笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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前回、真緒達のピンチに颯爽と現れたラドンナ。
そして今回、遂に語られる人魚の意外な真実!!


人魚の呪い(中編)

 「この力はラドンナさんが!?」

 

 海面を持ち上げる能力に驚きを隠せない真緒達。

 

 「これでも人魚の女王を勤める身……多少なりの魔法は扱えます」

 

 「多少なりとは思えないがな……」

 

 フォルスの言う通り、船丸ごとを持ち上げ、それでも尚余裕の態度を見せるラドンナに、多少という言葉は相応しく無かった。

 

 「それよりもラドンナさん、どうしてここに!!?」

 

 水の都で待っている筈のラドンナと、護衛の人魚達がこの場にいる事に、当然の疑問を抱く。

 

 「あなた方が水の王冠を取り返したという報せをこの子から聞き、急いで迎えに来ました」

 

 「この子ってまさか……」

 

 真緒の言葉に対して、ラドンナが海面の一部を盛り上げる。するとそこには一匹の可愛らしいイルカが泳いでいた。

 

 「キュー、キュー!!」

 

 「デルフィン!!」

 

 「はは、さすがは俺の自慢の相棒だぜ……」

 

 デルフィンとラドンナのお陰で、何とか窮地を脱する事が出来た真緒達。疲弊しながらも、相棒の活躍を褒め称えるジェド。

 

 「しかし、その迎えに向かう道中、禍々しい気配を感じ取り、慌ててスピードを上げて来て見れば……」

 

 そう言ってラドンナは、目線を斜め上に向ける。その先にはこちらを……というよりかラドンナ個人を睨み付けるライアの姿があった。

 

 「ラドンナ……!!!」

 

 「まさかライア……本当にあなたなのですか?」

 

 「クラーケンに魂を捕らわれていた所に、水の王冠の力で融合を果たした様です」

 

 「そうですか……」

 

 ライアから聞いた復活の経緯を説明すると、苦しそうな表情を浮かべるラドンナ。対して、ライアは変わらずラドンナを睨み続けている。

 

 それでもラドンナは、何とか微笑みの表情を作り、ライアに向かって優しく声を掛ける。

 

 「お久し振りですね、ライア。2年振り……どんな形であれ、また会う事が出来て私は嬉しいです」

 

 「嬉しい? 冗談は止してよ、あんたが一番大切なのは誰でもない自分でしょ。一度だって他人の事を考えた事なんて無い癖に!!」

 

 「貴様!! ラドンナ女王になんて口の聞き方だ!!」

 

 「雑魚は引っ込んでなさい!!」

 

 このライアの攻撃的な言葉に、護衛の人魚達が咄嗟に持っていた武器を向ける。が、ライアは触手を鞭の様にしならせて、人魚達を一気に吹き飛ばす。

 

 「「「きゃあああああああああ!!!」」」

 

 「止めなさいライア!! 殺るなら私だけにしなさい!! だから他の方々には手を出さないで!!」

 

 「ラドンナさん、何を言っているんですか!!?」

 

 護衛の人魚達が吹き飛ばされるのを見て、ラドンナは自身の盛り上がった海面を操り、ライアの目の前に移動し、自らの身を差し出そうとする。

 

 「言われなくても、そのつもりだよ!!」

 

 お言葉に甘えてと言わんばかりに、無防備なラドンナ目掛けて、真っ赤な三ツ又の槍を突き立てる。

 

 しかし、槍がラドンナの胸に突き刺さるよりも前にフォルスが放った矢が、二人の間を勢い良く通過する。

 

 「っ!!?」

 

 「俺達がいる事も忘れるな」

 

 「目障りな連中だね……」

 

 「皆さん、私の事は構わないで下さい!! 今回の出来事は全て私の責任なんです!!」

 

 フォルスの介入により、矛先が真緒達に向けられそうになると、ラドンナが両手を広げて庇う様な姿勢を見せる。

 

 「いったい何の事を言っているんですか!? 悪いのは水の王冠を盗んだ人と、その水の王冠を良い様に利用しているライアさんじゃないですか!?」

 

 「違うんです……元はと言えば私が……私が……」

 

 「ラドンナさん?」

 

 「……くっ、くはははははははははははは!!! 思い上がったツケが回って来たみたいで、こいつは傑作だね!!」

 

 「どうして……」

 

 「あ?」

 

