【最難関】ぼっち・ざ・ろっく!のギャルゲーで喜多ちゃんを攻略してみた【一年目攻略】 作:くじょう
「ゴディバのチョコとハーゲンダッツある?」
「あるわけなくない?」
集合時間後から三十分後。ようやく家に到着したリョウのために玄関の鍵を開けてやると、彼女はまったく悪びれもせずに言ってのけた。
心臓に毛でも生えているのか。遅刻した上に高級菓子まで要求されるのは流石に予想外だった。
思わず苦笑しながら来客用のスリッパを出す。
「とりあえず上がれよ。虹夏はもう来てるから」
「うん。お邪魔します」
リョウを伴って廊下を進む。打ちっぱなしの壁が無骨な印象を与えるリビングでは、虹夏が呆れたような顔をしながら待っていた。
「遅いよリョウ。自分の家なら遅刻しないだろうと思ってカンナくんの家に集まったのに、リョウが遅れてきたら意味ないじゃん」
「ごめん。どうしても最高の卵かけごはんが食べたかったから田植えをしてて」
「嘘が下手すぎるだろ。……いや待て。俺って遅刻に関してはリョウより信用なかったのか?」
「「うん」」
言うと、虹夏とリョウは互いに目を合わせて頷いた。流石にショックだ。
もちろんわざと寝坊しているつもりはないが、今後は一層生活リズムに気を付けようと思った。
「そうか……ありがとうリョウ。お前のおかげで目が覚めた。俺、真人間になれるように頑張るよ」
「なんだろう。お礼を言われてるはずなのにまったく腑に落ちない。馬鹿にされてる……?」
「そんなことないって。ほら、これでもお食べ」
言いながら、ザラメでコーティングされた一口大のドーナツをリョウの口に放り込む。
虹夏はそんな俺たちの様子を横目に何かスケッチブックに書き込んでいた。
しばらくして出来に満足したのか「よしっ」と小さくガッツポーズをしてこちらに向き直る。
「はいはい、二人とも注目〜!」
立ち上がって挙手する虹夏に目をやると、彼女は俺たちに『本日の議題』と書かれたページを見せた。丸っこい文字や余白のイラストが愛らしい。
胸を張った虹夏はどこか気取った感じで言った。
「こほん。本日集まってもらったのは他でもありません。……カンナくん!」
「え。はい」
突然指名されたことに驚いて、テーブル中央の菓子に伸ばしかけた手が止まる。
「もう二週間前くらいかな。入学式の帰りに私たちとバンドやりたいって言ってくれたでしょ?」
「あぁ。『最強のバンド』なんて口走ったもんだから、たまに思い出して恥ずかしくなってる」
俺が頬を掻きながら目を逸らすと虹夏は朗らかな顔で笑った。
「私もリョウもすごく嬉しかったんだけど、だからこそ話合わなきゃいけないことがあって。それが……」
虹夏はそう言ってスケッチブックのページを捲る。
誇らしげな彼女を見て俺はまた背中が痒くなる思いだったが、確かに二人とバンドを組むなら話し合う必要があるというのは本当だった。
「こちら! 最強バンド(仮称)担当パート問題!」
「……最強バンド擦られすぎだろ。泣くぞ」
「ぷっ……!」
リョウが噴き出したことに気付かないフリをしながら続きを促すように虹夏を見やる。
俺の意図はお見通しということだろうか。彼女は苦笑しながら続けた。
「私はちょっと前からドラムやってるし、リョウもベース弾いてるでしょ? だからカンナくんと私たちがバンドを組もうとすると、自然とギターかボーカルをやってもらうことになっちゃうんだよ」
「まぁ、そうだろうな」
あくまで想像でしかないが、一から楽器を始めた人間が人並みのレベルに到達するまでにはそれなりに時間がかかるものだろう。
効率を考えればまだ担当のいないギター、ボーカルに俺を据えるのが論理的に正しい。
が。虹夏の優しさはそれを良しとしないらしい。
「だけど、最初からカンナくんに選択肢がないのはちょっと違うかなって思ったんだよね。今日こうして集まってもらったのは、みんなできちんと話し合ってパートを決めたかったからなんだ」
そう言って虹夏は上機嫌そうに笑う。素直に礼を言うと「まぁ、実際バンドを組むのはいつになるか分からないけどね」なんて照れ隠しみたいなことを言って見せた。
彼女の人徳はこういう所にこそ表れる。たまにお人好しが過ぎることがあるのではないかと思うこともあるが、俺はそんな虹夏の性質が嫌いではなかった。
「……でも、杞憂だったな。別に二人に合わせたワケじゃないけど、今俺がやりたいと思ってるのはベースでもドラムでもないから」
二人に断って一度席を立つ。
俺は今朝見つけたばかりのギターケースを手にしてからリビング戻った。
「これは?」
「ギターだよ。父さんが昔使ってたのを見つけた」
「えっ、見たい見たい!」
今まで静かにやりとりを聞いていたリョウが身を乗り出す。彼女が俺の左側に肩を並べると、反対側に虹夏が躍り出た。
中身を知った今、俺にはこの真っ黒な箱がまるで棺のように見えた。蓋を開くと毛足の短い絨毯のような緩衝材の上に父の遺品が横たわっている。
エメラルドグリーンのテレキャスター。波打つような木目は美しい南国の海を想起させ、ピックガードの黒がいいアクセントになっていた。
俺はケースの内蓋に付いたポケットから父さんの写真を取り出す。複数枚ある内、路上ライブを撮影したものを二人に見せた。
「父さんはギターボーカルをやってたみたいなんだ。だから俺は二人とバンドを組むならギターもボーカルもやってみたい。……まぁ、初心者の俺にフロントマンを任せるのは不安だと思うけど」
言いながら小さく笑った。
その声色か、もしくは顔色にでも表れていたか。相対する二人の目は俺の自信のなさなんて見透かしているような目で、まっすぐにこちらを見据えていた。
俺の憂慮を否定する言葉には一切の迷いがない。
「そんなことない。入学式の日、カンナは誰よりも上手くなるって言ってた。だから大丈夫」
「うん。カンナくんが断言したことを絶対にやりとげちゃうのは、私たちが一番よく知ってるしね」
「……そうか。ありがとう」
リョウの微笑と虹夏の悪戯っぽい笑顔が目に焼き付いた。俺の不安には、それが言葉よりもよく効いた。
二人が信じてくれるなら、二人ができると言ったなら。俺はもうギターと歌唱を極めるしかない。退路は既に断たれたのだ。
かくして、俺は暫定的に最強バンド(仮称)のギターボーカルを務めることになった。
この後ボドゲ大会で将来的に結成するバンドの命名権を争ったのだが、ぶっちぎりで優勝したリョウが付けた『結束バンド』という名に虹夏が難色を示していたのはまた別の話だ。
早く喜多ちゃんを出したい。