笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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前回、真緒達は終わりの大地に足を踏み入れた。
果たしてどんな危険が真緒達を待ち構えているのだろうか。


終わりの大地の罠

 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……あ、暑いだぁ……」

 

 予言に記された何者かが待つとされるクラウドツリーに向けて、出発を開始した真緒達。

 

 歩き始めて数時間、じわじわと彼女達を追い詰める存在と相対する。それは“暑さ”である。

 

 空は厚い雲に覆われ、太陽も顔を出していないのにも関わらず、灰色の地面からほんのりと湯気の様な物が立ち上っている。

 

 次第に体力も奪われていき、出発当初こそ真緒、ハナコ、リーマ、フォルス、そしてエジタスの順番であったが、今となってはエジタス、フォルス、リーマ、ハナコ、そして真緒と逆転する形となっていた。

 

 特に女性陣は全身から汗が噴き出し、視界もボヤけ、更に鼻での呼吸では物足りず、口呼吸をする始末である。ハナコに至っては、まるで犬の様に舌を出しながら呼吸して、必死に体温調節を行っている。

 

 「数千年前、ヘルマウンテンの噴火によって、ここら一帯の大地は流れ出したマグマに覆われた。その影響でこの大陸自体、他の大陸よりも平均温度が少し高いんだ」

 

 「はぁ……はぁ……少じじゃないだよぉ……」

 

 「…………」

 

 そんな中、リーマが額から流れ落ちる汗が目に入らぬ様、着ているローブで何度も拭いながら、どんどん先へと進むエジタスとフォルスを見つめる。

 

 「ふぅ……ふぅ……ど、どうしてお二人はこの猛暑の中、そんな平気でいられるんですか?」

 

 三人がふらふらと覚束ない足取りの一方、すたすたと確かな足取りで歩くエジタスとフォルスの二人。それどころか、エジタスはご機嫌な様子でスキップさえしている。

 

 肌を一切見せない服装のエジタスと全身が羽毛で覆われているフォルス。五人の中で最も暑そうな格好の二人。なのに、一切汗をかいていない。疑問に思うのも当然だった。

 

 「う~ん、確かに言われてみれば少し暑い気もしますが……まぁ、これ位の暑さは誤差の範囲ですよ~?」

 

 「俺は……あー、そう、鍛えているからな。こういうのには慣れているんだ」

 

 さも当然の様に答えるエジタスと、答えになっている様で、全く答えになっていないフォルス。

 

 「は……はは……」

 

 異常とも言える二人の感覚に、リーマは笑うしかなかった。

 

 「そんなに暑いんだったら、魔法で涼しんだらどうだ? 確か、水魔法が使えた筈だろう?」

 

 「そ、そうでした!! その手がありました!!」

 

 フォルスに言われ、ハッと思い出したリーマは、慌てて魔導書を取り出し、ページをめくる。

 

 「そ、その次はオラにもお願いだぁ」

 

 「“ウォーターキャノン”!!」

 

 ハナコがワクワクしながら順番待ちをする中で魔法を唱えると、空中に水の塊が浮かび上がり、そのまま真下にいるリーマ目掛けて落ちて来る。頭から水を被ったリーマだったが、次第に全身が赤く染め上がる。そして……。

 

 「!!? わちゃちゃちゃちゃちゃ!!!」

 

 「「「!!?」」」

 

 叫び声を上げながら、その場を転がり回るリーマ。慌てて着ているローブを脱ぎ捨て、服を脱ぎ捨て、あまつさえ下着まで脱ぎ捨てようとしたので、慌ててハナコがくい止める。

 

 「はひぃ……ひぃ……」

 

 「リーマぢゃん……だ、大丈夫がぁ?」

 

 「フォルス……さん……」

 

 「な、何だ?」

 

 「だ、駄目です……こ、ここで水を生成しても……あっという間に熱湯に変わってしまいます……」

 

 「そ、そうか……すまなかったな、少しは涼しめると思ったんだが……予想外だった……」

 

 「いえ、私が……勝手に……やった事ですから……気にしないで……下さい……」

 

 茹でダコになっているリーマを必死に介抱するハナコ。そんな中、エジタスがふと辺りを見回す。

 

 「おやおや~? マオさんの姿が見えませんね~?」

 

 「そ、そういえば……」

 

 涼しむ事に夢中になって、今まで気が付かなかったが、この会話に真緒がいないのは不自然だった。何より、リーマが苦しんでいるのに、安否も確かめないのはあり得ない。

 

 キョロキョロと皆で真緒の捜索を開始する。すると、少し戻った場所で仰向けになって倒れているのを発見した。

 

 「マオぢゃん!!」

 

 「マオさん!!」

 

 「マオ、大丈夫か!!?」

 

 駆け寄る仲間達が覗き込むと、浅いながらも確りと呼吸をしており、命に別状は無かった。しかし、ハナコやリーマ以上に汗をかいており、そのあまりの量に地面が乾かずに濡れたままになっている程だった。このままでは、遅かれ早かれ熱中症と脱水症状で死んでしまう。

