【最難関】ぼっち・ざ・ろっく!のギャルゲーで喜多ちゃんを攻略してみた【一年目攻略】   作:くじょう

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初投稿の理由が思いつかなくなってきたので初投稿です。


怪物の繭

 ギターを始めてから二ヵ月が経った。幸い三日坊主になることもなく、今の今まで練習漬けの日々を送っている。あの日以来俺は暇さえあればギターを弾き、指が切れれば歌を歌い、喉が潰れれば教本を読んだ。

 常に身体のどこかしらに痛みがあったが、そんなのは成長を実感した時の快楽に比べれば些細なものだ。

 父さんのギターが自分の手に馴染むたび、自分の声が曲を食らうたび、全身を駆ける征服感が俺をロックの沼に沈めていく。

 ただただ、それがたまらなく気持ちよかった。

 

 そんな毎日を繰り返しているためかギターと歌唱の実力は否応なく上達していった。別段比較対象がいるわけではないが、始めて二ヵ月の人間にしては相当上手い自負もある。

 もっとも俺はこんな所で満足するつもりはないし、今より上達できないとも思わない。

 そのモチベーションの根底にあるのは、もちろん虹夏とリョウ、星歌さんを驚かせたいという思いだ。

 

 彼女らは俺よりもよっぽど耳が肥えているだろうし、想定の実力を軽く飛び越えるくらいでないと驚かすことなんてできないだろう。

 

 だから今日とて練習三昧だ。

 

 左手は人差し指から小指まで絆創膏が巻かれているが、もうほとんど痛みは感じない。まだ時間も早いことだし今のうちにギターの練習をしよう。

 

 物置き部屋で見つけたアンプにこれまた物置き部屋で見つけたシールドを繋ぐ。印字の擦れたツマミを回して音量だの音の質だのを調整しながら、お気に入りのフレーズを弾いて指を温めた。

 

「…………」

 

 基本的な準備を終えた後、俺はいつも一分程度の瞑目を挟む。ルーティンの意味もあるが、一番の目的は例の不快なノイズを頭の中に呼び起こすことだ。

 

 毒薬変じて薬となる——といったか。俺の日常を妨げる電子音は練習中に限っては頼もしい相棒だった。

 なにせ頭の中にメトロノームがあるようなものだ。秀でた音楽の才能に恵まれなかった俺にとって、この音に裏付けられたリズム感は強力な武器になる。

 

 不快なことに変わりはないが、それでも圧倒的な実力を身につけるために利用しない手はなかった。

 

 ジジ、と音が鳴る。

 

「————来た」

 

 脳幹を貫くような感覚。

 

 正体不明の信号に身体を委ね、意識をより内側に沈めていく。耳鳴りみたいな音はこんなに喧しいのに、不思議と頭は冴えていった。二重、三重に思考することだってできる。

 確信こそないが、いわゆるゾーンと呼ばれる状態なのだろう。呼吸、拍動、それからノイズ。自分から出る音だけが世界のすべてだった。

 

 目を開いて擦り減ったピックを手に取る。意識を音と両手に集中させて、若者の間で流行っているらしいバンドの曲を弾き始めた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「あれ。カンナ、ギター弾いてるんだ」

 

 本屋で雑誌を買ってきた帰り。カンナの家の前を通ると、ギターの音が漏れ聞こえてきた。

 

 学校が終わったと思ったらすぐに帰ってしまったのはこのためだったのか。

 納得しながら、カンナが声もかけずに行ってしまったことを愚痴る虹夏のことを思い起こした。適当なことを言って宥めておいた分の貸しはいつか絶対に返してもらおうと心に誓う。

 

「どれくらい上手くなったんだろう……Fコードの壁を越えてたら上出来、ってところかな」

 

 せっかくだから少し聴いていこうと思って路傍に立ち止まって耳を立てる。多分、弾いているのは先月リリースされた人気バンドの曲だ。

 始めて二ヶ月くらいのカンナが弾くには難易度が高いはずだけど、少なくともイントロのリフにはたどたどしさを感じなかった。

 

「……上手い」

 

