笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
果たして真緒達はこの危機的状況を潜り抜け、クラーケンを倒せるのだろうか!?
「こ、これがクラーケン!!?」
「海の怪物とは呼ばれているが……いくら何でもデカ過ぎるだろ!!?」
遂にその姿を現した海の怪物“クラーケン”。聞いていた大きさよりも数倍大きく、たった触手一本でジェドの海賊船を軽々と空中に持ち上げてしまった。
みるみる内に海面から離れていく様子に、ジェドは顔を真っ青に染める。慌てて甲板の真ん中に移動し、その場にいる全員の耳に届く様、大声を張り上げる。
「各員!! 急いで砲門を開いて、大砲の準備をしろ!! このままじゃ、高所から海面に叩き付けられて、この船はバラバラになるぞ!!」
「「「「!!?」」」」
全員の顔から血の気が引き、血眼になって大砲の準備を始める。その間、ジェドは腰のカットラスを引き抜き、船首の方へと移動する。
「準備が終わるまで、何とか時間を稼がねぇとな。果たして、俺一人で何処までやれるか……」
「一人じゃありませんよ」
背後から呼び掛けられる。振り向くとそこには既に戦闘準備を整えた真緒達の姿があった。
「手伝ってくれるのか?」
「当たり前じゃないですか。その為に私達はここまで来たんですよ」
「オラ達も一緒に戦うだぁ」
「それに闇雲に戦っても、大した時間稼ぎにはなりません」
「どんなに強大といっても、相手は知性なき怪物……やれない事はない」
「クラーケン、みんなでやれば、怖くない、という事ですよ~」
「お前ら……ありがとう。だが、具体的にはどうするつもりなんだ?」
「あの、実は思い付いた事があるんですが……」
そう言いながら真緒は、自分が考えた作戦を皆に伝える。やがて、聞き終えたジェドが渋い表情を浮かべていた。
「本当にそんな作戦が上手く行くのか? 言っちゃ悪いが、あまりに無茶苦茶過ぎる」
「無茶で元々、やるだけやってみましょう」
「……そうだな……他に望みも無いなら、その作戦に全てを掛けてやるぜ!!」
覚悟を決めた一同。クラーケンと向かい合い、そして一斉に走り出した。先行するのは真緒、ハナコ、ジェドの三人。
「まずはクラーケン本体に取り付かないと……ハナちゃん、お願い!!」
「分がっだだぁ!!」
そう言うとハナコは両手を重ね合わせる。その上に真緒がタイミングを合わせて飛び乗る。
「おんどりゃああああああああ!!!」
次の瞬間、ハナコが力の限り両手に乗った真緒をクラーケンのいる前方斜め上に弾き飛ばす。
勢い良く空中へと飛び上がった真緒は、落下しながらクラーケンに剣を突き立てる事で、体に張り付いて見せる。
『ギュオオオオオオオ!!!』
剣による突然の痛みに、思わず叫び声を上げるクラーケン。しかし、船には吸盤が張り付いている為、全く落ちそうにも無かった。寧ろ抵抗された怒りから、持ち上げる速度を更に高める。
「ま、不味いぞ!! このままじゃ……!!?」
想定外の事態に焦るジェド。一方、何とか体に張り付く事が出来た真緒だったが、ヌルヌルとした粘液の体に遮られ、思う様に上がれずにいた。
「何とか真上に……っ!!! リーマ!! フォルスさん!!」
「マオさん!! “スネークフレイム”!!」
真緒のピンチを救おうと、リーマは魔導書を開く。そこから炎で形成された蛇が生み出され、クラーケン目掛けて放たれる。
すると、クラーケンは触手の一本を海面に勢い良く叩き付け、目の前に巨大な水飛沫を引き起こした。それによって、リーマが放った炎の蛇は意図も簡単に消されてしまった。
「あっ……」
「何やってんだ!! 周りは海なんだぞ!! 火なんて簡単に消されるに決まっているだろ!!」
「そ、そんな……いったいどうしたら……」
「リーマ、さっきの魔法をもう一度放てるか? 俺に考えがある」
「フォルスさん……分かりました!! “スネークフレイム”!!」
フォルスの言葉を信じ、リーマは再び魔導書を開き、炎で形成された蛇を生み出し、クラーケン目掛けて放った。
「何をしているんだ!!? そんな事をしても、また消されるだけだぞ!!」
ジェドの言う通り、クラーケンは再び触手の一本を海面に勢い良く叩き付け、目の前に巨大な水飛沫を引き起こした。炎の蛇に迫る大量の水。
「……今度はそうはならない」
その時、フォルスが弓を引き絞り、一本の矢を放った。
「そんな矢で何が出来る!!? 一本だけじゃ、押し流されて終わりだぞ!!」
