青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
今日はぼっちちゃんの家に来てる。ギターヒーローとしての動画撮影を見学させてもらうのが目的。ぼっちちゃんは、文化祭ライブでギターが壊れちゃって、この前新しいギターを買ってる。そのお披露目も兼ねての動画撮影。
「ハプニング有りだったけど、文化祭ライブ盛り上がってよかったね」
「あっはい。み、みんなへの声援が凄かったですね。私には全然……」
「そ、そんなことなかったと思うよ! 土壇場でボトルネック奏法して注目浴びてたし、その後のダイブでもさ」
「パ、パッシー先輩しか受け止めてくれなかったですけど」
「いなかったら床に激突してたよね」
「あっ、あれってどうやったんでしょう? わ、私ダイブしたのに、先輩に受け止められた時には上を向いてて」
「本人に聞くしかないんじゃない? あたしも見てたけど分からなかったし」
「……はっ、恥ずかしい、です」
かわいい。持って帰りたい。……じゃなかった。
ぼっちちゃんがお姫様抱っこで受け止められて、それはそれで大盛り上がりしてたなー。ぼっちちゃんは顔を真っ赤にして溶けてたけど、その後の最後の一曲はちゃんと弾けててバンドマンって感じだった。
「お姫様抱っこされてどうだった?」
「えっ、あっあんまり覚えてないです」
ありゃま。
「で、でも……いえやっぱり何でもないです」
あぁ、羨ましい。
いいなぁぼっちちゃん。あたしでもお姫様抱っこされたことないのに。あたしがしてもらうはずだったのに。大きくなったら、してくれるって言ってたのになぁ。
本人が覚えてないんだから、こういう口約束も無かったことになってる。いっぱい口約束して、いっぱい将来のことを話してたのに。
「に、虹夏ちゃん?」
「え? ああごめんごめん。動画撮影するんだよね。何か手伝えることある?」
ぼっちちゃんはギターヒーローさん。その事を知ってるのは、結束バンドだとあたしだけ。リョウと喜多ちゃんには、いずれぼっちちゃんから話すことになってる。それはぼっちちゃんのソロの技術力の高さと、グループでの演奏力が釣り合ってないから。
あたしが手伝えることは、機材の設置の手伝いくらいで、あとは見守るだけ。編集とかもぼっちちゃんが自分でできるからね。
改めて見るとやっぱり上手い。ぼっちちゃんのギターの腕は、本領発揮したらバンド内で飛び抜けてる。今は合わせに慣れてないから目立ってないだけ。ぼっちちゃんが慣れるのが先か。あたしたちが追いつくのが先か。
結束バンドを最高のバンドにすると言ってくれたぼっちちゃんを、本当にぼっちにしないためにも、あたしももっと頑張らなきゃ。
(今日の虹夏ちゃん情緒が不安定だな)
ぼっちちゃんの動画って、サムネもタイトルもシンプル。概要欄の虚言は凄いことになってるけど、登録者が増えてるのは動画の内容が要因。実力でファンを獲得できてる。
「あっ、初コメ来た」
「早っ!?」
さすが、ギターヒーローともなるとガチファンがいるんだね。というかこの名前……。
「こ、この人いつもすぐに見てくれて、コメントもすぐにしてくれるんです。が、頑張ったところとか、欲しい反応してくれて」
だろうね。普段あんな感じで毎日を花火みたいに生きてる人間だけど、ちゃんと細かいところまで見てるからね。というか、ぼっちちゃんがギターヒーローだってこと知ってるのかな。気づいてても驚かないけどさ。
「ねぇぼっちちゃん。ぼっちちゃんはさ、バンドが売れるようになって、収入も安定するようになったら、バイト辞める?」
「えっ……あっ……」
ぼっちちゃんの性格なら、接客業はすぐに辞めたいか。でも言い出せないんだよね。あたしの夢も知ってるから、直接あたしに言うのも気が引ける。
……ずるいことしちゃったな。
「まぁ辞めたとしても、スターリーには遊びに来てよ。あたしの願望だけど、売れるようになっても、練習場所はスターリーがいいかなー」
「あっ、はい。……パッシー先輩は……」
「あ、もしかして話聞いた?」
「き、聞きました。喜多さんと一緒に」
「ふんふん。じゃあ全員知ってるんだね」
そっか。いつも頼ってる先輩がいなくなるなら、収入も得られるようになるとぼっちちゃんが辞める可能性も高くなるか。
本人は分かってないんだろうなー。周りに与える影響も、どれだけ慕われているのかも。
「ぼっちちゃんはさ、残っていてほしい?」
「えっ、パッシー先輩にですか?」
「うん。あたしはなんだか分からなくなっちゃって。考えちゃうともうぐっちゃぐちゃ。だから他の人にも聞いてみたいなって思って」
