笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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もしも、童話の中の人物に会えるのなら皆さんは誰に会いたいですか?


初対面

 「な、何が起ごっだだぁ!?」

 

 「私達、海に沈みましたよね? という事は、ここは海の中なんですか!?」

 

 「にわかには信じられないが……」

 

 ハナコ、リーマ、フォルスの三人は、他の船員達と一緒に船を動かしていたが、その船が突然止まったかと思うと、何かに引きずり込まれる様に沈み、慌てて逃げ出そうとするも、腕を掴まれてしまい、そのまま海の藻屑となってしまった。

 

 そして気が付くと、船は無傷。海の中を潜航していた。あまりにも信じられない出来事に混乱する三人。しかし、ふと見上げれば、先程までいた水面が見える。その下を優雅に泳いでいる魚達が太陽の光に照らされ、鱗を美しく輝かせている。その光景から、これは紛れもない現実であると思い知らされた。

 

 「……そうみたいだ」

 

 「ハナちゃん、リーマ、フォルスさん!! 見てよあれ!!」

 

 三人が動揺を隠し切れないでいる中、真緒が片手で激しく手招きしながら、もう片方の手である方向を指差していた。

 

 全てが未知の海の中。いつ何処から何が襲い掛かって来るのか分からない。嬉しそうに満面の笑みを浮かべる真緒の顔を見て、少しホッとするがそれでも周囲を警戒しながら、三人は恐る恐る指差す方向を見た。

 

 「「「!!!」」」

 

 そこに広がっていたのは、真緒が見たのと同じく虹色に輝く幻想的な国の光景。光が当たる角度によって、色が変化している。

 

 「ね!? ね!? 凄いでしょ!?」

 

 「凄い……綺麗だぁ……」

 

 「まるで夢を見ているみたい……」

 

 「まさか海の中に町が存在しているとはな……いったい何なんだあれは?」

 

 「あれこそ、人魚達が住んでいる“水の都”だよ」

 

 フォルスの疑問に答えるジェド。その手には口を縛った麻袋が握られていた。

 

 「ジェドさん、その袋は?」

 

 「これか? まぁ、ちょっとした土産物だ」

 

 そう言葉を濁しながら、麻袋を肩で担ぐ。

 

 「土産物?」

 

 「そんな事より、お前ら船を降りる準備をしろ。もうすぐ到着だぞ」

 

 そう言われ、改めて周りを見ると、船員達の何人かが船のいかりを降ろす作業をしていた。その間にも、船は水の都目掛けてどんどん沈んでいく。

 

 やがて、地面に縄梯子を降ろせる程まで距離が近くなったのを確認すると、船員がいかりを降ろし、船の動きを止めた。

 

 「着いたぞ。ほら、まずは船長であるお前が最初に降りるんだ」

 

 「わ、私ですか!?」

 

 促されるまま、縄梯子を伝って地面へと降りる真緒。両足が地面に着いた瞬間、とある違和感を覚える。

 

 「(……硬い?)」

 

 一見すると海底の砂浜なのだが、踏んた瞬間硬質な地面に変化していた。しかし、先に降ろした縄梯子やいかりを見ると、確りと沈んでいるのだ。

 

 いくら探しても、この矛盾に対する答えが見つからず、降りたその場で長考してしまう。そうこうしていると、船員の一人が縄梯子を伝って降りて来ていた。そして、目の前に真緒がいるのを知ると、わざと肩にぶつかって無理矢理押し通った。

 

 「チィ、邪魔」

 

 「あっ、ご、ごめんなさい」

 

 ぶつかって来た船員。それは誰であろう、ルーだった。舌打ちしながら悪態を付くと、その様子を見ていたジェドが縄梯子を伝って降りて来た。

 

 「おい、ルー。テメェ、いい加減にしろよ」

 

 「何がですか?」

 

 「別に今更、お前がマオの事を船長と認めようが認めまいが、どっちでも構わない。だが、それでマオを目の敵にするのは、お門違いなんじゃねぇのか?」

 

 「……別にこいつが船長だからじゃありませんよ」

 

 「じゃあどんな理由があるんだ?」

 

 「…………」

 

 すると、ばつが悪そうにその場から離れようとする。そんなルーの肩を掴んで、引き止めるジェド。

 

 「おい、何処に行くつもりだ」

 

 「何処だっていいでしょ」

 

 「まだ積み荷の降ろしが終わってねぇだろ。手伝え」

 

 「…………」

 