「あぁ、だから狙ったのは水飛沫じゃない。リーマが放った炎の蛇の方だ」
フォルスから放たれた矢は、リーマの炎の蛇に当たり、炎をその身に纏わせた。それにより速度が上昇、水飛沫が完全に上がる前に通過し、見事真緒がいる付近に突き刺さった。
「やった!! さすがフォルスさん!!」
「こんな離れ業をやって見せるとは……さすがは弓矢に長けた鳥人族だな」
「……無駄口を叩く暇があったら、自分の役目を果たしたらどうだ? 作戦はまだ進行中なんだぞ」
「おっと、そうだったな」
「……さすが鳥人族か……」
フォルスに指摘され、思い出したジェドは自身の役目を果たす為に走り出した。そんな中、何処か遠い目をするフォルス。
一方、リーマとフォルスの連携で放たれた炎の矢がクラーケンに当たった事で、その付近が熱せられヌメリが急激に乾き始める。
『ギュ……オオオオオオオ!!!』
すると、クラーケンは体に付いた火を消そうと海中に下降し始めた。それに伴い、持ち上げていた船も少しずつ下がり始めていた。
「よし、今の内に……うわっ!!!」
周辺のヌメリが軽くなった今の内に、真上に上がろうとするが、今度は体全体が揺れ始めてしまい、思う様に上がれずにいた。
「待たせたなマオ!!」
「ジェドさん!!」
すると、いつの間にか見張り台の上に立っていたジェドが、真緒目掛けて持っていたカットラスを投げた。
放物線を描きながら、真緒は必死に手を伸ばし、ギリギリの所でキャッチする事に成功した。これにより剣を二本手に入れた真緒は、交互に剣を突き刺して行く事で、クラーケンの体を昇り始める。
しかし、これにはクラーケンもさすがに無視する事は出来ず、船を持ち上げる触手以外の九本全ての触手で、真緒目掛けて襲い掛かって来た。
「スキル“ロストブレイク”!!」
迫り来る触手に、慌てて自身の剣を引き抜き、スキルを使用して触手を一気に数本吹き飛ばす。だが、体に張り付く無理な態勢により、充分な威力が出せなかった。そのせいで、触手が三本程残ってしまった。
「し、しまっ……!!!」
もう駄目だ。そう思った次の瞬間!!
ドゴォン!!
激しい爆発音と共に、黒い鉄球が勢い良く飛んで来て、三本の触手に直撃した。痛みによる条件反射で触手を海中に引っ込めるクラーケン。
「い、今のは……大砲?」
真緒が鉄球が飛んで来た方向を見ると、そこには砲門を開き、発射の準備を終えて砲撃を開始した海賊船の姿があった。更に直接玉を込めて発射したであろう、ルーの姿もあった。
「思い知ったか、この怪物め!!」
「ルーさん!!」
「さっさと片を付けろ!! そう長くは持たないぞ!!」
大砲の玉を発射して、クラーケンの動きを封じるが、玉にも限りがある。真緒は急いでクラーケンの体を駆け昇っていく。
「はぁ……はぁ……やっと着いた……きっとこの辺に……」
少しして漸く頂上に辿り着いた真緒。息を切らしながら辺りを歩き回る。すると、足下から微かな鼓動を感じ取る事が出来た。
「あった!! これがクラーケンの心臓!!」
クラーケンがタコやイカと同じ様な生体をしているとしたら、心臓は上の方にあると思った真緒。その予感は見事的中し、今まさにクラーケンの心臓がある場所に立っている。
「これで……終わり!!」
真緒は躊躇する事無く、剣をクラーケンの心臓目掛けて突き刺した。
『ガギルュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
汚い断末魔を上げ、クラーケンは全身の力が抜け、崩れる様に倒れた。その際、船底で張り付いていた触手の吸盤が剥がれ、空中から海面へと落下を始める。
「全員、何かに掴まれ!! 衝撃に備えろ!!」
数秒後、船は海に着水。大きく揺れ、まともに立っている事が出来なかった。何度か船は上下運動を繰り返し、次第に揺れも収まり始める。
「……収まったか……全員、無事か!!?」
「オラは平気だぁ」
「な、何とか……」
「問題ない」
体感が鍛えられているハナコとフォルスは何とも無かったが、リーマは振り落とされない様、マストに手足を絡ませてガッチリと掴まっていた。
「それなら良かった。そうだ、真緒は!!?」
ジェドが海面の方を向くと、そこにはクラーケンの死体が浮かんでおり、その上には元気良くこちらに手を振っている真緒の姿があった。
「ジェドさん!! みんなー!!」
「全く……凄い奴だな、あいつは……」
真緒の凄さに感心するジェド。その横では、当然だろと言わんばかりの保護者顔で頷くハナコ、リーマ、フォルスの三人が立っている。
