笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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ラドンナの頼み事

 「ラドンナさん……」

 

 目の前にいる人魚の女王ラドンナ。そのあまりの美しさから、思わず名前を呟く真緒。すると次の瞬間、側に控えていた近衛兵の人魚二人が怒りの形相を顕にしながら、持っていた槍を真緒達に向けて突き立てる。

 

 突然、武器を向けられた真緒達は、咄嗟に両手を上げて身を引いてしまう。そうこうしていると、近衛兵の一人が口を開く。

 

 「無礼者!! 女王陛下と呼べ!!」

 

 どうやら、ラドンナに対する呼び方が気に触った様だ。当然と言えば当然なのかもしれない。彼女達にとって、女王ラドンナは雲の上の存在。そんな主をさん付けで呼ぶなど、不敬に値する行為と言えよう。

 

 「えっ、あっ、す、すみまっ………!!」

 

 真緒が慌てて謝ろうとするが、それよりも早くラドンナ本人が近衛兵の二人に声を掛ける。

 

 「お止めなさい。この方々は私のお客人、失礼ですよ。今すぐ武器を下ろしなさい」

 

 「し、しかし女王陛下……」

 

 弁明しようとする近衛兵の目をじっと見つめるラドンナ。やがて近衛兵達の方が先に折れ、真緒達に向けていた槍を元に戻す。その様子にホッと胸を撫で下ろしていると、ラドンナがこちらの方に視線を向け、その直後ラドンナは真緒達に頭を下げ、謝罪する。

 

 「私の者が大変失礼致しました。責任は全て主である私にあります。どうか、私の顔に免じて許しては頂けないでしょうか?」

 

 「じょ、女王陛下!!?」

 

 これには、周りの人魚達もざわめき出す。一国の女王が一旅人の真緒達に頭を下げるなど、前代未聞だ。

 

 このまま女王様に頭を下げさせる訳にはいかない。真緒は先程よりも慌てて口を開く。

 

 「そ、そんな!!? あ、頭を上げて下さい!! 私達は全然気にしていませんから!! ね!!?」

 

 真緒の問い掛けに、他の三人は高速で頭を上下に振る。それを聞いたラドンナは、漸く下げた頭を上げてくれた。

 

 「あなたの深海よりも深い身心に感謝申し上げます。失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 「あっ、は、はい!! えっと、私は“佐藤真緒”と言います。それと私の仲間である熊人のハナちゃ……ハナコ……」

 

 「よ、よろじぐおねがいじまずだぁ!!」

 

 「魔法使いのリーマ……」

 

 「は、初めまして!!」

 

 「そして鳥人のフォルスさんです」

 

 「ど、どうも……初めまして」

 

 真緒の自己紹介と仲間達の紹介に対して、それぞれの目を見ながら頷くラドンナ。

 

 「マオ様、ハナコ様、リーマ様、フォルス様ですね」

 

 「実はあともう一人、私の師匠に当たる人物がいるんですが……ここに来る途中で何処かにいなくなってしまって……」

 

 寂しそうに話す真緒にラドンナが優しく接する。

 

 「そうでしたか、マオ様の師匠ならきっと素敵な方なのでしょう。機会があれば是非ともお会いしたいです」

 

 「ありがとうございます。師匠も喜ぶと思います」

 

 「それでマオ様……」

 

 「はい?」

 

 「よろしければ私の事は“ラドンナ”と、呼んで頂けませんでしょうか?」

 

 「「!!?」」

 

 一気に周りの空気が重たくなるのを感じる。つい先程、呼び方に関して忠告されたばかりなのだが、今回は本人たっての希望。これを無下にする訳にもいかないと考える。

 

 「分かりました、ラドンナ……!!?」

 

 早速呼び捨てにしようとした矢先、側に控えている近衛兵から、只ならぬ殺気を感じる。もし、このまま呼び捨てにすれば間違いなく面倒な事になるだろう。真緒は冷や汗を滴しながら、空いた口から残りの酸素と共に続きの言葉を発する。

 

 「ラドンナ………さん」

 

 シュンと分かりやすく、落ち込みの表情を浮かべるラドンナ。少し可哀想と思ったが、何事も自分最優先なのだ。

 

 取り敢えず、会話を先に進める為に真緒はラドンナに、自分達を連れて来た理由を訪ねる事にした。

 

 「それで……ラドンナさんは、どうして私達を呼び寄せたんですか?」

 

 すると落ち込みから一変、女王らしい真面目な表情になった。

 

