笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
「聞かれた質問に答えろ!! こんな所で何をしているんだ!?」
一瞬、フォルスと見間違えてしまったが、よく見ればフォルスと異なり、羽の色が黄色と白であり、クチバシの形もフォルスのより少し大きかった。
そんなフォルスによく似た姿の鳥人は、持っていた弓矢を真緒達に向け、脅す様な形で問い詰める。
「いや、その、わ、私達は……た、旅の者でして……だからその……!!」
仲間の離脱、そしてそれによく似た存在の出現。あまりにも物事が立て続けに起こった為、真緒はいつも以上に混乱していた。そのせいで、事情を説明しようにもテンパってしまい、上手く口が回らなかった。
「旅の者だと……? 嘘を付くな!! こんな辺鄙な所にわざわざ足を運ぶ変わり者がいる訳が無い!!」
終わりの大地には、特に観光する物が無い。草木は勿論、町や村も片手で数える位しか存在しない。更にそれらはどれも名所と呼べる場所では無く、薄ら寂しく質素なのが当たり前。唯一あるとすれば、この終わりの大地を生み出したヘルマウンテンだが、近付けば間違いなく生きては帰れないと言われている。そんな地獄の様な場所にやって来るのは、余程の物好きか、自ら死ぬ事を望んでいる者か、はたまた疚しい事を考えている者かのいずれかである。
そして、それは真緒達も例外では無かった。真緒の旅人という発言に疑心を抱いた鳥人は、弓矢を構え直し、より正確に狙いを定める。
「ほ、本当なんです!! 信じて下さい!!」
「オラ達、クラウドツリーに行ぎだいんだぁ!!」
「その為にはどうしても、ヘルマウンテンを越えなければいけないんです!!」
「何? ヘルマウンテンを越えるだと?」
このままでは疑わしきは罰すの精神で、射ち殺されてしまう。それだけは避けなければと、真緒だけで無くハナコとリーマの二人も必死に事情を説明し始める。
すると、ヘルマウンテンを越えるというリーマの言葉に反応する鳥人。構えていた弓矢が少し緩んだ。
「それは本当なのか?」
「はい!! 私達はどうしてもクラウドツリーに行かなければならないんです!! それにはヘルマウンテンを越えなければ行けない!! そうですよね?」
真緒達に対する疑心が弱った所で、真緒は答えるだけで無く、質問を返す事で会話を成立させようと試みる。これが上手く行けば、少しでも警戒を緩めてくれるかもしれない。
「あ、あぁ……確かにヘルマウンテンを越えた先にはクラウドツリーがあるが……」
真緒に質問を返され、咄嗟に答えてしまう鳥人。これにより警戒心は更に緩まり、真緒達に向けられていた弓矢も、斜め下に下ろされ、射たれる心配は無くなった。しかし、ここから慎重に言葉を選んでいかなければ、再び弓矢を構えられてしまう。真緒は緊張から生唾を飲み込み、頭で次に言う言葉を考えながらゆっくりと口を開く。
「お願いします。どうか私達にクラウドツリーに行く許可を下さい!!」
「許可だと!? あっ、いや、それは俺の一存で決める事は出来ない……」
「では、どうすれば許可を頂けるんですか!?」
「それは勿論、俺達の里にいる族長が許せば……」
「なら、その族長さんの所まで案内して下さいませんか!?」
「何だと!!? お前達の様な怪しい連中を族長に会わせるなど、ましてや里に入れる事など出来ない!!」
「では、どうしますか!? 私達を殺しますか!? あなた個人の一存で私達を!?」
「そ、それは……!!?」
いつの間にか、脅す側が逆転している。真緒達の危険性が薄くなり、一度は殺すのを躊躇ってしまった為、再び殺そうとするのは何処か抵抗があった。更に真緒の付け加えられた“個人の一存”という言葉に、鳥人の背中に“責任”という二文字が重くのし掛かる。
真っ直ぐ見つめる真緒に、思わず目を逸らしてしまう。しばらく考え込み、そして何かを決心した様子で真緒達に話し掛ける。
「分かった。お前達を里に連れていく。だが、少しでも妙な真似をしてみろ。その時は容赦なくこの弓矢で射ってやるからな」
「分かりました」
「ちょ、ちょっとマオさん……」
里へと案内してくれる事になったが、ここでリーマが真緒に耳打ちをする。
「フォルスさんはどうするつもりですか?」
リーマの言う通りである。もし、このまま事が順調に運び、ヘルマウンテンを越える許可が貰えたとしても、仲間一人を置いて行く事になってしまう。まさか、戦った恨みから本当に置いてくつもりなのではと、最悪の考えがリーマの脳裏を横切る。
「……勿論、連れ戻すよ」
「そ、そうですよね……良かった……」
あの真緒が仲間を置いてく訳が無い。例え置いてく事になったとしても、こんな喧嘩別れの様な去り方は絶対にしない。リーマは最悪の考えが杞憂だった事に、ホッと胸を撫で下ろす。しかし、そうなると新たな疑問が生まれる。
「それならどうして、里に向かうんですか?」
