青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
後藤ちゃんの家に行くというイベントは、おおよそ無事に終わった。私服を着た後藤ちゃんが可愛いらしいのなんの。前髪を上げられた途端溶けたけど、蘇生には成功しました。伊地知と喜多ちゃんの蘇生も必要だったのは疲れたね。
「結局デザインはどうなったの?」
「なんでおれに聞くんだよ」
「一緒に行ってたんでしょ? 決まらなかったのは知ってるけど、その後虹夏が決めてるはず」
「決めてたな」
「パッシーなら知ってるはず」
「どこからきたその確信」
正解だよ。後藤ちゃんと駅でお別れして、喜多ちゃんとも途中で別れ、しれっとおれの家に上がった伊地知がデザインを決めてたよ。バンドの人気が出たら物販にも使いたいとかで、シンプルなデザインに落ち着いてたな。
「服を作ってもらうための依頼も済ませた?」
「それも済ませてある。バンドの人数分だけだから、数日で作ってもらえるらしい」
「そうなんだ」
「曲の仕上がりはどうなんだ? オリジナル曲を披露するんだろ?」
「本番でのお楽しみ。がっかりはさせない」
「それは楽しみだな」
バンド活動をしてないおれが、結束バンドのことをとやかく言うのは烏滸がましい。日々の努力を知っている。頑張ってほしいと思える人たちが活動している。
それで「楽しみにしとけ」と言われるなら、心待ちにしておけばいい。オーディションでは後藤ちゃんが一瞬だけ技術跳ね上がってたし。
あれってたぶん……まあ、言わないでいいか。後藤ちゃんは後藤ちゃんだ。
「パッシーの家はウェルカム対応だと聞いた」
「友達限定でな」
「私達は友達」
「家に来ようとしてるのはバレバレだぞ。なに? なんでお前ら急に家に来たがるわけ?」
「虹夏は知らない。私はお菓子目当て」
「潔く言ったな! 食事代ぐらい残して浪費しろよ」
「難しいこと言う」
「難しくはないだろ」
伊地知って山田の面倒を見てるわりに、お金周りは言及しないんだな。もしくはもう諦めてるかのどっちかか。
「ところでパッシー。最近裏切り行為が目立つね」
「いつから味方だと錯覚していた?」
「なん、だと?」
「で、裏切り行為って何?」
「期末テストに向けて勉強してる」
「あ~~。それな。花火大会が補習の日と被ってるから、そこを回避するために勉強中」
「勉強しない同盟はどこいった」
「勉強できない同盟だっただろあれ」
成績悪いもの同士で仲良くする的なやつ。そうは言っても判定ガバガバで自己申告制。そんなもんだからクラスの男子は全員この同盟に所属している。
「彼女まだできてないのに」
「彼女作るために街に繰り出したいんだけどな。バイトもあるし、休みの日は遊びの予定が入ってたりでなかなかいけない」
「もう手詰まりだね」
まだ慌てるような時間じゃない。夏休みまでもうしばらくの猶予はある。
問題はやはり起点か。出会いは大切。きっかけがなければチャンスへと繋げていけない。合コンとか行っちゃうか? あれって高校生でも行けるのかな。さすがに高校卒業してからじゃないと駄目なのかな。
学校外の何かしらのサークルに参加してみるとか? 出会い目的で行くのは失礼過ぎるよな。
「誰と遊んでるの?」
「友達。喜多ちゃんと遊ぶ割合も増えてきたけど」
「へー。2人が仲良くなってたのはそういうことか。最近告白してないのはなんで? 遊ぶようになってるなら好感度上がってるでしょ」
「ギャルゲーみたいに言うなよ。押して駄目なら引いてみろ作戦を実施中」
鍵作品のゲームはなんであんなに感動系が多いんだろ。ぼろぼろに泣かされまくってるんですけど。
「仮に喜多ちゃんと付き合えたとして、先のこともOKくれるかはわからないな」
「結婚?」
「そうじゃなくて。もちろん付き合うのなら本気でその人だけを見るけど、おれは高校卒業したらスターリー辞めるしさー」
「そうなんだ。初耳。それ虹夏に話した?」
「この前言った」
「何か言ってた?」
「んーー、いや、特には。流された感じだったな」
「なるほど。辞めてその後は? 就職?」
山田からこんなに質問されるのは珍しいな。進路の参考にでもするつもりなのか?
