笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~ 作:マーキ・ヘイト
気長に待って頂けると幸いです。
「……と、まぁ俺が聞いたのはこんな所だな」
「「「…………」」」
ビントの話を聞いて、真緒達はその重た過ぎる話に思わず絶句していた。その一方でエジタスは、途中で話に飽きてしまったのか。トハと一緒にあやとりで遊んでいた。
「トハさんにそんな過去が……」
真緒がチラリと、トハの方に目を向けるも、当の本人はエジタスが作ったあやとりでのホウキに手を叩きながら、“キャッキャッ”と喜んでいた。
「俺も初めて聞いた時は驚いた。俺が知っているトハさんは、見ての通りだからな。それが里の英雄とまで呼ばれていたんだから、見た目だけじゃ分からないよな」
「で、でもその話が本当だとすると……」
話を聞き終えた真緒達は、ハッと気が付いた。現在、この里にフォルスという名前の鳥人はいない。そして、過去遡っても該当するのはたった一人だけ。更にその一人は生まれる前に殺されてしまった。つまり、トハの孫であるフォルスと真緒達が知っているフォルスは、全くの別人となる。
「そういう事だ。まさか死人が蘇った訳でもあるまい。お前達の言うフォルスと、俺達が知っているフォルスは赤の他人だ」
「それじゃあ、私達が今まで一緒に旅して来たフォルスさんは、いったい何者なんですか?」
「そう、それこそが一番の謎だ。昔、この里を追放された奴の子孫と考えられなくもないが、まずあり得ないな」
「どうしてですか?」
「一番新しい追放者でも、フォーグ族長が族長に就任する前……つまりざっと計算しても百年以上前の話なんだ」
「えっ、でも子孫という話なら充分可能性が……」
「生物学上、俺達鳥人族は同じ鳥人族じゃないと子供は作れない。そして、過去この里から追放されたのは全員“男”だった」
「な、成る程……確かにそれではフォルスさんが誰かの子孫とは、考えにくいですね」
「あぁ、勿論世界中を隈無く探せば俺達以外の鳥人族も見つかりはするかもしれない。だが、そんなかもしれないを考えていたら、いつまで経っても答えに辿り着けないからな」
「確かに……でも、そうなるとますますあのフォルスさんについて、謎が深まるばかりです」
フォルスの名前が上がり、一筋の光明が差し込んだと思われたが、結果は余計に混乱を招いただけだった。
皆の疑問が膨れ上がる一方、それまでトハと夢中であやとりをしていたエジタスが真緒達の方には一切向かず、指を動かしながら口を開く。
「別に良いんじゃないですか~?」
「師匠?」
「フォルスさんが何者だろうと、別にどうでも良いんじゃないですか?」
「あんた……エジタスとか言ったな。部外者である俺が言うのもなんだが、今まで得たいの知れない奴が側にいたかと思えば、気になるのは当然の事だ」
「いや~、本当に“部外者が言うのもなんだが”ですね~。無関係な人はお口チャックして貰えますか~?」
「何だと?」
エジタスの挑発とも取れる言葉にカチンと来たビント。椅子から立ち上がり、今にも殴り掛かりそうな勢いだ。
「てめぇ……もういっぺん言ってみろ!!」
「ちょ、ちょっとビントさん落ち着いて下さい!! 師匠もそんな言い方はあんまりです!!」
「そうでしょうか~? ついさっきまで私達の話を信じてないだなんだと言ってた癖に、急に仲間面し始めてるんですよ? ちょっと遠慮が無さ過ぎると思うんですよね~?」
「黙って聞いてれば好き勝手言いやがって!! 俺はお前らが困っているから、少しでも何かの助けになると思って、わざわざ昔の話まで持ち出したんだぞ!!?」
「持ち出したって……別にあなたが体験した事じゃ無いですよね? あくまでフォーグ族長から聞いただけですよね? そんな伝言ゲームでどや顔されても、説得力が無いと言うか……そもそもその話自体が本当かどうか怪しい限りですよ」
「っ!!!」
この言葉にビントの堪忍袋の緒が切れる。真緒達の制止を振り切り、エジタスの胸ぐらを掴みに掛かろうとする。が…………。
「ほいっと!!」
「なっ!!?」
掴まれそうになった瞬間、エジタスは指をパチンと鳴らし、その場から一瞬で姿を消して見せた。そして気が付くと、ビントの背後に現れていた。
「こっちですよ~」
「このっ!!」
トントンと、エジタスがビントの肩を叩き、存在を気付かせるとビントは慌てて振り返りながら、エジタス目掛けて裏拳を食らわせようとする。
