オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第十七章 謝罪

「何点減点かしら? 最高記録を狙えると思うのよね」

「君、やっぱりそう言うのを楽しんでるんじゃないか。良くないよ。オスカーだって不安になるかもしれないし」

「大丈夫じゃないかな? クラーナは監督生をボコボコにしたみたいだし、一月半くらい寮に戻らないのといい勝負だと思うけど」

「うるさいですね。それよりマクゴナガル先生が外泊を許してた事を私は聞きたいですよ。絶対いつものマクゴナガル先生じゃありませんでした」

 

 後ろから四人の声と足音を聞きながら歩く。こんな夕暮れのホグワーツはオスカーが見たことの無いホグワーツだった。ハロウィーンの夜にトンクスと見たホグワーツとも、一人でグリフィンドール寮と教室を行き来する時のホグワーツとも違う気がするのだ。

 

「こっちであってますよね? ドロホフ…… じゃない、オスカーは喋りませんけど緊張しているんですか?」

「いや。なんか…… 一人で歩いてるホグワーツとみんなで歩いてるといつものホグワーツと違う感じがするって言うか……」

「オスカーってそんな名前してるくせにおとぎ話のお姫様みたいなこと言うわよね」

「だから君はちょっと失礼だよ。男の子にお姫様とか普通言わないものじゃないかい?」

「クラーナはマクゴナガル先生の部屋は良く知ってると思ってたけどなあ」

 

 マクゴナガル先生の部屋は三階にある。オスカーはトンクスと一緒にいつもこの部屋には近づかないようにしていた。ということは部屋の場所を良く知っているという事でもある。チャーリーの言う通り、なによりクラーナが窓に激突したので忘れようも無かった。

 

「あの部屋だ。ふくろうが手紙を持って出てきたからいるみたいだ」

「あれでしょ? ホグワーツに入る前からの顔見知りの私以外はオスカーの事喋っちゃいけないってことでしょ?」

「そういう事じゃないよ。君、誰でもからかわないと気がすまないのかい?」

「チャーリー、うるさいですよ。箒をアクシオして欲しいんですか? あとそこの二人はしつこいですし、うるさいですよ」

「部屋が遠ざかるまでは黙っておくよ。イエス・サーだ」

 

 こんこんとオスカーが扉を叩くといきなり扉が開いた。顔を上げるとマクゴナガル先生のいつもと変わらない厳格な顔がある。

 

「箒がどうと聞こえましたが? ミスター・ドロホフ。何のようですか? ずいぶん大所帯のようですが?」

「先生、私とオスカー……」

「マクゴナガル先生。寮から飛び出したことと先生に暴言を吐いたことを謝りたいんです」

 

 マクゴナガル先生はオスカーとクラーナに交互に何度か視線をやり、後ろのメンバーの顔を見て不思議な顔をした。怒っているとも喜んでいるとも言えない顔だ。オスカーはなんだか先生の顔の後ろで表情が何度も変わっているような気がした。

 

「分かりました。お入りなさい。右に来客用のソファーがあります。そちらにお座りなさい。書類を仕上げたら私もそちらに行きます。お茶を飲んでいると良いでしょう」

 

 ポットとティーカップがすでにテーブルの上でカチャカチャ音を立てながらオスカー達が座るのを待っている。五人はぞろぞろソファーに向かったがオスカーは歩いている途中でやるじゃないと言われてトンクスに肩を叩かれた。

 

「ねー。絶対マクゴナガル先生にっこりしそうになったのを我慢してたわよ」

「怒る方の間違いじゃないですか?」

「我慢していたのは本当だと私も思うけれど」

「怒られる時って怒られている時より怒られる前の方が嫌だなあ。ママが爆発するって分かってて家に戻る時と同じ感じだ」

 

 みんなは適当な事を言っていたがオスカーはやっぱり緊張してはいなかった。何故か自分で考えれば、自分が納得しているからではないのか? そう思った。

 

