笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
温泉から上がった真緒達。火照った体を休ませていると、遅れてエジタスもロビーへとやって来た。
「あっ…………」
「…………プイ!!」
「!!!」
当然、待っていた真緒と目が合う。しかし、真緒が話し掛けるよりも先に首を真横に振って、視線を無理矢理外すエジタス。
「ど、どうしたんですか二人とも……?」
「もじがじで……何があっだだがぁ?」
もしかしなくとも、何かあった事は確実。二人の様子にさすがのリーマとハナコも気が付いた。
「いいえ~、別に何もありませんでしたよ~。ねっ、マオさん?」
「えっ、あっ、うっ……」
心配を寄せる二人に対して、エジタスは何事も無かったかの様に振る舞い、更には同じ当事者である真緒本人に同意を求めて来た。一度はエジタスの方から会話を拒否した筈なのだが、先程とは打って変わってエジタスの方から積極的に話し掛けられ、真緒は困惑を隠せない。
「ね~?」
「そ、そうですね……」
冷や汗を流し、瞬きの回数が多くなる中、それでも何とか返答する事が出来た真緒。
「それなら別に良いんですけど……」
「うーん?」
真緒とエジタスのやり取りを見て、一抹の不安を抱きながらも、本人達が何も無かったと言う以上、リーマとハナコの二人は納得する他無い。
すると、龍浴場ののれんが上がり、外からビントがロビーにやって来た。そして直ぐ様、目線の先にいる真緒達に気が付き、歩み寄って来る。
「お前ら、丁度上がった所だな。どうだ、少しは疲れが取れたんじゃないか?」
「はい、もうすっかり!!」
「お肌ヅルヅルだぁ」
ビントの言葉に元気良く答えるリーマとハナコ。その一方で……。
「た、多少は取れたかな……」
「まあまあですかね~」
見るからに疲れきった顔をしている真緒。そして仮面で表情が読み取れない上、素っ気ない態度を見せるエジタス。そんな二人にビントも不思議そうに首を傾げるが、これといって仲が良い訳でも無い為、それ以上は何も言わなかった。
「そうか、それなら良かった。ここの温泉はウチの名物でもあるからな。さてと、それじゃあ今夜泊まる場所に行く前に、もう一つの名物であるここの食事を食べて行くといい」
「やっだー!! ご飯だぁ!!」
両手を上げて、人一倍喜びを表現するハナコ。そのあまりの喜び様に、ハナコの事をよく知らないビントは、若干引いていた。
「よ、よし、食堂はこっちだ……ついて来てくれ」
「ごっはっん!! ごっはっん!!」
ビントを先頭に真緒達は、食堂へと向かう。その様子を物陰からこっそりと伺い、その後を付いていく人影があった。
***
温泉に浸かっている間、日はすっかりと沈み、本格的に夜が訪れた頃、真緒達はビントの誘いで食堂に案内され、少し遅めの夕食を取り始める。
「ガツガツ、ムシャムシヤ、ングング!!」
料理が到着するや否や、ガツガツと食べ始めるハナコ。
「(んー、マオさん……湯船で姿を見掛けなかったと思えば、ロビーで疲れきった顔をしている。それにさっきからエジタスさんの事をチラチラと眺める始末……やっぱりこの二人、何かあったんでしょうか?)」
運ばれた料理に口を付けながら、真緒とエジタスの様子が気になるリーマ。
「「…………」」
そして、料理に一切口を付けない真緒とエジタス。真緒は気まずさから、エジタスは当然仮面を付けているからなのだが、真緒には素顔を見ようとするヤラシイ奴が目の前にいるから食べようとしない。そう思ってしまっている。それによって、ますます罪悪感は強まり、余計料理を食べられなくなってしまった。
「おやおや~、どうしたんですかマオさん? 全然食べて無いじゃないですか~?」
「えっ、いや、あの……」
そうこうしていると、エジタスの方から話し掛けて来た。本日、二度目となる展開だが、 やはり困惑してしまう真緒。
「明日はヘルマウンテンの調査に向かうんですよ? そんなんじゃ、体力が持ちませんよ~」
「あ、あの……師匠……?」
「何ですか~?」
「怒ってないんですか……?」
「何がですか~?」
「そ、その……素顔を見ようとした事……」
「あ~、もう気にしてませんよ。過ぎた事をぐちぐち言うのは、キャラじゃありませんからね」
「だ、だけど……むぐっ!!?」
再び真緒が口を開いたその瞬間、エジタスが料理の一部を真緒の口に突っ込んで無理矢理黙らせる。口一杯に広がる旨味に混乱しながらも、顎を動かして噛み砕き、飲み込んだ。
「美味しいですか?」
「は、はい……美味しいです」
「うんうん、それは良かった。確り食べないと力が出ませんからね~」
