笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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今回は中々にボリュームのある内容となっています。


間欠泉と亀裂

          プゥ~

 

 気の抜けた風船の様な高音が周囲に響き渡る。それと同時に卵が腐った様な、嫌な臭いが鼻を通り、思わず顔をしかめる。

 

 すると、フォルスが左手で鼻を摘まみ、右手で空気を払う様な大袈裟でわざとらしい素振りをする。

 

 「おいおい、いったい誰だー? 随分と強烈な一撃じゃないか?」

 

 「わ、私じゃありませんからね!?」

 

 「オラでも無いだぁ」

 

 「私も違います」

 

 「勿論、私でもありませんよ~」

 

 当然の様に否定する一同。しかし、話はそこで終わらず、何故かフォルスは必要以上に犯人探しを追求し始める。

 

 「そんなはず無いだろう、ここには俺達以外誰もいないんだ、絶対この中の誰かだ。ほら、今の内に正直に話したらどうだ? 別に恥ずかしがる必要は無いんだぞ。生理現象なんだからな」

 

 「そう言うフォルスさんはどうなんですか?」

 

 「は?」

 

 「実は自分がしたのに、言うのが恥ずかしいから、そうやって居もしない別の犯人を仕立て上げようとしているんじゃないですか?」

 

 「おいおい、何を言い出すかと思えば……いいかマオ、もし俺が犯人だとしたら、こんな風に誤魔化したりは絶対にしない。ちゃんと公言して、一言謝ってる」

 

 「ほら、やっぱりフォルスさんも否定するんじゃないですか」

 

 「当たり前だろ。やっても無い事を認める訳にはいかない」

 

 「それはこっちも同じです」

 

 「いや、だがな…………」

 

 フォルスと真緒の白熱した、くだらない論争を続ける事、約十分。他の三人は待っている事に疲れ、その場に座り込む。

 

 「まだやっでるだぁ……」

 

 「……何か、可笑しくありませんか?」

 

 「ん~、何がですか~?」

 

 そんな中、リーマがとある違和感に気が付いた。二人の水掛け論を聞くよりも楽しそうだと、ハナコとエジタスはリーマの話を聞く事にした。

 

 「いや、フォルスさんがこんなにも必死になるだなんて、それも誰がオナラをしたかという、どうでも良い様な理由で……」

 

 「確がに……」

 

 「普段のフォルスさんからは、想像も付きませんね~」

 

 「何だか、いつものフォルスさんらしく無いみたい……」

 

 「そうですね~、まるで……無駄に時間稼ぎをしている様に、感じられますよね~」

 

 「時間稼ぎ? それってどういう……」

 

 エジタスの言葉の意味を聞き返そうとするリーマ。しかし、それを聞く事は叶わなかった。それよりも早く、そして大きな声で遮られてしまったからだ。

 

 「もう、いい加減にして下さい!!」

 

 「「「!!?」」」

 

 そう声を荒げたのは真緒だった。無理矢理出した結果、息切れしてしまうが、これによってフォルスとの会話は一旦止まる事となった。

 

 「この終わりの大地に来てからフォルスさん、何だか可笑しいですよ。口数が極端に減ったり、かと思えば今みたいにどうでも良い様な事に、無理矢理口を出したり、いったいフォルスさんは何がしたいんですか!?」

 

 「い、いやそれはだな……あ、あれだ……初めての場所で少し緊張しているんだ……」

 

 「だとしても、こんな事に数十分も時間を無駄にするなんて、いつものフォルスさんらしく無い!! 私だって馬鹿じゃありません。フォルスさん、ヘルマウンテンに近付くにつれて、様子が可笑しくなっているんです」

 

 「そ、そんな事は……「マオさんの言う通りです」……?」

 

 真緒がフォルスに疑いの目を向ける中、会話にリーマ達三人も参加して来た。

 

 「お、お前らまで……」

 

 「初めての場所って言ってましたけど、マオさんが熱中症で倒れた時、エジタスさんに巨大な岩で影になっている場所の事を教えてましたよね? あんな事が出来るのは、ここをよく知っている人だけですよ」

 

 「フォルスさん、もしかして以前にも、この終わりの大地に来た事があるんじゃないんですか?」

 

 「…………」

 

 「もし、何か隠しているんだったら、教えて下さい。私達は仲間じゃないですか」

 

 「…………」

 

 「楽しい時は勿論、辛い時や悲しい時も気持ちを共有し合う。それでお互い背中を預けられる仲になれる。フォルスさん、私達にあなたの気持ちを共有させて下さい。私達の背中を預けさせて下さい」

 

 「マオ……俺は……」

 

 真緒達の説得により、心を開きかけるフォルス。遂に隠していた事を口にしようとしていた次の瞬間!!