「さて。お待たせしました。ミスター・ドロホフ。ミス・ムーディ、ミスター・ウィーズリー、ミス・トンクス、ミス・グヴィン。ハロウィーンからずいぶん時間が経ちましたが、どうにもこの件は私の負けのようですね」

「はーい。マクゴナガル先生、質問です。オスカーが謝るって言ってるのに負けって何ですか?」

 

 ニヤニヤしながらトンクスがそう言った。他のみんなはポカンと言う顔だ。もちろんオスカーもそうだった。誰と誰が勝負していたのだろう?

 

「ミス・トンクス。はーいではありません。はい。です。ハロウィーンの夜。外出禁止の時間に外出していましたね。ハッフルパフは五十点減点としたいところですが、スプラウト先生からすでにその件で減点しているとお聞きしています。私と先生方の話を盗み聞きした上でミスター・ドロホフを探しに行ったのでしょう?」

「じゃあやっぱり勝負ってマクゴナガル先生とダンブルドア先生ってことなわけ…… わけですか?」

「校長先生は私はミスター・ドロホフとしばらく距離を置いて欲しいと言われました。二ヶ月もあれば寒くなりますからグリフィンドール談話室の暖炉が恋しくなり、自然と解決するだろうとおっしゃっていましたが、どうも暖炉が恋しくなったわけではないようですね」

 

 トンクス以外のみんなは顔を見合わせた。なぜダンブルドア先生はオスカーの事でマクゴナガル先生にそんな事を言ったのだろう? オスカーは全く思いつかなかった。

 

「はい。先生。理由を言って、謝ることを許して下さいますか?」

「もちろん、内容にもよりますが」

「はい。ハロウィーンの夜。僕はわざと三人の先輩からみんなの目の前で攻撃されるように仕組みました。その上で先に杖を振った三人に呪文を撃って、正当に相手を叩きのめしたように見えるようにしました。その後、僕を叱ったマクゴナガル先生に暴言を吐き、グリフィンドール寮の窓から飛び降りました。外出禁止の時間を守りませんでした。それから一か月半の間、グリフィンドール寮には戻りませんでした。僕が謝りたいのは今言った事です」

 

 マクゴナガル先生はオスカーの方をしげしげと眺めていた。オスカーは良くこんな顔をされることがあった。シラやキングズリーに始まってマクゴナガル先生もそうなのだ。そんなにおかしなことを言っているのだろうか?

 

「どうして謝りたいのですか? 貴方は自分が納得しなければ謝ることをしないでしょう。あの夜、ダンブルドア先生がおっしゃったように。あの場で私がいくら貴方を叱責しても貴方の心には届かなかったと思いますが」

「はい。僕は…… そのようは…… えーっと……」

「どうしましたか? さっきまでのようにはっきり喋れないのですか? 私は少なくとも半世紀近い教師生活の中で、教え子に自分からこうもはっきり謝りたいと言われたことがありません。同時に自ら謝りたいと言った教え子が言う事を笑うようなことはしません。ですからはっきり思った事を言えばいいのです。貴方はそれくらいのことは分かる脳みそを持っていると思いますが」

 

 オスカーはどうもクラーナといい、マクゴナガル先生といい。どうしてこうなるのか分からなかった。嫌いだと思った人の方が他の人より自分の事を知っているのだ。でもオスカーはクラーナの時と同じで感じた事を頭で考えて口まで出てくるのに時間がかかっていた。

 

「ようは…… その……」

「ですからはっきりと……」

「マクゴナガル先生。どうして待ってくれないんですか? オスカーじゃなくて他の同級生だったら時間をくれますよね? 授業でそうしているみたいに。私も他のみんなもオスカーもまだ一年生です。そういう事を私は言い訳したくないですけど。さっきオスカーが謝った時みたいにいきなり一杯言える方がおかしいんです。マクゴナガル先生は私やみんなより年上でずっと賢いのにどうしてそれが分からないんですか? あ…… ごめんなさい。言いすぎました。その…… だから…… 私……」

