青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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山田リョウの存在の大きさたるや世界のYAMADA

 

 山田リョウとの関係は良好と言って差し支えない。気兼ねなく冗談を言い合う、雑談を交わせるような距離感。お互いに線引きをするからこそ保たれる関係は、常に「仲いい友だち(悪友)」になっている。

 そんな山田と知り合ったのも高校生になってから。中学は一緒じゃなかったし、伊地知と同じでクラスメイトだったから知り合った。

 高校って他クラスとの交流が基本的にない。あっても体育とか合同でやる授業だけで、男女は別れるから他クラスの女子なんて接点が作りづらい。

 山田と仲良くなったのは……話すようになったのは、スターリーでのバイトが始まってからだ。伊地知を介しておれたちは知り合った。

 第一印象は「不思議な奴」だったけど、知ってしまえば「バカ」に変わる。異性で気が合う友達というのは、たぶん希少だと思ってる。だからそういう意味でも、山田と知り合えたのは良かった。

 

「照れる」

 

「表情変えずに言われてもな」

 

 山田と知り合えてよかったと思えるのは、それだけが理由じゃない。結束バンドはまだしも、おれとは必ず一定距離を保つ山田だからこそ、話せることがあるからだ。

 もちろんそういう相手は男友達にもいる。クラスメイトは伊地知と山田がバンドを組んでいることを知ってるし、おれがスターリーでバイトしていることも何人かは知っている。当たり障りない範囲で話をすることも珍しくない。

 それでも山田はある種特別だ。唯一無二のポジションにいる。女子視点の意見をくれる貴重な存在でもある。

 

「真面目な話になりそうだね」

 

「たまにはな」

 

「私に店選びを任せたのは正解。ここは虹夏たちも来たことがない喫茶店。…………ぼっちは来たことある」

 

「後藤ちゃんが用もなく来ることはないだろ」

 

 喫茶店巡りが好きだなんて聞いたこともない。1人になれて落ち着ける場所を好むタイプだし。そういう意味では山田と重なっていて、この喫茶店を好きになっていてもおかしくはないけども、後藤ちゃんは来ないはず。

 来店したからには注文もする。ケーキセットという文字が見えてしまってはそれを選ばない道理はない。自家製チーズケーキと紅茶のコンビネーション。聞くだけでも楽しみだ。

 

「パッシーの真面目な話ともなれば、ある程度予想はつく」

 

「その予想を聞く前に確認させてほしい。お前が伊地知の親友として、どこまで知ってる?」

 

「抽象過ぎ。……全部とは言えないけど、だいたいは知ってると思う。虹夏から()()()()()()()()

 

 怖いくらいに、欲しい情報を的確に出してくるな。

 けど、それならおれも踏み込んで聞ける。

 

「おれと伊地知って高校以前に……小学生の頃に知り合ってたのか? おれ実は」

 

「パッシーが記憶喪失なのも知ってる」

 

「っ! ……そうなのか」

 

「うん。虹夏から聞いた」

 

 それはつまり、おれの質問への回答だ。

 おれは伊地知と知り合っていた。記憶を失う前に。俗に言う幼馴染だったってことか。

 そうなると合点のいく場面がいろいろとある。伊地知の「前から仲良かった」発言も、感覚的な話じゃなくてそのままの意味。初めて一緒に並んで歩いても歩幅が自然にあったのは、体が伊地知を覚えていて自然に合わせられたから。おれの癖とか見抜けていたのも、おれのことを知っていたから。

 伊地知からのサインは出ていた。おれがそれを受け取らなかっただけ。……考えてもみれば、きっと昔のおれと伊地知は相当仲が良かったんだなって推測できる。

 

「……はぁぁ。前のおれは、きっと伊地知のことが好きだったんだな」

 

「へー。そうなんだ」

 

「山田は伊地知からどういうふうに聞いてたんだよ」

 

「大雑把にだけ。虹夏が持ってる写真がベース」

 

「写真?」

 

「そう。昔の2人の写真」

 

 なるほどな。だから喜多ちゃんとツーショットする時に、頭痛を起こしていたわけか。前のおれにとって意味のある行為……大切なことだったんだな。

 それはそれとして、頭痛を起こしてまで訴えかけないでほしい。喜多ちゃんに勘付かれて誤解されたら目も当てられない。最低な男に成り下がっちゃう。

 