 「皆様をお呼びしたのは他でもありません。実は頼み事があるのです」

 

 「頼み事ですか?」

 

 「はい、それをお話しする前に私達の事……そしてこの水の都について、お話しする必要があります。皆様、この水の都については何処までご存知ですか?」

 

 「えっと、確か一人の魔法使いの手によって作られたという所まで……だよね?」

 

 確かめる様に仲間達の方を向くと、全員首を縦に降った。特にリーマは首が千切れてしまうのではないかという程、高速で何度も振っていた。

 

 「そうですか。確かにこの水の都は、その一人の魔法使いの方によって作り出されました。しかし、それには切っ掛けとなる事件があったのです」

 

 「切っ掛けとなる事件?」

 

 「私達です」

 

 「え?」

 

 「私達は色んな方面から様々な理由で狙われていました。そんな私達を不憫に思い、魔の手から逃れられ、尚且つ安全に暮らせる場所として、この水の都を一晩で作って下さった方こそ……皆様が聞いた魔法使いの方なのです」

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

 ラドンナの話を遮ったのはリーマだった。信じられない言葉を耳にし、驚きの表情を浮かべて、目を丸くするリーマ。

 

 「一晩で作った? この町やお城をたった一晩で全て作ったって事ですか!?」

 

 「はい、その通りです」

 

 「そ、そんなあり得ないですよ!! 例えどんな大魔法使いでも、無から有を想像するのにたった一晩だなんて……そんな離れ業が出来るのはあの人位……まさか!!?」

 

 一人で論理的に語る中、数多くの魔法使いを頭に思い浮かべていると、唯一それらを可能とする人物の名前が導き出される。そしてその答えをラドンナは既に持っている様だった。

 

 「そう、私達を窮地から救って下さったその魔法使いこそ、かの勇者と供に魔王討伐を志した大魔法使い“アーメイデ”様です」

 

 「アーメイデ……って、リーマが持ってる魔導書の?」

 

 かつて亡くなったリーマの師匠から譲り受けた、アーメイデの魔導書。その著者に関する情報がこんな所で聞けるとは、誰も夢にも思わなかった。事前に頭を過っていたリーマも、実際に名前を出された事に混乱している様子だった。

 

 「アーメイデ様は私達の命の恩人です。あの方がいなければ、間違いなく死んでいたでしょう」

 

 「そうだったんですね。けど、それが私達にする頼み事と、どう関係して来るんですか?」

 

 この問い掛けにラドンナは一瞬、顔を曇らせる。しかし、答えるつもりではあるらしい。

 

 「……“水の王冠”はご存知ですか?」

 

 「“水の王冠”?」

 

 初めて聞く言葉に真緒、ハナコ、リーマの三人は首を傾げる。そんな中、フォルスが口を開く。

 

 「聞いた事ある。水の王冠はその名の通り、この世のありとあらゆる水を統べる力を持つと言われている。その力は天候すらも操り、その気になれば大陸全てを沈没させる事も出来るらしい」

 

 「「「えぇ!!?」」」

 

 突拍子も無い言葉に、思わず驚きの声を上げてしまう真緒達。あまりにも現実離れし過ぎている。にわかには信じられない。

 

 「も、もし仮にそんな王冠があったとして、そんな力があったらそれこそ簡単に世界を支配出来ちゃうじゃないですか!?」

 

 「そう上手くはいかない。何故なら、この世には水の王冠と同等の力を持つ王冠が五つある。“火の王冠”、“風の王冠”、“土の王冠”、“光の王冠”、そして“闇の王冠”といった具合にな」

 

 「へぇー、そんなに種類があるんですね」

 

 「これら六つの王冠が全て手元に無い限り、世界を支配する事なんて出来ないのさ」

 

 「王冠同士で世界のバランスを保っている訳ですね」

 

 「それにしてもフォルスさん。そんな王冠があるなんて、よく知っていましたね?」

 

 異世界からやって来た真緒や、世の中に無頓着なハナコなら兎も角、魔法に関する事には詳しいリーマでさえ知らなかった事を、フォルスだけは知っていた事に対してふと疑問に感じ、何となく聞いてみた。

 

 「…………まぁ、年長者だからな……無駄な知識は豊富なんだ……」

 

 何処と無く端切れが悪い気がする。しかし、それを追求する理由は真緒達には無い。一通り説明が終わるとラドンナが会話を続ける。

 