 

 クラーナがそう言ったのを聞くとマクゴナガル先生はまたオスカーが見たことの無い表情をした。どうも怒っているようなのだが、それはオスカーや他のみんなに向けられていない気がしたのだ。そしてクラーナに何か言うと思ったら、眉を寄せて、口をキュッと寄せると傍にあった紅茶に砂糖をドバドバ入れて一気に飲み干した。

 

「ミス・ムーディ。グリフィンドールに十点加点します」

「え……? 加点ですか?」

「はい。貴方やミスター・ドロホフと話していると、どうしても私は貴女達の頭脳や杖腕と同じものを他の事にも求めてしまうようです。私に人並み以上の変身術の技能があったとして、同じように占い学の技能があるとは限りません。これは同じことですね。よく指摘してくれました」

 

 思わずオスカーはクラーナと顔を見合わせた。これは先生が謝っているのだ。マクゴナガル先生が謝っている。二人には結構な衝撃だった。

 

「それにしてもミス・ムーディ。貴方はお姉さまと随分性格が違うようですね。貴方の顔を見ないで話したのであれば貴女が私の教え子のイライザの妹だと気づかないでしょう」

「え? あ、えっと。そう…… そうですか……」

「ミスター・ドロホフ。言葉はまとまりましたか?」

 

 クラーナが言った事は何だかトンクスやシラが喧嘩していた事とも似ている気もした。それにマクゴナガル先生は言葉はどうかと言ったのだ。オスカーは順番に感じていた気がすることを言おうと思った。

 

「僕は怒っていました。怒っていたのは最初は三人の先輩達だと思っていたんです。あの三人はある朝に僕の父親や母親に関する事を言ってきました。魔法省の高官の親族がいる事で偉ぶっている事も気に入らなかったし、ボスみたいに僕に指図しようとしている事や、母親の姓を名乗れだとか言うのも気に入りませんでした。それに上級生のくせに複数人じゃないと僕にすら言えないことも、職員のテーブルをチラチラ見て気にしているのも。だから大広間のテーブルに体中をくっつけて動けなくしました」

「永久粘着呪文の方が良かったんじゃないかしら?」

「すぐ君はそんな事を言うじゃ無いか。そういうのが良くないよ」

「ミスター・ドロホフ。続けて」

 

 でも全部言うのは現実的では無かった。何故ならまだ分からない事だってあるからだった。分からない事は喋れないのだ。自分の中で起きている事なのに。

 

「でもしばらくは三人に怒っていることは忘れていました。母親が苗字を三人が言った通りに旧の苗字に戻したからです。理由は僕に問題無く今の家の色んなものを相続させるためだと聞きました。それについて考えている間に三人の嫌がらせが始まりました。つまり、僕の物を隠したり、廊下の備品や肖像画を壊して僕がやったと言ったり、一年生の他の寮の女の子に僕の名前で手紙を送るとかそういう事です」

「何で言わないんですか? 言えばいいじゃないですか」

「僕だったら他の人にそんなこと言わないけど。男子はみんなそうだと思うよ」

「そんなの馬鹿ですよ。馬鹿には馬鹿って言わないといけないんです」

「ミス・ムーディ。口が悪いですよ。続けて」

 

 確かにクラーナの言う通り馬鹿かもしれなかった。でもその時はクラーナやチャーリーはもちろん、トンクスとも喋る仲では無かったし、シラにオスカーはそんな事言いたくなかったのだ。

 

