笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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前回、真緒達は死の海域目指して船を出航させた。
今回はその道中、久し振り……でもないあの人が登場!!


道化師の襲来

 海は生き物だと誰かが言った。揺れる波風に法則性は無く、常に不規則である。時に生物の命を助け、またある時には意図も容易く生物の命を奪う。

 

 そこに私欲は存在せず、誰に対しても平等だ。この立ち振舞いから、中には神の化身だと考える者もいる。しかし、ジェドは晩年こう語る。

 

 『海は生き物、それは認める。俺の航海を手助けする事もあれば、逆に足を引っ張っても来る。そう言う意味では、一番の相棒はこの海なのかもしれないな。だが、神というには早計過ぎる。俺から言わせれば、海は“魔物”だよ。形を持たない、巨大な水の化物さ』

 

 数々の海を航海して来た、彼だからこその言葉。更に彼は続けて語る。

 

 『特に西の果ての海域。あそこは正にそれを体現している。海だけじゃない、空も風も全てが最悪な場所だ。まるでその海域一帯に、何者かの“悪意”が乗り移っているみたいだった。俺達は奇跡的に帰って来られたが、もう二度とあんな場所には行きたくないな』

 

 そんな少し乾いた笑いを見せながら語る彼が、二年後に再び西の果ての海域に足を踏み入れるとは彼自身も夢にも思わなかっただろう。

 

 

 

***

 

 

 

 波風一つ立たない静かな海面。にも関わらず、突然一ヶ所に大きな波紋が広がり始める。そして次の瞬間、轟音と共に海中から海賊船が帆と旗をたなびかせながら、勢い良く飛び出して来る。

 

 空中に大量の水飛沫が打ち上がり、やがて重力に従って一斉に甲板へと落下する。それはまるで雨が降り注ぐかの様な光景であった。

 

 真緒達が飛び出した勢いによる衝撃と、水に濡れた事による衝撃に、可愛らしい悲鳴を上げる中、ジェドと船員達は方角を逐一報告し合い、舵を切り始める。

 

 「方角、よし!!」

 

 「方角よし、了解!!」

 

 「おーし、このまま順調に行けば数時間後には、西の果ての海域……もとい死の海域に着く筈だ」

 

 慌ただしかった船員達は次第に落ち着き始め、船は帆に追い風を受けながら確実に前へと突き進んで行く。

 

 だが、その一方でジェドが口にした“死の海域”という言葉に対して、全員の脳裏には言い知れぬ不安が渦巻いていた。

 

 その中でも、船員達とは異なり言葉だけで恐ろしさを伝えられた真緒達は、遭遇した事が無い分、得たいの知れぬ恐怖を抱いていた。甲板の手すりからまだ見えぬ死の海域を眺めている。

 

 「死の海域……いったいどんな所なんだろう?」

 

 「船が次々と沈むだなんで、おっがないだぁ」

 

 「しかも、その原因が伝説の怪物クラーケン……私達、生きて帰れるんでしょうか?」

 

 「さぁな、それでもやると決めたんだ。なる様にしかならないんじゃないか?」

 

 「う~ん、それにしてもこの光景は何度見ても美しいですね~」

 

 「本当ですね師匠……って、師匠!!?」

 

 あまりにも自然な流れで、思わずスルーしそうになってしまったが、さすがに真緒が気が付き、驚きの声を上げる。それに合わせて、周りの仲間達も驚きの表情を浮かべる。

 

 「は~い、どうも皆さん約数時間ぶりの再会ですね~。おやおや、少し見ない間に大きくなったんじゃないですか~?」

 

 自分で約数時間と語っているのに、大きくなる訳が無い。彼なりのいつものジョークを飛ばしているのだろうが、真緒はそれよりもずっと気になっている事がある。

 

 「いったい何処に行っていたんですか!? 姿が見えないから心配していたんですよ!!?」

 

 「いや~、すみませんね~。船長さんとの戦いでマオさんの成長を確認した後、隙を見てこっそり全員連れ出そうと思っていたんですが、まさか海の中に潜ってしまうなんて、夢にも思わなかったんですよ~」

 

 「そ、そうだったんですか……でも、それなら水の都にいる時にでも、一声掛けてくれたら良かったのに……」

 

