青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
うちの進学メインの固い学校に対して、後藤ちゃんと喜多ちゃんが通う秀華高校は結構ゆるい。後藤ちゃんが上下ジャージ、申し訳程度に制服のスカート着用というスタイルで通えてるくらい、あの学校はゆるい学校だ。懐の深い学校とも言える。オープンマインドだ。
だからこそ文化祭もいろんな人が来れるようになってる。一般公開。他校の生徒も可能。地元の人たちも可能。ザ・お祭り。
「文化祭に来られて嬉しい! 本当にアニメみたいだネ!」
「アニメが現実に寄ってるんだよ」
「このお店から回ろうヨ!」
「好きにすればいいから引っ張るな!」
「楽しそうだね~」
「伊地知さんも機嫌直してください」
「別に機嫌悪くなってないけど? 一緒に回ろうよって話してたのに当日になって他の人も追加されたことなんて全ッッ然気にしてないけど?」
気にしてるゥゥ!! めちゃめちゃ怒ってるゥゥ!! 山田、伊地知をどうにかしてくれ山田! 自業自得? 巻き込むな? 何が!?
このお祭りを楽しみにしていたのが昨日までのこと。厳密には今日の朝まで。玄関を開けてみたら家の前でにこにこ笑顔なイライザと、拗ねた伊地知と遠い目をしてる山田がいておれの胃は終わりを告げた。
イライザが来るなんておれも思ってなかったから被害者だよ。でも伊地知的には山田とおれと3人で回りたかったっぽい。イライザとも仲良くしてほしい。その人おれの先生なんだから。
「虹夏は怒りんぼさんなんだネ!」
「これ煽り? 煽りだよね?」
「切り替えてよ頼むから……。後藤ちゃんのとこに遊びに行くんだろ?」
「このまま行ったらぼっちがさすがに困る」
だよな。ナイスだ山田。いいアシストだ。
「だから私1人で行ってくる」
「待てやこら」
とんでもない裏切りだ! ブルータスもびっくりだ。明智光秀も目を逸らすレベルだぞ。上げてから落とすな!
「
「声ダブらせて言うな。おれの責任ではないんだし助けてくれ」
「身から出た錆」
「錆びついてねぇよ」
何もしてないんだよ本当に。
なんでだろうな。イライザに触れられる度に伊地知の視線が刺さる。伊地知とも手を繋げばいいのか? いやいやまさかそんな。子どもじゃあるまいし。
あるいはもしや。イライザに慣れてたから何とも思わなかったけど、異性同士の接触がよく思われてないのか? ……それはそうか。思考を放棄するようになってたから忘れてた。当たり前だったわ。
「イライザ」
「なに?」
「手を握るのやめようか」
「ブロは私のこと嫌いになっタ?」
「なってない」
「じゃあ大丈夫だネ!」
あれ? おれって今会話をしたはずだよな?
駄目です。何も打破できません。
「虹夏も素直になればいいのに」
「ちょっ、リョウ! ……あたしだって迷ってるんだから」
「余裕を持つのは大事だけど、悠長にしてても問題。イライザはそういうのじゃなさそうだし、虹夏もやりたいようにするべき」
「そうかな」
2人とも何の話をしてるんだろ。できれば移動してほしいな。イライザを引き止めるのも限界がある。腕が引き千切れそうだ。おれの方が腕力あるはずなのに。
「イライザはどこに行きたがってるの?」
「全部だヨ! まずはここから!」
「チョコバナナか~。お祭りの定番だね」
高校生の文化祭でチョコバナナ出せるんだな。りんご飴もあるのはなんでだ。チョコバナナはまだしも、りんご飴ってそんな簡単に作れるものなのか? べっこう飴じゃなくて?
「食べ歩きもしやすいし、さくっと買って他も回ろう」
「制覇狙ってみる?」
「虹夏太るよ」
「ド、ドラムで燃焼できるから」
伊地知が太ったら……失礼な想像はするもんじゃないな。学習したんだおれは。
高校生レベルのチョコバナナと侮っていたら意外や意外。なんとチョコ味といちごチョコ味の2つ用意されていた。
限られた予算をどう使うのか。このクラスは種類をもう1つ追加して、他は衣装やら何やらに回したっぽい。いちごチョコがあるのならここはいちごチョコを買うしかない。特別感あるとそっちに流れちゃうもんだ。
「ふふっ。ブロ、お揃いだネ!」
「イライザはてっきり2種類食べるかと思った」
「他にもいっぱい食べたいカラ!」
「なるほど。伊地知と山田は普通のか」
「シンプルイズベスト」
「交換しあえるからね。一口どうぞ」
「正直味変わらないと思うんだけど」
「うん?」
「いえいただきます」
一口目を貰ってもよかったのかな。伊地知が差し出してきてるからにはいいんだろうな。
味の感想はというと、チョコバナナですとしか。だって特別な隠し味があるわけでもないし。ところでイライザ。そのメモは何だ? 何をメモした?