「あらよっと!!」
「がっ!!?」
しかし、その攻撃を予測していたエジタスは難なく避けて見せ、更に振り返る事で乱れたビントの軸足目掛けて、ローキックをかました。それにより完全にバランスを崩したビントは、そのまま崩れる様に床に倒れ込んでしまう。
「ちょ!!? 師匠、何をしているんですか!!?」
エジタスの暴挙に、さすがの真緒も声を荒げながらエジタスに詰め寄る。ハナコとリーマの二人も、信じられないという表情を浮かべていた。
「いやいや~、急に襲われたものですから、ついつい自分の身を守ってしまいましたよ~」
「それは師匠がビントさんに、失礼な態度を取ったからじゃないですか!!? ビントさん、大丈夫ですか!!? お怪我はありませんか!!?」
だが、エジタスは悪びれる事も無くあくまでも“正当防衛”を主張した。そんなエジタスに何を言っても無駄だと感じながら、真緒は起き上がろうとしているビントの側へと駆け寄り、安否を確認する。
「ったく……せっかく人が親切で教えてやったって言うのに……お前らがそういう態度を取るのならもういい。勝手にやってくれ!!」
怪我こそして無かったが、エジタスの言動に腹を立てたビントは、介抱しようとする真緒の手を振り払って立ち上がる。
「あ、あのビントさん……」
「お前ら、あんな奴とはさっさと縁を切るんだな。ほら、トハさんもう行きましょう。あなたを施設に戻さないと」
「いまねー、フォルちゃんとあやとりしてたのよ」
「はいはい、良かったですね。続きは後で聞きますから、ほら早く行きますよ」
楽しそうに話すトハを急かし、ビントはトハを連れてその場から去ってしまうのであった。
「「「…………」」」
残された真緒達は、しばらく放心状態で固まっていた。そんな中、エジタスだけはまるで無関係かの様に、赤青黄の三色ボールをお手玉の要領で、くるくると回転させて遊んでいた。
「師匠!! 何であんな酷い事を言ったんですか!!?」
「よっ、ほっ、はっ、そっ、もっ」
当然、真緒達はエジタスに理由を問い詰める。が、当の本人はのらりくらりとした様子で、お手玉に夢中だった。
「師匠!! 答えて下さい!!」
「…………」
真緒の怒鳴り声にビックリしたのか、エジタスは体をビクッと震わせ、その衝撃で三色ボールは一斉に空中に舞い上がり、そして重力に従って落ちて来るも、そこはエジタスが器用に全てキャッチして見せた。
「……はぁ~、もう仕方ありませんね。いちいち説明しないと納得しないんですから~」
そう言いながらエジタスは、指をパチンと鳴らしたかと思うと、持っていた三色ボールを一瞬にして消して見せた。そして、改めて真緒達の方を振り向く。
「よろしいですか。私達の最大の目標は脱退してしまったフォルスさんを再びパーティーに迎え入れる事です」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「そして、フォルスさんが脱退した理由がこの里に隠されているのではないかと考えた」
「はい、だからこそフォルスさんの身に何があったのか、調べようとしたんじゃないですか」
「そう、ですが結局分かったのはこの里には昔、フォルスさんと同じ名前の鳥人がいたという事だけ。更にそのフォルスさんは、生まれる前に亡くなってしまっている」
「そうです。もしそれが本当だったら、私達が今まで旅して来たフォルスさんは何者なのか……「そこですよ」……えっ?」
「何故、フォルスさんが何者か知ろうとするんですか?」
「いや、だって……ね?」
分かりきっている答えに、質問の意図が分からず、真緒は困った様子でハナコとリーマに助けを求めた。
「フォルスさんの事をよく知れば、戻って来てくれるかもしれないじゃないですか?」
「ぞうだぁ、考えでみればオラ達フォルスざんの事を何も知らながっだだぁ」
「いやいや、ですから何故そんな事を知ろうとしているんですか?」
「「「……?」」」
エジタスの言っている意味が理解出来ず、三人は首を傾げる。
「……では、ハッキリさせましょう。あなた達はフォルスさんを連れ戻したいんですか? それともフォルスさんの過去をほじくり返したいんですか?」
「い、いやですから、過去を知った上でフォルスさんを連れ戻そうと……」
「そこが私にはいまいち理解出来ない所なんですよね~」
「ど、どう言う意味ですか?」
