笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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今回で第五章は完結となります!!



それぞれの思惑

 何とかクラーケン……もといライアから水の王冠を取り戻せた真緒達。しかし、それに払った犠牲はあまりにも大きかった。

 

 水の都に戻るまでの航海中、誰一人として口を開こうとはしなかった。特に愛する恋人を“二度”も失ったルーの表情は優れず、何度も死の海域の方角を眺めていた。

 

 ライアの証言と現場の状況から、水の王冠を盗み出した者が取り返して来るかもしれないと考え、真緒達は警戒を一切緩めたりはしなかった。

 

 だが、その心配も杞憂に終わり、真緒達は無事に水の都へと帰還する事が出来た。今回の戦いでボロボロになってしまった船が、海底に到着すると同時に、町の人魚達が感謝の言葉を述べながら、出迎えてくれた。

 

 「おかえりなさい!!」

 

 「水の王冠を取り戻してくれて、ありがとう!!」

 

 「お陰で私達は救われました!!」

 

 黄色い声援を浴び、少し照れ臭そうにして船を降りていく真緒達。そのまま水の王冠を返す為に、人魚達に見送られながら城へと向かう。

 

 城に入ると、そこには先に戻っていたラドンナが、祝いの席を用意して真緒達が来るのを待っていた。

 

 殆どが海鮮系の料理だが、様々な種類を豪華に取り揃えられており、僅かだが酒や果物、獣肉のステーキなどもあるのが見受けられた。

 

 「皆様、この度は水の王冠を取り戻して頂き、誠にありがとうございます。細やかではありますが、感謝の宴のご用意をしております。どうぞ、楽しんでいって下さい」

 

 呆気に取られる真緒達から、水の王冠を受け取ると、そのまま宴の席へと案内する。未だにこの状況が飲み込めていない真緒達は、促されるままに席へと腰を下ろし、並べられた豪華な料理を目の前にする。

 

 その少し後にラドンナも、真緒達の向かい側に座る。

 

 「さぁ、遠慮せずにどうぞ召し上がって下さい。ここのシェフが腕によりを掛けて作りました。きっと皆様のお口にも合うと思います」

 

 「あ、あの……ラドンナさん……」

 

 「どうかなさいましたか?」

 

 この異様とも思える状況下の中、とうとう我慢出来なくなった真緒が、恐る恐るラドンナに話し掛ける。

 

 「どうしてこんな状況で宴を? いや、本来なら宴をしても可笑しく無いとは思いますけど……あんな事があった後じゃ、とても祝う気分には……」

 

 真緒の言い分は最もだ。数百年前から続く人魚の呪い、そしてそれにずっと苦しみ続けて来たライアの叫び。そんな彼女の心情を無下にし、もう一度殺す事で取り戻した水の王冠。さすがに手放しで喜ぶ事は出来ない。

 

 対してラドンナは、それまでの笑みが一瞬で消える。否、そもそもが作り笑いだったのだろう。真緒達と同様に暗い表情を浮かべる。

 

 「……その通りです。本来なら、こんな宴など出来る筈がありません。それ以前に、今回の一件から私は責任を負って、女王という立場を退くべきでしょう」

 

 「そ、そこまでしなくても!!?」

 

 「マオぢゃんの言う通りだぁ!!」

 

 「ラドンナさんが責任を負うだなんて、そんなの間違っています!!」

 

 「諸悪の根源は、水の王冠を盗み出した奴だしな」

 

 「全くですよ~、いったいどんな極悪人なんでしょうかね~?」

 

 祝うのは間違いなのではと言ったつもりが、ラドンナは思った以上に責任を感じており、女王を引退するというあまりにも極端な考えを提示して来た。

 

 この暴走振りに、真緒達は必死にフォローを入れる。すると、ラドンナは首を横に振る。

 

 「こうなってしまったのは、私が水の王冠を私利私欲に利用してしまった為……原因は私にもあります」

 

 「私利私欲って……ラドンナさんは、他の人魚達をやましい人達から守る為に使ったんですから、そんな事ありませんよ」

 

