笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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今回でライアとの戦いに決着が付く!!
果たして勝つのはどちらなのか!?


人魚の呪い(後編)

 「“アクアトルネード”!!」

 

 先に攻撃を仕掛けたのはライア。水の王冠が光輝いたかと思えば、突如として船の周りに無数の巨大な竜巻が発生し、その全てが一斉にこちらへと向かって来る。

 

 「何も出来ず、細切れになりなさい!!」

 

 「っ!! 緊急回避!!」

 

 船は既にボロボロ。少しでも食らえば、間違いなく木っ端微塵と化してしまう。そうはさせまいと、ラドンナは持ち上げている海水を操り、船を無理矢理高速移動させる。迫り来る無数の竜巻をジグザグと器用に避ける。

 

 「ちょこまかと小賢しいわね……けど、目の前の竜巻ばかりに気を取られて良いのかしら?」

 

 「何っ!!?」

 

 その言葉に嫌な予感を覚えるラドンナ。真上を見上げると、竜巻で上空に巻き上げられた海水が、落下せず重力に逆らって空中で止まっていた。

 

 「“レインスピア”!!」

 

 ライアが持っていた三ツ又の槍を真っ直ぐ向け、勢い良く下ろすと、それに連動して止まっていた海水の雫が、通常の何倍ものスピードで落下し始める。

 

 「“ウォーターカーテン”!!」

 

 すると、ラドンナは両手を下から上へと動かし、大量の海水を持ち上げ、まるでカーテンを掛けるかの様に、真上から船全体に覆い被せる。

 

 その直後、ライアが放った雨の矛が、水の盾に次々と突き刺さる。しかし、水の王冠を有しているライアの方が遥かに強く、雨の矛はラドンナの水の盾を突き破り、そのまま船の甲板目掛けて降り注ぐ。

 

 「そんな!!?」

 

 ある程度、勢いは殺せたとはいえ、それでもボロボロの船に風穴を空けるには、充分過ぎる速度が出ていた。

 

 必死に手を伸ばし、一秒でも早く海水を持ち上げて船を守ろうとするも、とても間に合いそうになかった。

 

 「スキル“ロストブレイク”!!」

 

 「スキル“熊の一撃”!!」

 

 「!!!」

 

 その時、甲板にいた真緒とハナコの二人が同時にスキルを発動させ、その威力で周囲の雨を全て吹き飛ばす。

 

 「み、皆さん……」

 

 「ラドンナさん、私達も一緒に戦います」

 

 「そんな事……いえ、そうですね。お願いします!!」

 

 真緒達の決意を無下にする事は出来ない。ラドンナは恥も外聞も捨てて、協力を申し出た。

 

 それを聞いた真緒達は頷き、ジェドが前に歩み出ると、持っていたカットラスをライアの頭に向ける。

 

 「それならまず狙うは水の王冠!! あれさえ奪えば、その力は無いも同然だ!!」

 

 「「「「おぉ!!!」」」」

 

 「ラドンナさん!! 私達が向かう為の足場をお願いします!!」

 

 「分かりました!!」

 

 そう言うとラドンナは、海水を持ち上げ、立つ為の足場を作る。そして真緒達は一斉に甲板から海水の足場へと飛び移る。その様子にライアが舌打ちを鳴らす。

 

 「ちぃ、ごちゃごちゃと……目障りな連中だね!!」

 

 するとライアは海水を汲み上げ、水の塊へと形を変える。そして次の瞬間、水の塊の一部が弾丸の様に発射され、甲板に親指サイズの穴が空いた。

 

 「こ、これは!!?」

 

 「ラドンナさん!! 急いで上へ逃げて下さい!!」

 

 「もう遅い!! “アクアショット”!!」

 

 ライアがそう言うと、水の塊から先程の弾丸が一斉に発射される。広範囲に迫り来る水の弾丸。当たれば、確実に死ぬ事が予想出来た。

 

 「ほいっとな」

 

 「…………は?」

 

 が、そうはならなかった。ライアが攻撃を仕掛ける直前、隙を見て側まで近付いていたエジタスが、体の一部に触れながら指をパチンと鳴らし、ライアと水の塊ごと真緒達の背後に転移させた。

 

 その結果、誰もいない方向に水の弾丸を放つという間抜けな絵面となった。

 