 イントロだけじゃない。AメロもBメロも、サビまでいっても安定感は変わらない。

 壁越しだと細かいニュアンスまで分からないけど、正確無比なリズムで刻まれる音は耳に心地よかった。

 

 私はカンナの演奏を直に聴いてみたいと思って、玄関に足を運んだ。

 

 インターホンを鳴らす————が、数分待っても人が現れる気配はないし、ギターの音も鳴り止まない。どうしたものかと考えて試しに手をかけてみると、ドアは難なく開いてしまった。

 

 在宅中とはいえ鍵をかけていないのは不用心じゃないか。流石の私も心配になる。

 

「カンナ、入るよ」

 

 聞こえてはいないだろうけど、一応家主のカンナに声をかける。予想通り返事はなかった。

 許可なしに家に上がるのは憚られたから、鍵がかかっていなかったのを伝えなきゃいけないし、と大義名分を胸に靴を脱ぐ。

 

 音が聞こえてくるのは二階だ。見慣れた階段を上がり、すぐ左のドアを開ける。私と音との間に隔たる壁がなくなって、音圧が一段階強くなった。

 

「カン、ナ」

 

 声が詰まる。

 

 そこにいたカンナは、私たちがつい数時間前まで一緒にいた彼とは別人みたいな雰囲気があったから。

 

 思わず呼吸を忘れる。

 

 他人より少しだけ長い髪を揺らすその姿は、今まで目にしたどんなモノよりも衝撃的だったから。

 

「……すごい」

 

 気付けば声が漏れていた。

 

 初めて数ヶ月の人間がこんなにもサマになった姿でギターを弾くのを、私は見たことがない。後ろ姿を見た瞬間に袖の下の皮膚が粟立ち、自然と笑いが溢れるようなギタリストを、私は見たことがない。

 

 ただ見ているだけで呑まれそうになるのを、私は腕を抱いて耐えた。

 

 演奏にしたってマトモじゃない。もちろん良い意味で、カンナの演奏は逸脱していた。

 音の粒が揃いきっていなかったりミュートが不十分な所があったりと荒削りな部分はあるが、それでも既に数年間ギターに触れたアマチュアと遜色ないほどの実力だ。

 

 何より驚かされたのは、ハイテンポで複雑なフレーズを音源を思わせるほどに正確なリズムで弾いてみせたこと。見たところメトロノームを置いているわけでもないし、彼はそれを自身に備わったリズム感のみでやってのけているようだった。

 

 それに気付いた瞬間私の本能が察した。

 

 カンナは本物だ。もう一年……いや、二年もすれば彼の腕はプロの領域に達するだろう。

 

……だけど。

 

 そんな啓示とともに生じたのは、果たしてその時カンナの隣でベースを弾いているのは私なのだろうかという不安だった。

 

 私にも実力はある。それに伴う自負もある。それでもこの圧倒的な成長スピードを前にした時、私が積み上げてきたものが揺らいだ気がしたんだ。

 

「——ハハ」

 

 乾いた喉から笑い声がした。

 

 幼い頃から私と虹夏、そしてカンナの三人はずっと一緒だった。まさかその中にこんなバケモノじみた逸材がいるなんて考えたこともなかった。

 

 ついこの間までカンナはまるでロックに興味がなかったし、だからこそ私と虹夏も楽器を始めることを無理に勧めたりはしなかった。

 だけどどうだ。今目の前でギターを弾いている幼馴染みは正真正銘の麒麟児じゃないか。こんなに面白いことが他にあるだろうか。 

 

 らしくもなく闘志が燃える。身体の芯が熱くなるのはきっと錯覚じゃない。

 

 胸中には、ただこのバケモノと肩を並べてバンドをやりたいという思いだけがあった。

 だからカンナにも、もちろん他のベーシストにも負けてはいられない。

 

 誓いながら、私は膝を抱えて床に座った。

 

 何をするでもなくずっとカンナが演奏する姿を見ていた。彼の隣で自分がベースを弾く姿を夢想しながら、ずっとそこに座っていた。

 

 しばらくして一息入れようと立ち上がったカンナが、私の姿を見てひどく驚いていたのは言うまでもないだろう。




カリスマ持ちの保浦くんがリョウの脳を破壊する回(メインヒロイン未登場)
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