 

 「リーマ、鞄から飲み水を取り出して急いで飲ませてくれ!!」

 

 「は、はい!!」

 

 「ハナコ、鎧を脱がすのを手伝ってくれ。十中八九、原因はこれだ」

 

 「分がっだだぁ!!」

 

 「エジタスさん、近くに巨大な岩で影になっている場所がある筈です。見つけたら、転移魔法ですぐに戻って来て下さい」

 

 「わっかりました~」

 

 フォルスが的確に指示を出し、皆一斉に動き始める。

 

 

 

***

 

 

 

 「……ん……んん……」

 

 「マオぢゃん!! 良がっだぁ!! 目が覚めで!!」

 

 「マオさん、気分はどうですか?」

 

 「あれ? 私……どうしちゃったの?」

 

 真緒が目を覚ますと、そこは巨大な岩で影になっている場所だった。側にはハナコとリーマの二人がおり、少し離れた所ではエジタスが転移魔法を利用して、冷たい水を運んでフォルスに手渡していた。

 

 「起きたか、マオ。ほら、冷たい水だ」

 

 「ありがとうございます」

 

 フォルスから水を手渡された真緒は、ゆっくりと口に運ぶ。余程喉が渇いていたのだろう、そのままイッキ飲みしてしまった。

 

 「んっ……んっ……ぷはぁ!!」

 

 「無事で何よりだ」

 

 「あの……私は……」

 

 「マオさんは熱中症と脱水症状のダブルパンチで、ノックアウトされていたんですよ~」

 

 「そうだったんですね。それを皆が助けてくれた。本当にありがとう」

 

 「気にしないで下さい。こんな異常な暑さで、倒れない方が可笑しいんですよ」

 

 そう言いながら、リーマはチラリとエジタスとフォルスを見る。二人はキョトンとした様子でこちらを見ていた。

 

 「でも、まさかここがこんなに過酷な場所だったなんて……あれ? 私の鎧は?」

 

 ここで漸く、鎧が無い事に気が付いた真緒。

 

 「あぁ、それなら仕舞っておいた。そもそも、お前が倒れた原因はあの鎧だ」

 

 「只でさえ暑い場所で、鎧なんて熱のこもる物を着ていたら、倒れてしまうのも無理ありませんよ」

 

 「で、でも……鎧無しでこれからどうすれば……」

 

 「なら、ラドンナ女王から貰った“虚空”を身に付けたらどうだ? 水の都にあった代物だ。今のよりかは、涼しいだろう」

 「そうですね。ちょっと着けてみようと思います」

 

 そう言うと真緒は、ラドンナから貰った鎧“虚空”を取り出し、身に付けてみた。

 

 「ほぉ、中々様になっているじゃないか」

 

 意外にもサイズはピッタリだった。いや、ピッタリになったというのが適切かもしれない。虚空に掛けられている魔法によって、真緒の体に合わせて大きさが変化した。

 

 「マオぢゃん、格好良いだぁ」

 

 「よく似合っていますよ、マオさん」

 

 「ありがとう。師匠、どうでしょうか?」

 

 皆が褒めてくれる事に、照れ臭そうに笑う真緒。だが、後一人感想を貰っていない。真緒にとって最も大切な人の言葉を。恥ずかしがりながらも、エジタスに身に付けた虚空を見せる。

 

 「ふ~む……」

 

 顎に手を当て、意味ありげに吟味するエジタス。緊張と恥ずかしさで、心臓が激しく鼓動する。あまりの激しさに、音が聞こえていないかと心配になる程だ。しばらく真緒を見つめた後、エジタスは両手を何度も叩いて拍手し始める。

 

 「素晴らしい~!! より一層強さが増しましたね~!! 私も誇らしく思いますよ~!!」

 

 「あ、ありがとうございます!!」

 

 予想以上に大袈裟に褒めてくれたエジタス。思わず真緒の顔も綻んでしまう。

 

 「それにしても、よくこんな場所を見つけられたね。大変だったでしょう?」

 

 「いえ、フォルスさんが的確に指示を出してくれたので、問題ありませんでした」

 

 「凄かったですよ~、まるでここに来たのが“初めて”じゃないみたいでしたよ~」

 

 「フォルスさん、凄いじゃないですか!!」

 

 「っ……は……ははは……そ、そうだろう、俺にとっては初めての場所でも、自分の庭の様に歩けるんだ……ははは……」

 

 「フォルスさん……?」

 

 「あー、マオも無事だった事だし、少し休憩したら先を急ごう。ヘルマウンテンまでもうすぐだ」

 

 そう言うと、フォルスは足早にその場を去ってしまった。その様子に真緒は違和感を覚えるも、理由までは分からなかった。




終わりの大地に潜む天然の罠に苦しむ真緒達。
無事にヘルマウンテンまで辿り着けるのだろうか。
という所で今回はここまで!!
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