【最難関】ぼっち・ざ・ろっく!のギャルゲーで喜多ちゃんを攻略してみた【一年目攻略】 作:くじょう
なんやかんやあって正式に路上ライブを催すことが決定し、今日はその当日。
俺たちは炎天下の駅前広場にて準備を進めていた。
「ざっと配置してみたけど、こんなもんでいいか?」
「うん。手伝ってくれて助かった。あとはこれを置いたら完璧」
「空き缶? そんなもん何に使うんだよ」
「投げ銭を入れてもらうためだけど」
「あぁ、そう……何というか、お前は金のことになると本当に抜け目がないな」
「そんなに褒めても何も出ない」
「皮肉から賞賛を見出すな」
首周りの汗をタオルで拭いながらリョウのブレない言動に笑う。
負荷のかかった上腕を伸ばし、軽く肩を回した後。俺は運搬を終えた
「せっかく路上ライブをするならフルメンバーでやりたかったな。俺が加入してから初めて人前に出て演奏するわけだし、雰囲気というか……空気感というか。そういうものを見ておきたかった」
「他の二人は予定があるみたいだし仕方ない。それに今日はあくまで次に箱でやるライブの宣伝が目的だから考えすぎなくていい。こんな風に肩の力抜いて」
「いくら何でも抜き過ぎだなそれは」
脱力しきってフラフラとよろけるリョウの襟首を掴む。酷使した腕がおよそ人間一人分の体重がかけられたことによって小刻みに震え出した。
「腕、大丈夫?」
「ご心配どうも。出来れば腕をつつくのをやめて一人で立ってくれるとありがたい」
「ん」
存外素直に直立したリョウを手離す。すると彼女は俺の腕を一瞥して言った。
「ライブまで時間あるしちょっと日陰で休んだ方がいい。私はそこのコンビニでお昼買って来るけど、カンナもおにぎりとかでいい?」
「あぁ。助かる。それで、その手は?」
「……お金ください」
「そうだと思ったよ」
財布から千円札を取り出してリョウに手渡す。
この間新しいベースを買ったとか言っていたし、大方そのせいで所持金が底をついたのだろう。
「この恩は忘れません。来月絶対に返します」
「はいはい。期待せずに待ってるよ」
そんなやりとりをして彼女の後姿を見送った後、俺は日除けの下に設置されたベンチに向かった。
「ゔぉお……生き返る……」
脱力して背もたれに身を預けると、自覚していなかった疲れがどっと押し寄せてきた。
日除けの天面から降り注ぐミストシャワーが火照った身体を冷やしていく心地よさに死にかけの化け物みたいな声が出てしまったが、許してほしい。
「多少運動するようになって体力が付いたとはいえ、この気温での肉体労働は流石に応えるな」
虚空に向かって呟く。それは宛先のない独り言だったはずだが、しかし背後から何者かが肯定した。
「うんうん。お疲れ様! えいっ!」
「――は? って冷たァッ!?」
同時に首元に冷たい筒状の物があてがわれる。あまりに突然のことだったから、俺は大声と共に飛び上がってしまった。
「あっはは! 引っかかった!」
「に、虹夏か……心臓が飛び散るかと思った」
「飛び出すじゃなくて?」
「そうとも言う。まぁどっちも同じようなもんだろ」
「全然違うよ。はい、これあげる」
言いながら、虹夏は俺の首に当てていたスポーツドリンクを手渡して隣に腰かけた。
「ありがとう。まだライブには早いけど、わざわざ差し入れするために来てくれたのか?」
「うん。今日暑いからちゃんと水分摂ってるか心配になっちゃって。ところでリョウは一緒じゃないの?」
「さっきちょうどコンビニ行ったとこ」
「ありゃ。行き違っちゃったかぁ」
パキリ、というペットボトルの封を切る音。その中身を少し飲んで息をつくと、虹夏はこちらに笑いかけながら言った。
「大丈夫? 緊張してない?」
「意外といつも通り。虹夏が来てくれたからかも」
「もう、またすぐそうやって適当なこと言って……誰にでも言ってるんじゃないだろうな〜?」
「ご想像にお任せします」
悪戯っぽく笑うと虹夏はため息をつく。しかしその後気を取り直したように表情を戻すと、俺を応援してくれた。
「今日のライブ、楽しみにしてるね」
「それなら期待に応えられるように頑張らないとな」
それからリョウが合流し、三人で昼食を摂り、三十分くらいが経過した後。
ライブ開始の予定時刻となって、俺たちはリハーサルがてら適当な曲をインストで流していた。
時折周囲に意識を向けてみると、思っていたよりも足を止めて見てくれる人が多い印象だった。
まだ慣らしの段階ではあるが、既に十人弱のギャラリーがいる。
休日の昼頃という時間的余裕のある人間が多い時間帯を選んだのが功を奏したらしい。
当然リョウもそれには気付いており、彼女はこちらに合図を送りながら言った。
「カンナ。この曲ワンコーラスで切り上げてライブ始めよう。もう結構人が集まってる」
「了解。そういやMCはどうするんだ?」
「適当にやっておいて」
