笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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今回はルーの過去が明らかとなる!?
なろう原作と異なり、性格が大きく変化したルーの身に果たして何が起こったのだろうか


覆水盆に返らず

 人魚の女王ラドンナの頼み事を聞き入れた真緒達は、一度ジェドの所へと戻り、彼に事の一部始終を説明した。

 

 「水の王冠……まさかそんな大層な頼み事をさせるとはな……」

 

 あまりにも規模が大き過ぎる為、にわかには信じられないが、嘘を付く意味も見つからない事から、信じる他なかった。

 

 「それもよりにもよって、西の果ての海域とはな……」

 

 だが、ジェドが最も注目したのは水の王冠を取り返すという部分にでは無い。その目的地である西の果ての海域についてだった。

 

 「何か不味いんですか?」

 

 「西の果ての海域は、死の海域とも呼ばれていてな。海の怪物“クラーケン”が通る船を沈めると海賊や船乗りの間では有名な話だ」

 

 クラーケン。島よりも巨大で、数多の童話や歴史書に登場するタコともイカとも言われている伝説の怪物。その長い複数本の触手と無数の吸盤に捕まれば最後、逃れる術は無く確実に海の藻屑となる。

 

 「そんな死地に好き好んで向かう酔狂な奴は、何処にもいないだろうな」

 

 「そんな……」

 

 移動手段が断たれてしまっては、どうする事も出来ない。両肩を落として、分かりやすく落ち込む真緒達に対して、ジェドが片側の口角を上げ、鼻で笑う。

 

 「ふっ……まぁ、最も俺達は一度死の海域でクラーケンと相対して、無事に生き残った経験がある。よかったら、連れてってやるぞ?」

 

 「本当ですか!!?」

 

 得意気な返しに歓喜する真緒達。すると、ジェドが船員達に呼び掛ける。

 

 「お前達、今すぐ出航準備だ!! 目的地は、懐かしの死の海域!! 生半可な覚悟で挑むんじゃねぇぞ!!」

 

 「「「おぉ!!!」」」

 

 猛々しい掛け声が響き渡り、一斉に動き始める船員達。その様子にじっとしていられなかったハナコ、リーマ、フォルスの三人は真緒に詫びの言葉を入れ、手伝いに行ってしまった。

 

 「あっ、えっと、そ、それじゃあ私も……」

 

 キョロキョロと辺りを見回し、何か手伝える事がないか調べるが、下手に弄って壊したりしたらどうしようと、気が引けてしまって、忙しなく動き続ける他の者達を眺めるしかなかった。

 

 すると、ある程度現場を眺め続けていた真緒は、ある事に気が付く。

 

 「ルーさんは? まだ戻って来てないんでしょうか?」

 

 ルーがいない。水の都に着いた瞬間、荷物も下ろさずに一人何処かへと行ってしまったきり、未だ戻って来ていなかった。

 

 真緒の純粋な問い掛けに対して、答えを知っている様子のジェドだが、何処と無く気まずそうな態度を見せながら、右手で頭を掻いている。

 

 「あー、あいつなら多分……いや、十中八九、あの丘の所にいると思うぜ」

 

 「あそこにですか?」

 

 「だが、その内帰って来るだろう。それに今回の船出に、あいつは連れて行かない」

 

 「そんな!!? もしかして、あの喧嘩が原因ですか? だとしても、さすがに大人気ないですよ!!」

 

 「いや、そういう訳じゃねぇんだ。只、その……何て言えばいいかな……」

 

 私怨じゃない、別の理由がありそうだが、いざ説明しようとすると途端に端切れが悪くなり、結局何も伝わらない。加えて仲間意識が強い真緒にとって、例え一人でも欠ける事は我慢ならない。

 

 「なら、何も問題ありませんね。あっ、そうか、喧嘩した手前呼び戻しにくいんですね。それなら私が呼んで来ますから、準備を進めておいて下さい」

 

 「あっ、おい!!」

 

 引き止めようと手を伸ばすジェドの制止を振り切り、単独でルーがいると思われる丘の方へと走って行ってしまった。その様子に伸ばしていた手をゆっくりと下ろす。

 

 「……まぁ、どうせ遅かれ早かれ知る事にはなるだろうしな……」

 

 

 

***

 

 

 

 丘の上へと辿り着いた真緒は、周囲を見回してルーがいないかどうか確かめる。

 