「おーい!! んっ?」
嬉しそうに手を振る真緒。すると、目の端に何か光る物が映った。
「これって……まさか!!?」
そこにあったのは一つの“王冠”であった。水色のキメ細やかな布で作られた帽子部と、それを保護する様に金色のアーチが四本付けられており、更に土台部分には無数の宝石が埋め込まれていた。そして何より、その王冠からは計り知れない力を感じ取れた。
見ただけでハッキリと分かった。これこそ、城から盗み出された“水の王冠”であると。
真緒は慌ててジェドに報告する。
「ジェドさん!! 見つけました!! 水の王冠を見つけました!!」
「何っ!!? それは本当か!!? こうしちゃいられない!!」
それを聞いたジェドは、一目散に手すりを乗り出して、海面に向かって口笛を鳴らした。すると海中からイルカのデルフィンが海面に顔を出した。
『キュー』
「デルフィン!! お前は今すぐ、人魚の町に戻って、水の王冠を見つけた事を女王のラドンナさんに伝えるんだ!! 分かったな!!?」
『キュー、キュー』
分かったと言わんばかりに、デルフィンは大きく海面を飛び跳ね、そのまま勢い良く海中を泳いで行った。
ジェドがデルフィンと会話しているその一方、真緒は見つけた水の王冠を拾い上げようとしていた。
その時、甲板にいるフォルスが真緒に呼び掛ける。
「気を付けろ、ここに水の王冠があるって事は、もしかしたら盗んだ犯人が近くに潜んでいるかもしれないという事だ」
「た、確かに……分かりました!! 気を付けます!!」
フォルスの忠告にハッとする真緒。辺りを注意しながら、ゆっくりと水の王冠に手を伸ばしていく。そしてその指が水の王冠に振れようとした次の瞬間!!
「……っ!!?」
突如、クラーケンの死体から血の様に真っ赤に染まった三ツ又の槍が、真緒目掛けて突き出して来た。
充分に周囲を警戒していた真緒だったが、まさか死体の中から槍が飛び出して来るとは思ってもみなかった為、反応がワンテンポ遅れてしまい、肩の肉を抉られてしまった。
「あぐっ!!! あぁああああああ!!!」
肩から焼ける様な痛みと熱さが襲い掛かって来る。あまりの痛さに意識が飛び掛けるも、何とかギリギリ踏み留まる。すると、逸早く異変に気が付いたエジタスが転移魔法で側へやって来た。
「おやおや、酷い怪我をしている様ですが、大丈夫ですか~?」
「し、師匠……」
「う~ん、取り敢えず甲板に戻りますよ。掴まって下さい」
「は、はい……」
真緒がエジタスの体に触れると、パチンという指を鳴らす音が響き渡り、一瞬にして船の甲板に戻って来た。
「マオぢゃん!!?」
「どうしたんですか!!?」
「マオ!!? 何があった!!?」
叫び声と様子の異変、そして血塗れの姿で目の前に現れた事により、漸く事態の重大さに気が付いた仲間達。
「はぁ……はぁ……それが……水の王冠を拾おうとしたら、突然三ツ又の槍が飛び出して……」
「三ツ又の槍だと!!?」
「あ、あれ見て下さい!! クラーケンが!!?」
リーマが指差す方向に視線を向ける一堂。そこに映っていたのは、死体だった筈のクラーケンがむくりと起き上がり、そして水の王冠があった部分の肉が盛り上がり、中から別の生き物が肉を突き破り、水の王冠を被った頭と体、三ツ又をもった両手だけの、所謂上半身だけの状態で姿を現した。肝心の下半身はクラーケンの体と繋がっている。
「あいつが……この事件の黒幕か?」
「体つきから見て……人間の女性に見えますね」
「そんな……嘘だ……」
姿を現した黒幕と思わしき人物。細い腕とウエスト、ふっくらとした胸から女性である事が伺える。
そんな考察をしているその時だった、甲板に上がって来たルーが目を開き、信じられないという表情を浮かべ、ゆっくりと首を横に振る。
「おい、どうしたルー?」
「ルー……さん?」
「どうして……どうして君がそんな所にいるんだ……“ライア”!!!」
信じられない。信じたくない。クラーケンの体から現れた謎の女性。それは二年前、ルー達を助ける為に自らの命を犠牲にした人魚のライアだった。
「ふふっ……」
ルーの叫び声に気が付いたライアは、こちらを見て、にこやかに微笑むのであった。
無事にクラーケンを倒した真緒達だったが、まさかまさかの死んだ筈のライアが姿を現した!!
果たして、彼女は本物なのか!?
という所で今回はここまで!!
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