勢いのままに2階へ進もうとした一行に、教育実習生が告げる。
「自習……自由時間ということだよ」
1階と2階を繋ぐ、幕間の小話。
※ゅゅさんのn次創作リレー企画の参加作品です。
先に原作「バースト・カース」をお読みください。
https://syosetu.org/novel/299535/
「さて、それじゃあ早速次の階に行こうぜ!」
「ああ、その件なんだけどね。ちょっと待ってくれるかな」
勢いに任せて次の階に行こうとした俺に、片目隠れの生徒が口を挟む。
「誰だお前!?」
「教育実習生、だそうだ」
「教育実習生?何だそれ」
「説明は後でする。どういうことだ!」
紗雪がAKを教育実習生とやらに突きつけながら詰問する。
「またそれかい?もう効かないって分かっただろうに。まあいいや」
「他の生徒にも関係あるから全員聞いて欲しい。君達は文学の怪異を倒したね?」
「おう!」
俺は胸を張って応える。
「そのせいで、他の教師……怪異達の間で議論が起こっている」
「議論だと?」
紗雪がさらに銃口を押し付ける。
「そう。一応とはいえ怪異は教師だ。つまり、学生に単位を授ける必要があるだろう?だが、君達が文学の教師を倒してしまったせいで、他の生徒が単位を取れなくなってしまった」
なるほど、確かにそれは筋は通っている。
「そこで、新しい怪異……教師を選定しようということになっている」
「それが私達に何か関係があるのですか?私達は既に取得したので次に行けるはずです」
静観していたマリアが口を開く。
「議論が起こっていると言っただろう?どうも上の階の怪異達もそちらにかかりきりのようでね。平たく言うと、それが決まるまでは新しい講義は行われない。自習……自由時間ということだよ」
それを聞いて周りの生徒達もざわざわしだす。
「ゾンビ達もいないし、休み時間じゃないから廊下にも出られる。ただ、生徒間での単位のやり取りは禁止だ」
「完全に自由時間ということか。終了の合図は?」
紗雪がAKをしまいながら訊ねる。
「授業の終わりに鳴るものは決まっている。チャイムだよ」
自由時間か……いきなり言われても実感が湧かないな。
「ねえ、達也くん。よく分かってないけど、とりあえず自由に動けるってことでいいの?」
「おう!そうみたいだな!」
「それじゃあ、私こっちの世界のご飯を食べてみたい!」
飯か。あっちの世界でも肉まんとか肉団子あったし、あんまり変わらないと思うんだが、蒼姫が望むならそれもありか。
ただ出来合いのものはないだろうから作るしかないだろうが、そもそも材料ってあるのか?
「あのーそれなら私も一緒にいいですか?」
えーと、誰だ。確か文学に入る前にあった……
「生パスタの子!」
「いや私にはちゃんとした名前が……いえいいですけど。私は生パスタを出すことが出来るので料理をするならご一緒したいなと」
それなら私も、俺もとワラワラと食材系の生徒達が俺達のところに集まってくる。
「よし、それじゃあ家庭科室か調理室に行くか!学校ならあるだろ!」
「うん!」
そう言って、蒼姫が俺の手を取って走り出す。
「蒼姫、場所分からないだろ!?」
「うん!でも何となくこっちかなって!」
「待てっ!チッ、言っても聞かんか」
蒼姫に手を引かれるままに暫く陽が射さない廊下を走り、ドアの前で止まる。
「ここかな?」
蒼姫がドアを開けると、そこは調理器具が揃った家庭科室だった。
「これは……蒼姫さんの能力、でしょうか」
「そうだろうな。蒼姫の誕生日は10月12日、コロンブスの新大陸上陸の日だ。基本か応用かは分からないが"目的地に辿り着く"能力の可能性が高い」
そんな二人の声を背に、俺達は料理の準備を進める。
「それじゃあ、私達は食材を用意しますね」
そういうと、生徒達から生パスタ、チーズ、味噌、野菜、肉、錠剤……様々な食材が飛び出してくる。
いや待て、錠剤!?
「あれ!?あれれ!??」
声がする方に目を向けると、件の生パスタの子が生パスタと一緒に錠剤や味噌、チーズを生み出している。
「おい、出せるのは生パスタじゃなかったのか?」
「分かりません……!私にも何がなんだか」
単位のやり取りが禁止されているせいか、銃こそ出さないものの紗雪が睨みつけている。
「もう一度誕生日を言ってみろ」
「7月8日、生パスタの日ですぅ!」
半泣きになりながら、パスタの子が答える。
「チーズ、味噌、錠剤……。そうか、いや。あり得なくはない、か。ちょっと来い」
ブツブツ呟いていた紗雪から声をかけられて、蒼姫を残した三人で廊下に出る。
「紗雪さん、何か分かったんですか?」
「菌労感謝の日だ」
「勤労感謝の日?おいおい、それは11月23日だろ!?」
「違う、そっちじゃない。キノコとかの菌の方だ!」
うん?どういうことだ。話が見えん!
「いいか?確かに7月8日は生パスタの日だが、同時に菌労感謝の日でもある。チーズ、味噌は発酵食品だ。そしてペニシリンはアオカビから発見されたものだ」
「紗雪さん、待ってください。つまり生パスタの人は、2つの能力を使っている……!?」
同じ誕生日なら別の記念日の能力も使えるってことか!
「ああ、おそらくはそうだろう」
「すげー発見だ!早速教えてやらないと!」
「駄目だ」
紗雪が強い口調で言う。
「1階で争うことはなくなったが、2階、3階で追いつかれたときに単位の奪い合いになる可能性がある。潜在的な敵に情報は渡せない」
諦めきれずにマリアの方を向くが、首を横に振られる。
「残念ではありますが、紗雪さんの言うとおりです」
クソッ!いや、言いたいことは分かる……!悔しいが、自分で気付くことを祈るしかないないだろう。
やり切れない思いを抱えたまま調理室に戻る。
「お帰りなさい。遅いから皆でもう作り始めてるよ!」
「ああ。ごめん!じゃあ手伝うぜ!」
そこから先は何もなく、料理を作り、皆で食べた。
この学校に来てから初めて死を意識せず、普通の学生のように過ごす時間。
笑って、飯を食って、喋る夢のような。
だが、夢はいつか終わる──自由時間の終了を告げるチャイムが鳴り、文学の教室に戻る。
新たな単位の取得に向けた戦いが、始まる。