笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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今回は真緒とジェドによる一騎討ち。
果たして勝つのはどちらなのか!?


甲板の戦い

 互いの剣がぶつかり、カタカタと剣を震わせながら力が拮抗する。やがてほぼ同時に両者は後ろに跳ぶ。

 

 「(実力も経験も、向こうの方が遥かに上の筈……それならこっちは手数の多さで勝負するまで!!)」

 

 一気に距離を詰める真緒。それに反応してジェドがカットラスで斬り掛かる。

 

 「“ライト”!!」

 

 次の瞬間、二人の間で眩い閃光が迸った。目の前のジェドは勿論、周りの船員達も思わず目を瞑ってしまう。次にジェドが目を開けた時には、真緒の姿は何処にも無かった。

 

 この時、唯一ハナコ達だけは真緒の姿を目で追っていた。既に背後へと回り込み、更に眼帯を着けている完全な死角から剣を勢い良く振り下ろそうとしている。

 

 「(マオぢゃん十八番の目眩まじ攻撃だぁ!!)」

 

 当然、観戦する三人は決まったと思った。それは真緒自身も感じていた。一切動こうとしないジェド。その様子に勝利を確信する。

 

 「(……いや、これはっ……!!!)」

 

 が、何を思ったのか真緒は攻撃の手を緩め、一歩後ろへと下がった。次の瞬間、ジェドは上半身を捻って、義足の棒で死角にいる真緒目掛けて的確に回し蹴りを繰り出した。

 

 一歩下がった事で直撃は避けられたが、鼻先の肉が抉り取られてしまった。傷口からポタポタと血が甲板に流れ落ちる。

 

 「完全な間合いに入ったと思ったんだが……よく避けたじゃないか」

 

 「相手が目の前から消えたというのに、周囲を見回す事もしないので、もしかしたら既に位置がバレているんじゃないかと思いました」

 

 「流石だな。生憎、俺は片目を失っている。だが、そのお陰で他の機能が敏感に働いている。特にこの眼帯を着けている側の頬は、僅かな風の流れも感じ取れる様になったのさ」

 

 「成る程、それで私が移動した際に生まれた、僅かな風の流れを感じ取ったんですね」

 

 「そしてどうやらお互い、感覚には敏感な様だな。これは決着が長引きそうだ」

 

 「いえ、早々に終わらせます!!」

 

 長引けば不利になのは明らかにこちら側。真緒は再びジェドとの距離を一気に詰める。また、ジェドも真緒の動きに反応してカットラスを振るう。

 

 バチバチと火花を散らしながら、激しくぶつかり合う剣。真緒が両手で必死に剣を振り回すのに対して、ジェドは片手で軽くいなす程、余裕のある立ち振舞いを見せ付ける。

 

 「がぁっ!!?」

 

 その時、一瞬の隙を突いてジェドが剣を持たないフリーの左手で、真緒の首を掴んで持ち上げた。そんな左腕を斬り落とそうとする真緒だったが、それよりも早くジェドが首を強く締め上げる。

 

 「あぐっ、あごがぁ!!!」

 

 あまりの痛みと苦しみから、不覚にも剣を手から離してしまう。

 

 「これで終わりだ。お前と俺とじゃ、踏んだ場数が違う」

 

 息が出来ない。このままでは失神してしまう。いや、もっと悪ければ窒息死するかもしれない。何とか落ちた剣を拾おうと手を伸ばすが届かない。意識が遠退く。

 

 「マオぢゃん!! 頑張れ!!」

 

 「マオさん、負けないで下さい!!」

 

 「最後まで諦めるな!!」

 

 「(みん……な……っ!!!)」

 

 最早これまでかと思ったその時、真緒の耳にハナコ、リーマ、フォルスの声援が聞こえて来た。

 

 負けられない。仲間の為にも勝たなければならない。その想いが真緒の意識を死の淵から呼び戻した。

 

 すると、真緒はジェドの拘束に抵抗するのでは無く、逆に締め上げて来る左腕に両足を絡めて抱き付き始めた。

 