 「んー、あっ、いた!!」

 

 少し離れた場所で石の塊を前にしながら、何かを喋っている姿を見つけた。

 

 「あのー、ルーさっ……え?」

 

 邪魔しちゃいけないと思いながらも、横から恐る恐る声を掛けようと近付く真緒。すると、ルーの目が涙ぐんでいるのに気が付いた。

 

 予想外の反応に困惑する真緒。完璧に声を掛けるタイミングを見失い、しばらくその場でじっと眺めてしまう。そうこうしていると、ルーが真緒の視線に気が付く。

 

 「おまっ!!? ぐっ……!!」

 

 この場に真緒がいる事には驚くも、慌てて顔を隠して目に溜まった涙を拭き取り、何事も無かったかの様に振る舞おうとする。

 

 「いったい何の用だ?」

 

 「あっ、いえ……そろそろ出航するので、呼びに来たんですけど……泣いてましたね?」

 

 「泣いていない。単なる気のせいだ」

 

 「この石ってもしかして……“お墓”ですか?」

 

 「!!!」

 

 異世界からやって来た真緒だからこそ、一目見ただけで気付けた。元いた世界にあった墓石の様に、よく見ればこの石の塊にも表面に、うっすらと文字が刻み込まれているのが読み取れる。しかし、あまり手入れされていないのか、すっかり風化してしまって殆ど読む事が出来なかった。

 

 「私も同じ様な経験をした事があるので、気持ちは分かります。きっとこのお墓に眠る人は、とても大切な人だったんでしょうね」

 

 「知った風な口を聞くんじゃねぇ!!」

 

 真緒は過去に母親という唯一の肉親が亡くなっている為、大切な人を亡くす気持ち自体は痛い程よく分かっていた。しかし、その態度が気に入らなかったのか、ルーは急に声を荒げる。そして意気消沈したかの様に、ポツリポツリと話し始めた。

 

 「……俺にとっては、それ以上の存在だった……彼女と初めて出会ったのは二年前……俺達が初めてこの水の都を訪れた時の事だ」

 

 

 

***

 

 

 

 その日、俺達は大規模な嵐に見舞われた。今にも転覆してしまいそうだってその時、船が海中に引きずり込まれてしまい、気が付いた時には水の都に辿り着いていた。

 

 噂に聞く伝説の生き物である人魚が住むと言われる水の都。偶然とはいえ、伝説の場所に辿り着けた事に感動と興奮を覚えた。

 

 早速、俺達は人魚の町に入ろうとした。だが、入口で止められてしまった。当然だろうな、人間なんて初めて来るだろうし、普通に考えれば捕らえられて極刑になっても可笑しくは無かった。

 

 しかし、何と人魚の女王であるラドンナ様は、俺達の通行に許しを与えてくれた。更にこの水の都を行き来出来る代わりに、地上の物資や珍しい物を輸入するという条件で、俺達は人魚専属の海賊商人となった。

 

 そんな時に彼女と……“ライア”と出会ったんだ。

 

 ライアは人魚の町に住む住人の一人で、いつも明るく活発な子だった。そして何故か、いつも俺に話し掛けて来ていた。

 

 「ねぇねぇ、ルーは地上に住んでいるんでしょ? ならさならさ、お花っていう植物見た事ある?」

 

 「えっ、う、うん……あるけど……?」

 

 「見た事あるの!!? ねぇねぇ、お花って実際にはどんな感じなの? 私、図鑑でしか見た事ないから、実物を知らないんだ」

 

 「えっと……お花はその……綺麗で……色鮮やかで……それでいい匂いがするんだ」

 

 「お花って匂いがあるの!!? へぇー、凄いな……私も行ってみたいな……」

 

 「連れてはいけないけど、今度機会があったら、お花持って来てあげようか?」

 

 「えっ!!? 本当に良いの!!?」

 

 「う、うん!!」

 

 「じゃあ約束!!」

 

 そこから俺はライアと仲を深めていく様になった。彼女に人魚の町を案内して貰ったり、時にはコッソリと城に侵入して遊んだりしていた。向こうはどうだったかは分からないが、俺はライアに特別な感情を抱く様になっていた。こんな日々がずっと続けばいいなと、そう思っていた。

 

 だが、そんな淡い思いは意図も容易く崩れ落ちてしまったんだ。

 