「どうして過去を知れば、フォルスさんが戻って来ると思っているんですか~? 恐らくですがフォルスさんは、私達に過去を知られるのを恐れて、パーティーを脱退したんだと思うんですよ」
「そ、それはそうかもしれませんけど……だ、だからこそフォルスさんの過去を知って、より信頼した仲に……」
「それでもし、フォルスさんが冷酷な殺人鬼だったら、もう一度仲間にしようと思いますか?」
「いや、まだそうと決まった訳じゃ……」
「けど、そうじゃないと決まった訳じゃない。仮に殺人鬼じゃなかったとしても、何か犯罪に手を染めていたら? それでもマオさん達は、フォルスさんを仲間にしたいですか?」
「そうだとしても、きっと何か事情が……」
「その事情が無かったら? 只単に自身の快楽の為に行っていたとしたら? そんな相手をマオさん達は、心から信頼する事が出来るんですか?」
「…………」
遂には押し黙ってしまった真緒。そんな彼女の様子にハナコとリーマが話に割って入る。
「ちょっとエジタスさん!! さっきから何なんですか!!? マオさんを責めて!!」
「ぞうだぁ!! マオぢゃんは何も悪ぐねぇだぁ!! フォルスざんの為に一生懸命なだけだぁ!!」
「別に責めている訳じゃありませんよ。只、こうした考え方もあるのではないかと、お話ししているだけです」
「それでも!! マオさんの意見を否定する理由にはなりません!!」
「ぞうだぁ!! マオぢゃんは、何も間違っでいないだぁ!!」
「確かに何も間違ってはいません。マオさんの仲間を想う心は素晴らしいです」
「だったら……「ですが」……?」
「それなら尚更、過去を調べるべきでは無いと思いますよ」
「ど、どうしてですか?」
「マオさん……」
「マオぢゃん……」
ハナコとリーマの助けを借りながら、何とか気持ちを持ち直した真緒。エジタスの言葉の意味を理解しようと、再び問い掛ける。
「フォルスさんは、私達に過去を知られたくないが故に脱退しました。つまり、相当後ろめたい事があったのでしょう。もし、その過去を私達が掘り返せば、口にこそ出さずともお互いその事が脳裏にチラついて、前の様な関係には戻れず、何処か一歩引いた関係になってしまうでしょう」
「た、確かにそうなってしまうかもしれません。で、でも……それでも私はフォルスさんの過去を知って、また仲間に……」
「マオさん、あなたは過去のあれこれで、人柄を判断するつもりですか?」
「!!!」
「例え過去に何があったにせよ、大切なのは今じゃないでしょうか? 本人が話したくないのを他人である私達が勝手に暴くのは、“信頼”ではなく“疑い”です。自分の理想とする人物像が崩れない様にしているだけ。マオさん達がやっているのは、フォルスさんの為などでは無く自分自身が安心したいだけです」
「「「…………」」」
「もし、本当にフォルスさんの事を信頼しているのだったら、本人が話したくなるまで待つのが正しいのではないですか?」
「「「…………」」」
エジタスの言う通りだった。フォルスの過去を知ろうとするあまり、フォルス自身の事を考えていなかった。自分達の浅はかさに、何も言い返せなかった。
「……とは言っても、まずはフォルスさんを連れ戻さないと何も始まらないんですけどね~」
「師匠……私……」
「マオさん、あなたは何も間違った事はしていません。只、ちょっと先走ってしまっただけ……急にフォルスさんが脱退して、早く連れ戻さなきゃと責任感に駆られていただけですよ」
「私……フォルスさんを信じます。その為にも、一刻も早くフォルスさんをパーティーに復帰させて見せます!!」
「その意気ですよ!! だけど、明日はヘルマウンテンの調査ですからね。今日はゆっくりと休むとしましょう」
「「「はい!!」」」
決意を新たに。真緒達はフォルスと再びパーティーを組む為に、まず目先の物事を片付ける事にするのであった。
真夜中。皆が寝静まった頃、エジタスは屋根の上からヘルマウンテンをじっと見つめていた。
「……くっ……くっくっくくく……本人が話したくなるまで待つのが正しい……か。“お前”にしては、随分と綺麗事をほざくじゃないか。いや、綺麗事だからこそ簡単に口から出るのか」
ぶつぶつと独り言を喋り始めるエジタス。
「さてさて、明日はいったい何が起こるのか楽しみですね~」
次回、ヘルマウンテンに突入!! そこで真緒達が見た物とは!?
という所で、今回はここまで!!
次回もお楽しみに!!
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