「へいへい。そんなことだろうと思ったよ」
演奏が終盤に入った所で、目を閉じながら息を深く吸い込む。
指を動かすために割くリソースは最小限に。意識を極限の集中状態へと。雑踏の気配、五月蝿いセミの声。これらを己の内から排斥。
演奏を終えるのと同時、俺は目を見開いてマイクのスイッチを入れた。
「お集まりいただきありがとうございます。俺は“ざ・はむきたす”というバンドでGt.Vo.をしている保浦。そっちはBa.と作曲担当の山田です」
まばらな拍手が起こる。その中で一際テンションの高い虹夏と、少し離れた所に星歌さんらしき人影が見えて少し頬が緩んだ。
日程が決まったタイミングで星歌さんに声をかけた時には『予定があるから行けない』なんて言っていたはずだが、相変わらず素直じゃない。
「今日は俺たちのバンドを少しでも知ってもらえたらと思ってここに来たんですが……生憎と大勢の前でベラベラ話すのは不慣れなもんでして」
リョウを一瞥しアイコンタクトを取る。準備ができたことを確認すると、俺はオーディエンスを見据えて不敵に笑った。
「そんなワケで、まずは一曲自己紹介代わりに聴いていってくださいな」
不在のドラムに代わって、スニーカーのつま先でタイルを叩いてリズムを取る。
リョウは肩の力を抜いていいと言ったが、どうせやるなら本気でやるさ。
見ていろアンタら。今から
▲▽▲▽▲▽
「たくさんの声援ありがとうございます。来月はこことライブハウスでライブをする予定なので、見かけたら是非遊びに来てください」
予定していたセトリを終えると、俺たちの前にはちょっとした人集りができていた。
まばらだった拍手も今は途切れることなく聞こえていて、少し耳に痛いくらいだ。
虹夏と、ついでに遠くで腕を組みながらこちらを見ている星歌さんに軽く手を振って、マイクのスイッチを切る。
それと同時に疲労感が全身を襲った。
「ふぅ……お疲れ、リョウ」
「うん。カンナも」
アンプの電源を落とし、シールドやケーブルの類を片付けていく。
その時背後からこちらに駆け寄る音が聞こえて、俺とリョウは振り返った。
「二人ともお疲れ様! 本っっっ当にすごかったよ!」
「おう。ずっと最前列で見ててくれてありがとう」
「サンクス」
俺たちの手を取ってブンブンと振る虹夏。
その時視界の端の方に見知らぬ少女が映った。
「あの子、さっきのライブにいた……」
外見から察するに同い年くらいで、入念に手入れされているであろう赤みがかった長髪が特徴的だ。
少女の方に視線をやると、目を輝かせながらこちらに近づいてきた。
「あの……! さっきのライブ、とっても凄かったです! 私バンドのこととかあんまり知らないんですけど、一瞬でお二人のファンになっちゃいました!」
まさに感無量といった様子で彼女はライブの感想を述べた。若干押され気味のリョウは近くにいた虹夏の背に半身を隠していたので、代わりに俺が対応する。
「ありがとう。リョウは分からないけど、俺はファンなんて初めてだから嬉しいよ。名前は?」
言いながら右手で握手を求める。
少女はおずおずといった様子で手を握りながら、名前を教えてくれた。
「喜多郁代です! えっと、できれば苗字の方を覚えていただけると嬉しいです」
「喜多ね。覚えた。俺は保浦カンナっていうんだけど……ところで今俺が握らされてるモノは?」
「はい! 万札です!」
「万札」
一切曇りのない顔で笑う喜多とギャップのある答えに、俺はオウム返しをすることしかできなかった。
喜多から離れて自分の右手を見ると、そこには本当に半分に折り畳まれた一万円札がある。
「そこに投げ銭用の空き缶があったので、これはもう貢ぐしかないって思って!」
「え、何それ怖……」
目が本気だった。
バイトができる年齢ならともかく、俺たちくらいの年齢の人間にとって一万円は大金だ。おいそれと他人に渡せるような金額ではない。
「とりあえずこれは返すよ」
「え。でも——」
俺の言葉に喜多は難色を示した。
背後でリョウがテンションを上げていることだし、何か適当な理由を付けて納得させなければ。
「じゃあ今度一緒にどっか遊び行こう。金はその時使うってことで……!」
「い、いいんですか!?」
「あぁ。別にバンドやってるだけで有名人ってわけでもないしさ。友人として関わってくれたら嬉しい」
「そういうことなら、また次の機会に貢ぎますね!」
ひとまずは難を逃れられたが、不穏な言葉が聞こえたのは気のせいだろうか。
気のせいということにしておこう。
「カンナ、ナンパしてる?」
「……やっぱりナンパだよねこれ」
「うるせぇ」
外行き用の笑顔を湛えたまま後ろから飛ばされる野次に耐える。
こうして無事——かどうかは定かではないが、ざ・はむきたすの路上ライブは終了し、俺たちに貢ぎたがりのファン兼友人ができた。
喜多が来た(激ウマギャグ)