【最難関】ぼっち・ざ・ろっく!のギャルゲーで喜多ちゃんを攻略してみた【一年目攻略】   作:くじょう

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花粉で体調が死んでるので初投稿です。


喜多との休日(1/3)

 路上ライブからちょうど一週間後、再び駅前広場を訪れた俺は往来を眺めていた。

 

 見渡す限り人、人、人。子連れの夫婦や高校生。サラリーマンに地図を手にした観光客――と。まさに人海と表現するに相応しい光景だったが、しかしその中に探している少女の姿はない。

 

 時間を確認するために携帯を取り出すと、表示されたデジタル時計は集合時間の十分前を示していた。

 

 そりゃ来てるはずがない。遅刻常習犯の俺に言わせれば、こうして余裕を持って現着している人間の方がイレギュラーなのだから。

 

「さて。どこで待ってようか」

 

 座れる場所を探しながら端末をポケットにしまおうとした時、ロインの通知が鳴った。

 

『絶対喜多ちゃんに手出しちゃダメだからね!』

「……出さねえよ、と。もしかしてこの子、俺のことを性獣か何かだと思ってらっしゃる?」

 

 グループチャットに投下された虹夏のメッセージに返信しながら苦笑を溢した。

 

 余程喜多のことが心配なのか、俺が喜多と出かけることになってから虹夏はずっとこの調子だ。

 

「付き合いも長いんだし、もうちょっと信頼してくれてもいいと思うんだけどなぁ……」

 

 流石に少しヘコんだ。確かに喜多を誘った時は食い気味に見えたかもしれないが、あれは何とか万札を返そうと必死だったからだし。

 

 久々に虹夏やリョウ以外の女子に話しかけられて少し舞い上がってたとか、喜多が割と好みのルックスをしてたとか、あとめちゃくちゃいい匂いがしたとか、そんなことは少しも思ってなかったし。

 

 ちょっと変な子だけどこんなに好意を向けてくれるならワンチャン仲良くなれるかもしれない、なんて邪な考えは一分たりともなかったし。

 

「まったくもって他意はなかったな。うん」

 

 一人呟きながら『でもファン食いってバンドマンっぽくない?』というリョウのメッセージが目に入る。

 

 それをきっかけに通知の頻度が喧しいほどに高くなったので、俺はスマホを消音モードに切り替えた。

 

「カンナ先輩!」

 

 ちょうどその時、遠くから喜多が手を振りながら小走りで近づいてくるのが見えた。

 

「ごめんなさい。待たせちゃいましたか?」

「全然。むしろ到着早くて驚いてるくらい。もしかして、俺と出かけるのがそんなに楽しみだった?」

「はい! それはもう! 昨日の夜は全然眠れなかったし、今朝なんて五時に目が覚めたくらいですから!」

「……いやもっと寝とけよ。あと近え」

 

 軽く揶揄うつもりが、眼前にまで迫った喜多の勢いに気圧されてしまう。

 

 俺は軽く後ずさりながら今日の予定を尋ねた。

 

「えっと。プランは任せてくれって言ってたけど、どこか行きたい場所でもあるのか?」

「はい。実は最近このあたりに新しいカフェができたみたいで。ここなんですけど――」

 

 肩を寄せて携帯の画面を見せてくる喜多に一瞬眉が上がる。柔軟剤の匂いが鼻をくすぐるような距離感に心臓がうるさくなるのを感じながらそれを覗き込んだ。

 

「……あぁ。入ったことはないけど聞いたことあるな。確かパンケーキが美味しいとかなんとか」

「そうなんです! 私もまだ入ったことがなくて、もし先輩が甘いもの大丈夫なら一緒に行きたいなって!」

「いいね。こう見えて甘いものは好物なんだ」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「先輩って、案外写真撮る時ノリノリなんですね」

「ん、そう?」

 

 ストローから口を離すのと同時、アイスコーヒーに入れられた氷がカランと清涼な音を立てる。

 完食したパンケーキのプレートの隣に差し出された喜多のスマホには、つい先ほど二人で撮った写真が表示されていた。

 

「ふむ。何というか、我ながらあざといな」

「本当ですよ。う~ん、下手な女の子よりも可愛いのが恐ろしいわ……」

 

 顎に手を当てながら画面を注視する喜多。

 

 その真剣な表情からして間違いなく褒められているんだろうが、男として“可愛い”という評価は喜んでいいものか悩ましい所だった。

 

