【最難関】ぼっち・ざ・ろっく!のギャルゲーで喜多ちゃんを攻略してみた【一年目攻略】   作:くじょう

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書きたいように書いていたら湿度が高くなりすぎたので初投稿です。


喜多との休日(2/3)

 ちゃぷん、と水を揺らす音が三畳ほどの空間に響く。湯気が立ち昇る浴槽の中、ふと頭に浮かんだのは喜多の横顔だった。

 

 振り切ろうとすればするほど彼女の声が、彼女の笑顔が脳裏を過ぎる。それはささくれた指の皮を弄ってしまう時や荒れた唇に触れてしまう時の感覚に似ていて、一度気になりだすと中々治まる気配がない。

 

 まるで恋煩いみたいだ。

 

 そんな自嘲にも似た薄笑いとともに、俺は水を含んで重くなった前髪をかき上げた。

 

「アイツには悪いことしちまった」

 

 鼻から下を湯舟に沈めながら呟く。

 

 本来なら丸一日一緒に過ごす予定だった休日は、俺に気を遣った喜多が『ちょっと早い気もしますけど、今日の所はお開きにしましょうか』なんて名残惜しそうに言ったことで半日程度で終わってしまった。

 

 言うまでもないことだが、原因は俺が母親を思い出してしまったことだ。

 アレの話をした後、喜多はしきりに俺の顔色がよくないことを心配していたから間違いない。

 

「……“楽しみにしてた”って言ってくれたのにな」

 

 前日の夜は眠れず当日の朝も早く目が覚めたと言って笑う喜多の笑顔が網膜に焼き付いている。

 

 面と向かってそう言われたときはもちろん嬉しかったけど、今はいっそ嘘であってほしいと思った。

 

 もしそうなら、こうして罪悪感に押しつぶされそうになることもない。

 

 彼女の無邪気さと、一瞬でも『もし喜多と会っていなければ』と後悔してしまった自分の醜悪さを比べることもない。

 

「……馬鹿が。全部自分のせいだろうが」

 

 樹脂素材の壁に反響する声は普段よりも半オクターブくらい低い。

 

「いい加減断ち切らないといけないのは分かってるだろ。お前がどんなに思い悩んだって、もうあの人たち(父さんと母さん)は帰ってこないんだよ」

 

 己に言い聞かせる。歯を食いしばる。脱力し俯く。

 

 そうして額から滴り落ちた雫が、水面に映った俺の輪郭を揺らした。

 

「……はぁ」

 

 それを見ると少しのきっかけで波風が立つ脆弱な心と向き合わされるような気分がして、たまらず天井の方へと目を逸らす。

 

 ファスナー付きのプラスチックバッグに入れたスマホが鳴ったのは、それとほぼ同時だった。

 

「――喜多からだ」

 

 噂をすれば影が立つ、とか言ったっけ。

 

 もちろん実際に喜多が姿を現したわけではないが、ポップアップ通知には今日彼女と食べに行ったパンケーキのアイコンが表示されていた。

 

 トーク画面には『大丈夫ですか?』と俺を心配する文面と一緒に出掛けられたのが楽しかったという旨の感想が。――そしてたった今、そこにツーショットの写真が添付された。

 

「はは。ホント、俺にはもったいないファンだよ」

 

 少しだけ心が和らぐ。

 

 もし喜多と話せたらもっと楽になれるのだろうか。

 

 そう思った俺は夜更けであることとか、相手が何をしているかとか気に掛けることもせずに『十分後くらいに少し通話しないか?』と送信した。

 

「ま、聞くだけならタダだしな……」

 

 言い訳じみたことを呟きながらバスタブのヘッドレストに寄りかかる。

 

 何をするでもなく、俺はただ送信時間の横の空白に既読の二文字が付くまで画面を見つめていた。

 

 それから十秒と経たない頃だったと思う。

 

 既読が付いてすぐに了承のメッセージと可愛らしいスタンプが送られてきたのを見て、俺は飛ぶように脱衣所へと駆け込んだ。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「こんな遅い時間に通話したいとか言ってすまん。もう寝るところだったか?」

『いえいえ! あと一時間くらいは起きているつもりだったので、全然気にしなくて大丈夫ですよ。私も先輩ともう少しお話ししたかったですし』

「なら良かった。実は今日のことを謝りたくてさ」

 

 そう告げると、喜多は『何のことです?』なんて少し困惑気味に言った。

 

