 

 「あいつはその……海賊達の光になってるよ……」

 

 「えぇ!? どうしてそんな事に!?」

 

 「分からない。命令される前に率先して動いた結果、いつの間にかそうなってた」

 

 「さ、流石ですね……」

 

 周りを惹き付けるハナコの意外なカリスマ性。これには一緒に旅を続けて来たリーマとフォルスの二人も苦笑いだった。

 

 「所でリーマはここで何をしているんだ?」

 

 「はい、主に荷物置き場に関する在庫整理ですね」

 

 「在庫整理?」

 

 「どうやらこの海賊船、色んな物資を積んでいるみたいなんです。これを見て下さい」

 

 そう言ってリーマは、側にあった一つの箱を取り出し、蓋を開けて中身を見せた。中には幾つもの麻袋が詰め込まれており、更にその麻袋の中には黒い小さな粒が大量に敷き詰められていた。

 

 「これはもしかして……黒胡椒か?」

 

 「はい、他にもリンゴやお酒、ヌイグルミなんかもありました」

 

 「リンゴやお酒は食料として理解出来るが……ヌイグルミだと? まさかこいつらが使う訳じゃ無いだろうしな」

 

 「それだけならほんわかして良かったんですが……これを見つけてしまいました」

 

 「?」

 

 そうしてリーマが次に取り出したのは、他の箱とは明らかに異なる重厚な箱。蓋を開けるとそこには……。

 

 「これは……」

 

 そこに入っていたのは、丁寧に梱包された剣や槍、斧などの多種多様な武器の数々だった。

 

 「勿論、この箱だけじゃありません。奥に同じ様な物がまだまだあります」

 

 「こいつら、いったい何が目的なんだ……」

 

 二人がヒソヒソと話し合っていると、奥から眼鏡を掛けた船員が現れた。手には纏められた書類が握られていた。

 

 「君達、さっきから口ばかりで全然手が動いていないじゃないか」

 

 「あっ、す、すみません!!」

 

 注意を受けたリーマは、慌てて在庫整理の作業へと戻った。その様子を見届けると、次にフォルスの方に顔を向ける。

 

 「おや、君は……甲板の方に駆り出されていたのでは?」

 

 「あぁ、ここへ来る様に言われた」

 

 「成る程、使え無さ過ぎて追い払われたと」

 

 「ん…………」

 

 少しムッと来る言い方だったが、強ち間違っていない為、言い返す事が出来なかった。

 

 「こちらとしては大歓迎だ。人手はいくつあっても足りないからね。それじゃあ……ここの荷物を向こうまで運んで貰おうか。全て運び終わったら、そこにいる子と一緒に在庫確認を頼むよ」

 

 そこにいる子、リーマの事を指していた。全くの他人と組まされるよりかは、よっぽどましだった。

 

 「あぁ、それと分かってるとは思うけど、妙な真似をしたら牢にいる人質の命は無いと思ってね。それじゃ、よろしく」

 

 「「…………」」

 

 甲板にいる船員よりも物腰が柔らかそうと思ったが、そんな事は無かった。寧ろ淡々と作業を行う分、こちらの方が冷酷で恐ろしいとすら感じた。

 

 「……マオさん、大丈夫でしょうか?」

 

 「きっと無事さ。人質は生きててこそ意味がある。だからさっきみたいに脅しとして使って来るという事は、少なくとも死んではいないと思う」

 

 「だと良いんですが……でも、こんな強制労働をいつまでも続けていたら、いずれマオさんの身に危険が及ぶかもしれませんよ」

 

 「その辺に関しては、俺は全く心配していない」

 

 「どうしてですか? 私達はこうして捕まって、ずっと監視されているんですよ? 助けに行きたくても、助けに行く事が出来ないんです。他にいったい誰が助けてくれるって言うんですか?」

 

 「いるじゃないか、一人」

 

 「え……?」

 

 自信満々に答えるフォルスに対して、誰の事を言っているのか、いまいちピン来ていないリーマ。

 

 「俺達の中で誰よりも実力があって、最も頼りになる存在。海辺にいた俺達と違って、唯一浜辺にいた事で捕まらずに難を逃れた人が一人だけいるじゃないか」

 

 「あっ、あぁ!!!」

 

 フォルスの説明にピンと来たリーマ。思わず大声を上げてしまうが、幸いにも周りは作業に没頭していて、こちらに構う気力も残っていなかった。慌てて両手で口を塞ぎ、今度は抑えて声を発する。

 

 「それってもしかして……エジタスさんの事ですか?」

 

 「そうだ。ここに連れて来られてから、あの人の姿を一度も見ていない。つまり、捕まっていないという事だ」

 

 「で、でも……私達が今何処にいるのか、分かるんですかね?」

 

 「忘れたのか? エジタスさんには、転移魔法がある。本人曰く、見た事のある場所や人の側に転移する事が出来るらしい。つまり、その気になれば直ぐにでも俺達の側に来られるという事だ」

 

 「な、成る程!! あれ、でもそれならどうしてまだ迎えに来ないんでしょうか?」

 

 当然の疑問だった。直ぐにでも来れるのなら、何故迎えに来ないのだろうか。側に転移出来るのであれば、転移した後また直ぐに転移してしまえば、気付かれずに救い出す事も出来るだろう。にも関わらず、未だにエジタスは迎えに来ない。

 

 「恐らくだが、相手の出方を伺っているんじゃないか?」

 

 「相手の出方?」

 

 「さっきも言ったが、奴らの目的は未だ不明だ。それならわざと泳がせて、目的が明らかになった後、一気に俺達を救う算段なのかもしれない」

 

 「た、確かにそれなら納得です!!」

 

 「とは言え、マオは俺達と違って一人で孤独と戦っている。そう考えるともしかしたら、マオには事情を説明しているかもしれないな」

 

 「ふふっ、マオさんはエジタスさんの事が大好きですからね。きっと会ったら凄く喜ぶでしょうね」

 

 「あはは、そうだな。目に浮かぶ光景だ」

 

 「おいおい、何やってるのかな君達? 一度ならず二度までも……」

 

 和やかな雰囲気で話していると、再び眼鏡の船員が声を掛けて来た。

 

 「口で言って分からないなら、体で分からせるしか無いのかなぁ?」

 

 「ご、ごめんなさい!! 直ぐに戻ります!!」

 

 「……すみませんでした」

 

 「……仏の顔も三度までだからね。次やったら、只じゃ済まさないよ」

 

 そう言うと奥へと消えていく眼鏡の船員。リーマは慌てて作業に戻り、これ以上の会話は不味いとフォルスも自分の作業を始める。

 

 「(エジタスさん……俺達は信じてますから……必ず助けに来てくれるって)」

 

 必ず助けに来てくれる仲間の事を信じて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「し、師匠? 今……何て言ったんですか?」

 

 「あれ~、聞こえませんでしたか~? だから、あなた方を“見捨てる”って言ったんですよ~」




果たして海賊達の目的とは!?
そしてまさかのエジタスが真緒達を見捨ててしまう!?
という所で今回はここまで!!
次回もお楽しみに!!
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