 それはいつもと何も変わらないある日の事。何度か航海を重ね、水の都との商売が軌道に乗り始めていた頃。俺はライアと二人で、この丘の上から人魚の町を眺めていた。

 

 「……ねぇ、ルー」

 

 「何?」

 

 「今度の航海さ、私も一緒に連れて行ってよ」

 

 「えっ!? いきなりどうしたのさ!?」

 

 今まで何度か連れて行って欲しいと言われた事はあったが、いずれも冗談半分の物ばかりだった。しかし、今回はハッキリとこちらの目を見て話し掛けて来た。さすがの俺でも、冗談では無い事が分かる。

 

 「いいから、連れて行って。お願い」

 

 「……駄目だよ。だって、人魚はこの水の都から出ては行けないんでしょ? ラドンナ様がそう言ってたよ?」

 

 人魚はその美しさと珍しさから、一度地上に出れば欲深い者達に狙われるのは必然。だからこそ、人魚は水の都から一歩たりとも出ては行けなかった。そして、俺もそれには賛成だった。ライアを無闇に危険な目にあわせる訳にはいかなかった。

 

 しかし、ラドンナ様の名前を聞いた瞬間、ライアの瞳から光が消えて、一気に表情が暗くなった。

 

 「ラドンナ……ラドンナね。あんなペテン師の言う事なんか聞く必要無いよ」

 

 信じられなかった。あの優しくて明るいライアが、人の……それも自分の国の女王様の悪口を言うだなんて。

 

 「そんな決まりとかどうでもいいよ。だからね、地上に連れて行って。そして私と二人で暮らそう」

 

 「……駄目だってば!!」

 

 正直、ライアの口から一緒に暮らそうと言われた時は心が揺れた。でも、当時海賊の中でも下の扱いだった俺に、ライアを養える程の力は無かった。

 

 申し訳ない気持ちになりながらも、ライアの願いを突き放した。

 

 「……あっそ、じゃあもういいよ」

 

 そう言って彼女は何処かに行ってしまった。

 

 嫌われた。自身の行いに後悔しながらも、何とか仲直り出来る方法はないかと考えた。

 

 「そうだ、お花をプレゼントしよう」

 

 その時、頭にひらめていたのは以前ライアが見たがっていたお花の事だった。今度の航海では“西の果ての海域”を通って、大きな貿易都市に向かうと聞いていた。そこならライアが気に入る様なお花が手に入る筈だと、いつも以上に張り切って航海の準備をした。

 

 そこに見覚えの無い樽がある事にも気付かずに……。

 

 西の果ての海域は、酷く荒れていた。何度も高波が船に直撃し、今にも転覆してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていた。そして今までよりも大きな波が船にぶつかり、甲板にいる船員達が浮かび上がってしまう程の衝撃が走った。

 

 その時だった……。

 

 『きゃあ!!?』

 

 「!!?」

 

 むさ苦しい男だらけの船の上から、聞こえる筈の無い、か弱い女性の悲鳴。声は樽の中から聞こえた。だが、それよりも俺はその声に聞き覚えがあった。まさかと思いながら、樽の蓋を開けると中には人が浸かれる程の水とライアが入っていた。

 

 「来ちゃった」

 可愛らしく笑みを浮かべるライア。そんな彼女に俺はあろう事か怒りを覚えていた。そしてつい……。

 

 「何でこんな所にいるんだ!!?」

 

 大声で怒鳴ってしまった。

 

 「そ、そんな怒らなくてもいいじゃない!!」

 

 まさか、怒られるとは夢にも思っていなかったんだろう。ライアの顔から一瞬で笑みが消え失せ、口喧嘩が勃発した。

 

 「これがどれだけ危険な事なのか、分かっているのか!!?」

 

 「何よ!! 海賊の癖にビビってるの!!? 情けない!!」

 

 「いいから、さっさと帰れ!!」

 

 「嫌よ!! せっかくここまで来たのに、諦める訳が無いでしょ!!」

 

 「ライアがいたら、足手まといなんだよ!!」

 

 「何ですって!!? そう言うルーの方こそ、足手まといよ!! だからいつまで経ってもしたっぱのままなのよ!!」

 

 「っ!!!」

 

 カチンと来てしまった。売り言葉に買い言葉。頭に血が上った俺は、ライアが入っている樽をあろうことか、荒れ狂う海に投げ捨ててしまった。

 