 「どうしてそんな酷い事が言えるんですか!!? ラドンナさんはあなたの国の女王なんですよ!! 今だってこうやって体を張って、私達が戦うのを止めようとしている!!」

 

 「止めようとしているね……けど、この戦いその物がこの女のせいだと言ったらどうする?」

 

 「いったい何を知っているんですか……?」

 

 「全てよ。……丁度良いわ、この際だから全部話してあげる。私達に掛けられた……“人魚の呪い”についてね」

 

 「人魚の呪い?」

 

 すると水の王冠が輝き出し、周りの海水を持ち上げ始める。やがてそれは自由に形を変え、人魚達の姿へと変わった。

 

 「その話をする前に、あなた達に伝えておきましょうか。私達は生まれた時から人魚なんかじゃない」

 

 「え?」

 

 「そもそも、人魚という種族は私達が発端。つまり後にも先にも、人魚は私達一世代だけなのよ」

 

 「そ、それじゃあ水の都にいるあの沢山の人魚達は何処から……?」

 

 「答えは簡単。私達は昔、“人間”だったんだよ。人間から人魚になった、それだけの事さ」

 

 すると、人魚の形をしていた水は形を変えて人間の形へと変わった。

 

 「人間だった? ま、待って下さい……そんな事が本当にあり得るんですか……?」

 

 あまりに突拍子も無い話に、酷く頭が混乱してしまう真緒達。唯一、ラドンナと護衛の人魚達だけが、暗い表情を浮かべている。

 

 「驚くのはまだ早いわ。今からずっとずっと前の事よ。私達はある貴族に飼われていた“奴隷”だった」

 

 「ど、奴隷!!?」

 

 「その貴族はどうしようも無い女好きでね。暇さえあれば、奴隷商人の所から女の奴隷を買い漁っていた。歳を取ったり、興味が無くなった女達はゴミ同然に棄てられる、それは酷い生活を強いられていた。明日は自分が棄てられるのではないかと、毎日ビクビク怯えていたわ」

 

 「そんな……」

 

 ライアの口から語られる人魚の真実は、真緒達を同情させるには充分過ぎる内容であった。しかし、話の流れはここから一気に変わる。

 

 「だけど、そんなある日、あの女がやって来た」

 

 「あの女?」

 

 「あんた達もご存知の大魔法使い“アーメイデ”よ」

 

 「アーメイデ!!?」

 

 アーメイデの名前に強く反応するリーマ。

 

 「あいつは奴隷として冷遇される私達に対して、優しい言葉を掛けてくれた。そして、女好きの貴族から助け出して自由にしてくれた」

 

 「やっぱり凄い人だったんですね!!」

 

 「えぇ、けど自由になったとはいえ、私達は未だに多くの奴隷商人や、貴族達に狙われていた。顔だけは広かったからね、あの女好きの貴族……すると一人の奴隷がアーメイデに願い出た。“どうか、私達を安全な場所に避難させて下さい”。そうだったわよね、ラドンナ?」

 

 「…………」

 

 「ラドンナさんが?」

 

 何も答えないラドンナ。しかし、無言は肯定として捉えられる。何より、その場にいたライアが言っているのだ、少なくとも真実なのだろう。

 

 「アーメイデはラドンナの願いを聞き入れ、その強大な魔力と水の王冠の力を利用して、深い海の底に水の都を建設した」

 

 「ラドンナさんが前に話した追われていたというのは、奴隷時代の話だったんですね」

 

 「更に水の中でも生活しやすい様にと、魚の下半身を与えられたわ。これによって、私達はもう誰にも追われる事の無い真の自由を手に入れる事を出来た」

 

 「なら、良かったじゃないか。そこからどうしてラドンナを恨む事になるんだ」

 

 「……真の自由を手に入れた……そう思っていた。だけど、それは間違いだった。私達が与えられたのは自由なんかじゃない。寧ろその逆、鎖で縛り付けられたのよ」

 

 「何があったんですか?」

 

 「違和感に気が付いたのは、それから数年後の事だった。水の都を取り仕切る理由から、自由の発案者であり魔法も扱えるラドンナが女王となった時、既に多くの人魚達は気が付いた。“歳を取っていない”」

 

 「それって……」

 

 「そう、あの性悪魔法使いは……私達に自由とは裏腹に、不老という最低最悪の鎖で縛っていたのよ!!」

 