「私にも一口ちょーだい!」
「それなら私のを食べさせてあげる」
「ありがとうございます! お礼に私のもどうぞ!」
「いただきます」
「伊地知もおれのを一口食べるか?」
(先に食べさせちゃったからこれって……)
「伊地知さーん?」
「はっ! あぁうん、もらうね!」
「そんな勢い良く食べなくても……」
結構がっつり食べられちゃった。そんなにお腹空いてたのかな。よく食べる女子は嫌いじゃない。美味しそうに食べてたら尚さらだ。伊地知の表情も和らいでるし、一安心だな。残りを食べるとしよう。
「パッシーは気にしないタイプか」
「なにが?」
「なんでもない」
(はぁ。気にしてたあたしがバカみたい)
はぁぁ。なるほどなー。俗に言う間接キス的な? いやでもペットボトルやらコップやらスプーンやら、そういうものでの出来事でもないし。気にしなくてもいいんじゃないかな。
「人が多いから校舎内暑いな」
「そう? 私は暑くないヨ?」
イライザの服装は涼しそうだもんな。そういうことにしとこうか!
「次のお店行こうヨ!」
「引っ張るなって。伊地知、喜多ちゃんとは合流するのか?」
「ここまで来たらそうしようかな。ロインで連絡取ってみるね」
少し棘があったような。
そういえば後藤ちゃんのクラスってたしか2組だよな。クラスの出し物が……ここに行くの? おれが? 他に男子がいないこの状態で?
「どうかしたノ?」
まぁ待て落ち着けおれ。ここは共学なんだ。クラスの男子だって教室にいるはず。大丈夫。女子校に来てるわけじゃない。
「も~~! 無視しないでヨー!」
「あ、ごめん。考え事してた」
「喜多ちゃんとは、ぼっちちゃんの教室の前で集合になったよ」
「りょっか。……ちょっと知り合いに会ってくる」
「えー! 一緒に全部回ろうヨー!」
「すぐ戻るから。後藤ちゃんのクラスのとこで合流するから」
「破ったら釘千本だからネ!」
「針じゃなくて!?」
打ち込まれるの!? グロすぎるんですけど!
「行ってらっしゃい。りんご飴は欲しいでしょ? 買っといてあげる」
「ありがとう伊地知」
(嘘つく時の癖は変わってないんだね)
伊地知にもすんなりと見逃されたな。今日の予定のことを考えると、申し訳無さが半端ない。これの後は伊地知の要望に全部従うとしよう。イライザは……明日もあるからいいだろ。飛び入りなんだし、そこは抑えてくれ。
向かう先はどこかの教室でもなく校舎の外側。
パンフレットを見てすぐに気づくべきだった。後藤ちゃんのクラスの出し物がメイド喫茶なら、後藤ちゃんがその現実に耐えきれなくなることを。これが杞憂で済むのなら何よりだ。後藤ちゃんも変わったということだから。
これが杞憂じゃなかった場合、放っておくことはできない。後藤ちゃんの青春コンプレックスが加速する自体になる。青春時代がイコールで黒歴史になるなんて、将来の後藤ちゃんが一生苦しむ気がする。
探す場所は簡単。人がいなさそうなところ。
「すなわちこういうところ」
「ぇ、えっ!? パッシー先輩!? な、なんで」
「文化祭だし遊びに来た。床に寝転がってたら、綺麗な髪が汚れちゃうよ」
「あっ、いえ。特にこだわった手入れとかしてないですし」
「汚れは払おっか。自分でできそう?」
男のおれが髪に触れた日には、後藤ちゃんは蘇生に半日を要することになるかもしれない。本人の許可なく触るべからず。
「あっはい。たぶん……」
「そっか。状況を見るに……メイド服を着るのまではできたけど、そこから耐えきれなくなったと」
「じょ、女子全員接客と言われて……」
「人によってはその服が嫌って人もいるもんなー。おれの意見では、後藤ちゃんめっちゃかわいいよ」
「~~! あっ、ありがとうございます」
メイド喫茶の鉄板セリフとも言える「萌え萌えキュン」系列。今まであれを言われたいなんて思ったことなかった。だがしかし、後藤ちゃんのこの姿を見たらその気持ちも理解できてしまう!
これ頼み込んだらセクハラになるかな? 耐えるしかないか!
「せ、先輩」
「なんでしょう女神様」
「あっ後藤です。……その、も、もえもえキュン」
「ブハッ!」
「え!? せ、先輩鼻血がすごい勢いで出てますよ」
次回との前後編になると思います。
Q なぜぼっちちゃんがこのセリフを?
A 主人公の心の声がダダ漏れだったから