「で、でも師匠は食べてないじゃないですか!?」
「ん? そんなの当たり前じゃないですか。この仮面をしている以上、食べるタイミングには細心の注意が必要なんですよ~」
「だからそれって、私が素顔を見ようとしたから……それで……」
「……はぁ~、いいですか真緒さん。私が気にしていないと言っているんですから、それを素直に受け取って下さい。逆にそうやっていつまでも引きずっているのを見るのは、許したこっちとしても不快なだけです」
「うっ……ご、ごめんなさい……」
「分かったら、食事を楽しんで下さい。私は私で好きなタイミングで食べますから」
「……はい」
エジタスに説得され、渋々食事に手を付ける真緒。人間、一度食事をし始めると夢中になってしまい、気が付けば只純粋に食事を楽しみ始めていた。
『おいしいですなー』
「うん、ここの料理が名物ってのも頷け……えっ?」
女性の声。しかし、ハナコやリーマでは無い。もっとシワがれた年寄りの声。真緒達が声のした方向に顔を向けると、そこには、全身羽の抜けた地肌が丸見えの鳥人が食事をしていた。用意されたフォークやナイフを使わず、手掴みで口にするが噛み切れないのか、数回噛み終えた後、吐き出して元の場所に戻している。
「あ、あなたは……?」
「やっぱりみんなでごはんはたのしいね……“フォル”ちゃんもたのしいかい?」
そう言いながら、謎の鳥人老婆は誰も座っていない席に向かって話し掛ける。
「えっと……おばあ……「またこんな所に来たのか!?」……ビントさん?」
真緒が話し掛けようとしたその時、ビントが大声で話し掛けながら、謎の鳥人老婆に歩み寄る。
「あぁ……“クク”さんかい、きょうはずいぶんとはやいおむかえだね」
「ククじゃない。ビントだ。それに早いって、もう夜中だぞ。また勝手に施設から抜け出して来たな。後で連絡して連れ戻して貰わないと……」
「あ、あの……ビントさん。誰なんですか、その方は?」
「あぁ、突然大声出して悪かったな。この人は“トハ”さん。族長よりも長くこの里で過ごしている古株だ」
「フォーグさんよりもですか!?」
「昔は最も腕の立つ部隊の隊長を勤めていたんだがな。今じゃ、この有り様だ」
「ククさんというのは?」
「この近くにある介護施設の鳥人だ。普段なら寝るまで付きっきりの筈なんだが……あいつまたサボりやがったな……後でとっちめてやる」
「そうだったんですか……」
時の流れというのは、いつの時代も残酷だ。そう思ってはいけないと頭で分かっていても、トハの姿を見て“可哀想”と同情してしまう。そんな中、トハが口を開く。
「すまないが、もうすこししずかにしてくれんか。いま、まごとしょくじしているんじゃ」
「トハさん……あんたまた……」
「お孫さん?」
「まだトハさんがボケる前の頃、娘と孫を事故で一度に亡くしたんだ」
「そんな……」
「生きる希望を無くし、それに伴って記憶力が落ち始め、羽もすっかり抜け落ちてしまい、今ではもう存在しない娘と孫の幻覚を見る様になった」
「ほーら、フォルちゃん。おばあちゃんのもあげるよ。たーんとおたべ」
そう言って、腕をプルプルと震わせながら、誰もいない虚空に向かって、自身が噛み捨てた料理を差し出そうとする。しかし、当然受け取る者など誰もいない為、やがて腕に限界が来て、持っていた料理を落としてしまう。
「っ!! いい加減にしてくれ、トハさん!!」
その瞬間、我慢の限界を向かえたビントは、トハの両肩を掴んで大きく揺らしながら訴える。
「あんたの孫は何処にもいない!! 死んだんだ!!」
「? なにをいっているんじゃ、そこにいるじゃないか、ねー、フォルちゃん。おかしなおにちゃんですねー」
「あんたの孫が生きてたら、俺と同い年の筈だろうが!! いい加減に目を覚ませよ!! あんたの孫は……“フォルス”はもう何処にもいないんだ!!」
「「「「!!?」」」」
ビントの言葉に、真緒達は驚きを隠せなかった。そもそも真緒達がこの里に足を踏み入れたのは、ヘルマウンテンを登る許可を得る為だけじゃない。ケンカ別れしてしまった仲間の一人である“フォルス”について、何か情報が得られるのではとやって来たのだ。だが、まさかこんな場面でフォルスの名前を聞く事になるとは、夢にも思わなかった。
「ちょ、そ、その人の事を詳しく聞かせて貰えませんか!!?」
「い、いきなりどうした?」
「私達、フォルスさんの仲間なんです!!」
「…………はぁ?」
フォルスは死んでいた!?
いったい何があったのか、次回フォルスに秘められた過去が明らかとなる!!
次回もお楽しみに!!
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