「僕のふくろうはローガンと言います。ある日、ローガンは手紙を奪われたみたいで毛が逆立って帰ってきました。それでローガンにお願いしていた手紙が談話室に貼られていました。だからローガンは家に帰って貰う事にしました。でもそれはあんまり良くなかった。ローガンがいないと家と手紙のやり取りができないし、シラからの手紙はローガンじゃなくてシラのふくろうのユーリアが運んでくるから。シラからユーリアが羽をケガをしてハグリッドに診て貰っていると聞いて、僕は最初に怒った時よりずっと自分が怒っていると分かりました。それは何故なのか、僕には分かっていました。二羽のふくろうが危なくなることくらい僕なら分かったはずだと思ったからです。僕は自分ができることを出来なかった」

「その三人の腕もふくろうの羽みたいにすれば良かったのよ」

「続けて。ミスター・ドロホフ」

 

 マクゴナガル先生の顔は変わらなかった。どういう反応をするのかオスカーには分からなかったがトンクスやクラーナのようにマクゴナガル先生にも思っていたことを言ってみようと思っていた。

 

「怒っていると分かると、三人だけじゃ無くて、色んな事が嫌になったんです。つまり、僕の周りの事全部です。苗字を変えたのに何も言わない母親も、勝手に家に来て保護者面をしている闇祓いも、いっつも僕に突っかかって悪口を言う同級生も、僕の事を無視して嫌がらせを知ってるくせに何もしないグリフィンドール生も、そういう事を止めないといけないはずの先生も全部です。それで僕はハロウィーンの夜の事をしました。先輩三人の面子をこれまでにないくらいみんなの前で貶めて、マクゴナガル先生と寮生みんなに文句を言って、寮から飛び出しました。全部気に入らないからです」

「なるほど。分かりました。それでなぜ謝る気になったのですか?」

 

 ちょっとクラーナの事を言うと隣でビクッとなったがまだ大丈夫そうだった。そしてマクゴナガル先生の顔は変わらないと思っていたのだが何だかオスカーは厳格な顔のままなのに興味深そうにこっちを見ている気がしてきたのだ。

 

「寮を出てトンクスと会いました。それで…… その。ようは僕は大人が良く言うように、考え方が子供だったんじゃないかと思いました。一人じゃ無くてトンクスと一緒にいて、ちょっと考える事が出来て、チャーリーと喋れるようになりました。その後、シラと喧嘩してしまって、クラーナとも喧嘩しました。それで分かったのは話さないと何も分からないって事でした」

「何も、とは何ですか?」

「トンクスは薬草学で一緒で、チャーリーはルームメイト、クラーナはいつも授業で一緒で、シラとは前から話すけど喧嘩になるような事は話したことは無くて、だから、つまり、話さないと相手の事も自分も事も分からないって事です」

 

 さっきよりマクゴナガル先生の鼻息が荒い気がしたがやっぱり怒っているわけでは無いようだ。怒っているならこんなつらつらオスカーに話させないだろうし、途中で止めると思うのだ。

 

「先輩は別として、僕が後、怒っていたのはグリフィンドール生とマクゴナガル先生です。なんで怒っていたのかは、クラーナが箒から落ちた時もそうなんですけど。勇気だとか騎士道だとか言うのに、ファッジや他の二人がやっていることを、僕より前の、他の人間に似たことをしているのに何も言わないという事です。それに僕以外にも危害が出ているのにです。僕はそれが気に入らなかった。あとは……」

「あとは何ですか?」

 

 そうまで言ってもマクゴナガル先生の顔色は変わらなかった。聞いてくれるというのは本気で言っていたのだ。他の先生だったら聞いてくれるのだろうか? 多分、そうでは無いだろう。

 

「マクゴナガル先生は最初の授業で質問にきちんと答えてくれました。まだホグワーツに来てそんなになっていないけど。同じようにノートを取ることについて答えてくれる先生はあんまりいないと思います。なのに…… 何て言えばいいのか…… 話を聞かないのは僕もそうだけど。ハロウィーンの夜、とにかく怒られて腹が立ったんです。でも、話さないと分からないし、それとは別に先生に暴言を吐いたことやいくつものルールを破った事は謝らないといけないと思ったんです。それに…… 僕は同じ事を何度も間違えるのは嫌だから」