 「いえ、正直に言えば私はここの生活が凄く気に入っていました。この安心を永遠に続かせる為に、それらしい理由を探しては、ライアの様な他の人達の意見に耳を貸さず、己の欲望に従って動きました。その先にどんな不幸が待ち受けているとも知らずに……」

 

 「ラドンナさん……」

 

 ラドンナの心情を察し、何とも言えない雰囲気になる。そんな中、ラドンナが「でも……」と話を続ける。

 

 「だからこそ、私はこれからも人魚の女王として、この呪いに立ち向かわなければなりません。こちらの宴は、皆様から水の王冠を取り戻したという報告を受けた時、事前にシェフに頼んで用意して貰った物です。もし、祝う気分じゃなくなったとなれば、シェフの想いを無下にする事となる。そんな事をすれば、また私のせいでライアの様な悲劇を生み出してしまうかもしれない。私は二度と同じ過ちは繰り返したりしません」

 

 「「「「…………」」」」

 

 ラドンナの覚悟。ライアの犯した罪を己の罪として、一生背負い続けるという選択肢をした。その言葉に真緒達は、最早何も言う事は出来なかった。

 

 「……という事ですので皆様、今日は思う存分楽しんで下さい。水の王冠を取り戻してくれた感謝の宴を」

 

 そう言いながら明るく振る舞うラドンナだが、その言葉とは裏腹に表情は未だに暗いままだった。すると、ジェドが咳払いをする。

 

 「あー、おほん。ラドンナ……さんの言いたい事は分かったが、そんな事よりも大切な事がある……」

 

 「何でしょうか?」

 

 「ラドンナさん……いや、ラドンナ。君に暗い表情は似合わない。俺は笑顔の君が好きだよ」

 

 言い慣れていないであろう臭い台詞、ぎこちなく口にするジェド。見ているだけで全身が謎の痒みに襲われている感覚に陥る。実際、視界の端でエジタスが両手をクロスさせて、掌で全身を擦っている。

 

 一方で、実質プロポーズの言葉を受け取ったラドンナは、しばらく放心状態となり、そして……。

 

 「……ふっ、あはっ、はははははははははは!!!」

 

 「「「「あはは……あははは……あはははははははははは!!!」」」」

 

 作り笑いでは無い。本当の笑みを浮かべる。それにつられて、真緒達も思わず笑ってしまうのであった。

 

 その後、皆の緊張も解けたのか、宴は大盛り上がりを見せた。海賊と人魚による飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。

 

 そこに恥じらいや決まりなどは無く、まるでこれまでの鬱憤を晴らすかの様に、大騒ぎしていた。

 

 「あははははは!!! あー、もう可笑しい……ちょっと外の空気吸って来ます」

 

 そんな中、真緒は笑い疲れて一休みする為に、外へと出る事にした。すっかり日も沈み、町の灯りだけが唯一の光源だった。

 

 「ふぅ……あれ?」

 

 落ち着きを取り戻しつつある中、ふと丘の方に顔を向けると、そこに人影があるのを目にする。

 

 

 

***

 

 

 

 「ライア……」

 

 丘の上に置かれているライアの墓。その前に立つのはルーだった。彼女の名前を呟き、じっと見つめる。そんなルーの背後から声を掛ける真緒。

 

 「ルーさん」

 

 「……あぁ、お前か……結局俺は何も出来なかった……あの時も……そして今回も……守られてばかりだ」

 

 「そんな事は……!! いえ、ごめんなさい……」

 

 「何故、お前が謝る必要がある。全ては僕が弱いのが原因だ」

 

 「ルーさん……」

 

 「僕がもっと強ければ、ライアを失わずに済んだんだ」

 

 「……なら、強くなればいいじゃないですか」

 

 「何だと?」

 

 「強くなるのに、遅いも早いもありません。今からでも強くなればいいじゃないですか」

 

 「……今さら……何の為に強くなれと言うんだ。もうライアもいないというのに……」

 