 

         プゥ~

 

 またも、周囲に気の抜けた風船の様な高音が響き渡る。更にお馴染みの腐った卵の様な嫌な臭いが漂う。しかも、さっきのよりキツイ。

 

 「「「うっ!!!」」」

 

 これにはさすがの真緒達も、思わず鼻を摘まんでしまう。唯一、仮面を被っているエジタス、そしてフォルスだけは何とも無い様子だった。

 

 「いったい何なんですかこれは……?」

 

 真緒がしかめっ面になっていると、彼女の足下の地面が突然盛り上がり始める。

 

 「!!! マオ、危ない!!」

 

 逸早く気が付いたフォルスは、目の前にいる真緒を勢いよく突き飛ばした。

 

 「痛っ!! いきなり何するんですっ……!!」

 

 尻餅をつき、痛みに耐えながらフォルスに訴え様としたその時、先程まで真緒が立っていた盛り上がった地面から、水がけたたましい音を立てて、勢い良く噴き出した。

 

 「「「!!?」」」

 

 これを皮切りに、次々と周囲の地面が盛り上がり、そこから勢い良く水が噴き出し始める。

 

 「な、な、何ですかいったい!!?」

 

 「突然、地面から水が噴き出して来ましたよ!!?」

 

 真緒達が狼狽えていると、噴き出した水滴がハナコのお尻に降り掛かる。

 

 「あぢゃあああああああああ!!!」

 

 「ハナちゃん!!?」

 

 「どうしたんですか、ハナコさん!!?」

 

 ジュッ、という音を立てたかと思えば、ハナコは両手でお尻を抑えながら、地面に転がり始める。

 

 「熱いだぁ!!!」

 

 「「熱い!!?」」

 

 「これは只の水じゃない。間欠泉だ!!」

 

 「間欠泉?」

 

 「確か、一定周期で水蒸気や熱湯を噴出する温泉の事ですよね?」

 

 「ああ、さっきから聞こえていたオナラの様なあの音は、間欠泉のガスが漏れる音だったんだ!! だが、この時期なら間欠泉も大人しい筈なんだが……」

 

 「この時期って、やっぱりフォルスさん、ここに来た事があるんですね!!?」

 

 「その話は後だ!! 今はこの間欠泉地帯から抜け出す方が先決だ!!」

 

 フォルスの言う通り、不定期に地面から温泉が噴き出して来る。このままここにいたら、いつ直撃しても可笑しくない。

 

 「わ、分かりました。でも、いったいどうしたら?」

 

 「とにかく突っ走るんだ」

 

 「え!!?」

 

 「もういつ俺達がいる場所に、温泉が噴き出しても可笑しくはない。一刻も早くこの場所から離れるんだ」

 

 「反対です!!」

 

 「「「え!!?」」」

 

 フォルスの意見に異を唱えたのは、またしても真緒だった。これには、他の三人も驚きの表情を隠せなかった。

 

 「何だと……?」

 

 「何の考えも無しに突っ込んだら、それこそ噴き出した温泉に当たって死んじゃいます。それよりも、慎重に一歩一歩確実に歩いて抜け出した方が良いです」

 

 「そんな悠長な事をしていたら、間欠泉に吹き飛ばされるぞ!! ここは走るしか道は無いんだ!!」

 

 「走れば冷静な判断力が失われてしまいます!! こういう時こそ、冷静にならなければいけないんです!!」

 

 「俺は冷静だ!! 冷静じゃないのは、お前の方だぞ!!」

 

 「それはフォルスさんの方でしょ!? こんな間欠泉地帯を駆け抜けるだなんて、正気の沙汰じゃありません!!」

 

 「そこをゆっくり歩こうとするマオの方が正気じゃない!!」

 

 「二人とも、いい加減にして下さい!! 今は喧嘩している場合じゃないでしょ!!」

 

 二人の間に割って入るリーマ。にも関わらず、睨み合い続ける二人。その間にも次々と間欠泉が噴き出している。

 

 「チィ、勝手にしろ!! 俺は先に行くからな!!」

 

 そう言うとフォルスは一人、走って行ってしまった。

 

 「ど、どうするだぁ!!?」

 

 「私達も早く行かないと……マオさん!!」

 

 「……二人は先に行っててよ。私はゆっくり慎重に行くから……」

 

 「何行ってるんですか!!? 変な維持を張ってる場合ですか!!?」

 

 「…………」

 

 一緒に出ようとする手を払い除ける真緒。リーマが必死に説得しようとするも、何も答えようとせず、あくまでも一歩ずつ確実に進むつもりの様だ。

 

 「……もう!! ハナコさん、マオさんを抱えて下さい!!」

 

 「おっじゃああああ!!!」

 

 痺れを切らしたリーマが、ハナコに頼んで真緒を抱え、無理矢理運ぼうとする。

 

 「ちょ、ちょっと離してよ!! 私はゆっくり慎重に……!!」

 

 「ちょっと黙ってて下さい!!」

 

 「は、はい……」

 

 普段、怒らないリーマが珍しくブチ切れている様子に、すっかり萎縮してしまう真緒。大人しく運ばれる事を選んだ。

 

 「フォルスさんの後を追い掛けましょう!!」

 

 「分がっだだぁ!!」

 

 リーマは、まだ僅かに見えるフォルスの背中を追い掛ける。その後ろに真緒を抱えたハナコが続く。

 

 駆け抜ける間も、間欠泉は次々と噴き出していく。右、左、背後、そして目の前と予測の付かない噴き出しに、中々前に進む事が出来なかった。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 「ハナちゃん、大丈夫?」

 

 人間一人を抱えながら走っている為、いつもより息切れするタイミングが早い。このままでは危険、そう判断した真緒はハナコに声を掛ける。

 

 「大丈夫だぁ!!」

 

 そんな言葉とは裏腹に、前を走るリーマとの距離はどんどん離れていく。このままでは、見失ってしまう。そう考え、ハナコはペースを上げようとする。その瞬間!!

