青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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喜多郁代の事件簿

 

 2学期にもなって夏休み気分が抜けてなんやかんや。後藤ちゃんと喜多ちゃんが通う秀華高校の文化祭の話が上がってきた。クラスの出し物だけじゃなくて、有志による個人の出し物もあるんだとか。後藤ちゃんはそれに出たいけど、今一歩勇気が出ないといった状態。

 伊地知と山田は、後藤ちゃんの気持ちを優先。どうするかは後藤ちゃんに任せたらしい。

 そういうふうに話が進んでいたらしいんだけど、喜多ちゃんが申し込み用紙を出しちゃったんだとか。それを知って後藤ちゃんは魂が抜け、キャンセルしようと喜多ちゃんが生徒会長に話したらキャンセル不可。

 これで喜多ちゃんは殺人未遂となってしまったのだ。

 

「それで喜多ちゃんはちょっと元気がなかったんだ?」

 

「はい……」

 

 今は文化祭前にある中間テストに備えての勉強会。後藤ちゃんの壊滅的な成績をどうにかしようと奮闘中。休憩も兼ねて喜多ちゃんに声をかけて、一旦後藤ちゃんから離れてる。

 ごめんね後藤ちゃん。仲間外れにしてるつもりはないから。寂しそうな目線に気づいてたけど、胸に突き刺さったけど、待っててほしい。代わりに店長置いといたから。

 

「謝った方がいいってわかってるんですけど、それが怖くて……」

 

「わかるわかる。謝るのも勇気がいるからね。中学時代にロケット花火が校長室の方に飛んでいった奴とかいたし」

 

「それニュースになっててもおかしくないですよね!?」

 

 一緒に謝りに行ったの懐かしいな。たまたまその現場を見ちゃって、成り行きでついて行った。校長が良い人でよかったよ。昔のヤンチャ時代の話とか聞かされて、「打ち込みたくなったら校長室だけにしなさい」って言われたな。

 その花火野郎も夏休みのワイルドキャンプに来てて、サバイバル技術が高くなってた。火起こしとか助かったし、食べられるものと食べられないものを把握してたし。

 

「先輩の交友関係時々おかしいですよね」

 

「飛躍的な成長をしてる奴がいるだけです。話を逸しちゃったな。喜多ちゃんは、後藤ちゃんが悩んでることに気づいてたけど出しちゃったんだよね?」

 

「はい……。だからそれを知ったら流石に後藤さんも怒ると思って……」

 

 後藤ちゃんが人に怒るところは想像つかないけど、仏じゃないから怒る時は怒るんだろうな。それがあるから、喜多ちゃんも最後の1歩を踏み出せないと。

 それもそうだよな。最悪の場合バンドの絆に亀裂が入っちゃう。謝罪がトドメになる可能性もあると。

 

「後藤ちゃんがどう思うかは、おれには憶測でしか話せないけど、あの子はそこまで後ろ向きじゃないよ」

 

「……?」

 

「普段の言動で考えたら後ろ向きの代表格に思えるかもしれないけど!」

 

 「これぞ後ろ向き人間の生き方!」って体現してるような存在だけども。後藤ちゃんは前を見れる子なんだから。こと音楽に関しては芯が強くなる。

 伊地知曰く、後藤ちゃんの目標は結束バンドを最高のバンドにすることらしいし。カッコイイよね。

 

「普段の様子を見てたら想像しやすいと思うけど、後藤ちゃんって周りに振り回されやすいでしょ?」

 

「申し訳ないけどそうですね」

 

「後藤ちゃんってそこで卑屈になることはないんだよね。結束バンドにしてもそうだし、なんだかんだでバイトも頑張れてるし」

 

 バイトに関しては辞めるのを言う勇気がないだけかもしれないか。収入が他にもあれば辞めててもおかしくないよな。バイトの理由もチケットのノルマ代稼ぎだから。

 

「とにかく、音楽関係なら後藤ちゃんは前を見て進める子だから。おれの予想では、喜多ちゃんが思ってるようなことにはならないね」

 

 最悪の場合は訪れない。

 

「だといいんですけど……」

 

「結局は行動を起こしてみないとわからない。喜多ちゃんが決意を固められた時に動いたらいいんじゃないかな」

 

 相談している時点で、喜多ちゃんは謝るべきだと判断できてる。おれに話してきてるのも、どうしたらいいかを悩んでるからじゃない。喜多ちゃんの考えに賛同できるかどうか。そこを求められてる。

 そしておれは背中を押す。そうした方がいいと思ってるから。

 

「そういえば、文化祭ライブの楽曲とかは決めてる?」

 