 「きゃあああああ!!!」

 

 「し、しまった!! ライア、大丈夫!!?」

 

 慌てて樽を落とした場所を確認すると、ライアが海面から顔を出してくれた。ホッと胸を撫で下ろして、俺はライアに呼び掛けた。

 

 「本当にごめん!! 今すぐ引き上げるから、船の側を離れないで!!」

 

 「え、えぇ、分かったわ……」

 

 俺がライアを引き上げる為、道具を揃えようとしたその時だった。船の前方に島よりも巨大な怪物が姿を現したんだ。

 

 「ク、クラーケンだぁああああああ!!!」

 

 船員の誰かが叫び声を上げ、甲板はパニックになった。船長のジェドが落ち着かせようとしていたが、それでも事態は好転しなかった。このままじゃ、間違いなく船は沈められる。俺の頭の中は、その前にライアだけでも逃がそうという事で一杯だった。

 

 「ライア!! 君だけでも逃げるんだ!!」

 

 「そんな!!? そんな事、出来ないわよ!!」

 

 「いいから、早く行け!!」

 

 俺の必死の叫びを聞いて、ライアは水中へと潜った。良かった、これでライアだけでも助かる可能性が生まれた。

 

 安堵したのも束の間、クラーケンが船に触手を纏わり付かせて来た。ミシミシと嫌な音が聞こえて来る。

 

 「くそっ、ここまでか……」

 

 誰もが諦めかけたその時、突然クラーケンが纏わせていた触手を船から離し、何処へ向かい始めた。

 

 「これはいったい……?」

 

 皆が呆然としていると、何処からか綺麗な歌声が流れている事に気が付いた。

 

 「この歌声……まさか……嘘だ!!!」

 

 その歌声には聞き覚えがあった。クラーケンが向かった場所、そこには浮かんでいる樽の上に乗って、美しい歌声を披露するライアの姿があった。

 

 「ライア!! 何やってるんだ!!?」

 

 「自惚れないでよね!! 私がルーを助けるんだから!!」

 

 「止めてくれ!! ライア!! ライア!!」

 

 ライアを助けに向かおうと、海に飛び込もうとするが、他の船員達に止められた。

 

 「ルー、馬鹿な真似は止せ!!」

 

 「離せ!! ライア!! ライアを助けないと!!」

 

 「彼女の想いを無駄にするつもりか!!?」

 

 「っ……ライア!! ライア!! ライア!!」

 

 船がどんどん西の果ての海域を離れて行く。ライアの名前を叫び続ける俺が最後に見たのは、クラーケンが歌っているライアの体に触手を纏わせる光景だった。

 

 

 

***

 

 

 

 「……あれから二年、一時もライアの事を忘れた事は無い……」

 

 「ルーさん……実は私達、これから西の果ての海域に向かいます」

 

 「何だと!!?」

 

 「一緒に来ますよね?」

 

 「当たり前だ。ライアの仇……今こそ討ってやる!!」

 

 亡き愛するライアの為。ルーは、真緒達と一緒に西の果ての海域こと、死の海域に向かう事を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海賊船の甲板に、真緒達を含む船員全員が集合していた。ジェドが代表して、腰のカットラスを勢い良く引き抜き、高く掲げる。

 

 「野郎ども!! 準備はいいか!!?」

 

 「「「「おぉ!!!」」」」

 

 「これから俺達が向かうは、忌まわしき死の海域!! 生きて帰れる保証は無い!! 降りたい奴は降りて構わん!!」

 

 誰一人として降りる者はいなかった。それを見て、ジェドはフッと口角を上げる。

 

 「ならその命、全員俺に預けやがれ!!」

 

 「「「「おぉ!!!」」」」

 

 「いかりを上げろ!!!」

 

 船員の数人がいかりの鎖を掴み、引っ張って持ち上げる。

 

 「帆を張れ!!!」

 

 ジェドの掛け声に合わせ、船の帆が張られる。すると瞬く間に船が海面に向けて浮上し始める。

 

 「出航だぁあああああ!!!」

 

 こうして、真緒達を乗せた船は水の王冠があると思われる西の果ての海域。もとい、因縁のクラーケンが待ち受ける死の海域へと向かうのであった。




中々に長い文章量となりましたが、如何だったでしょうか?

次回もお楽しみに!!
面白ければ評価や感想、お気に入りもよろしくお願いします。
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