 

 「ハナちゃん、危ない!!」

 

 「!!!」

 

 真緒の言葉に思わず足を止めてしまうハナコ。するとその目の前で間欠泉が噴き出した。もし、あのままペースを上げていれば、直撃していた事だろう。

 

 「ありがどう、マオぢゃん……」

 

 「無事で良かった。けど……」

 

 これで完全にリーマを見失ってしまった。周りは間欠泉に囲まれ、どっちが前かも分からない状態。下手に動けば、一生出る事は出来ないだろう。

 

 「いっ、いっだいどうじだらいいんだぁ!!」

 

 「…………」

 

 解決策が浮かび上がらず、立ち往生してしまう二人であった。

 

 

 

***

 

 

 

 その頃、フォルスは何とか間欠泉地帯から抜け出す事に成功していた。

 

 「はぁ……はぁ……や、やったぞ!!」

 

 「いや~、お早いご到着でしたね~」

 

 「エジタスさん!!?」

 

 何とそこには、既にエジタスの姿があった。自分よりも早く抜け出していた事に、驚きを隠せないフォルス。

 

 「いっ、いったいどうやって!!?」

 

 「おや、忘れてしまったんですか~? 私には“転移”がある事を~?」

 

 つまり、あの間欠泉地帯から空間魔法を利用して、一瞬で抜け出したのだ。

 

 「それが出来るのなら、どうして俺達も一緒に連れて行ってくれなかったんですか!!?」

 

 「う~ん? だって、フォルスさんはあの間欠泉地帯を走って抜け出すって言っていたではありませんか~?」

 

 「それはそうですけど、あれはそれしか方法が無いと思っただけで……」

 

 「まぁまぁ、こうして無事に脱出出来たんですから、マオさん達が来るのを気長に待ちましょう」

 

 「っ!! そうだマオは!!?」

 

 慌てて抜け出して来た間欠泉地帯に目を向けると、丁度そこからリーマが勢い良く飛び出して来ていた。

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

 

 「リーマ、大丈夫か!!?」

 

 「え、えぇ……な、何とか……」

 

 「マオとハナコはどうした?」

 

 「あれ? さっきまで一緒にいたのに……まさか何かあったんじゃ!!?」

 

 「……俺、助けに行って来る!!」

 

 「駄目ですよ!! 戻るなんて自殺行為です!!」

 

 「離してくれ!! 早く行かないとマオ達がっ……!!!」

 

 その時、間欠泉地帯が大爆発を起こし、間欠泉自体は無事に収まったが、先程までフォルス達が走って来た道は地面ごと抉られていた。

 

 「マオ……」

 

 「マオさん……」

 

 膝から崩れ落ち、絶望する二人。すると、エジタスが二人の肩をポンポンと叩き、空を指差す。

 

 「「おーい!!!」」

 

 「マオ!!!」

 

 「マオさん!!!」

 

 そこには真緒の着ていた鎧、“虚空”によって空を飛び上がる真緒と、真緒に抱き抱えられているハナコの姿があった。

 

 「皆、心配を掛けてごめんね」

 

 「マオさん、良かった!! 本当に良かった!!」

 

 「フォルスさん……ごめんなさい、ムキになってしまって、フォルスさんは私達を助けようとしてくれていたのに……」

 

 「いや、俺も変に意地を張ってしまった。もっとお前達の気持ちも考えるべきだった。すまなかった」

 

 お互いが謝り合う事で、漸く仲の良いパーティーに戻った。この様子に、ハナコとリーマも思わず顔が綻ぶ。

 

 「それじゃあ、改めて皆でヘルマウンテンに向かいましょう!!」

 

 「「「おぉおおおおお!!!」」」

 

 「…………」

 

 真緒の言葉にハナコ、リーマ、エジタスの三人が元気良く返事する中、フォルスだけが無言で真緒達の前に立つ。

 

 「フォルスさん?」

 

 何か言い忘れた事でもあったのだろうか。そんな真緒の考えは、次の言葉で覆される。

 

 「……悪いが、お前達をこの先に行かせる訳にはいかない」

 

 「フォルスさん!!?」

 

 「何を言っでるだぁ!!?」

 

 「フォルスさん……いったいどういう……?」

 

 困惑する真緒達に、フォルスは弓を手に持って、真緒達の方に突き出しながら言い放つ。

 

 「どうしても行くというのなら、この俺を倒してからにしろ」




喧嘩からの仲直りと思いきや、まさかまさかの対立!!?
次回、真緒とフォルスの悲しい戦い。
今回はここまで!!
次回もお楽しみに!!
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