「私がカメラを起動した時にはもうポーズを取ってましたけど、先輩って結構撮られ慣れてますか?」

「それなりかな。俺、友達少ないから一緒に遊んだり出かけたりするのってリョウと虹夏くらいなんだけど、たまに虹夏が写真撮ろうって言ってくるから」

「なるほど。道理で」

 

 喜多は合点がいったというようにぽん、と拳を反対の手のひらに乗せて笑った。

 

 というか、写真慣れしているのは俺よりもむしろ彼女の方ではなかろうか。

 

 あれは明らかに自分の“盛れる”角度を熟知している動き方だったし、何より注文した品が揃ってからスマホを抜くまでのスピードがめちゃくちゃ早かった。

 

「そういう喜多こそ写真撮るの好きだろ」

 

 笑いかけると喜多は目を輝かせた。

 

「はい! 楽しかった思い出って時間が経つと段々薄れていっちゃいますけど、写真に残しておけば思い出すきっかけになるじゃないですか。だから私は撮るのも撮られるのも好きです!」

「へぇ。なんかいいな、それ」

 

 俺がそう言うと、喜多は「そうですかね」なんて呟きながら少し照れくさそうに笑った。

 

 そんな表情に嗜虐心を煽られた俺は、いつもそうするように軽い悪戯を思案する。

 

「撮られるのも好きならさ、俺の携帯で喜多の写真を撮ってもいい?」

「はい! もちろんお好きなだけどうぞ! 十枚でも百枚でも、いくらでもお付き合いしますよ!」

「……意外なリアクションだし勢いが凄い」

 

 なんかこう、俺が想像していたのはもう少し恥ずかしがるような反応だったのだが、その期待に反して喜多は身を乗り出すように撮影を承諾した。

 

 こちらが言い出した手前「冗談でした」なんて茶化すのも決まりが悪くて、ポケットからスマホを取り出す。「先輩が私を写真に残してくれるなんて感激だわ!」とはしゃぐ喜多に息をついて口元を綻ばせながら、カメラアプリを起動した。

 

「可愛く撮ってくださいね?」

「おう。任せとけ――っと」

 

 パシャリ、とシャッター音が響く。

 

 フィルターなんてかかっていないノーマルカメラを通しても、喜多の笑顔は愛らしかった。

 

「……いきなりこんなことを言うのもアレだけど、喜多って相当可愛いよな」

「へっ!? う、嬉しいですけど、本当にいきなりじゃないですか!?」

 

 画像を見ながら率直に感想を述べると、今度こそ喜多は期待した通りの反応を見せた。

 

「ごめんごめん。でも冗談じゃなくて本当にそう思ったんだよ。ぱっと見ただけでもオシャレに気を遣ってるのが分かるし」

「そ、そうですかね。……ありがとう、ございます」

 

 俯きがちになった喜多の赤っぽい耳を一瞥し、俺は彼女の全体像を捉えるように見た。

 

 第一印象でも感じたことだが、喜多の髪は手入れが行き届いていて枝毛なんて一つも見当たらない。その上清楚な服装や薄く施されたメイクなんかも相まって、一つ年下ながら同級生よりも垢抜けて見える。

 

「うん。やっぱ可愛い」

 

 そう呟いたことで感情の臨界点を迎えたのだろう。

 

 喜多は話題を逸らすためか遠慮がちにこちらを見ながら言った。

 

「そ、そういう先輩もオシャレな服を着ていますよね。ファッションとか興味あるんですか?」

「いやいや。俺はただ――――」

 

 母親の着せ替え人形になっているだけだよ、と。

 

 危うく日常会話と同じ調子でとんでもないことを口走りそうになったことに気付いて、俺は閉口した。

 

「俺はただ、母親が選んだものを着ているだけだよ」

「……そうなんですね。センスのいいお母さまで羨ましいです!」

 

 俺が言葉に詰まったことで何かを察したのか、喜多はそんなありきたりな返答をして笑った。

 

「ありがとう。あの人もきっと喜ぶよ」

 

 思ってもいない言葉を口にしながら、繕った笑顔の裏で歯を食いしばる。

 

 喜多の気遣いは本当に暖かくてありがたかったけど、俺の頭の中にはかつて愛していた母親の顔が像を結んで、支配したはずのノイズが走っていた。

 

 ただただ、それが不快で仕方がなかった。




喜多ちゃん回だと思った? 残念! 保浦くん掘り下げ回でした!
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