 しかし、ルーは何も答えず、ジェドの制止を振り払い、足早に去ろうとする。ここで素直に行かせてしまっては、元船長とはいえメンツが立たない。今度は振り払われない様に、腕を掴もうと追い掛ける。

 

 「おい……「邪魔すんじゃねぇよ!!!」……っ!!?」

 

 「ルーさん!?」

 

 その直後、ルーの怒りに満ちた声が周囲に響き渡る。先程までの澄ました態度とは真逆の興奮した様子に、ジェドと真緒も驚きを隠せなかった。

 

 「しつけぇんだよ!! 俺が何処に行こうが、あんたには関係ねぇだろ!! 誰であろうと俺の邪魔はさせない!! それでもまだ邪魔するんだって言うなら、俺は海賊を辞める!!!」

 

 そう言うと、ルーは走ってその場から離れて行くのであった。その後ろ姿を呆然と眺めるジェドと真緒の二人。すると、遅れて縄梯子からハナコ、リーマ、フォルスの三人が降りて来た。

 

 「びっぐりじだだぁ……」

 

 「何なんですかあの人?」

 

 「何だか訳ありの様子だったが?」

 

 「……あぁ、すまねぇな。あいつも悪気がある訳じゃ無いんだ」

 

 「追い掛けなくても良いんですか? 海賊を辞めるとか言ってましたけど……?」

 

 「心配する事はねぇ。あれは、只の冗談だ。それに……行き先は一つだろうからな」

 

 「えっ、それって……「あー!!」……ん?」

 

 行き先を聞こうとしたその時、何処からか声が聞こえて来た。声のした方向に顔を向けると、そこには一人の女性がこちらに向かって来ていた。

 

 ブロンドの長髪に、赤いサンゴ礁の髪飾りがよく映える。美しく整った顔は、多くの男性陣を魅了する事だろう。更に上半身はほぼ裸で、唯一貝殻のブラジャーで胸を隠す姿は、あまりにもセクシーだった。

 

 「「「「え!!?」」」」

 

 やって来る女性の姿に、ジェドを除く四人は一斉に驚きの声と表情を浮かべる。しかし、それは女性の美しさに驚いたのではない。その下半身に驚いたのだ。

 

 結論から言えば、女性のお尻や足といった物は一切存在していなかった。代わりに、魚を彷彿とさせる大きな尾ひれが付いていた。女性は人間の上半身に、魚の下半身だった。その姿でこちらに“泳いで”来ている。

 

 「まさか……あれって……」

 

 「そのまさかだ。あれが童話でも有名な“人魚”だよ。“シレーヌ”!! 元気そうだな!!」

 

 こちらに近付いて来る人魚の事を“シレーヌ”と呼び、手を振るジェド。それに応える様にシレーヌも手を振り返す。

 

 「お知り合いですか?」

 

 「あぁ、ちょっとな……」

 

 真緒達の側までやって来ると、シレーヌは一目散にジェドの周りを泳ぎ始めた。

 

 「何か、入口の方が騒がしいなって来て見たら、やっぱりジェドだ」

 

 「相変わらず元気そうだな」

 

 「それで? 今日はどうしたの?」

 

 「いつも通り、頼まれた品を幾つか見繕って来たんだよ」

 

 「ふーん……あれ? この人達は誰? 初めて見る顔だけど……?」

 

 ここで漸く、真緒達の存在に気が付き、品定めするかの様に四人の周りを泳ぐ。この唐突な出来事に対応出来ず、四人は呆気に取られていた。

 

 「こいつらは女王陛下への献上品だ」

 

 「女王様への? それなら丁寧に扱わないといけないね」

 

 「そうだ、どうせだったらシレーヌ、お前がこいつらを女王の下まで案内してくれないか。町の観光をしながら」

 

 「うん、いいよ」

 

 ジェドの提案にシレーヌは、快く引き受けた。すると先行して、町の方へと泳いで行く。そして徐に振り返り、真緒達に向けて手招きする。

 

 「ほら、早くついて来て。案内してあげる」

 

 「えっ、で、でもジェドさんは?」

 

 「俺は船の積み荷の降ろしが終わってから行くさ」

 

 「それなら私達も手伝った方が……」

 

 「言っただろう。お前達を誘拐したのは、“人魚”に引き渡す為だって。そんな心配する事は無い。黙ってシレーヌの後に付いて行けば良いんだ」

 

 「わ、分かりました……」

 

 「ほら、急いで急いで。この町の事、隅から隅まで教えてあげる」

 

 そうして真緒達は、ジェドと一旦別れて人魚のシレーヌに付いて行くのであった。




次回は水の都観光ツアー。

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