青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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伊地知虹夏との付き合いは短い

 

 伊地知虹夏という人間と出会ったのは、高校に入ってからだ。クラスが一緒だったのと、委員会活動でペアになったのがきっかけ。男子の間でじゃんけん大会が開かれて、最弱王が委員長。そこから負けた順に委員会に所属していって、そしたらペアが伊地知だった。

 ペアになったからと言って、クラスでよく喋るようになるわけでもない。男子は男子。女子は女子で喋る。だから比較的仲のいい女子くらいの収まりだった。

 そこが変わったのは、スターリーができてバイトを始めてから。まさかそこが伊地知のお姉ちゃんの店だとは、採用されてから知ってお互いに驚いたものだ。

 

「あはは~。なんか懐かしく感じるね。スターリーができたのは最近なのに、前から仲良かった感じする」

 

 そりゃあスターリーが最近できただけで、おれたちが知り合ったのは去年なんだからそう思っても不思議はな……いや不思議だわ。

 クラスは去年に引き続き、今年も同じになってる。去年は席が近くなった時は、喋ることもあった。今年はバイトの都合上、下校時でも喋るようになったからそれが影響してるのかもしれない。でも「前から仲良かった感じする」とはならないだろ。なるのか? 不思議ではない?

 

「そういうことじゃないんだけどな~」

 

「そんなふわふわに言われても」

 

「ふわふわかな」

 

「もふもふだな」

 

「ふわもふか。あっ! ふわもふと言えばこれ見てよ!」

 

「ドラムは硬いと思うんだけど」

 

「違った。これじゃなくてこっち」

 

「ペンギンのぬいぐるみ?」

 

「そう! しかも赤ちゃんペンギンのやつ! かわいいよね~」

 

 たしかに赤ちゃんペンギンはふわふわそうな毛を持ってるし、それをぬいぐるみにしたらふわもふになるよな。伊地知はわりとこういうのが好きらしいけど、本人曰く「お姉ちゃんにプレゼントしてる」とのこと。絶対自分の分も確保してると思うね。

 

「まさか買えと?」

 

「そんなことは言ってないよ?」

 

「ちらちらと画面とこっちを交互に見てるくせに!?」

 

 態度がもうそれだよ。促してきてるよ。誕生日でも近いんだっけ。あれ、誕生日いつだっけ。

 

「プレゼントって女の子は喜ぶことだけどな~」

 

「もう露骨なんですけど!」

 

「サプライズが嬉しい人もいるから覚えとくといいよ」

 

「欲しいもの提示されてたらもうサプライズも何もない!」

 

「私が欲しいとは言ってないじゃん」

 

 なんでそこでひっくり返してくるんだ。わかんないよこの人。伊地知虹夏がわからない。週間でコラム書けそうなくらい伊地知がわからない。

 世の中の男性先輩方。こういうタイプの人とはどう接したらいいっすか。ヤホー知恵袋で相談すればいいですか。

 

【自慢話?】

【相談と見せかけたスキ自語は新しいな】

【妄想乙】

【その手のタイプはまず序盤は真っ当な選択肢を避け、わざと距離感を作り、2個目のキャライベから接近を試みれば多くは個別ルートに入れる。個別ルートに入ればそこからの選択肢(表示を省略)】

 

「何も役に立たねぇぇぇ!!」

 

「うわっ!? どうしたの急に!?」

 

 何が知恵袋だコノヤロー! 一番知恵袋っぽい回答も的外れな方向で話が進んでる。なんでギャルゲー攻略に困ってる前提で話を進めてるんだよ。しかも省略された行数が10行ってどういうことだよ。怖えよ。

 

「ネットって頼りにならないこともあるんだな」

 

「頼り過ぎは現代っ子の悪い点って言われがちだよね」

 

「依存レベルの人もいるから言われるのは仕方ない」

 

「SNSとか使ってるんだっけ?」

 

「使ってるけどロイン以外はアカウント教えない」

 

「ちぇー」

 

 教えたとしても、伊地知とはあまり縁がないだろうな。喜多ちゃんはSNS女子って感じだけど、伊地知は意外とそうじゃない。使ってそうで使ってないタイプ。使ってても喜多ちゃんほどの運用はない。

 

「それで?」

 

「うん?」

 

「わざわざバイトの休憩時間を合わせてきたのは、何か他に話があるからじゃねぇの?」

 

「え、バレた。明日雪かな」

 

