笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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色仕掛け

 自覚が無かった訳じゃない。いつも戦いになれば、活躍しようと積極的に前線に出るが、どうしても一人では倒せなかった。

 

 ハナちゃんの鋼鉄の体による壁。リーマとフォルスさんによる遠距離。そして師匠の転移魔法による奇襲。これらが組み合わさる事で、初めて目の前の敵を倒せていた。何なら、仲間個人が先に倒してしまう事が多かった。

 

 でも正直な話、私はこの戦い方が気に入っていた。元の世界で友達がいなかった関係から、誰かと一緒に何かを成し遂げる所謂共同作業に一種の憧れを抱いていた。

 

 だから、このまま皆で足並みを揃えて頑張って行こうと考えていた。それが結果として、師匠に見捨てられる事になってしまうとは……。

 

 「師匠……私は……いったいどうしたら……」

 

 最早、何も考えられない。頭が真っ白になっていく。そんな時、こちらに近付いて来る足音が聞こえて来た。

 

 「師匠!!?」

 

 もしかして、気が変わって戻って来てくれたのではないか。そんな淡い希望を持ちながら、鉄格子に無理矢理顔を押し付け、足音が聞こえて来る方向に視線を向けた。足音がどんどん大きくなっていく。そしてそこに現れたのは……。

 

 「おい、さっきからギャンギャンうるせぇんだよ。声がこっちまで響いてるだろうが」

 

 「…………」

 

 違った。師匠では無く、目覚めた時に会われたヒゲモジャの人相が悪い海賊だった。先程の会話、特に私は大声を張り上げていた為、それがこの海賊の耳にまで届いたのだろう。人違いにがっくりと肩を落とし、塞ぎ込んでしまう。

 

 「何だその態度は? こっちはイライラしてんだぞ。もし、次に俺を怒らせたら仲間の命は無いと思え、いいな!!?」

 

 「…………」

 

 何か、海賊があれこれ言っている気がするが、一切耳に入っていなかった。どうでも良かった。どうすれば皆に会える。どうすれば師匠に見捨てられずに済む。それで頭が一杯だった。

 

 「おい、聞いてるのか!!? ったく、船長の命令さえ無ければお前なんか好きに出来るのに……とにかく大人しくしてろ、分かったな!!」

 

 そう言うと海賊は、その場から去ろうとする。その時、私の耳に“チャリン”という金属がぶつかる様な音が聞こえて来た。

 

 ふと、顔を上げて音のした方に顔を向ける。音の発生源は去っていく海賊の腰回りだった。そこには何とご丁寧にも、鍵の束がぶら下がっているではないか。

 

 「(あれはもしかして……牢屋の鍵!!?)」

 

 目覚めたばかりで意識が、まだぼんやりしていた時には気付かなかった。脱出への活路が開けたと思った。

 「(そうか……師匠があんな事を言ったのは、私が大声を張り上げてもう一度この海賊を呼び寄せ、鍵を取るチャンスを作る為だったんだ)」

 

 若干、都合の良い解釈がされているが、チャンスなのは紛れも無い事実であった。そしてこれを逃せば、脱出は不可能だとも理解していた。そんな切羽詰まる思いとは裏腹に、海賊の姿がだんだん見えなくなっていく。

 

 「あ、あの!!」

 

 「あっ、何だ?」

 

 慌てて声を掛けて引き留めたが、ここからどうすれば良いか、全く思い付いていない。次に何を話せば正解なのか、必死に考える。

 

 「はぁ……いったい何なんだ?」

 

 そうこうしている内に、引き留めた海賊が溜め息を漏らし、こちらへと戻って来る。

 

 「(どうすれば……どうすれば……鍵を奪う方法……気弱な私でも鍵を奪える方法……そ、そうだ!!)」

 

 何かを思い付いた真緒。海賊が目の前までやって来ると、徐に手招きする仕草を見せる。

 

 「あ、あの……私と……い、良い事しませんか?」

 

 「…………」

 

 まさかの色仕掛け。それも超絶下手くそで、騙して何かをする気なのが誰の目からでも明白だった。

 

 「…………ふっ、がはははははははははははははは!!!」

 

 「な、何が可笑しいんですか!!?」

 

 「いやまさか、こんなに色気の感じない女がいるとはな」

 

 「なっ!!?」

 

 「慣れない事はするもんじゃねぇぞ。まぁ、最も俺はお前みたいな貧相な体付きの女は相手にしねぇ」

 

 「ぐぐぐっ……!!!」

 

 「相手にするなら、今甲板で俺達よりも輝いているあの熊人の女だな。あれは上玉だぜ」

 

 「ハナちゃんに手を出さないで!!」

 

 「おうおう、威勢が良いね。ちょっとはマシな女になったじゃねぇか。けど、そんなじゃあ百年経っても、この“鍵”は取れねぇよ」

 

 そう言いながら鍵の束を腰から外し、真緒に見せびらかす。バレていた。当然と言えば当然の結果。しかし、まだ真緒の目は死んでいなかった。寧ろ、より一層輝いていた。

 

 「(ハナちゃんに魅力で負けたのは素直に悔しいけど……今はそんな事を気にしている場合じゃない。せっかくここまで近付いてくれた上、完全に油断してくれている。やるなら今しか無い!!)」