「今日の昼過ぎ、俺に気を遣って予定より早く解散にしてくれただろ。わざわざプランまで考えてきてくれたって言ってたのに、無駄にしちゃってごめん」

『そのことなら謝るのは私の方ですよ。先輩の調子が良くないことに気付かずに色々な場所に連れまわしちゃったので。ごめんなさい』

 

 無辜の謝罪に良心がちくりと痛む。俺はともかく喜多が罪悪感を覚えるのはお門違いだ。

 

 誤解を解くためにはやはり本当のことを話す必要がある。そう思うと母親の顔が勝手に浮かんでくるが、頭の隅に押しやりながら努めて明るい声で話した。

 

「いや、喜多は本当に悪くないんだよ。体調は万全だったし、もちろんお前と過ごすのも楽しかった。だから嘘でも誇張でもなく、悪いのは全部俺なんだ」

『どういうことですか?』

 

 喜多の問いに一瞬だけ沈黙する。

 

 果たしてこの過去は出会ったばかりの彼女に打ち明けていいものかと、逡巡が走ったのだ。

 

 結論として叩き出したのは、事実のさわりだけを話すことだった。

 

「端的に言うなら、俺の顔色が悪くなったように見えたのは外出中にトラウマを思い出したせいだ。責任は俺にある。言いたいことはこれに尽きるな」

『トラウマ、ですか。その……ごめんなさい。私、こういう時どういう言葉をかけていいか分からなくて』

「謝ることなんてないよ。出会って間もない人間の重い過去なんて、誰だって持て余して当然だ。ただ、それでも喜多には知っておいてほしいと思った」

『それは、どうして……?』

「喜多とは仲良くなりたいから。少なくとも、そういう過去を抱えてることだけは伝えたかった。どんなに忌まわしくても今の俺の骨子には違いないしな」

『……カンナ先輩』

 

 段々と自分でも何が言いたかったのか分からなくなってきて、どこか言いくるめるような口調になる。

 

 そんな回りくどいセリフを聞いた喜多は、先ほど俺がそうしたように沈黙した。

 

 なんとなく空気が重いように感じるのは、コミュニケーションを得意とする彼女が珍しく言葉を選んでいるような風だったからに他ならない。

 

『えっと……仲良くなりたいって言ってくれるのは嬉しいです。私もカンナ先輩とはもっと仲良くなりたいから。でも()()()()()って言い方は、なんだか私を信頼してないみたいで……ちょっとヤです』

「というと?」

 

 喜多から初めて否定らしい言葉を聞いた俺は、少し意外に思いながら言った。

 

『あくまで私の考えですけど。先輩がトラウマの内容まで話さなかったのは、迷いがあったからだと思います。もし昔のことを全部話したら耐えかねた私が先輩を避けるようになるんじゃないか、みたいな』

「…………」

『もう。黙っちゃうのは認めているのと同じですよ』

 

 喜多の言う通り、図星だった。

 

 まさか表情の見えない電話越しに懸念していたことを見透かされるとは思っていなかったから、一瞬呆気に取られてしまった。

 

『ねえ、先輩』

「はい」

 

 有無を言わさぬ雰囲気に思わず敬語が飛び出る。喜多にこんなしたたかな一面があるなんて、まるで思ってもみなかった。

 

『あまり私を侮っちゃダメですよ。私は先輩のファンで先輩の友達なんです。悲しい過去の一つや二つで先輩を遠ざけたりしません』

 

 断言してから『まぁ、会ってから日が浅かったり惚れっぽかったりする所は信用できないかもですけど』なんて苦笑する。

 

 そんな喜多の言葉は少しだけ頼りなかったけれど、今まで耳にしたどんな慰めの文句よりも深く俺の胸に突き刺さった。

 

『――だから、私に教えてくれませんか? 先輩が抱えてる傷のこと。力になるって断言はできませんけど、話すだけで楽になることもあると思います』

「あぁ。……そうだな」

 

 もしかしたら俺は、喜多がこう言ってくれることを期待して彼女に電話をかけたのかもしれない。

 

 幼馴染みの虹夏やリョウではなく、身近な大人の星歌さんでもなく。出会ったばかりの喜多に救いを求めた理由は分からないけれど。

 

 とにかく、俺は初めて過去を包み隠さず告白した。




プロットに存在しない回だから喜多郁代(自由形)みたいになってしまった……乾燥機どこ?
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