 

 ふんと大きくマクゴナガル先生は鼻で息をしたかと思うと突然姿が変わった。気づけば先生が座っていた椅子に先生の眼鏡と同じ模様が目元にあるトラ猫が座っていた。トラ猫は大きくニャオーンと鳴くとあっという間に元のマクゴナガル先生に戻った。

 

「姉さんが言ってました。マクゴナガル先生はアニメーガスだって」

「アニメーガスってモーガンやクリオドナが使っていたって言う能力じゃ無いか」

「失礼。ミス・ムーディ、ミス・グヴィン、合っていますよ。私はアニメーガス、動物もどきです。さて、ミスター・ドロホフ。貴方の謝罪を受け入れましょう。同時に私も貴方に謝りましょう。私は寮監として、教諭として、人間としていくつも間違いを犯しました。そして貴方と同じようにどうして私が貴方を強く叱責したのか話す必要があります。今の話を聞く限り、貴方には間違いなく説明を聞く能力があるでしょうから」

 

 みんながあっけに取られている間にマクゴナガル先生は喋っていた。一体全体、猫になるというのはどういう意味や効果があるのだろうか? 猫になって鳴いたことで何か意味があるのか?

 

「ミスター・ドロホフ。貴方を強く指導する理由には二つあります。一つは貴方の能力です。ミス・ムーディ。貴方もそうです。貴方たちの杖腕と頭脳は一段抜けているという事です。五年生を相手にしても能力的に劣るものではありません。これがどういう事か分かりますか? ほとんどのホグワーツの生徒をあなた達は力でねじ伏せる事が出来るという事です。続けて自分の行動を正当化して他の人間に見せる事が出来るだけの頭脳があります。分かりますね。この二つがどれだけ危険なことか。そして貴方たちは実際にそれをしました。ミスター・ドロホフは三人の五年生のグリフィンドール生相手に。ミス・ムーディは五年生のスリザリンの監督生を相手にです」

 

 それはその通りだったし、オスカーはやっぱりマクゴナガル先生はどうにも自分の事を知っていたらしいという事が分かった。いつもそうなのだ。そういう事は後になって気づくことだった。

 

「普通の一年生以上の事が出来るという事は、普通の一年生以上の失敗をする可能性があるという事です。すなわち、相手に取り返しのつかない身体的・精神的なケガを負わせることがあるかもしれません。ですからそういった事が無いように普通の一年生以上に気を付けないといけません。これが一つ目です」

 

 なるほど。これも言い方なのでは無いかとオスカーは思った。お前たちは人より出来るから危険だ。なんていう事だって出来るだろうからだ。でもマクゴナガル先生がそう思ってはいないだろうことくらい顔を見ればわかる。

 

「二つ目は貴方たちの名前や生まれです。良いですか。私はそのような事をしません。ですが他の人間はそうでは無いという事です。先の戦争で有名になった家の名前はいくつもあります。ドロホフやムーディという家の名前はその顕著な例です。どちらの名前も一部の人にとって色んな記憶を呼び覚ます名前なのです。例え理不尽に感じたとしても、気を付けなければなりません。そしてその名前に一つ目の要素が加わればなおさらだという事です」

 

 それを聞くとオスカーとクラーナでは無くて、他の三人の顔がちょっと変わった気がした。オスカーはいい加減そんな事は慣れっこだったが、他の人からするとこういう事をはっきり聞かされると感じるモノがあるのかもしれない。

 

