笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~   作:マーキ・ヘイト

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回想への導入が長くなり、前編後編と分ける事にしました。


英雄の墜落(前編)

 期待こそしていたものの、まさかこうも簡単にフォルスの名前が挙がるとは思わなかった真緒達。その一方で、余所者である真緒達からフォルスの名前を聞く事になるとは思わなかった。ましてや、仲間だという事に驚きを隠せなかった。

 

 「……それで? お前の仲間であるフォルスと、トハさんの孫であるフォルスは同一人物なのか?」

 

 しかし、ビントもおいそれと信じる訳にもいかない。トハの隣に座り、真緒達に疑いの眼差しを送りながら問い詰める。

 

 「それは……正直に言うと分かりません。けど、同じ鳥人族で同じ名前をしていて、ビントさんとも近い年齢……逆にこれで無関係だと思えますか?」

 

 真緒達もビントが挙げたフォルスと、自分達が知っているフォルスが同じ人物かどうかまでは、確信が持てない。だが、これを只の偶然として収めてしまうのは、あまりにも出来すぎている。

 

 「……確かに俺達鳥人族がここを離れて、他の村や街に行く事は滅多に無い。俺が知っているだけでも、里を離れたのは数えるだけだ。勿論、その中にフォルスという名前の鳥人はいない」

 

 「それなら……「但し」……?」

 

 パッと明るい表情を浮かべる真緒達だったが、途中で言葉を遮られてしまった。それも否定的な言葉で。

 

 「お前達が嘘を付いていなければの話だがな」

 

 「オラ達、嘘なんが付いでねぇだぁ!!」

 

 「そうですよ!! 大体、私達がフォルスさんの事を騙って、何の得があると言うんですか!!?」

 

 「そんなの俺の知った事じゃない」

 

 「そんな言い方……!!「リーマ、もういいよ」……マオさん……」

 

 ビントの態度に腹を立てるリーマ。突っ掛かろうとするも、真緒に止められる。冷静な真緒の表情を見て、何とか怒りを静める。そして、リーマの代わりに真緒が口を開く。

 

 「ビントさん、私達は誓って嘘なんて付いていません」

 

 「ほぅ、それならどうしてフォルスはこの場にいない? お前達の仲間ならいる筈じゃないのか?」

 

 「それは……」

 

 ビントの最もな疑問に口ごもる真緒。言うべきかどうか思い悩んでいると……。

 

 「いや~、それがフォルスさん、いざ行こうとしたら急に駄々をコネ始めましてね~。マオさん達が必死に説得したんですけど、結局最後はケンカ別れしてしまったんですよ~」

 

 「師匠……」

 

 真緒のピンチに助け船を出したのはエジタスだった。飄々とした様子で淡々と語る彼の姿に真緒達は、心の中で感謝した。

 

 「……そんなメチャクチャな話を信じろと?」

 

 だが、ビントの方はそれでも疑っていた。寧ろ、仮面を被っているエジタスが答えた分、余計に疑いを強くしている様子だった。

 

 「別に信じなくても結構ですよ。私達だって、あなたの話をこれっぽっちも信じていませんからね~」

 

 「何だと……?」

 

 「ちょ、ちょっとエジタスさん。そんな言い方して良いんですか?」

 

 「まぁまぁ、リーマさん。その内分かりますから」

 

 下手をすれば、ここで会話が終わってしまうかもしれない。そんな状況に対して焦る真緒達を他所に、エジタスは余裕の態度を示していた。そんな中、ビントは少し考える素振りを見せると、ゆっくりと口を開いた。

 

 「いいだろう。一先ず、お前達の話を信じる事にしよう」

 

 「「!!!」」

 

 「本当ですか!?」

 

 「全く末恐ろしい奴だな。まさか選択権を全て俺に委ねるとは……何も考えていないのか……それとも……」

 

 チラリとエジタスを見るビント。しかし、エジタスはもう興味が薄れてしまったのか、何処か上の空であった。

 

 「さて……まず話しておくべき事がある。お前達の話を信じるとは言ったが、正直俺はお前達のフォルスと俺が知っているフォルスが同一人物だとは毛程も思ってはいない」

 

 「ど、どうしてですか!?」

 

 「何故なら……俺が知っているフォルスっていうのは、もう既に“この世にいない”からだ」

 

 「「「!!?」」」

 

 予想だにしなかったビントの言葉に、真緒達は理解が追い付かなかった。それでも向こうはお構いなしに話を続ける。

 

 「もっと言えば、俺はフォルスという名前は知っているが、一度も見た事が無い」

 

 「はっ、えっ? ど、どういう事ですか?」

 

 最早、言っている事がメチャクチャで、真緒達も聞き返す事しか出来なかった。

 

 「俺もフォーグ族長から話を聞いただけなんだ。だから最初から話そう……あれは俺が生まれた頃の話。まだこのトハさんが、鳥人族の最上級指揮官だった時の事だ」

 