 「なっ!!?」

 

 この意外な行動には、流石のジェドも驚きを隠せず、思わず引き剥がそうと拘束を解いた上で左腕を振り回す。

 

 「しまった!!」

 

 自身の失敗に気が付き、再び拘束しようと試みるが、拘束が解けるや否や真緒は逸速く左腕から離れ、床に落ちた剣を拾い上げる。そしてそこから、完全無防備なジェド目掛けてスキルを発動する。

 

 「スキル“ロストブレイク”!!」

 

 今の真緒が放てる最高の一撃。それは見事ジェドの体を捉え、船首付近まで勢い良く吹き飛ばした。

 

 「うわぁあああ!!! 船長!!!」

 

 これには周りの船員達も驚きを隠せなかった。頭を抱え、絶望の表情を浮かべている。

 

 「マオぢゃん!! やっだだぁ!!」

 

 「お見事です!!」

 

 「流石だな」

 

 「みんなが応援してくれたお陰だよ。ありがと……う?」

 

 全員が勝利を確信していた。故に油断していた。吹き飛ばされ、舞い上がる土煙の中から次の瞬間、ジェドが勢い良く飛び出し、真緒目掛けてカットラスを突き出した。

 

 完全に反応が遅れてしまった。急いで避けようとするが、間に合わず右胸に深く突き刺さった。その勢いのまま、船室の壁に叩き付けられる。

 

 「あぁあああああ!!!」

 

 「「「マオ!!!」」」

 

 「言っただろう、踏んだ場数が違うってな」

 

 「ぐっ……どうして……直撃だった筈……」

 

 「あぁ、だが生憎痛みには耐性があってな。これ位なら屁でも無い」

 

 真緒の一撃で服の一部が破け、隙間からジェドの素肌が伺える。そこには無数の生々しい傷跡があり、どれを比べても真緒が与えた傷よりも深いものばかりだった。

 

 「ふぐぐ……!!!」

 

 「……ふん!!!」

 

 「あぁあああああ!!!」

 

 

 突き刺さったカットラスを抜こうと必死にもがくが、ジェドが力を入れて更に奥深くへ突き刺す。

 

 「無駄な抵抗はよすんだな。今度は逃がさない」

 

 「うぅっ……“ライト”!!」

 

 すると真緒は、片手を突き出して光の玉を生成する。そして二人の間に眩い閃光が迸る。

 

 「忘れたのか、俺にそんな目眩まし効かなっいぃいいい!!?」

 

 真緒はジェドの股間を思い切り蹴り上げた。生暖かい感触が足先から感じる。やがてジェドはカットラスから手を離し、両手で股間を抑えながら両膝を付く。涙目になって真緒を睨み付ける。

 

 「お、おのれ……よ、よくも……」

 

 「痛みに対する耐性でも、限度がありましたね。これも歴とした戦い方なんですから、文句言わないで下さい」

 

 「…………ふっ、それはお互い様だ」

 

 「負け惜しみですか。兎に角この勝負は私のか……ち……って、あれ?」

 

 突然、ふらふらと千鳥足になる真緒。目眩がして足に上手く力が入らない。その場に倒れ込んでしまう。

 

 「マオぢゃん!!?」

 

 「いったいどうしたんですか!!?」

 

 「まさかこれは……!!?」

 

 真緒が突然倒れた事に、驚きを隠せない仲間達。そんな中、船員達は大盛り上がりだった。

 

 「出た!! 船長お得意の“毒”だ!!」

 

 「“毒”だと!!?」

 

 「船長愛用のカットラスには、特製の猛毒が塗ってあるのさ。傷を付けられれば最後……数分間もがき苦しみながら死ぬんだ」

 

 「そんな……このままじゃ、マオさんが!!!」

 

 「マオぢゃん!!!」

 

 「残念だったな。この勝負、俺の勝ちだ……今ならまだ解毒が間に合う。素直に負けを認めろ、そうすれば薬を渡してやるぞ」

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……誰……が……認め……て……るもん……で……すか……はぁ……はぁ……」

