笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
「…………ぷっ」
船員の中の誰かが抑えきれず、吹き出した。それにつられて他の船員達も皆笑い始めた。
そんな中、笑っていなかったのは五人。その内の四人は真緒達で、当然と言えば当然。そして残りの一人は、決闘を申し込まれた船長。口角どころか眉すらピクリとも動かず、只じっと真緒の真剣な表情を見つめていた。
すると、ある程度まで笑い終わった船員の一人が間に割って入り、真緒に声を掛ける。しかし、表情は未だニヤニヤしており、馬鹿にして来るのは明白だった。
「おいおい、そんな事を言える立場かお前? 牢屋を無断で脱走して挙げ句の果てには、決闘しろだぁ? 冗談も休み休み言えよな!!?」
再び馬鹿にした笑いが起こる。が、真緒は船員など眼中に無かった。ひたすらに船長の方を見続けていた。
「んぁ? 無視とは良い度胸だな? 俺が……礼儀って奴を叩き込んでやるよ!!」
そう言うと船員は、真緒目掛けて拳を振り被ろうと構える。その時、彼の腕を掴む者が現れる。
「あぁ!!? 誰だ……って、船長?」
他でもない船長だった。
「お前らは……何処まで恥を上塗りにすれば気が済むんだ……」
「せ、船長? あの……う、腕が……痛いんですが……」
次の瞬間、真緒を殴ろうとしていた船員は船長に思い切り蹴り飛ばされ、外側の柵に勢い良く背中を叩き付ける。
「お、おい……大丈夫か……?」
他の船員が恐る恐る声を掛けるが、当の本人は口から泡を吹いて気絶していた。
「ひ、ひでぇ……折れちまってる」
「船長!! いきなり何するんですか!?」
突然の強行に船員達は困惑し、船長に理由を問い詰める。すると船長は残っている片眼で睨み付け、その威圧で全員を強制的に黙らせた。
「てめぇら、それでも泣く子も黙る“ジェド海賊団”のクルーか!!? 相手の真っ向からの決闘を笑うじゃねぇよ!!!」
「で、でもよ船長……そいつはまだ子供でそれに女だ……」
「勝負の世界に女子供関係ねぇ!!! それとも何か? 俺の言ってる事が間違ってるとでも言いてぇのか?」
「そ、そんな!!!」
「だったらガタガタぬかすな!! これ以上、この海賊団に恥をかかせてみろ。お前達全員海の藻屑にしてやるからな」
「…………」
「分かったら、さっさと度胸を示したあいつに拍手でも送ったらどうだ!!?」
その言葉を機にパラパラと拍手が送られる。その大半が嫌々の皮肉めいた拍手ではあったが……。
「ウチのもんが迷惑掛けたな。さて、それで決闘の話だが……仮に俺とお前が戦い、お前が勝った場合はどうするつもりだ?」
「勿論、私達を即座に解放して下さい。後、武器も返して貰います」
「で? 俺が勝った場合は?」
「どうもありません。煮るなり焼くなり好きにして下さい」
「……その条件だと、俺達には何のメリットも無いな。何故なら既に俺達はお前ら全員を煮るなり焼くなり好きに出来る状態だからだ。わざわざ決闘で確定させる意味は感じられない」
「そうですね。なら、別に断って貰っても構いませんよ」
「……ふっ、くくく……成る程……誰の“入れ知恵”か知らないが、俺がこの決闘を断らないと確信しているな」
“入れ知恵”という言葉に対して、脳裏にとある道化師の顔が過り、真緒はクスリと笑みを溢した。
「さぁ、どうでしょうかね」
「海賊ってのはよ、メンツとプライドで生きてる連中の集まりだ。そのチームの長ともなれば別格さ。つまりだ、何が言いてぇかって言うと……あんな堂々と喧嘩売られたっていうのに、断って背中見せる様な惨めな真似出来る訳がねぇだろう」
「それじゃあ、決闘受けてくれるんですね」
「あぁ、その喧嘩買ってやるよ。そんじゃあ、改めて名乗らせて貰うぞ。俺はこのジェド海賊団を仕切っている船長の“ジェド”だ」
「私は佐藤真緒です」
「マオ……よし、早速始めるとしようか。おい、こいつの武器を返してやれ!!」
すると、先程まで文句を垂れていた船員達はまるで人が変わったかの様に、キビキビと動き出し、数人が真緒の武器を取りに行っている間、他の船員達は真緒とジェドの二人を取り囲む。
「これは……?」
「雑だが場を整えさせた。決闘は広すぎず狭すぎない場所でやらねぇとな」
「船長、持って来ました」
場が整え終わるのと同時に、真緒の武器を取りに行った船員が戻って来た。
「おぅ、なら早く渡してやりな」
「へい!! ほら、お前の剣だ」
船員の手から真緒の手へと、純白の剣が渡った。それ程時間は経っていない筈だが、まるで数十年振りの再会を果たしたかの様な感動を感じた。
「それで勝敗の判定はどうする?」
「そうですね……相手を戦闘続行不能にした時点で勝利というのはどうですか?」
「具体的には?」
「相手の武器を折ったり……立てなくなったり……」
「よし、それで構わない。とっとと始めるぞ」
「随分と急かすんですね」
「正直、もうこの血のたぎりを止められそうにねぇんだわ!!」
そう言いながら船長は、コートを脱ぎ捨てる。そこから露になった船長の全容に真緒は思わず目を見開く。
「その“足”は……?」
ジェドの左足は、くるぶしから先が存在していなかった。代わりに一本足の義足を嵌めていた。
「ん? あぁ、これか? まぁ、何だ……名誉の負傷って奴だ。別にお前が気にする必要はねぇよ。後、手加減なんかするんじゃねぇぞ。俺は同情される程、弱くはないぞ」
ジェドから発せられる気迫は、決して片足を欠損している人物からは感じられない物だった。
「……みたいですね。すみません、謝ります」
「だから気にしてねぇって、真面目な奴だな。まぁいい、おら!! 早く開始の合図を鳴らせ!!」
そう言うと船長は腰に携えたカットラスを引き抜く。すると船員の一人が代表して、ピストルを取り出し、銃口を上空へと向ける。
走る緊張感。誰もが固唾を呑んで見守る中、遂にピストルの引き金が引かれる。
バァン!!!
発砲音が、けたたましく鳴り響く。それと同時に真緒とジェドの二人は走り出し、互いの剣が勢い良くぶつかり、火花が飛び散る。
「「絶対に勝つ!!」」
今回は少し短かったけど、次回のバトルは長くなる予定なのでお楽しみに!!面白ければ評価や感想、お気に入りもよろしくお願いします。