 「あなたが守らなきゃいけないのは、ライアさんだけじゃないでしょう!!?」

 

 「まさかこの町や、他の人魚達なんて言うつもりじゃないだろうな。悪いが、僕はライア以外に執着するつもりは……」

 

 「“ルーさん自身”ですよ!!」

 

 「僕自身……!!?」

 

 「ライアさんの願いは地上に出る事でした。けど、それはルーさんと一緒じゃなきゃ意味が無かった!! それだけライアさんにとって、ルーさんはかけがえの無い存在という事だったんですよ!!」

 

 「僕が……」

 

 「そんなライアさんが愛したルーという人間を、あなたは全力で守らなければならない。ライアさんが歩めなかった人生を、代わりにあなたが歩むんです!!」

 

 「ライア……」

 

 脳裏に甦るライアとの思い出の数々。思わず涙ぐむルーだったが、零れる前に腕で拭い取る。

 

 「そうだな……僕は強くなって見せるよ。僕自身を守る為に……そして、ライアが歩めなかった人生を最後の最後まで謳歌する」

 

 「ルーさん……」

 

 「そうと決まれば、こんな所でウジウジしている場合じゃないな。急いで宴に戻らないと、折角の豪華料理を食べ損なっちゃうぞ!!」

 

 そう言うとルーは、一目散に城へと駆け出して行く。

 

 「あっ、ちょっ!! ルーさん、待って下さいよ!!」

 

 その後を笑顔で慌てて追い掛ける真緒であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今より数週間前、まだ水の王冠が盗まれる前の事。水の王冠が保管されている宝物庫。中は窓など一切無く、唯一の扉が出入口となっている。更にその外側には数人の人魚達が四六時中見張っている為、蟻一匹張り込む事は出来ない。

 

 そんな誰もいない静かな宝物庫。何も無い空間から突如、一人の人物が現れる。

 

 「んっん~、見張るなら中を見張ってないと何の意味もありませんね~」

 

 その侵入者は他の宝に目もくれず、真っ直ぐ水の王冠に手を触れる。その瞬間、城中にけたたましい警報が鳴り響く。

 

 「おおっと、さすがにそこまでセキュリティは甘くありませんでしたか~」

 

 “宝物庫に侵入者だ!!”

 

 “急いで扉を開けろ!!”

 

 部屋の外で人魚達が騒いでいるのが聞こえて来る。

 

 「それじゃあまぁ、目的の物は手に入れた事ですし、そろそろお暇させて頂きますね~」

 

 そう言うと侵入者は、指をパチンと鳴らして水の王冠と共に、一瞬でその場から姿を消してしまった。

 

 「動くな!! 侵入者め……って、あれ?」

 

 ワンテンポ遅れて、人魚達が扉を開けて武器を構えながら中に入るが、そこには既に侵入者も水の王冠も無かった。

 

 

 

***

 

 

 

 広い広い大海原。その海面の上を歩く侵入者。盗んだ水の王冠を人差し指でくるくると回している。

 

 「さ~てと、これを何処に隠しましょうかね~。おや~?」

 

 そんな時、侵入者は海底に目を向ける。そこにはクラーケンが眠っているのが見えた。

 

 「ふ~ん、良い事思い付きました。それっ、ポチャンとな」

 

 そう言いながら、侵入者は折角盗み出した水の王冠を海に落としてしまった。水の王冠はそのままゆっくりとクラーケン目掛けて沈んでいく。

 

 「よしよし、これは面白い事になりそうな予感がしますよ~。後はマオさん達をクリアビーチに誘って……そうそう、海賊の方々も誘わないと……いや~、忙しくなって来ましたね~」

 

 その様子を見届けた侵入者は、再び指をパチンと鳴らして、その場から一瞬で姿を消した。その直ぐ後、水の王冠が沈んだ場所から、怪しい光が漏れ出るのであった。




この侵入者は、いったい○ジタスなんだ!!?
そして真緒達が次に向かう冒険の場所は!!?
という所で今回はここまで!!
次回から第六章 龍と小鳥が始まります!!
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