「さて、最後は私があなたとミス・ムーディに謝る必要があるという事です。私はあなた達の特性を理解したと思っていた上で、間違った態度を取っていました。簡単に言えば、ミスター・ドロホフ、ミス・ムーディは私が言ったような事をすでに理解しているものだと思い込んでいたという事です。五年生より杖腕が優れているのですから、大人の人間が考える事を理解できてると思い込んでいました。そう思い込んでいたにも関わらず、五年生の生徒の様に叱るのでは無く、一年生の生徒の様に叱りました。間違いなく矛盾です。これにも貴方たちは気づいていたのではないかと思います。私の事が気に入らない。腹が立った。なるほど。その通りでしょう」

 

 やっぱりこの先生は相当に頭が良かった。オスカーが授業で感じたことはあっていて、これまで会った中だとキングズリーと同じくらいに頭が切れるのかもしれない。この先生の言う通り、この先生に怒っていた理由はこれなのだ。グリフィンドール云々でも、ファッジのことでも無く、先生が取っていた態度が気に入らなかったのだ。矛盾していた。

 

「これを説明した上でもう一度、謝りましょう。上級生とのいざこざを見逃していたことや、私の態度や行動は不適切でした。そして、今までの話は私と貴方たち個人の関係です。ですから私は先生として、貴方たちに指導であったり、学校の規則に則って色んな処分をしなければなりません。それは貴方たちと他の生徒と先生方を守るためのルールなのですから」

「はい。わかりました」

「はい。私も分かりました」

「はーい。なんか難しかったけど分かった気がするもの」

「分かりました。先生が言っていることは私も納得できるから」

「みんなもこういってるから僕もそうかな?」

 

 ここまで言うと先生はもう一度杖を振った。ポットが二つに増え、みんなの空になったティーカップに注がれたのはさっきの紅茶では無くて熱々のココアだった。

 

「さて、色々点数を動かさねばなりませんね。ミスター・ドロホフと五年生三人との決闘に関する減点四十点はすでに処理しています。次に七週間グリフィンドール寮に戻らず、無断外泊をした件です。一週間に付き、十五点グリフィンドールから減点します。すなわち九十点です。ミス・ムーディは決闘が禁止されているにも関わらず、大階段前でスリザリンの一年生三人と五年生の監督生と決闘をしましたね。一人につき十点、合わせて四十点減点します。ここには当人はいませんがスリザリンもひとり十点減点します。ミスター・ウィーズリー。禁止されている箒を所持して校庭内で飛行しましたね。十点減点します。そしてこれらの件に関しては校長先生の方針で関係した生徒に罰則は与えません。その代わりに上級生に関しては校長先生から個人的指導をすでに行っていただいており、ここにいない他の生徒達には私が今話している内容と同じものを各々の寮監が指導しています」

 

 あっという間にグリフィンドールの点数は百点以上減点されてしまった。グリフィンドールのルビーは見る影もないくらい少なくなってしまっただろう。チャーリーなど顔が大変なことになっている。やっぱりマクゴナガル先生はそのことくらい知っていたのだ。

 

「あなた方同士は何をしたのですか?」

「僕と……」

「私とオスカーは決闘しました。トンクスとシラは……」

「はーい。喧嘩しました。蹴って噛みついて引っかいて投げ飛ばしました」

「私もだいたい同じ…… あと魔法史の本で殴り…… 殴りました。でもトンクスはあと私に肘を入れました」

「分かりました。グリフィンドールから二十点、ハッフルパフ、レイブンクローからそれぞれ十点減点します」

 

 もう無茶苦茶だった。こんなに減点されたことはホグワーツでもそうそう無いのではないだろうか? トンクスの言う最高記録を塗り替えたかもしれない。

 

「さて。ではミスター・ドロホフがグリフィンドール寮に戻りましたから。こちらも処理しましょう。変身術の授業でミスター・ドロホフとミス・ムーディに関する加点を行います。変身術は週二回、一つの授業で二人はおおよそ十点加点しています。貴方たちに加点しなかった七週間の間も授業の出来は変わりませんでした、百四十点加点しましょう。無言呪文で決闘できる一年生はほとんどいません。一人につき十点加点しましょう」

