笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
「さてさて、あなた方がマオ殿、ハナコ殿、リーマ殿ですな? お話はエジタス殿から聞いておる。ワシはこの鳥人の里を取り仕切っている“フォーグ”だ。よろしく頼む」
「あっ、えっとよろしくお願いします……」
「お願いじまずだぁ」
「お、お願いします」
深々と頭を下げるフォーグに釣られて、真緒達も同じ様に頭を深々と下げて挨拶を交わす。
「それで……フォーグさんは師匠といったい何を?」
そんな中で真緒は頭を上げると同時に、先程フォーグとエジタスが行っていたやり取りについて、恐る恐る問い掛けた。
「うむ、軽い自己紹介を済ませ、貴殿らの事を聞いた後、本題へと移ろうと考えていたのだが、どうせ話すのなら全員が集まってからの方が良いと思ってな。そのまま待つ事にしたのだ」
無意識からか、フォーグは自身の巨体を前後に揺らしながら語り始める。それはまるで老人が日中、安楽椅子に座って日向ぼっこしているかの様な、思わずほっこりする姿であった。
「しかし……只じっと待つのも忍びなくて、何とも気まずい雰囲気が流れる中、エジタス殿が来るまでの間、ちょっとした余興を披露すると申し出てくれたのでな」
「何もせず待つより、楽しい事をして待っていた方が、時が過ぎる感覚も変わって来ますからね~」
「な、成る程……それで私達が着いた時、あんな状態になっていたんですね」
「いや~、暇潰し程度で始めたつもりが……思った以上に乗ってしまいましてね~」
「ホッホッホッホッホ。全くもって、エジタス殿は盛り上げ上手でな。年甲斐もなく、はしゃいでしまったわい」
「族長、楽しむのは結構ですが、仮にも彼らは他所からの来訪者。もう少し警戒して下さい。ましてや、この様な得体の知れない男……」
チラリと横目でエジタスを見るビント。当の本人は気にした様子を見せず、のほほんとしている。その直後……。
「……ビントよ……」
「「「「!!!」」」」
フォーグのたった一言に、ビントを含む真緒達の背筋に寒気が走る。これまで幾度と無く数々の修羅場を潜り抜けて来た真緒達だったが、これはそれの非にならない程の緊張感。
言うなれば台風の様な自然災害に近い。人類に出来るのは、一秒でも早く通り過ぎるのを待つだけである。
「他所からの来訪者とはいえ、遠方からわざわざ訪ねて下さった者に対して、その様な攻撃的な態度は如何なものだろうか?」
「も、申し訳ありません。失言でした」
「ホッホッホ……失言とな。という事はつまり認める訳だな。お前はワシの目の前で客人を侮辱し、ワシに恥を掻かせたと……?」
「い、いえ!! そ、その様なつもりは微塵も……!!」
「んー? いったいどっちなんじゃ? お前自身が失言だと認めたのだろ? それは言い換えれば、ワシの顔に泥を塗ったと同義。にも関わらず、その様なつもりは無いとな……矛盾しているとは思わないか? え?」
「そ、それはあの……その……」
完全に萎縮してしまっている。里のトップから問い詰められ、言葉による暴力を受けて、心身共に疲弊してしまう。見ているこちらまでもが、飲み込まれてしまいそうな程、凄まじい圧力を感じる。
「フォーグさん、もういいですよ」
この最悪の空気を断ち切ったのは、エジタス本人であった。エジタスの一声で、フォーグが放っていた圧力は一瞬で消え去ってしまう。
「しかしですな、エジタス殿……こちらとしてもメンツという物が……」
「フォーグさんの立場は重々承知しております。ですが、どうかビントさんの立場もご理解下さい。彼は彼なりにフォーグさんの身を案じているのですから。それに、私自身は全然気にしていませんよ~」
「……エジタス殿がそこまで言うなら……ビント」
「は、はい!!」
「今回はエジタス殿に免じて不問とするが、以後気を付ける様に……分かったな?」
「分かりました。お心遣い、感謝致します!!」
「うんうん、さてと……それでは気を取り直して本題へと話を移そうかの」
「「「…………」」」
第一印象は、気の抜けたのほほんとした優しそうな人だった。それがたった一言、部下が失言しただけであの威圧感と迫力。さすが癖のある鳥人族をまとめ上げる族長というだけの事はある。真緒達は、発言には細心の注意を払おうと胸に刻み込んだ。
「話は既にエジタス殿に聞いておりますが、何でもヘルマウンテンを越えたいとか?」
「はい、私達はその先にあるクラウドツリーに、どうしても行かなければ行けないのです」
「ホー、クラウドツリーにか……それなら確かにヘルマウンテンを越えなければ辿り着く事は出来ないの……」
「それでどうか、ヘルマウンテンの麓に居住している鳥人族の長であるフォーグさんに、越える許可を出して頂きたいのです」