「卒業した後はバックパッカーで旅してる」
「就職じゃないんだ」
就職と言えば就職なんだけどな。思い返してみれば、誰にも話したことなかったっけ。おれがオーチューブのアカウントを持ってるのと、ブログを書いてるの。
元々は父親がやっていたことを引き継いでおれが運営してる。いろんな場所に行って、道中とかそこでの交流、目的地の撮影からの編集。そういうので収入を得てる。父親は会社でも働いてたから、休みを利用してって形だった。副業ってわけ。
おれも今は高校生だから、その範囲も限られてる。卒業したら本格的に活動開始になる。
「安定性なさそう」
「バンドマンに言われたくない。あと、ちゃんと収入が今もあるんだからな」
引き継いだ時はそりゃあチャンネルの登録者数とか右肩下がりだったけど、今は段階的に増えていってる。どうしても更新頻度が遅いから、目先の悩みはそこだけ。
「そっか。海外に行くんだ」
「いろいろと見てみたいからな。だから誰かと付き合えたとしても、そこを理解してくれるかはわからない」
「私みたいな人間なら気にしないけど、他の3人みたいなタイプには厳しいだろうね」
「そうだよなー。いずれ落ち着く予定だけど、それも日本じゃないからなー」
「どういうこと?」
「知り合いを通じてイギリスの会社の人の目に止まったみたいで、声かけられてる。バックパッカーするのも、日本からイギリスに行く道中だよ」
最初は父親宛に来た話だと思っていたんだけど、どうやらおれ宛だったらしい。翻訳を使いながら内容を理解して、英語が得意な友達にも助けてもらいながらやり取りした。
「イギリスと言えばバンドの聖地! そっちで有名になって私たちを招待して」
「自力で来いよ!? バンド活動を続けていくなら、上を目指していくんだろ?」
「もちろん。行ってみせる」
それが叶うのなら、結成当初から知っているものとして鼻が高い。古参ファンムーブができちゃうな。厄介な古参にだけはなりたくないから、そこは気をつけねば。
「今のうちにサインでも書いとこう。将来高額になる」
「そうなってる頃にはお前金欠生活してないよな」
「楽器関係に使ってる」
「説得力が強い」
「事前にサインを量産しといて、将来の資産にしておく」
「お前のサインだけ安くなりそう」
山田楽器店でも開けるようになってるかもしれない。もしくはYAMADAミュージアム。入場料はもちろん取るんだろうな。値段の設定は高過ぎないようにしてほしい。
「おれの進路の話だけどさ、まだみんなには言わないでおいて」
「元からそのつもり。こういうのは自分から話すべき」
「ありがとう」
「いつ話すとかはパッシーの自由だけど、虹夏に最初に話してほしい」
「伊地知に? 軽くだけ話しちゃってるからか?」
「そんな感じ」
それだけじゃないよな。本当はきっと、山田に話すよりも先に伊地知に話しておくべきだったんだ。高校でスターリーを辞めるって話した時、驚きもあったんだろうけど、それよりもショックを受けてる感じだった。
流されたから理由を話してなくて、ずるずると今日になってる。
友達にはやっぱり話しておかないといけないよな。
「伊地知に話すとして、喜多ちゃんにも話すし、後藤ちゃんにもだな」
これもう纏めて全員に話したほうがいいんじゃ……。
「絶対に虹夏には先に話して。後輩組は纏めてでもいいけど」
「あ、はい」
いつになく真面目に言われてしまった。普段から表情が変わらないポーカーフェイス山田なのに、わかりやすく真剣だ。
「これは私なりのアドバイスだから」
女子側の視点、同級生でもあり伊地知の親友でもある山田のアドバイスだ。ありがたく受け取っておこう。
もしこれ以上重要な意見があるとしたら、それは店長の意見くらい。でも店長からは何も言われてない。あの人は大人として常に一歩引いてるからな。
「なあ山田」
「なに?」
「そろそろ戻らないと店長に怒られるんじゃね?」
「大丈夫。さっきから窓越しに見られてる」
「何も大丈夫じゃないやつ!」
2人揃ってこってりと怒られました。