 一瞬、納得しかけるが、よく考えて見ればエジタスには転移魔法がある。一度見た場所や人のいる所に文字通り転移出来る魔法。例え、エジタスが水の都を見た事が無かったとしても、そこにいる真緒達の側に転移する事は出来た筈なのだ。

 

 「そうしようとも思ったんですけどね~。ふと耳を傾けて見れば、何やら面白そうな会話をしているではあ~りませんか~。これは素直にマオさん達を回収するよりも、海中だけに、このまま泳がせた方が良いかなって思ったんですよ~。そう、海中だけに!!」

 

 「「「「…………」」」」

 

 一同、納得こそはしたものの、恐ろしく滑ったこの状況に誰一人として口を開かない。当の本人はというと、何故か決まったと言わんばかりに自信満々な態度を取っている。

 

 すると、騒ぎを聞き付けたジェドがこちらに向かって来ていた。そしてエジタスの存在に気が付くと、目を見開いて驚きの声を上げる。

 

 「あっ、お前はあの時の道化師野郎!!?」

 

 「その節はど~も」

 

 「そう言えば、お二人は面識があったんでしたよね?」

 

 「あぁ、いきなり俺の前に現れたかと思ったら、マオが牢屋を脱獄した事を密告して来たんだ」

 

 「そう言えば、そんな事もありましたね~。だけど何はともあれ、こうして再会する事が出来たのですから、これからどうぞよろしくお願いしま~す。船長さん」

 

 そう言いながら、握手を求めて来るエジタス。それに対してジェドは快く握手する。

 

 「ジェドだ。お前がいなければ、マオとは今の様な関係は望めなかっただろう。そう言う意味では感謝してるぜ」

 

 「おぉ~、ジェドさんですか。よろしくお願いしますね~。おっと、こちらの自己紹介がまだでしたね。私は“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」

 

 ぐるっとその場で一回転し、ジェドの方向を向くと、両手の掌を顔の真横に持って行き、ヒラヒラと左右に動かして見せる。ジェドは、一風変わった陽気な自己紹介に戸惑いを隠せない。

 

 すると、今度は仕事を終えたルーが騒ぎを聞き付け、こちらに歩いて来た。

 

 「ちょっと船長、さっきから煩いですよ……って、誰だお前は!!?」

 

 「ひぇ~」

 

 当然、初めて見掛けるエジタスの姿に驚きながらも、咄嗟に腰のカットラスを構えて、戦闘態勢を取る。そんなルーにエジタスはわざとらしく悲鳴と両手を上げて、降参の態度を取る。

 

 「おい、止めろルー。こいつは見た目こそ怪しいが敵じゃない」

 

 一方は本気、もう一方は面白半分の見るに堪えない茶番劇に、ジェドが止めに入る。

 

 「見た目が怪しいのに敵じゃないって、そんなの信じられる訳無いじゃないか!!?」

 

 ぐうの音も出なかった。ルーの言う通り、いきなり敵じゃないと言われても、そう簡単に信じられる訳が無い。

 

 「だ、大丈夫ですよルーさん。この方は私の師匠なんです」

 

 「師匠!!? この怪しい道化師が!!?」

 「は、はい……」

 

 「……マオがそう言うなら、信じるしかないな」

 

 真緒の言葉を信じて、構えていたカットラスを腰にしまう。その落ち着いた様子にエジタスは最後までわざとらしく、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 そんな中、展望台にいた船員が甲板にいるジェド達に向かって大きな声で呼び掛ける。

 

 「船長!! 見えて来ました!!」

 

 真上を見上げるジェド達に船員は、船の進行方向を指差す。一同は慌てて船首の方へと移動し始める。

 

 「あ、あれが……?」

 

 そこで見たのは、地平線の彼方で紫色の厚い雲が海域一帯を覆っており、雲の色に反射して海全体が薄い紫色に変色している光景だった。

 

 「あぁ、実に二年ぶりだな。あれこそ、死の海域だ」

 

 「ライア……」

 

 それぞれの想いを胸に、いよいよ真緒達は目的地である西の果ての海域こと、死の海域に足を踏み入れるのであった。




次回、死の海域の洗礼を受ける!?
という所で今回はここまで!!
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