「扱いが酷い。普段は休憩時間被らないんだから勘ぐるって……」

 

 伊地知はバンドのことを大切にしてる。バイト中は基本的に後藤ちゃんのフォローに回るけど、喜多ちゃんの様子も見守ってる。だから休憩時間だってバンドメンバーで被るように、店長に合わせてもらってる。

 そうしてるのに、今日はおれに合わせてきた。それはもう何かあるんだと疑うってもんよ。

 

「大したことじゃないんだけど」

 

「そっか。じゃあおれソシャゲの周回あるから」

 

「最後まで聞け!」

 

「大したことじゃないって言ったじゃん……」

 

「ああもういいよじゃあ!」

 

 わけがわからないよ。店長助けて。あなたの妹の情緒がおれにはわからない。

 

「なんで私とリョウには告白しないのかなって聞いてみたかっただけ」

 

「いいよってそっちの意味か」

 

 話さないよってことじゃなくて、赤裸々に言うねってことなのね。紛らわしい。日本語って難しいなぁ。

 

「それはほら、見境ないわけじゃないって話したじゃん」

 

「そうだけどさー。これだけいろんな人に告白してる人に1回も言われないって、女子としての自信がね」

 

「伊地知は伊地知だし。まぁでも、伊地知のことが好きな人もいるから安心して」

 

「そうなの? クラスに?」

 

「こ、これ以上は言えないでござる! 守秘義務があるのだ!」

 

「ちょっ! 気になっちゃうじゃん! 来週からクラスの男子を疑っちゃうって!」

 

「くぅぅ~! 伊地知の聡明さが仇になったか!」

 

「お前のわかりやすさのせいだァ!」

 

 乱心でござる! 伊地知殿が荒ぶっておられる! 

 

「それは一旦置いといて」

 

「頑張って忘れよ」

 

「で、えーっと。何の話だったっけ。伊地知のアホ毛の話だっけ?」

 

「それは絶対違うね」

 

「アホ毛あるのに頭いいよな。アホ毛なのに」

 

「偏見がこじつけレベル。はぁ、いいや」

 

 告白云々の話だったのは覚えてる。特に答えないといけない話でもないし、このまま有耶無耶にさせてもらうとしよう。そして忘却の彼方へ!

 

(とか考えてそうな顔してるな)

 

「そうだ伊地知。女の子紹介して」

 

「私の友達ほとんど知ってるじゃん。紹介も何もないよ」

 

「友達少ないのか」

 

「そうは言ってないよね? それに紹介とかはいいじゃん」

 

「というと?」

 

「目先の目的は夏休みでしょ? 彼女できなかったら一緒に花火大会行こ」

 

「条件が悲し過ぎて今から泣ける」

 

「できないって自分から決めつけてない!?」

 

 出会いがないんだから仕方ないじゃないか。良くも悪くも学年内で知られちゃってるみたいだし、誰もOK出してくれない。だから前提条件が校外の人間になってきて、これがもう希少価値の塊。

 それはそうと、いったいどういう風の吹き回しだろうか。アホ毛ヘリコプターでもやってるのか。

 おれ達男子の間では伊地知と山田はセットだぞ。……なるほどセットか。

 

「山田のお守役を手伝えってことだな。生憎とおれは祭りだと役立たずになるぜ!」

 

「自信満々に言うことじゃないでしょ。それと、リョウは来ないよ」

 

「ん? じゃあ後藤ちゃん? でも後藤ちゃんがそんな人の多いところに行くとは……あいや、バンドメンバーとなら行くこともあるか」

 

「そうじゃなくって。2人で」

 

「後藤ちゃんとおれ!? セッティングありがとな!」

 

「違う! 私と!」

 

「……。へ~。…………ええっ!?」

 

「そんな驚く!?」

 

 だって伊地知が山田とセットじゃなくて、後藤ちゃんとか喜多ちゃんがいるわけでもない。そんな場をなんで用意してくるんだ。

 

「青春だなんだーって何回も耳にしてたら、そりゃあ私も意識するよ。男の子と花火大会は青春でしょ?」

 

 わからない。

 おれには伊地知虹夏が何を考えているのか、何を思ってそんなことを言ってくるのかわからない。

 だってまだ先の季節の話なのに、楽しそうに話してるんだ。

 それなのに条件をつけてきている。おれが彼女を作ったらどうするつもりなんだ。

 なぜ伊地知はこんな条件をつけたのか。その日考え続けたけど、さっぱりわからなかった。

 

 

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