「ふむふむ、だが許可など貰わずとも勝手にヘルマウンテンを越える事も出来るのではないか?」
「それは……」
喧嘩別れした仲間の情報を手に入れられるかもしれない。しかし、ここでそんな私情を挟んだ話をするべきなのだろうか。言うべきか否かと、真緒が決めあぐねていると……。
「フォルス……と言ったか?」
「「「!!?」」」
ここまでフォルスの名前は口にしていない。にも関わらず、フォーグが知っている事に驚きを隠せない真緒達。
「すまない。既にエジタス殿から話を伺っていた」
「別に隠す必要はありまんからね~」
「た、確かにそうですけど……」
「その者の事なら、心当たりがある」
「ほ、本当ですか!!?」
朗報。やはりここにフォルスに関する情報があった。フォーグの言葉に真緒達は互いに顔を見合せ、笑みを浮かべる。
「だが、それを話す前に一つ頼まれ事を引き受けてくれないだろうか」
「頼まれ事?」
「族長!! まさかっ!!?」
何かを察したビントが声を荒げる。フォーグはゆっくりと頷き、答える。
「うむ……貴殿達も薄々気が付いているだろう。今、この里では異変に見舞われている」
「異変……それってもしかして……里の人々が空を飛んでいない事と何か関係がありますか?」
「……やはり気付いていたか……」
「ど、どういう事ですか、マオさん?」
「ずっと不思議だった。鳥人族なのに、誰一人として空を飛ばず、地面を歩いて生活していた」
「でも、里内ではそうしているだけかもしれませんよ?」
リーマの言葉に真緒は首を横に振る。
「この里に来るまで、ビントさんはずっと地上を歩いて案内してくれた。最初は私達に気を使ってくれているのだと思ったけど、パトロールを交代する時、その鳥人族の人達も歩いて里を出ていた」
「そ、そういえば……」
ビントはバツが悪そうに真緒達から顔を反らす。
「後はこの屋敷もそうだったけど、他の建物も入口が地上から三メートル以上の高さに設置されていた。そして、そこから取って付けたかの様な簡素な階段……まるで飛べなくなったから、仕方なく付けたみたいな造り方だった」
「それってつまり……」
「この里では今、鳥人族の人々は飛べなくなる異変に見舞われている」
「……さすがですな、マオ殿の仰る通りです」
「いったい何があったんですか?」
「……我々鳥人族は本来、上昇気流に乗って空を滑空しております」
「上昇気流?」
「簡単に言えば、上方に向かう空気の流れです。この里ではヘルマウンテンから発せられる凄まじい熱によって、定期的に上昇気流が発生しているのです」
「成る程、鳥人族には最高の場所って事ですね」
「はい、ですがそれも数ヶ月前の事……」
途端に暗い表情になるフォーグとビント。
「ある日、突然何の前触れも無く上昇気流が発生しなくなってしまったのです」
「い、いったいどうして?」
「分かりません。原因を突き止めようと、何人もの若者達がヘルマウンテンへと向かったのですが……誰一人として帰って来ないのです」
「そんな……!!?」
「このまま上昇気流が戻らなかったら、子供達は空を飛ぶという楽しさを知らずに育ってしまう。そうなれば、最早鳥人族としての尊厳は失われてしまう」
「フォーグさん……」
すると、フォーグは立ち上がって真緒達の前まで歩み寄ると、その場で土下座をする。
「ぞ、族長!!?」
「こんな事、部外者である貴殿達に頼むのは可笑しな話ですが、どうかお願いします!! この里を救っては頂けないでしょうか!!?」
「……お、俺からもお願いします!!」
族長の土下座を目の当たりにし、居ても経ってもいられないビントは、その隣で同じ様に土下座をする。
「「「「…………」」」」
その様子を見ながら、真緒達は一度顔を見合せ、そして頷き合う。既に答えは出ていた。
「フォーグさん、ビントさん、頭を上げて下さい」
「マオ殿……」
「私達で良ければ、力をお貸しします」
「おぉ……ありがとう……本当にありがとう……」
真緒の慈悲深い言葉に、フォーグとビントは涙を流しながら感謝するのであった。
ヘルマウンテン内部。流れるマグマで熱く煮えたぎる中、フォルスは奥へと歩いていた。歩く度に水蒸気が吹き上がる。最奥まで辿り着くと、そこは開けた空洞になっており、最もヘルマウンテンの熱さを実感する事が出来た。
そこまで辿り着くと、フォルスは足を止めた。すると中央で何か巨大な影がうごめいていた。その得体の知れない存在にフォルスは、少し笑みを浮かべて口を開くのであった。
「……ただいま」
フォーグの頼み事を引き受けた真緒達。
そして、フォルスが口にした言葉の意味とは!?
という所で今回はここまで!!
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