お姉ちゃんは最初から知ってたし、止める気もない。自分のやりたいようにやってて、お母さんが亡くなっちゃってからはスターリーを作ってくれた。そんなお姉ちゃんだから、人の進路に口出ししないんだろうね。
リョウも何も言わない。本人の意思を尊重するとか言って、それ以上は話を広げない。
喜多ちゃんは、どうなんだろう。今度聞いてみようかな。他のことも兼ねて。
「わ、私もあんまりわかんないんです」
足を撫でてる。そういえば始業式で怪我してたんだったね。捻挫ですんでよかったよ。もう治ってるみたいだし。
「パ、パッシー先輩には、いつも助けてもらってて。バイト頑張れてるのも、いてくれるからで。あっ、も、もちろん虹夏ちゃんたちもですよ!」
「あはは、ホントかなー?」
「ほ、本当です! に、虹夏ちゃんがいなかったら、私、今も1人でギター弾いてました。虹夏ちゃんは私のヒ、ヒーローなんです」
「へっ?」
そ、そうやって断言されるの恥ずかしいなぁ。あたしだってあの時困ってて、助けてくれたのがぼっちちゃんだったのに。
「は、話を戻そうよぼっちちゃん」
「あっ、そうでした。せ、先輩がいなくなるのは……寂しいです。胸がきゅってなります。で、でも先輩の進路だから、見送らなきゃとも思ってて」
「そっか。それでどっちとは決められないんだ」
「は、はい」
ぼっちちゃんもそういう感じか~。あたしのとはちょっと違うけど、似たりよったりだね。
「に、虹夏ちゃんは?」
「あたし? ……ぼっちちゃんはどこまで知ってるの? スターリーを辞めるって話くらい?」
「あっ、き、記憶喪失のことも知ってます」
「そうなんだ。そこまで話してたんだ」
「あっ喜多さんは、知らないと思います。べ、別の日に聞いたので」
「なるほどね」
ぼっちちゃんには話してるんだ。……そっか。
「あたし達はね、幼馴染なんだ。小学校が一緒だったの」
「……!」
リョウと知り合う前のあたしの親友。大切な友だちを超えた大切な人。まだ17歳なのに、この先もう二度とこんなに人を好きにならないと確信してるくらい、あたしは焦がれる恋をした。
「記憶喪失になった事故で1回転校してて、再会したのは高校に入学した時。……記憶喪失だって知ったのも高校生になってからだよ」
再会したと思っているのはあたしだけ。向こうにとっては初めまして。
あの時、うまく笑えてたかな。作り笑いだったこと、気づかれてたのかな。どっちでもいいか。
「あたしね、好きだったんだ。本気で好きで、本気で結婚したいって思ってて、約束までしてたくらいだよ」
いやー、あの時のあたしは勢いが凄かったなぁ。今のあたしにはあそこまでグイグイ行くのはできない。
「その時の記憶を全部で失われてて、どうしようかなって感じ」
「ど、どう?」
「……当たり前だけど、記憶がなくても本人は本人なんだよ。癖は変わらないし、相変わらずだなって思うところもあるし」
100%同一人物。そんなのあたしが間違えるわけない。
それなのに、あたしがそれを素直に受け止めきれてない。不幸な出来事で、あたし達の関係をリセットされた。この気持ちは胸にあるのに、0に戻された。スタート地点に戻された。
その証拠にあたしは「伊地知」って呼ばれてる。昔は「虹夏」って名前で呼んでくれてた。呼ばれる度にチクって刺さるんだ。現実っていう針が。
「側にいて欲しいし、思い出してほしい。けどそれって今を認めてないことになって、同じなのに別人と捉えてることになる。いなくなったら、諦めもつくかなって考えたりしちゃう。あたしって……ずるいよね」
「そ、それは違う! と、思います」
「ぼっちちゃん……?」
「わ、私は虹夏ちゃんみたいに、誰かを好きになったことはないけど。でも、そ、それが大事なのは分かります。う、うまく言えなくてごめんなさい」
「ぼっちちゃん……」
「あっ、虹夏ちゃんがパッシー先輩のことをす、好きなのも伝わってきます」
「……ぇ」
「だ、だって。そうじゃなかったら悩まないと思って……。か、勘違いですよね。あ、あははー。分かった気になって調子乗りました。ごめんなさい。私なんて恋愛も知らない幼稚園生以下の生物なんです」
「ぼっちちゃん戻ってきてー! そんな悲観しないで! ぼっちちゃんにも好きな人できるよ! 初めは気になってる人、とかからだって言うし」
ぼっちちゃんの青春コンプレックスを刺激しちゃったぁ! 冷静に考えてみたら大打撃を与える話題でしかないのに!
あたしのばかーー!!
でも、いつかぼっちちゃんのことを理解して支えてくれる男の人が、現れたら嬉しいかな。