青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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花火と伊地知 似てるようで似てない

 

 喜べばいいのか。それとも悲しめばいいのか。

 笑えばいいって? ガハハハハハぁ……。

 彼女はできなかった。夏休みに突入して今年も男夏祭りだ。去年と少し違う点があるとすれば、バイトしてること。そして伊地知と花火大会に行くことか。

 おれと伊地知の家は、そこまで遠く離れてるわけじゃない。最寄り駅は同じだし、高校も同じだし。中学は校区の都合で違っただけっぽいな。

 本日は花火大会当日。楽な服装で行こうかと思ったけど、なんでもいいわけでもなさそう。服はそこそこいい感じにしました。

 

「あれ? 駅に集合じゃなかったっけ?」

 

「前は迎えに来られたし、今度はおれがドッキリ仕掛けようと思って」

 

「ドッキリを仕掛けたつもりじゃなかったんだけどなー」

 

「浴衣着てるんだな」

 

「うん。こういう時じゃないと着る機会ないし、持ってるなら着ないと勿体ないからね」

 

「なるほどなー。綺麗だ」

 

「~~っ。ありがと」

 

 一言しか言えなかった。モテる男ならきっともっと相手を褒めることができるんだろうな。ここか。こういうところの差がおれと彼女持ちの差だと言うのか! 

 開き直ってしまうと、それだけ褒められるのは逆に薄っぺらく感じるから一言のほうが……いやでも一言とか簡素すぎるよな。

 気持ちか? 気持ちさえ伝わればいいのか? プレゼントと同じ理屈? 伊地知はどういうタイプだ。

 

「褒められた後にそうやって悩まれると、ちょっと引っかかるなー」

 

「あ、ごめん。もっと言葉を尽くせたらよかったなと思ってたとこ」

 

「そんなのいいよ。上辺だけじゃないってちゃんと伝わってるから」

 

「天使?」

 

「人間だよー」

 

 下駄を履いた伊地知が足軽に飛び出してくる。店長は今日もスターリーにいるようで、家には他に誰もいない。鍵を閉めた伊地知が振り返り、それに合わせて髪が揺れる。その髪を束ねているのは、プレゼントしたリボンだ。こうして使われているのを見るとむず痒い。羞恥心ってやつか。

 

「これ? 髪ゴムで纏めて、その上からリボン巻いてるんだ~。おしゃれじゃない?」

 

「うん」

 

「もしかして照れてる?」

 

「答えませーん」

 

「あっ、ちょっと待ってよ」

 

 階段を駆け下りてると後ろから慌てた声が降ってくる。慣れない履物で転ばれるのは怖いから、踊り場まで降りたらそこで待った。

 

「早めに歩かれたら今日は追いつけないんだからね」

 

「わかってるって。変なこと言われない限りは待つ」

 

「いつも変なこと言ってるのは誰だったかな」

 

「山田」

 

「間違ってはないね」

 

 駅に移動してそこから会場のある最寄り駅へ。大都会ともなれば当然人も多い。伊地知みたいに浴衣を着てる人たちもそれだけ増えている。

 祭りと言えば出店が定番。今日はここで夕飯も兼ねるつもりだから、いろいろと店を回っていきたい。

 

「花火まであと2時間か~。早めに着いたね」

 

「何か食べたいし、並ぶこととかも考えたらこれぐらいじゃないか?」

 

「それもそっか。ね、何が一番好き?」

 

「難しい質問だ。夏だからかき氷は外せないし、祭りとなるとチョコバナナにりんご飴。焼きそばとか焼き鳥、フランクフルトも捨てがたい。綿菓子もあるし、たこ焼きとかベビーカステラもいい線いってる」

 

「あはは! もうそれ全部じゃん!」

 

「そうとも言う。伊地知は何か食べたいものあるか?」

 

「かき氷は私も食べたいかな。でも焼きそばとか食べるなら、先にそっちがいいかも」

 

「じゃあそうしよう。順番に回るとして、焼きそばからフランクフルト、たこ焼きに行ってチョコバナナ、その後にかき氷にするのが回りやすいな」

 

「すごっ、人多いのに見えるんだ? 身長あっていいなー」

 

「180cmもないし見えないって。匂いを嗅ぎわけてる」

 

「こういう時だけ特殊技能出してくるね!?」

 

 祭りという空気がおれの内なる魂を呼び起こすのだ! 射的とか金魚すくいとかヨーヨー釣りとかやっていきたいね。ヨーヨー釣りは去年取り過ぎて強制終了させられたけど。一緒にやってたちびっ子たちにすらドン引きされた。お兄さん悲しいよ。