 「で、でも不老なんて女性が一度は憧れる事じゃないですか」

 

 「それが例え死なないとしても!?」

 

 「死なない……?」

 

 「細胞の劣化……ですよね~?」

 

 「ふん、どうやら少しは頭が回る奴がいるみたいね」

 

 「どういう事ですか師匠?」

 

 「不老という事はつまり、肌は勿論中の臓器や細胞が衰えないという事……即ち、どれだけ時間が経とうとも寿命で死ぬ事は無いという訳ですね~」

 

 「成る程……しかし、それの何処が最低最悪なんだ? 無限に人生を謳歌する事が出きるじゃないか?」

 

 「あぁ、私達も当時は戸惑いこそしたが、永遠に若くいられると喜んださ。だけど、生き続ける事が幸せとは限らない」

 

 「もう……もう止めて……」

 

 ライアの話に堪えきれず、泣き出してしまうラドンナ。だが、非情にもライアの話はまだ終わらない。

 

 「人魚になって数百年経った頃、水の都を離れて海を泳いでいた仲間の一人が、運悪く地上の人間に捕まってしまった。その珍しさと美しさ、そして歳を取らない事から、観賞用やその肉を食らう事で自分も不老になろうとする連中が、私達を乱獲し始めた」

 

 「いつの時代も人間は欲深い生き物ですね~」

 

 「そして危機感を覚えたラドンナは、遂に水の王冠の力を使い、あろう事か私達を水の都から出れない様にしたのさ。そのせいで私達はあの水の都という牢獄で、終わりの無い生活を強いられる事になった」

 

 「だけどそれは皆を守る為で……「誰が頼んだ!!」……っ!!」

 

 「誰が守ってくれと頼んだ!! 誰が水の都から出れない様にしてくれと言った!! これじゃあ、奴隷として飼われていた頃と何も変わらない!!」

 

 「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 憤慨するライアに、ひたすら謝り続けるラドンナ。

 

 「寿命で死ねない以上、自殺するしか死ぬ方法は無い。だけど、私にはそんな勇気が無かった。只、イタズラに時間が過ぎていく毎日。二百、三百、四百、五百……頭がおかしくなりそうだった!!」

 

 「ライアさん……」

 

 「私も恋をしてみたかった!! 私も子供を産みたかった!! 普通に歳を取って、普通に寿命で死にたかった!! 不自由でも良い、人並みの生活を送りたかった!!」

 

 ライアの叫び。ライアだけじゃない。ラドンナや他の人魚達も本当は心の何処かで、この無限地獄を終わらせたいと感じていたのかもしれない。しかし、一度歩き出した道を外れる訳にはいかなった。そんな事をすれば、何の為に人魚になったのか、自分の存在価値を見失う事になる。

 

 「だけど、そんな時に天から希望が沈んで来た……そう、あなた達海賊がやって来た」

 

 「それで二年前の出来事に繋がるって訳か……」

 

 「運命だと思った。ルーは、私をこの地獄から連れ出してくれる運命の王子様だと……」

 

 触手で縛られているルーを近くまで引き寄せる。苦しそうな表情を浮かべるルー。

 

 「ラ……ライア……」

 

 「だけど、自由が手に入る一歩手前でクラーケンに襲われ、それでもやっと死ねたと思ったら、魂を捕らわれて結局鎖で縛られる人生……でも、もうそうじゃない!!」

 

 突如、水の王冠が輝き、説明の為に動かしていた水が、海面に落ちたと思った矢先、何本もの水柱が持ち上がり、まるで触手の様にうねうねと動いていた。

 

 「「「「!!?」」」」

 

 「今の私には水の王冠がある!! これさえあれば、今まで出来なかった事が何でも出来る!! だけどその前に……邪魔なあんた達を消し去ってあげるわ!!」

 

 そう言うと、水の王冠の力で持ち上げた複数の水柱を操り、真緒達目掛けて勢い良くぶつけようとする。

 

 「そうはさせません!!」

 

 その瞬間、ラドンナが魔法で海面を持ち上げ、真緒達の船にぶつかる前に回避させる。

 

 「ラドンナ……!!」

 

 「……全ては私の責任……だからこそ、私がここであなたを止めなければいけない!! 来なさいライア!!」




平凡な幸せよりも自由を欲したラドンナ。
自由よりも平凡な幸せを欲したライア。
正反対の二人が激突する。
という所で今回はここまで!!
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