【最難関】ぼっち・ざ・ろっく!のギャルゲーで喜多ちゃんを攻略してみた【一年目攻略】 作:くじょう
今朝は目覚まし時計が鳴るよりも早く目が覚めた。寝坊常習犯で虹夏によく怒られている俺がこうもスッキリ目覚められるなんて、珍しいこともあるものだ。
心なしか身体の調子もいい気がするし、久々に明るい気分で朝を迎えることができた。きっと普段よりも睡眠の質が良かったんだろう。
「……ランニングのおかげかな」
手近な窓を開けながら呟く。
二週間前、入学式からの帰り道。虹夏とリョウにロックを始めることを宣言した俺は、以来毎日のように楽器の練習に励んでいる——なんてことはなかった。
そもそも楽器なんて持っていないし、計十万円を越える機材をすぐに用意できるほどの余裕もない。
あんな啖呵を切っておいて恥ずかしい限りだが、楽器を用意することができるのは早くても半年先になるだろう。
毎日の走り込みはそのせいで行き場を失った熱を発散するための手段だった。
まぁ、何をするにしても身体が資本だというのはよく聞く話だ。今後死に物狂いで練習することを考えれば、基礎体力を付けておいて損はない。
俺は脳裏でどのように楽器を手に入れるか考えながら、今日一日のプランを組み立てていた。
午後には虹夏とリョウが家に来るから色々と準備をしておく必要がある。
とりあえず買い物は行っておいた方がいいだろう。リョウに食べ物をたかられるのは目に見えているし、虹夏も菓子類があれば喜ぶはずだ。
そう思い立って枕元に置いた時計を一瞥する。液晶に表示された無機質なフォントの数字は、午前七時半を指していた。
「スーパーはまだ開いてないな。コンビニだと値段が高いし、しばらく掃除でもして時間潰すか」
目にかかった前髪を指で流しながら、一人で使うにはやたらと大きいキングサイズベッドから下りる。
クローゼットから適当に選んだ服を着て、掃除機を取りに物置部屋へ向かった。
もしまだ俺に両親がいたら、この部屋は物置部屋ではなく俺の自室にでもなっていたのかもしれない。
俺があのだだっ広い寝室を使うことはなかっただろうし、自分の世話をする苦労も当分知る必要はなかっただろう。
頭の奥で音が鳴る。俺はそれを振り切るようにして物置き部屋に足を踏み入れた。
「掃除機は――――あった。こいつも結構古そうだし、そろそろ買い替え時か……」
もう十年は使っているであろう古臭いデザインの掃除機を叩く。
楽器を購入するためにも出費は抑えたいところだが、こればかりは仕方ない。せめてできるだけ寿命が長く続くことを祈るばかりだ。
重い掃除機を持ち上げて物置き部屋を後にしようとする。その時背後から何か倒れる音がした。
コードがどこかに引っかかっていたのだろうか。立ち上がる時にしっかりと周りを見ておくべきだった。
振り返るとコートハンガーを起点にして様々なものがドミノ倒しになっている。
しかし俺の目を引き付けて止まなかったのは、部屋の惨状ではなく一つの箱だった。
アタッシュケースの横幅をそのまま伸ばしたような形状だ。一面マッドブラックで装飾のない外見からは品のある高級感が感じられる。
ガラクタばかりの部屋の中で、その箱は異質な存在感を放っていた。
「……なんだこれ」
倒れた物を元に戻すより先に、俺はその箱に手を伸ばしていた。
持ち上げてみるとそれなりの重量感がある。五キロ前後、といったところだろうか。周りのものを倒さないようにしながら部屋の入り口まで持ち出す。
十分なスペースが確保できたところで箱を床に置いた。開閉をロックしている二つの金具を外すと、緊張感で汗が滲む。
「………………」
心臓と呼吸の音だけが世界を支配していた。不思議と電子音は一切しない。一度瞑目して深呼吸を挟み、箱に手をかける。
「これは————」
その中身はまさしく俺が欲していたものだった。なるほど、頭の中の音が止まったのにも納得がいく。
手が震えた。心が震えた。
そこに鎮座していたモノは、愛する父の魂だった。
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