「事前確認はこのくらいかな。本題に入ろう」

 

「そうだな」

 

 チーズケーキめっちゃうめぇぇ。ケーキ屋に負けてないぞ。レシピも手作りとか最強じゃん。マスターかっこよ。

 

「虹夏のことで悩んでるんでしょ?」

 

「エスパーかよ」

 

「結束バンドだと虹夏だけが昔からの知り合い。そうやってパッシーを見てたら、細かいとこに気づける」

 

「他人に興味がないと思ってたけど、案外見てるのな」

 

「虹夏が気にしてなかったら注視してない。クラスメイト兼バイト仲間ってだけ」

 

 伊地知が親友だからか。本当に仲がいい。良い友人関係だよ、ほんと。

 

「伊地知だけは、初対面なのに初対面って感じがしなかった。親でさえ誰だこの人ってなったのにさ」

 

 感覚ではそうだったけど、一切覚えていないのも事実。記憶喪失以前の友達は数人いて、そいつらは「記憶がない? それはそれ。これはこれ。今日から友達。Understand?」なんていうパワフルスタイルだった。

 伊地知のせいにするつもりは一切ないけど、伊地知は初対面として接してきてた。だからおれも、そうなんだと思い込んでた。

 

「まぁ、昔のおれの知り合いだと名乗られても怖いんだけどな」

 

「有名になった途端いきなり連絡してくるクラスメイトとか、親戚を名乗る知らない人みたいに?」

 

「たぶんそんな感じ」

 

「それで、パッシーは虹夏のことをどう悩んでるの?」

 

「記憶が戻らないから、昔は昔、今は今って切り離して考えるようにしてる。それなのに伊地知だけは、昔が首を突っ込んでくる。……今のおれの、伊地知に対する感覚がわからないんだよ」

 

 昔の感覚に引きずられてのものなのか。

 

「私にパッシーの気持ちも苦しみも共感することはできない」

 

「うん」

 

「それでも言えることがあるとしたら、好きに理由はいらない」

 

 恋愛相談のつもりじゃなかったんだけど……そこはいいか。

 

「好きか嫌いかで言うと、虹夏のこと好きでしょ?」

 

「そりゃもちろん」

 

「なら、それでいいと思う。私は好きな理由とかなくていいと思ってる。だって理由をつけたら、それが逃げ道になるから」

 

「具体的にすることが?」

 

「私の意見ってだけ。……好きな理由をどんどん作ったら、そうじゃないところは好きじゃないって話になる。相手の全部を好きになるのは当然無理。でも、明確に分けちゃうとそれを理由に離れやすくなる」

 

「言いたいことは分かる。……好きなことだと饒舌になる山田の口から、そういう話が出るのは意外だな」

 

「私は好きなことの良さを語ってるだけ。賛否あるのは認めてる。好きなものは好き、シンプルイズベスト」

 

「好きなものは好きか。そりゃそうだ」

 

 切り離そうとして、きっぱりと分けられるものじゃないのは理解してる。同じ体で同じ魂。ただ記憶がないだけ。周りからしたら同一人物。

 それでもおれにとっては、記憶喪失前の自分は他人だ。知らない誰かだ。話をされても写真を見ても、実感が湧いてこないんだから。

 自分の感覚に自信が持てない。それなら、自分で断言できるようになればいい。ハッキリさせたらいい。おれが伊地知のことを、本当の意味でどう思っているのかを。

 

「ありがとう。おかげで整理できた」

 

「どういたしまして。私としても、バンドに支障が出てきたら困るから」

 

「おれの問題では?」

 

「……先は長いね」

 

「さすがに時間はかけるぞ。結束バンドも未確認ライオットに向けて活動するんだし、邪魔したくないからな」

 

「パッシーって、気付けるのにこういうのは鈍感」

 

 男友達にもなんかそれ言われたな。

 

「それはそうと、山田には伊地知と直接話せって言われることも想定してたんだけど」

 

「本来ならそうするべき。これに関しては虹夏が話さないし、それでパッシーも詰まってたから話に乗っただけ」

 

「山田って良い奴だよな」

 

「そんな私への報酬はあって然るべき」

 

「うん?」

 

「ここのお会計と帰りの電車賃出して」

 

「山田っていい性格してるよな!」

 

「ありがとう」

 

「今回は褒めてない!」

 

 

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