 「フォルス様が仰られた通り、水の王冠はありとあらゆる水を統べる力があります。そして、その王冠はここにあるのです」

 

 「「「「えぇえええええ!!?」」」」

 

 つい先程まで、伝説の一品として解説されていた王冠の一つが、この場にあるという事実に真緒達は驚きの表情を隠せなかった。

 

 「……いえ、正確には“あった”です……」

 

 「どういう事ですか?」

 

 今にも泣きそうな表情になるラドンナ。真緒達も心配せずにはいられなかった。

 

 「実は……盗まれてしまったのです」

 

 「盗まれた?」

 

 「水の王冠は、私達人魚達にとっての秘宝。今までずっと大切に保管されていました。しかし、つい数週間前の出来事です。何者かが宝物庫に侵入し、水の王冠を持ち出してしまったのです」

 

 「一大事じゃないですか!!?」

 

 「そしてここからが皆様にする頼み事なのです。どうか、皆様の手で奪われた水の王冠を取り返して来て欲しいのです!!」

 

 「成る程……話は分かりましたが、そもそもどうして私達なんですか?」

 

 お世辞にも真緒達は有名とは言えない。それらしい活躍はしたが、どれも決め手に欠ける。そんな当然な疑問に対して、ラドンナは答える。

 

 「例の物をここに」

 

 そう言うと、侍女らしき人魚が一本の巻物を持って近付いて来る。そして、真緒達の目の前で広げて見せる。

 

 「これは?」

 

 そこには、人魚と人間の絵が描かれており、何やら恐ろしく強大な何かと対峙している様だった。

 

 「今から数百年前、預言者を名乗る者が突然現れ、この絵巻を置いて行ったのです。『これは後に現実となる予言の書である』と、言い残して……」

 

 「予言の書!!? それじゃあつまり、ここに書かれている事が本当に起こるという事!?」

 

 「はい、そしてその予言は見事的中したのです。一番右の最初の絵を見て下さい」

 

 言われた所に目を向けると、そこには怪しげな人物が人魚達から王冠を奪う様子が描かれていた。それを見た瞬間、真緒達は、ハッと気が付いた。

 

 「もしかしてこれって!!?」

 

 「はい、先程お話しした水の王冠が盗まれる絵です。残念ながら、予言は避ける事が出来ない様なのです。ですが、まだ希望はあります。次の絵を見て下さい」

 

 次の絵には、四人の人物が玉座らしき椅子に座る人魚と対面している絵だった。

 

 「まさか俺達なのか!?」

 

 「えぇ、ごれがオラだがぁ!?」

 

 「んー、何処と無く似ている様な気がしなくも……」

 

 「でも、こうやって人魚の女王様と対面しているって事は、この予言も当たった事になる」

 

 「その通りです。ここまで予言通りに進んでしまっては、私達も信じざるを得ないのです。マオ様、ハナコ様、リーマ様、フォルス様、あなた方がここに来られたのは偶然ではございません。全てはこの予言書に記された通り……無茶苦茶な願いだとは重々承知。ですが、どうか……どうかお願いです。私達の秘宝を……水の王冠を取り返して頂けないでしょうか?」

 

 深々と頭を下げるラドンナ。それと同時に周りの人魚達も皆頭を下げる。その様子に真緒達はお互い顔を合わせ、そして静かに頷く。

 

 「顔上げて下さい、ラドンナさん。その頼み、私達が引き受けます」

 

 「マオ様!! 皆様、本当に……本当にありがとうございます!!」

 

 「引き受けるのは構わないが、賊の居場所は分かっているのか?」

 

 「賊……盗んだ方の居場所は分かりませんが、水の王冠が何処にあるのかは分かります」

 

 「本当ですか!?」

 

 「はい、水の王冠は強力が故に痕跡を残します。盗まれた同時期に、ここより西の果ての海域で何やら異変が起こった様なのです。きっと何か関係があるかと思われます」

 

 「ラドンナさん、大船に乗ったつもりでいて下さい。必ず水の王冠を取り戻して来ます!!」

 

 「ありがとうございます!! ありがとうございます!! どうか、よろしくお願いします!!」

 

 「そうと決まれば、ジェドさんに相談しに行こう。船を持っているのはあの人だけだからね」

 

 そうして真緒達は、ラドンナの頼み事を引き受け、水の王冠があると思われる西の果ての海域へと向かう為に、一度ジェドの下へと戻るのであった。




今回はここまで!! 次回もお楽しみに!!
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