 「い、いったい何が……!!?」

 

 「ほらほら皆さ~ん、敵が混乱している今がチャンスですよ~」

 

 「し、師匠!!? ありがとうございます!!」

 

 エジタスの手助けにより、窮地を脱した真緒達。ラドンナに足場の海水を動かして貰い、それぞれが一気にライアの下へと近付く。

 

 「っ!! 奇妙な技を使いやがって!! これならどうだ!!」

 

 すると今度は、自身をも越える程の超巨大な津波を発生させ、やって来る真緒達目掛けてぶつけようとする。

 

 「“タイタルウェーブ”!! さぁ、今度こそ海の藻屑にしてあげる!!」

 

 「オラに任ぜでぐれ!!」

 

 「私も手伝います!!」

 

 それに対して、ハナコとリーマの二人が先行する。リーマが前に立ち、その後ろにハナコが控える。

 

 「何をしようが無駄よ!! あんたの火属性魔法じゃ、私の水は消せない!!」

 

 「生憎、私の魔法はそれだけじゃないんですよ……」

 

 「皆、耳を塞いで!!」

 

 リーマが大きく息を吸い込むのを見た真緒は、仲間達に耳を塞ぐ様に促す。素直にその言葉に従い、ライア意外の全員が耳を塞いだ。

 

 「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 「!!?」

 

 突然の爆音と振動。津波全体が震え、耳を塞いでいなかったライアはまともに食らってしまい、その場に崩れ落ちそうになる。

 

 「っ……!! 嘗めるな!!!」

 

 凄まじい精神力でこれを何とか耐えるライア。しかし、本当の狙いはそこでは無い。

 

 「今です、ハナコさん!!」

 

 「だぁああああああああ!!! スキル“熊の一撃”!!」

 

 リーマによる音魔法で、ライアの集中力が途切れ、津波全体の勢いが弱まり、そこにハナコから放たれる強力な一撃で、津波の一部に穴が空き、そこから真緒達が通り抜けていく。が、ハナコとリーマが通ろうとする前に、津波が元に戻ってしまい、二人は下がらずにいられなかった。

 

 「ハナちゃん、リーマ、ありがとう!!」

 

 二人の活躍によって更に近付く真緒達。ライアまでは目と鼻の先だった。

 

 「完全にキレたわ!! これで終いよ!!」

 

 ライアは水の王冠の力で、自身の触手数本に海水を纏わせ、更に水の形を鋭利な刃に変える。そしてその触手を乱雑に振り回す。度々、海面に触れてはパックリと割れる様子から、鋭さは充分伝わる。

 

 「“アクアスラッシュ”!!」

 

 「マオ、ここは俺が食い止める!! お前はそのまま真っ直ぐ進め!!」

 

 「一人でカッコつけるなよ。俺も手伝ってやるよ」

 

 待ち受ける水の刃。すると今度はフォルスが、その攻撃を一手に引き受けようとする。そんなフォルスに対して、ジェドが助け船を出す。

 

 「さっきは油断したけど、今度はそうはいかないよ!!」

 

 「俺の矢では、あの刃を止める事は愚か弾く事さえ出来ないだろう、だが俺にはこの弓矢しかない。だから!!」

 

 そう言うとフォルスは、弓をライアにでは無く、真上に向けて矢を複数放った。

 

 「はっ!! 何処を狙ってるのよ!!」

 

 「成る程、そういう作戦ね」

 

 的外れな攻撃を見て、嘲笑うライア。一方、何かを察したジェド。そのまま水の刃に突っ込み、持っているカットラスをぶつけ合う。しかし、たった一人で複数本の触手と渡り歩く事は敵わず、徐々に追い詰められていく。

 

 「ぐっ……!!!」

 

 「あははは!!! 散々手こずらせてくれたわね!! だけど、これであんた達は今度こそ終わりよ!!」

 

 勝利を確信するライア。その瞬間、ライアの胸に複数本の矢が突き刺さる。

 

 「あがっ!!?」

 

 いったい何が起こったのか、理解できなかったライア。そのせいでまたしても集中力を切らし、触手に纏わせていた水の刃が剥がれ、只の触手に戻ってしまった。

 

 「おらよ!!!」

 

 その一瞬を逃さないジェド。目の前の触手複数本を次々と斬り飛ばしていく。

 