 これだけ人が多いと知り合いと会いそうなのに、人が多いからこそばったり会うこともなさそう。

 人は多いけど、祭り限定ですいすいとすり抜けて移動できる。今日は伊地知が一緒にいるから、離れないように気をかけた。それで疲れるなんてことはなくて、自然体でそれができる。伊地知相手は、気を張る必要がない。

 

「結構食べたね。あたしはもうあとはかき氷で十分だけど、足りてる?」

 

「おれは多めに買ってたからバッチリ足りてる」

 

 日が沈んでも夏は夏。暑くて汗だって普通にかく。かき氷を脇に置いて、伊地知はラムネをごくごくと飲んでる。ラムネも定番メニューだ。

 

「そっちのかき氷もひと口ちょうだい」

 

「伊地知のもくれよ?」

 

「もちろん。あたしケチじゃないんだから」

 

 おれのかき氷はイチゴ味。伊地知のかき氷はブルーハワイ味。

 ちらっと見えた伊地知の舌は、かき氷で青色になっていた。その事を言うと、照れたようにはにかんでた。おれのはイチゴ味だから色の変化はない。

 今は河川敷に設置されてるシートの上に座ってる。場所を確保できたから、この後はもう花火が始まるまでここをキープ。

 

「花火まであと10分くらいか。2時間なんてあっという間だったね」

 

「祭りは楽しいからな」

 

「そうだけど、そうじゃないんだよ?」

 

「とんちはわからないんですけど」

 

「誰と来たかも大事ってこと。一緒に来れたから、あたしは楽しめてるの」

 

 それはつまりどういう……。だって今日のこれは、おれに彼女ができなかった時って条件で。だからそれに近い形になるように伊地知が付き合ってくれてること。……そこはなんか違うか。

 この辺のはいいんだ。伊地知が楽しんでくれてる。それで十分じゃないか。うだうだ考えるのはらしくない。

 明るい笑顔を浮かべてる伊地知に、今話したほうがいいか。花火が終わってからよりも、その前に伝えときたい。

 

「伊地知。スターリーを辞めるって話だけど」

 

「っ! ……うん。いいんじゃないかな。バイトだもんね。高校卒業は区切りになるし」

 

「ちょっ、話を聞いてください」

 

「聞きたくない!」

 

「伊地知には自分の口で話したいんだ!」

 

 誰かから伊地知の耳に入るのは嫌だ。山田に言われたからじゃない。山田の言葉を受けて、考えて、おれがそう思ったから。

 最終手段はロインか手紙だけど、それも嫌だ。おれの口で、おれの言葉で、全部話したい。

 目を合わせてはくれないけれど、伊地知は耳を傾けてはくれた。話していいらしい。伊地知にはそんな表情をしてほしくなかったし、何よりもさせたくはなかったな。

 

「知り合いを通じて、イギリスの人と知り合ってな。卒業したらそっちに行くんだ」

 

「……いなくなっちゃうんだ」

 

「会えなくなるわけじゃないし、余裕ができたら日本に遊びに来るというか。……うん、絶対来るよ。伊地知に会いに」

 

「へ?」

 

「結束バンドの音楽好きだからさー。二度と会わないとかは寂しいじゃん。ネットがあるとはいえ、やっぱ生がいいし」

 

「あ、あーー。そういうことね。それあたしついでじゃん」

 

「そんなことはないです」

 

「どうせドラムは後ろにいて見えないもんね。目立たないし映えないしそのくせ音がでかいからミスだけは目立つし」

 

「不貞腐れて候。そうは言うけど、おれは結束バンドのライブ中伊地知をよく見てるぞ」

 

 バンドの中でドラムが一番好きなんだよね。それに伊地知は心底楽しそうに演奏してる。

 

「ほんとかなぁ? この前のライブだって、喜多ちゃんとかぼっちちゃんにライブがどうだったーって話してたじゃん。2人のこと見てたんでしょ」

 

「聞かれたから答えただけで……、視覚的にどうしてもってとこは否定できないです。はい。けど、音は伊地知の音に集中してるんだ」

 

 ドラムの音が目立つからじゃない。その音を聴きたいから集中してる。

 だって、

 

「だっておれは伊地知の──が好きだから」

 

 あれ? 花火の時間前倒しされてない?

 予定変更は仕方ないか。この花火を目に焼き付けよう。伊地知の虹の笑顔には及ばなくとも、人々を笑顔にさせられる華やかな花を。

 

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