「いえまだですね。テストの後に決めるんだと思います」

 

「なるほどね。……謝る時、不安だったら付き添うよ」

 

 リミットは文化祭までだろうけど、文化祭ライブに向けた練習だって直に始まる。本格的にそこに焦点を当て始める時が、実質的なリミットになる。じゃないと喜多ちゃん本人が気にして練習に打ち込めないだろうからね。

 だからタイミングとしてはそこか、あるいはテスト前に話して解決するかの実質的2択。これで解決すればテストにも集中できるようになる。

 文化祭に向けて頑張ろうってなって、ブーストがかかるかもしれない。

 

「優しいですよね先輩。でも、これは私1人でやります」

 

「そっか。それならおれはいつも通り見守るだけかな」

 

「ありがとうございます。先輩が見ていてくれるって思うと頑張れます」

 

「いつも頑張ってるじゃん」

 

「いつもより、ですよ」

 

「無理だけはしないでね」

 

「はい!」

 

 話せたことで気が楽になったのかな。喜多ちゃんの眩しい笑顔が光度を取り戻してきてる。完全復活したら、元を通り越した光度になって目を焼き尽くされるかもしれない。

 最後に見えるものが喜多ちゃんの満開の笑顔なら、それはそれでありか。……いや、見えなくなる笑顔もあると思うと、それは嫌だな。

 

「そろそろ戻ろうか。後藤ちゃんがさっきからこっち見てる」

 

「先輩と後藤さん、また仲良くなってますよね」

 

「家まで送った時に結構話したからかな?」

 

 あとは背負って後藤ちゃんを運んだからか。物理的に距離が縮まってたから、それの経験で後藤ちゃんの心の壁が少し下がったっぽい。

 未だに目を合わせて話すことはないんだけどね。目を合わせようとして泳ぎまくることが多い。あれでよく目を回さないなと感心もする。

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「1人だけを見てたら他の子は妬いちゃうんですよ」

 

 保育園か何か?

 

「おいパッシー。勉強再開しろよー。私も仕事あるんだから」

 

「りょっか」

 

「言われちゃいましたね」

 

 喜多ちゃんのさっきの言葉は……それに珍しく目を逸らされたし……。

 

「なぁパッシー。数学Ⅰと数学Aの違い分かるか?」

 

「店長バカですねー。数字とアルファベットの違いくらいわかりましょっ」

 

「そういうことを聞いてんじゃねぇ!!」

 

「いだだだだ!! いたいいたい! ギブギブギブ!!」

 

 場を和ませようとしたジョークだったのに。はぁー、骨がイカれるかと思った。伊地知の制裁の方が優しいんだな。求めてはいないけど、やられるなら伊地知にしてもらおう。

 ところで、おれが技を決められるのを2人ともナチュラルにスルーするよね。何事もなかったように勉強を再開してるよ。

 後藤ちゃんと喜多ちゃんは、テーブルを挟んで向き合う形で座っていて、2人の間になるようにおれの席がある。

 山田は本人の家で勉強中で、伊地知は……どこ行ったんだろう。伊地知も自分の部屋かな? これなら2人に話すには丁度いいか。丁度いいけど、今でいいのか?

 今にするか。伊地知と山田にはもう話してることだから。2人にも今話しちゃおう。

 

「再開して早々悪いんだけど、ちょっといいかな」

 

「なんでしょう?」

 

「?」

 

「大したことじゃない……というかおれの進路の話なんだけど」

 

「はい」

 

「高校卒業したらスターリー辞めるねって話」

 

「「え?」」

 

「イギリス行ってる」

 

「そ……そう、なんですね。す、凄いですねイギリス」

 

「まぁ結束バンドのライブ見にたまには帰ってくるから」

 

 2人の反応を見て思った。伊地知の時もそうだったけど、簡単には会えなくなることを惜しんでくれる人が、おれにもいるんだな。

 男友達たちはノリがいいから「遊びに行ったら泊めてくれ」「飯不味レポートしてくれ」とか、そんな感じで後押ししてくれる奴らばっかだったから。距離なんてなんぼのもんじゃいって感じで、これはこれで嬉しかった。

 それとは違う形で、おれとの縁を大切にしてくれる人たちがいる。これほど嬉しいことはない。

 

「……」

 

「?」

 

 目は伏せられていて、後藤ちゃんの表情は見えない。テーブルの下で、服の裾の端っこを摘まれているのは、喜多ちゃんからは見えてないんだろう。上の空って感じになってるのもあるのかもしれない。

 後藤ちゃんは何も言わなかったけど、ただ一度だけ、小さく首を横に振った。

 

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