 

 すると真緒は、海賊の顔に向けて掌を突き出す。

 

 「…………あ?」

 

 「“ライト”!!」

 

 次の瞬間、掌から光の玉が生成され、海賊の目の前で閃光が迸った。

 

 「ぐわぁああああああ!!? 目、目がぁあああああ!!!」

 

 強い光に晒され、パニックになる海賊。慌てて手で両目を抑えるが、その拍子に鍵の束を落としてしまった。そしてそれを逸早く真緒が拾い上げる。

 

 「やった!!」

 

 海賊の目が慣れる前に、牢屋の鍵穴に鍵を差し込み、牢屋の扉を開けた。

 

 「くそっ!! 行かせてたまるかよ!!」

 

 真緒が牢屋を出た瞬間、海賊がこちらに向かって襲い掛かって来た。しかし、まだ目は見えていない状態だった。

 

 そんな相手に遅れを取る程、真緒は実力不足では無い。海賊の攻撃を軽く避け、その勢いのまま背中を突き飛ばし、逆に海賊を牢屋に入れた。

 

 「だ、出しやがれ!! 今ならまだ許してやるぞ!!」

 

 「慣れない事はするもんじゃありませんね。出しても許さないのがバレバレですよ」

 

 「ぐっ!!!」

 

 最高に皮肉を込めた言葉に、海賊は口をつぐんだ。完全に勝ったと真緒は甲板へ向かって行く。

 

 「(師匠が言っていた“答えはあなたの手に”って言うのは、こういう事だったんだ。やりましたよ、私一人だけでピンチを乗り切りました)」

 

 自身の成長を実感すると共に、エジタスへの敬意で溢れていた。

 

 「どうせ無駄な足掻きだ!! この船には俺達の仲間がわんさかいるんだからな!! お前達は絶対に逃げられねぇぞ!!」

 

 「(……確かにここを切り抜けられたとして、そこからどうやって他の皆を救い出せばいいんだろう)」

 

 そんな中、去り際に残した海賊の言葉は、実に的確だった。

 

 「(数は向こうの方が圧倒的に有利。その上、武器は取り上げられている。そんな状態で私一人にいったい何が出来る……いや、弱気になっちゃ駄目だ!! 今、皆を助けられるのは私しかいないんだ。そんな私が諦めてどうする!!)」

 

 余計な事は考えず、仲間を助ける事だけに集中する。

 

 「(何か……何か方法は……私一人だけで皆を救える方法……そう言えば師匠、最後に変な事を言ってたな)」

 

 “師の言葉は確り聞きましょ~”

 

 「(師……これは勿論、師匠の事だろうけど、言葉を確り聞く……私はいつだって師匠の言葉は一字一句聞き逃したりしてない……多分……)」

 

 不安になりながらも、エジタスとの会話を振り返る。

 

 “ほらほら~、いつも言ってるでしょ~。涙なんかより笑顔を見せて下さいって~”

 

 “忘れたんですか? 私には転移魔法があるんですよ~”

 

 “船長さん、中々の貫禄でしたよ~。正に逃げと恐れを知らぬ、海の男って感じでした~”

 

 「……あっ……分かった」

 

 エジタスの言葉を振り返り、何かに気が付いた真緒。それと同時に甲板へと上がるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 甲板に上がると、太陽の光が眩しく思わず目を細める。次第に目が慣れて行くと、そこには既に何十人もの海賊達が真緒を待ち伏せていた。

 

 「マオぢゃん……」

 

 「ハナちゃん!! それに皆も!!」

 

 更に目の前には、縄で身動きが取れなくさせられたハナコ、リーマ、フォルスの三人がいた。

 

 「マオさん、大丈夫ですか!? 酷い事とかされていませんか!?」

 

 「私は大丈夫、それよりも皆の方は大丈夫なの!?」

 

 「俺達の事なら心配するな。だからお前は自分の心配だけしてろ」

 

 「フォルスさん……分かりました」

 

 「やはり抜け出して来たか……」

 

 「!!?」

 

 すると突然、海賊達が道を開ける。奥から左目に眼帯を着けた船長が姿を現した。

 

 「抜け出して来た……その口振りからすると、私が牢屋を出る事は初めから分かっていたんですか?」

 

 「いや、ついさっき道化師を名乗る男から、“牢屋にいる女性に気を付けろ”と言われてな」

 

 「道化師……師匠が? でもいったいどうして……?」

 

 「そんな話、信じる方がどうかしていると思うが、俺はこの上無く慎重な男でな。ちょっとでも可能性がある限り、油断はしねぇ」

 

 「それでこの人数での待ち伏せですか。随分と肝っ玉が小さいんですね」

 

 「てめぇ!! 船長に向かってなんて事を言いやがる!!」

 

 その言葉にカチンと来た海賊の一人が、怒号を上げる。すると船長が片手を少し上げ、黙る様に合図した。

 

 「いつも言ってるだろう。敵の安い挑発に惑わされるな。悪かったな、海賊ってのは躾がなってない連中の集まりだからよ」

 

 「いえ、気にしてませんよ。それにこれで確信出来ましたから……」

 

 「確信? 何がだ?」

 

 「私は……船長、あなたに“決闘”を申し込みます!!」




次回、船長と激突!!
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