青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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マーメイド喜多ちゃん

 

 現状を整理しよう。

 目標は夏休みまでに彼女を作る。現在は期末テストも終わって夏休み直前。テストの方は伊地知の監視下で勉強してたから問題ない。少なくとも補習は回避できる。

 夏休みでの障害はこれで排除できた。これで思う存分彼女と過ごすことができる……ってなるはずだったのになぁ。

 

「遠い目をしてますけど、先輩大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だけど大丈夫じゃない」

 

「どっちですか」

 

「夏休み直前だけど、彼女いないなぁと思って。野郎だけで遊ぶ夏もそれはそれで楽しいんだけどさ」

 

 実際去年はめちゃめちゃ楽しかった。弾丸旅行とかダーツの旅とかしてたおかげで、動画撮影もブログの更新もできたからな。キャンプをしたり日本の秘境に行ったり。あれ、彼女いなくても充実して……げふんげふん! 彼女はほしい!

 

「男の子の遊びってやっぱり全然違うんですね」

 

「おれたちが標準かは別としても、違うのは違うと思う」

 

 他の宿題を犠牲にしてクラスの男子で合作自由研究したのも面白かったな。でかいものを作っても、おれの家が学校の目と鼻の先だからすぐに運び込めたし。

 アームストロング砲装備2分の1サイズザク○Zを作ったのは力作でしたね。先生たちも無言で拍手を送ってくれたものだよ。

 

「先輩の学校ってうちより遥かに頭いいはずですよね!?」

 

「全力でふざけた方向に活用するのも楽しいもんだよ。大目に見られるのは学生の間だけなんだから」

 

「イメージが壊れてく……」

 

「今年は何にするんだろうな」

 

「あれ? 先輩が企画したんじゃないんですか?」

 

「おれは場所の提供して、製作の一部を協力しただけだよ」

 

「先輩以上の人がいるってことですか」

 

 おれを何だと思ってるんだろう。喜多ちゃんって慣れてくると遠慮なく言ってくるタイプだよね。いえ大歓迎です。節度さえあれば遠慮はなくていいと思う。

 女子の夏休みってどんなだろう。結束バンドだと4人それぞれ別の過ごし方をしてそう。喜多ちゃんなら友達と過ごす時間が多いんだろうね。イソスタ映えするポイントに行くのかな。

 

「そうですね。いいねが欲しくなるので」

 

「SNS中毒だねぇ」

 

「だから、水族館(こういうとこ)に行くのは案外ないんですよ」

 

「魚ってイソスタ映えしないの? しないか」

 

「水槽次第です」

 

 魚博士のアカウントはそらもう魚だらけなんだけどな。撮り方にもよるんじゃないかな。

 考えてみたら、喜多ちゃんのイソスタの写真は固定されてるものが多いか。魚とか動物とか、そういう動くものは全然ない。友達との写真があるくらい。

 

「リニューアルオープンしてから来てみたかったんですよ。付き合ってもらってありがとうございます!」

 

「おれの方こそありがとう。嫌いじゃないけど、あんまり来る機会がないからさ」

 

 喜多ちゃんの友達ならお願いしたら付き合ってくれそうだけどな。周りを見ても、女子だけで来てる人だって珍しくない。家族で来てる人が一番多いか。男だけってのは、魚好きそうな人くらいで希少種だな。

 

「先輩は水族館に来るのはいつぶりですか? 私は小学生の時に家族で来たのが最後です」

 

「思い出の場所がリニューアルしたから来たって感じ?」

 

「いえその時は別の場所なんですけどね」 

 

「そうなんだ。おれが最後に来たのは……春休み以来か」

 

「結構来てますね!?」

 

 魚博士な友達がいるからですとも。おかげで魚の知識が増えたり、なんてことにはなってないんだけどな。その友達が1人の世界に入るタイプだから。それなのに誘ってくるのは「1人で行くとか精神的にキツイだろ!」っていう、後藤ちゃんみたいな理由。

 水族館の定番と言えば何だろう。大型の水槽? イルカショー? アシカショー? おれはサメがカッコイイと思うね。

 ジンベエザメがいないのは残念。大阪か沖縄に行けばいるみたいだけど、他にもどこかにいるんだっけ。どうだっけな。

 

「喜多ちゃんは見たい魚とかいる?」

 

「魚ではないですけど、ペンギンは見たいですね。かわいくて見てて癒やされます」

 

「ペンギンもいいよね~」

 

 口の中さえ見なければ。あれって本当なのかな。実はコラ画像だったりしないかな。

 もし本当だとしたら、ペンギンは「口さえ開かなければ……」生物に認定されるな。なんだ。おれと一緒じゃないか。ということはつまり。

 

「おれもペンギンだったというわけか」

 

「え、急にどうしたんですか?」

 

「これからはパッシー改めペンギン先輩と呼んでもらってもいいよ」

 

「パッペン先輩ですね!」

 

「そこ略すの!?」

 

「うーん、でもパッシー先輩の方が呼び慣れてるのでこっちにします」

 

 喜多ちゃんに振り回される日が来るとは。喜多ちゃんならOKです!