「例えフォルスさんが戻って来たとしても、ヘルマウンテンを越える許可は貰わないといけないからね。先に済ませちゃおうと思って。それに……」
「それに?」
「フォルスさんがパーティーを離れてまで、ヘルマウンテンに行きたくない理由が、もしかしたらその里に隠されているんじゃないかなって」
「確かに……」
この終わりの大地にやって来てから、フォルスの様子は可笑しくなった。そして、パーティーを離れた直後に現れたフォルスと同じ種族。関係無い訳が無い。
「おい、何をしている? さっさとついて来い」
「マオぢゃん、リーマ!! ごっぢごっぢ!!」
真実を探る為にも、真緒達は鳥人の案内の下、里へと向かうのであった。
***
しばらく歩いていると、地平線の向こうから巨大な山が姿を見せる。
ゴツゴツとしたナイフの様な鋭さを持った岩肌に、そこの裂け目から漏れ出るマグマ。まるで血の涙を流している巨大な生き物を思わせ、ここに来てから慣れた筈の気温も、山に近付けば近付く程、高くなっていき、汗が滝の様に流れ始める。このままではあっという間に脱水症状になってしまう。
「あ、あれが……」
「そうだ、あれこそこの終わりの大地を生み出したとされる、“ヘルマウンテン”だ。里はその麓にある」
「つ、つまり里はここよりずっと暑いって事になりますね……」
少し歩く度に、リーマが魔導書を開き、水属性魔法で水の塊を作ると、三人で飲み合う。当然、沸騰して熱々の状態であるが、無いよりはましだと、火傷に注意しながら飲む。そんな様子をチラリと振り向いて確認する鳥人は、三人を鼻で笑う。
「ふっ、情けない連中だ。この程度の暑さで根を上げていたら、ヘルマウンテンを越えるなんて夢のまた夢だな」
「ご、ご心配しなくても、直ぐに適応して見せます」
完全な強がりであった。しかし、こうでも言わないと今にも倒れてしまいそうになっていた。一歩歩けば、まるで水の入った桶を頭から被ったかの様に、汗でずぶ濡れになる。そしてその度にリーマが生成する熱々の水を飲む。先程からこれの繰り返しだ。
このままでは、いつ里に着けるか分かったもんじゃない。それどころか、里に辿り着く前に熱中症と脱水症状で倒れてしまうのは明白だった。
「……あぁ!! ったく、仕方ないな!!」
いつまで経っても前に進めない事に、痺れを切らした鳥人は、懐から白い液体が入った小瓶を三本取り出すと、真緒達にそれぞれ手渡した。
「これは……?」
「所謂、暑さを凌ぐ為のポーションだ。それを飲めば、一定期間どんな暑さもへっちゃらになれる」
「ほ、本当ですか!!?」
「で、でもどうしてそんな貴重な物を私達に?」
「これじゃあいつまで経っても、里に辿り着けないからな。それに俺は一度、お前達を里まで連れていくと約束したんだ。鳥人族の誇りに掛けて、約束は守る」
「あ、ありがとうございます」
鳥人のご厚意に甘え、真緒達は貰ったポーションを飲み干した。すると、真緒達の周りを雪の結晶の様な白いオーラが立ち上ぼり、先程まで滝の様にかいていた汗が一滴も出なくなった。
「す、凄い!! もう全然暑さを感じない!!」
「ばぁー、生ぎ返るだぁー」
「こんなポーションがあるだなんて……」
「俺達の先祖がこの地にやって来た時、環境に適応出来るまでの応急措置として作られた代物だ。本来、生まれたばかりの子供達に使うんだが……まぁ、沢山あるからな。三本位、許してくれるだろう。ほら、さっさと里に向かうぞ」
「は、はい!!」
鳥人のお陰で暑さを防ぐ事が出来た真緒達。更にヘルマウンテンに近付いて行くと、その麓に複数の建造物が見えて来た。まるでツリーハウスの様に、家が空中に建てられており、支えの棒が幾つも地面に突き刺さっていた。
そしてそこには買い物をする鳥人や、同年代の子達と遊ぶ鳥人、歩いてパトロールに出掛ける鳥人など、色んな鳥人が暮らしていた。
その入口手前には、二人の鳥人が里の警護をしていた。やがて、こちらに近付いて来る真緒達の存在に気が付く。
「ん? “ビント”じゃないか。後ろの連中は何者だ?」
ビント。どうやらそれが名前らしい。警護の一人が声を掛け、そして後ろに引き連れている真緒達について訪ねる。その声には、ビントと初めて会った時と同じ疑心の感情が混じっていた。
「族長のお客さんだ。ヘルマウンテンを越える許可が欲しいんだとさ」
「ヘルマウンテンを越えるだって!!?」
「おいおい、それは幾らなんでも命知らず過ぎるだろ」
「全くだ。けど、会わせると約束しちまったんだ。悪いが通して貰えるか?」
「仕方ないな。その代わり、責任は確り持てよ。お前の尻拭いはしたくないからな」
「分かってるよ。感謝する」
そう言うと、警護の二人が両脇にズレて真ん中の道を開けてくれる。ビントを先頭に真緒達は、遂に里の中へと足を踏み入れる。
「ようこそ、ここが鳥人族の里だ」
次回は鳥人族が暮らす里の全貌が明らかに!!
今回はここまで!!
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