 

 マクゴナガル先生はこういう事をするのだ。オスカーは知っていた。そしてこれはマクゴナガル先生流のやり方なのだ。つまり、減点すべき場所は減点するし、加点するべき場所はすると先生は行動で示している。

 

「あなた達五人にそれぞれ十点ずつ加点しましょう。これまでの教師生活で一年生がこの様にはっきり自分の意見を私に伝え、謝りに来たことはありませんでした。本当はこれが当たり前になるべきですが、実際はそうではありません。よく来てくれました。ですが私も貴方たちもそうする努力は出来るという事です。今日のように。ではそのココアを飲み、夕食を食べ、それぞれの寮でおやすみなさい」

 

 オスカー達はそれぞれまだ熱いココアを飲み、何だか体も暖かくなってソファーを立った。すると不意にマクゴナガル先生はまたみんなの方を見た。

 

「そうでした。ウィーズリー、来年はクィディッチのチームを受けなさい。急降下やウロンスキーフェイントの練習ばかりしているのですから貴方はシーカー志望でしょう。今年のシーカーに不満はありませんがもう七年生ですから、来年はまず穴を埋めなくてはいけません」

「え? あ、ありがとうございます」

「それとドロホフ、ムーディ、貴方たちはずっと張り合っていましたが結局のところ、決着はついたのですか?」

 

 チャーリーの顔が突然パッとなったのとは対照に、オスカーとクラーナはお互いに顔を見合わせた。お互いにちょっと眉が上がっていた。

 

「私です。だってオスカーは地面に倒れて私がマウントを取ってたんですから」

「それはおかしいだろ。杖は二人とも無かったんだし」

「はあ? どう見たって私の勝ちでしたよ。いつでもあなたにギブアップを言わせることができました」

「僕は泣いてなかったけど。君は泣いてただろ」

「あなたは私の蹴りで息が出来てなかったでしょう」

「君は僕を殴ったくせに痛がってたのはそっちじゃないか」

「分かりました。聞いた私が愚かでした。私の部屋でいつもの張り合いをやられるのはごめんこうむります。これ以上騒ぐのはおやめなさい」

 

 そうしてあっという間にみんな外に追い出されてしまった。ホグワーツの窓から見えるのはほとんど日が沈んだ薄明りの城と湖だった。

 

「じゃあ帰りましょうよ。あ、先に服とか必要の部屋から出さないとダメね」

「あなた達ずっと二人であの部屋で寝泊まりをしていたんですか?」

「何? クラーナ気になるの? それってやっぱり……」

「クラーナ、さっきマクゴナガル先生に言ってくれてありがとう」

「え? あ…… はい。別に私はおかしいと思っただけで……」

「僕は何かおかしいと思ってたけど。あの時は上手く言えなかったからそれだけで助かったし、嬉しかったけど」

「ヒュー 言うわね。お姫様から王子様に転職するわけ?」

 

 クラーナはこっちを見てくれなくなったし、トンクスは本当に何か言ってないと気がすまないらしい。オスカーと二人でいる時以上にうるさかった。

 

「君、本当に何かからかってないと気がすまないんだね」

「あれ? あれでしょ。シラはオスカーが誰にもこんなのだから焦ってるんでしょ?」

「本当にそればっかりじゃないか。でもオスカー、やっぱりオスカーは魔法が使えるより前に凄いよ」

「凄いって何が?」

「うん。凄いよだって寮の窓から飛び降りるなんて考え付かなった。ドラゴンも飛行の練習をするときは高所から滑空の練習を始めるから僕の方が最初に思いついてもおかしくなかったんだけど」

 

 トンクスが何も言わず、他の全員でチャーリーを見るくらいにはみんなの脳みそは理解がついていかなかった。結局シラはチャーリーの発言はスルーすることに決めたらしい。

 