 

「こうやって見てると、シュノーケリングかスキューバダイビングをしてみたくなるなー」

 

「スキューバダイビングは、ウミガメと泳げたりするやつですよね。テレビで見たことあります」

 

「そうそう。海の中を泳いで間近で魚を見るやつ。シュノーケリングは海面から海の中を見て楽しむやつね」

 

「どっちも楽しそうですね! でも海の中は少し不安です。海開きした今みたいな時期から、海の事故は毎年ニュース出ますし」

 

「安全を絶対に保証するのは無理だからねー。登山だって危険は伴うわけだし」

 

 登山で人気な山なら、整備されてて登山しやすくなってる。それでもそれは道が決まっているだけであって、道をそれて転落しようものなら怪我じゃすまない。そうじゃなくても、富士山とかは高いからこそ高山病があったりする。

 

「先輩は泳ぐの得意ですか?」

 

「バッチリ泳げる」

 

「じゃあもし私がする時は先輩もお誘いしますね」

 

「うん?」

 

「シュノーケリングに。軽く調べてみたら、スキューバダイビングは資格がどうとか出てきたので」

 

「なるほどね。それバンドのメンバー誘わなくていいの?」

 

「先輩だけ男の子って状態になりますよ?」

 

「よしやめとこう」

 

 おれが友達を呼んで人数調整することはできるけど、そしたら今度後藤ちゃんが拒絶反応起こす。なんでも誘えばいいってわけじゃないな。

 

「シュノーケリングだとできないと思うけど、魚と一緒に泳ぐ喜多ちゃんは絵になるだろうね。マーメイド的な」

 

「私が人魚なら、先輩はおとぎ話の王子様ですね」

 

「どうも下北沢のプリンスです」

 

「あ、やっぱピエロかも」

 

「リストラ!?」

 

 王子からピエロへの転落ってどういうこったい。どんな人生の転がり方をしたらそうなるんだろ。ネット小説とかにならありそう。

 

「んー」

 

「どうかした?」

 

「いえ、魚と一緒にっていうのを想像してみたんですけど。こんな感じですか?」

 

 大型水槽の前に立った喜多ちゃんが、魚たちを背景にポージングをしてみせた。月並みだけどその姿は本当に絵になっていて、思わず言葉も目も奪われた。

 

「先輩?」

 

「あぁ、いや。なんというか、幻想的だったから」

 

「撮ってもらってもいいですか? 自分だとわからないですし」

 

「いいの?」

 

「私がお願いしてるんですよ?」

 

 くすくすと笑われて、それはそうだとおれも力が抜けるように笑った。お願いされてる立場で、許可を求めるのはおかしなことだ。

 

「それじゃあ撮るよ」

 

 喜多ちゃんがさっきと同じポージングをして、スマホのカメラのシャッターを1回だけ押す。

 

「もういいんですか?」

 

「うん」

 

 なんだか、これを何回も撮るのは違う気がした。けれどこれが、喜多ちゃんの納得できるものとは限らない。そのことが頭から抜け落ちていたのはおれの落ち度だ。

 

「やっぱりもう何枚か撮ってみようか」

 

「……人が多いですし、そのチャンスはなかなか来なさそうですよ」

 

 喜多ちゃんに目を奪われたのは、どうやらおれだけじゃなかったらしい。喜多ちゃんがいた場所にはすでに他の人がいて、思い思いに写真撮影が始まってる。

 これじゃあ当分は写真を撮れなさそうだ。

 

「見せてもらってもいいですか?」

 

「いいけど、写真としてはどうだろうな……。おれが見たものを写真として収めたやつだから」

 

 近くによった喜多ちゃんがスマホの画面をじっと覗き込んでる。もしかして、フォローの言葉を考えてるのかもしれない。喜多ちゃんは優しいから。

 

「ありがとうございます先輩。この写真嬉しいです!」

 

「嬉しいんだ」

 

「はい! 先輩にはこう見えてたんだなって。先輩の見たものが私にも共有されるのって、なんだかロマンチックじゃないですか」

 

「その発想はなかった。これが男女の思考の違いってやつか」

 

「ふふっ、どうでしょう。今度は他のところで2人で撮りましょう! ここに来た記念に! 思い出として!」

 

「いいね。基本的に一方通行みたいだから、この先で良さそうな場所は逃さないようにしようか」

 

「はい!」

 

 喜多ちゃんはよく笑う子だ。眩しい笑顔をしていて、そのあまりもの眩しさに頭がショートさせられる。今だって、ガンガンと頭が鳴っている。

 

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