 「うぎゃあああああああ!!!」

 

 襲い掛かる痛みに思わず悲鳴を上げるライア。残った触手で刺さった矢を引っこ抜く。

 

 「はぁ……はぁ……まさかこの矢は……」

 

 「そうだ、さっきお前がバカにした真上に向けて放った矢だよ」

 

 フォルスが放った矢は、最高点まで飛んでいった後、放物線を描き、重力に身を委ねながら落下した。そしてその先にいるライアに突き刺さったのだ。

 

 「真正面から無理でも、死角からの攻撃なら、いくらでもやりようはある」

 

 「まぁ、実力者相手には使えない手だけどな。ライア、お前みたいな戦いの素人だからこそ、通用する戦法だよ」

 

 「うぐぐ……この……糞野郎どもがぁああああああ!!!」

 

 「「!!?」」

 

 怒りに任せ、ライアは残った触手を振り回し、フォルスとジェドにぶつけ、二人を遠くへと吹き飛ばす。

 

 「フォルスさん!! ジェドさん!!」

 

 「ここは私が!!」

 

 吹き飛ばされる二人をラドンナが咄嗟に海面を持ち上げ、受け止めて見せる。

 

 「お、俺達なら問題無い!! お前は先に進め!!」

 

 「そういう事だ……さっさとケリを付けてこい」

 

 「フォルスさん……ジェドさん……分かりました!!」

 

 二人の想いを受け取り、真緒は一人でライアの下へと向かう。

 

 「な、何が問題無いだ……体のあちこちが痛むぞ……」

 

 「き、鍛え方が足りないだけだろ?」

 

 「へっ、言うじゃねぇか……」

 

 二人の活躍によって、遂に真緒はライアの下へと辿り着く。海水の足場から、ライアの体へと飛び移る。するとそこの肉が盛り上がり、ライアが姿を現す。

 

 「ライア……」

 

 「とうとうここまでやって来たわね。けど、あなた一人で何が出来るって言うの?」

 

 「一人なのはあなたです」

 

 「何ですって……?」

 

 「師匠、ハナちゃん、リーマ、フォルスさん、ジェドさん、そしてラドンナさん、私はここまで色んな人達に助けて貰いました。その人達の想いを胸に、私はここに立っているんです。けど、あなたは違う。あなたはアーメイデさんや、ラドンナさんに助けて貰いながら、結局自分勝手な理由で他の人に迷惑を掛けている。あなたは独りよがりな人って事ですよ!!」

 

 「大人しく聞いていれば、好き勝手言ってくれるじゃないの? 自分勝手ですって? そうよ!! それの何がいけないの!! 誰だって自分が大切なのよ!! 自分の幸せを優先するのは当然の事じゃないの!!」

 

 「なら、どうして二年前、ルーさん達を助けたんですか!!?」

 

 「え?」

 

 「二年前……地上に出たかったあなたは、ルーさん達の船に無断で乗り込んだ。そしてクラーケンが現れた時、ルーさん達を囮に一人で逃げれば助かったのに、あなたはそうしなかった」

 

 「…………」

 

 「それって、自分の幸せよりもルーさんの身を守ろうとしたって事ですよね!!? ライアさん……あなたは、あなた自身で言っている事を否定しているんですよ!!」

 

 「…………」

 

 「ライアさん、今ならまだ間に合います。ルーさんを離して、水の王冠も返しましょう……ね?」

 

 そっと手を差し出す真緒。ライアはその手をじっと見つめ、こちらからも手を差し出そうとするが、脳裏にこれまでの生活がフラッシュバックする。

 

 永遠と続く狭い檻の中での生活。地上に戻る事を夢見る毎日。やっと出会えた最愛の人も、年老いて自分よりも先に死んでしまうであろう苦しみ。

 

 「っ!! やっと手に入れた私の幸せを誰にも奪わせはしない!!」

 

 「ライア!!」

 

 「あんたはここで死ぬの!! そして私はルーと一緒に永遠の幸せを手に入れる!!」

 

 差し出された真緒の手を振り払い、ライアは持っていた三ツ又の槍で真緒目掛けて突き刺そうとする。真緒は咄嗟にガードし、斬り返そうとする。

 

 しかし、ライアも三ツ又の槍でガードし、今度こそ当てようと突き刺して来る。ガード、反撃、ガード、反撃の繰り返し。

 