 

 苦しそうに呼吸する真緒。それでも負けを認めようとしない。その覚悟にジェドは軽く溜め息を漏らす。

 

 「そうか……それならせめてもの情けだ。これ以上、苦しまない様に俺が介錯してやる」

 

 そう言いながら、カットラスを真緒の首目掛けて振り下ろそうと、高く振り上げる。

 

 「はぁ……はぁ……“ホワイトボディ”……」

 

 その瞬間、真緒の体が真っ白な光に包まれる。

 

 「何だ? ま、まさか!!? ちぃ!!!」

 

 嫌な予感を覚えたジェドは、急いで真緒にトドメを刺そうと振り上げたカットラスを勢い良く振り下ろす。

 

 「!!!」

 

 が、カットラスが当たるよりも早く真緒が起き上がり、ジェドの一撃は空振りに終わる。そしてそれは同時に、取り返しの付かない大きな隙を生む事となった。

 

 既に真緒は剣を構え、スキルを発動しようとしている。慌てて振り下ろしたカットラスを戻そうとするが、どう頑張っても間に合いそうになかった。

 

 「スキル“ロストブレイク”!!!」

 

 「ち、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 放たれた一撃は、確実にジェドを捉えるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 「…………」

 

 肩で息をするも、何とか立っている真緒。そして目の前には、大の字になって倒れているジェドがいる。

 

 「私の……勝ち……ですよね?」

 

 「……あぁ、流石の俺も一ミリも動けねぇ……認めるよ、この勝負……俺の……負けだ……」

 

 「や、やったぁああああ……」

 

 その言葉に安堵した真緒。張り詰めていた緊張の糸が切れ、その場で崩れ落ちる。

 

 「マオぢゃん!!!」

 

 「大丈夫ですか、マオさん!!?」

 

 「みんな……私、一人で勝てたよ……」

 

 「マオ、お前は本当に凄い奴だ」

 

 「えへへ……」

 

 「なぁ、聞いてもいいか?」

 

 勝利の喜びを仲間達と分かち合う中、ジェドが疑問を投げ掛けて来た。

 

 「どうやって俺の毒を防いだ? 確かに、カットラスで刺したつもりだったんだが……」

 

 「……防いでなんかいませんよ」

 

 「何? じゃあ、まさか解毒したというのか? 自分で言うのもあれだが、この毒はそんじょそこらの薬は効かないぞ」

 

 「薬じゃありません。実は私には“ホワイトボディ”という、毒や呪いを治せる光魔法があるんです」

 

 「光魔法……万物を癒すという力か……成る程、それなら解毒の説明にも納得だ。しかし、まさかこの俺が負けるとはな……」

 

 ジェドが感傷に浸っている中、周りは船長が負けた事に大粒の涙を流す船員達で溢れ返っていた。

 

 「うぅ……船長が負けるなんて……」

 

 「信じられねぇ……」

 

 「テメェら!! いつまでもメソメソ泣いてんじゃねぇ!! 男だろうが!! 目の前の結果を大人しく受け入れろ!!」

 

 「だけど……俺達は無敗の船長が良いんだよ……」

 

 理想の船長像を想い描く船員達に、ジェドは呆れ果ててしまう。

 

 「ったく……あっ、そうだ……それならこのマオが“新しい船長”な」

 

 「……え?」

 

 何を言われているのか、いまいち理解出来ない真緒。するとジェドは真緒の呆気に取られている顔を見ながら、フッと笑い返す。

 

 「よろしく頼むぜ、“船長”さん」

 

 「えぇえええええええええええ!!?」

 

 ジリジリと照り付ける太陽と気持ち良い潮風に流される海賊船。その甲板にて、新船長となった真緒の第一声が響き渡る。




甲板の戦い、軍配が上がったのは真緒でした。
そんな真緒、まさかの海賊船の船長に!?
いったいこの先、どうなってしまうのだろうか!?

今回はここまで!!
次回もお楽しみに!!
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