「思っていることを口出せるって事だよ。マクゴナガル先生やクラーナも言っていたけれど普通、私達と同い年の人はそんな風に大人に自分で思った事を言えないものだよ」

「そうかな? だってトンクスやクラーナとか……」

「二人も他の同級生よりそういう事が出来るんだと思うけれど、オスカーみたいに言えないと思うけれど? 違うかい?」

「そうなんじゃないですか? そもそもオスカーは他の人と話さないから自分で分からないんでしょうけど」

「まあそうじゃない? ちゃんと喋ればだけどね。チャーリー、ドラゴンの話は今日はもうなしね。あっちで咆哮の練習でもしてるといいわ」

「人間の喉じゃドラゴンの声域は出せないよ。難しいんだ」

 

 そんなこと言われてもオスカーはあんまり実感が無かった。だって今日はクラーナやマクゴナガル先生に思っている事を言いたかったのに初めは言葉が上手く出てこなかったのだ。こんなのはシラと初めて喋る時以来感じたことだった。

 

「ほら前に私の名前で本のレポートを出したじゃ無いか。あの時のレポートがスコットランド北部の金賞になっちゃってそれをオスカーに…… あれ? オスカーに…… なんで君に渡してないんだろう? あのレポート書いて貰ったのはオスカーで……」

「きっと僕がシャックルボルトの家にいた時だったんだよ」

「でもそれじゃおかしいよ。だってその時でもローガンは家に来てたじゃ無いか。小さい盾くらいローガンに渡せるし、時期だって…… なんで忘れてたんだろう。だって私の部屋に置いてあるのに」

「そういう時もあるよ。でも本のレポートと僕が言うことなんてそんな関係無いと思うけど」

 

 シラは頭が痛いのかちょっと眉間を抑えて考えている顔をしている。オスカーは何とかシラをこの話から遠ざけたかった。そんな事別に思い出さないでもいいと思ったのだ。自分が良く分からない賞を取ったことを思い出すために今みたいに頭を痛めて欲しくなかった。

 

「関係あるよ。だって賞を取ったっていう事は、オスカーが本を読んで感じたことを他の人に伝わる様に書けたってことなんじゃないか。スコットランド北部の金賞なんだから、オスカーはスコットランド北部では一番伝わる様に書けたってことなんじゃないかい? さっきマクゴナガル先生に言ったみたいにオスカーはそういう事が出来るんだ。これ、私が代わりに賞を貰った時についてたエジンバラの大学の偉い人からの手紙に書いてて…… やっぱりなんでオスカーにそれも渡してないんだろう?」

「分かったよ。ありがとう」

「どうするのクラーナ、チャーリー、やっぱり幼馴染は強いわね~。こういうのドラマで見たことあるわ。昔の思い出で殴るのよね」

 

 オスカーはトンクスのからかいがありがたかった。シラはオスカーや他の人を褒めるかもしれないがそれ以前に彼女は十分賢かった。本だってこの中で一番読んでいるだろう。

 

「月曜の九時のドラマじゃないのかい? ウェールズの大学が舞台の」

「え? そうよ。それそれ。私あの転入先の小うるさい方の女の子があんまり好きじゃ無かったの」

「私は幼馴染のふざけてばっかりの子の方が好きじゃなかったよ」

「この二人いつまでも喋りますからもう晩御飯を食べて帰りましょう」

「そうだね。オスカー、とりあえずベンがびくびくしないように訓練から始めようよ。ドラゴンみたいにベンの目にブリンカーを付けるといいかもしれない」

「分かったよ。僕のベッドはまだあるみたいだから帰るよ」

 

 ハロウィーンの夜からの出来事はクリスマスが近づいてやっと終わった。その日以来、五人は友人と呼べる程度の関係になった。共通の経験がお互いを結び付ける。その経験が他の人と違う特別なものであればなおさらなのだ。まさにあのマクゴナガル先生が謝るというのはまさしくそんな経験だった。




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