 「はぁあああああ!!!」

 

 「ふふっ!!」

 

 「なっ!!?」

 

 一進一退の攻防が繰り広げられる中、真緒の攻撃に合わせて、ライアは自身の体をクラーケンの体に潜り込ませる。

 

 ライアの姿を見失った真緒は、辺りを見回しながら、いつでも反撃出来る様に剣を構える。

 

 「いったい何処から……」

 

 「あんたの足下よ」

 

 「!!?」

 

 ライアが現れたのは、真緒の足下だった。腕を出して真緒の足首を掴むと、思い切り手前に引っ張る。バランスを崩した真緒は、その場に倒れ込んでしまう。更に持っていた純白の剣を落としてしまう。

 

 剣は真緒の手元を離れ、クラーケンの体を滑り落ちていく。そして偶然か必然か、ルーが縛り上げられている触手に突き刺さる。それによって触手が緩むのを感じたルー。

 

 「これは……はっ!?」

 

 触手に突き刺さっている目の前の剣。そして目線の先には、倒れている真緒と、今正に止めを刺そうとしているライアの姿があった。

 

 「私の幸せは……誰にも奪わせはしない!!」

 

 「くっ!!!」

 

 振り下ろされる三ツ又の槍。死を覚悟した真緒。その瞬間、ルーは目の前の剣を引き抜き、真緒の方へと放り投げる。そして思い切り叫んだ

 

 「ライア、止めろ!!」

 

 「ルー!!?」

 

 「ルーさん!!」

 

 この一瞬が勝敗を決定付けた。愛する者に呼ばれ、手を止めて顔を向けてしまったライア。その間に真緒が投げ込まれた剣を手に取る。そこで漸く状況を理解して、止めていた手を動かして三ツ又の槍を真緒目掛けて突き刺そうとする。それと同時に真緒も手に取った剣を、ライア目掛けて突き上げる。

 

 交差する剣と槍。結果は…………。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 ライアの槍が真緒の肩に突き刺さり、そして真緒の剣がライアの胸を貫いた。

 

 「あぐっ……あが……」

 

 呻き声を上げ、倒れるライア。真緒は剣を引き抜き、強く振って血を飛ばすと、腰の鞘に収めた。

 

 「マオ!!」

 

 「ルーさん、助かりました」

 

 そこに、クラーケンの体をよじ登って来たルー。

 

 「終わったんだな……」

 

 「はい……あのルーさん、ごめんなさい……」

 

 「何でお前が謝るんだ。仕方が無かったんだ……誰のせいでも無い……そう誰の……うっ……せいでも……うっうぅ……」

 

 「……ルー?」

 

 「ライア!!?」

 

 悲しみのあまり涙を流していると、まだ微かに息のあるライアが、ルーに声を掛ける。ルーは慌てて、ライアの側へと駆け寄る。

 

 「ルー……ごめんね……」

 

 「謝る必要なんて無い。ライアは……ライアは只幸せを求めただけだろ?」

 

 「ううん……本当はね、私もう幸せだった……」

 

 「え……?」

 

 「あなたと会えて……あなたと一緒に過ごせて……凄く幸せだった……だけど、幸せであればある程不安だった……いつかこの幸せも無くなってしまう……もう二度とこんな幸せ……手に出来ないかもしれない……そう思えば思う程……怖くて……寂しくて……それで……それで……」

 

 「もういい……もういいよライア……僕も……僕もライアと出会えて幸せだった……」

 

 「嬉しい……もし、生まれ変わる事が出来たら、短くても良い……またルーと一緒に幸せになりたい……」

 

 「あぁ、僕もだ……僕も……僕もライアと一緒に幸せになりたいよ」

 

 「ルー……私に……人並みの幸せをくれて……ありがとう……」

 

 その言葉を最後に、ライアは淡い光の粒となって、ルーの前から消えてしまう。残されたのは、海面を浮かぶクラーケンの死体と水の王冠だけであった。

 

 「ライア……うぅ……ぁああああああああ………あああああああ!!!」

 

 魂が捕らわれる事無く、今度こそ旅立つ事が出来たライア。天を見上げて男泣きするルーを、真緒は見守る事しか出来なかった。




次回、第五章 人魚の呪い 完結となります。
次回もお楽しみに!!
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