 「「「……って、えぇええええええええええええええええ!!?」」」

 

 これからビントによる回想に入る直前、どうしても聞き逃せないワードに真緒達は驚きのあまり大声を出してしまう。

 

 「何だいきなり騒々しい」

 

 「いや、えっ!? トハさんが最上級指揮官? 本当なんですか!?」

 

 「あぁ、今の姿からは想像も付かないだろうが、当時トハさんは“神速のトハ”と呼ばれる程、里の英雄だったらしい」

 

 「“神速のトハ”……」

 

 「フォルちゃん、たくさんたべれてえらいわねー」

 

 何とも中二病チックなネーミングだが、トハの姿を見たらとてもじゃないが信じられない。今も誰もいない空間に話し掛け、頭を撫でる様な仕草をしている。

 

 「……話を戻すぞ。まだトハさんが現役だった頃、里ではちょっとした事件が起こっていたんだ…………」

 

 

 

***

 

 

 

 何でも里内で窃盗事件が多発していたらしい。痕跡は一切無く、目撃者もいない。唯一分かっていたのは、犯行は夜中行われているという事だった。

 

 盗まれる物は様々で衣服や金品、食べ物や本など見境が無かった。住民達も不安と恐ろしさで夜も寝れずにいた。このままじゃ、里は滅びてしまうと考えたフォーグ族長は、最上級指揮官であるトハさんに部隊を率いて、盗人の討伐を命じた。

 

 「いいかい、あんた達!! ここ最近の窃盗はますますエスカレートして来ている。あたし達が迅速に捕まえるかどうかで、里の命運は分かれるんだ。肝に命じておきな!!」

 

 「「「「「はい!!」」」」」

 

 トハの言葉に部隊一同が声を張り上げて返事をする。そんな中、空から一人の女性鳥人がトハの側に降り立った。そのクチバシには布が咥えられており、中では何かが蠢いているのが分かった。

 

 「張り切っているわね、“お母さん”」

 

 「おや、“ミズク”かい。急に来て、どうしたの?」

 

 「これから買い物なんだけど、お母さんの姿が見えてね。それに“この子”も会いたがっていると思って……」

 

 ミズクと呼ばれる鳥人は、トハの娘であった。彼女は母親であるトハに会うと、クチバシに咥えられていた袋の中身を見せる。そこには大きな“卵”が入っており、よく見れば微かに動いているのが分かった。

 

 「買い物って、今里は盗人のせいで大混乱しているんだよ。もうすぐ夜なのに家を空けるだなんて、あんたは能天気というかなんというか……もうちょっと危機感を持ったらどうなの?」

 

 「でも……買い物しないと今晩の食事に困っちゃうわ」

 

 「昼間たっぷり時間があったでしょ。その子の安全を考えるのなら、もう少し早めに行動を起こしなさい。起こってからじゃ、遅いのよ」

 

 「分かったわ。それと、その子じゃなくて“フォルス”よ」

 

 「おや、名前が決まったのかい。フォルスね……いい名前じゃないか」

 

 「でしょ。元気に生まれて来てね、フォルちゃん」

 

 「フォルちゃんって……あなたね。あだ名で呼ぶのは止めておくれ。虫酸が走るわ」

 

 「フンだ。どう呼ぼうが私の勝手でしょ。全く意地悪なお婆ちゃんですねー」

 

 まだ生まれてすらいない卵に向かって、話し掛けるミズク。トハは呆れた様子で見つめる。

 

 「それはそうと、あんた夕食の買い出しに向かってるんじゃなかったのかい」

 

 「あっ、そうだった!! ごめん、お婆ちゃん。私もう行くね、また後で」

 

 「気を付けるんだよ。いつ盗人が現れる分からないんだからね」

 

 「分かってるって」

 そう言うとミズクは羽を羽ばたかせ、大空へと飛び上がる。

 

 「それともし盗人らしき奴を見掛けたら、急いであたしか部隊の連中に知らせるんだよ!!」

 

 「分かってるって!!」

 

 

 同じ返事を返しながら、ミズクはその場を離れていった。その後ろ姿を最後まで見届けるトハ。そして再び部隊の方へと顔を向ける。

 

 「何、ボーッとしているんだい!! あたし達もとっとと出動するよ!!」

 

 「「「「「は、はい!!」」」」」

 

 凄まじい剣幕に部隊は、慌てて返事をすると一斉に羽を羽ばたかせ、その場から飛び立つ。

 

 そのままミズクが飛んで行った方角とは逆方向へと進んでいくトハ達。そしてこれが、親子の最後の別れになるとも知らずに…………。




二人の間にいったい何が!!?
という所で今回はここまで!!
次回もお楽しみに!!
面白ければ評価や感想、お気に入りもよろしくお願いします。
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