青春時代というものがろっくなのかもしれない   作:粗茶Returnees

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後輩の成長を見守るのが生き甲斐

 

 結束バンドが目標に立てた未確認ライオット。それは10代のアーティストを対象にしたロックフェスで、新人発掘のイベントでもある。そこに出場したバンドがメジャーデビューすることもあるとか。主に優勝したバンドがそうなるんだろうな。

 そのフェスに出るにはデモでの審査、ネット投票、審査員の前でのライブがあるんだとか。長い予選を経て出場できるわけだ。練習にも熱が入るわけだよ。

 

「あっ、先輩」

 

「お疲れ様後藤ちゃん。今日もドリンク頑張ってたね」

 

 今日は後藤ちゃんと伊地知の2人でドリンク対応。伊地知のように接客するのは当分まだできなさそうだけど、初めに比べたら随分と接客できるようになってる。カウンターの裏に隠れる時間も減ってきてるし、手際もよくなってる。

 

「え、えへへ~。きょ、今日は3人、目を見ながらできたんです」

 

「へ~! 成長したね後藤ちゃん! なかなか超えられなかった壁をとうとう突破したじゃん!」

 

「で、ですかね。あっ、サイン会でも神対応で有名になります」

 

「神対応か~。線引きはちゃんとしときなよ? 度が過ぎる要求をするファンも出てくるかもしれないし」

 

「あっ……はい」

 

「後藤ちゃんが有名人になると、先輩としても嬉しいな。今のうちにサイン貰っとこうかな」

 

 頑張った後藤ちゃんの笑顔を見てるとこっちも元気になるね。髪留めで纏められてる部分の髪もひょこひょこ動いてる。この髪って伊地知みたいなアホ毛ではないよな。横に飛び出てるけど……飛び毛?

 

「成長と言えば、後藤ちゃんおれと話す時も顔を逸らさなくなったね」

 

「あっ、そ、その節は失礼なことを……」

 

「いやいや。誰だって苦手なことあるんだし、嫌われてるわけじゃないって伝わってたから」

 

 苦手に思われてた可能性は残ってるけど。今はこうして話せてるのだからそんなことは取るに足らぬ小事。

 顔を逸らさなくなっただけで、今でも目は泳いでるからね後藤ちゃん。目が合うとシャトル並みの速さで目を飛ばしてるし。ちょくちょく人間以外の生命体になるの面白い。

 

「せ、先輩のことは全然嫌いじゃなくて。に、苦手ってわけでもないんです。今は」

 

 やっぱり?

 

「あっ、年上の男の子と話すことが全然なかっただけで。だ、だから苦手っていうのはそういうことで」

 

「あはは、それならよかった」

 

「ほ、ほんとですよ?」

 

「うん。わかってるよ後藤ちゃん」

 

 ほっと安心してる後藤ちゃんの小動物感たるや。刺さる人には刺さるんだろうなー。店長とかがそうだし。

 後藤ちゃんの演奏で惹かれてるのは、後藤ちゃんファンの1号さんと2号さん。廣井さんはお気に入りって感じだな。あれで見る目があるんだから、酔っぱらいも侮れない。

 

「あっ、先輩」

 

「うん?」

 

「い、今は先輩と話すの楽しいです」

 

「嬉しいね」

 

「あ、あと、……その……安心するんです」

 

「もっと嬉しいね」

 

「い、いつも見守ってくれてて」

 

 店長はおれ以上に後藤ちゃんのこと見てるのにな。後藤ちゃんに正しくそれが伝わるのはいつになるのやら。

 

「だ、だから」

 

 後藤ちゃんに袖を小さく摘まれた。それはいつかの勉強会の時のように。

 

「い、いなくならないでください」

 

「後藤ちゃん……」

 

 まさか後藤ちゃんにこういうことを言われる日が来るとは。それだけ打ち解けられていたという事実は喜ばしい限りだ。おれが思っていた以上に、後藤ちゃんと仲良くなれていたらしい。 

 後藤ちゃんはコミュニケーションが苦手な子だ。人と話すだけでも勇気が必要な程に。ご家族とか、一部の人間相手にはそのハードルが下がるにしても、おれ相手だとまだハードルが存在する。今だって後藤ちゃんの手は震えている。

 その気持ちを汲みたくもなる。応じたい気持ちも湧いてくる。

 

「ごめん」

 

「……ッ!」

 

 けどこれは譲れないんだ。

 

「後藤ちゃんの気持ちは嬉しい。結束バンドがメジャーデビューしていく姿を一番近くで見たい気持ちもある。でも、このチャンスを逃すわけにはいかないんだ」

 

「あっ、ごめんなさい……。せ、先輩の人生の選択なのに、我儘を言ってしまって」

 

「謝らないで。そう思ってくれる人がいることが、本当に嬉しいんだから。むしろおれの方が謝る立場かな」

 

「そ、そんなことないです」

 

「ううん。変わらないことに憧れすら抱いてるのに、おれ自身が国を出ていくんだから。支離滅裂だよね」

 

「い、いえ。……先輩の中では、きっと筋が通ってるんだと思います」

 

 どこまでも優しい子だな。他のバンドメンバーにしてもそう。優しくて、人を大切にしていて。だから応援したくなる。

 

「パッシー先輩、ひとりちゃんもお疲れ様です」

 

「お疲れ様喜多ちゃん」

 

「あっお疲れ様です」

 

 最近喜多ちゃんと話すことが増えた気がするな。反対に伊地知とは若干距離を感じる。またおれ何かやっちゃったのかもしれない。今度時間を作って伊地知と話さないと。

 

「何の話してたんですか?」

 

「え、えっと……」

 

「後藤ちゃんが成長したなって話。ついに3人のお客さんと目を合わせて接客できたんだって」

 

「そうだったんですね! すごいわひとりちゃん!」

 

「そ、それほどでも……あります。へ、へへへ」

 

「次はワンステップ飛ばして5人に挑戦ね!」

 

「ごっ!?」

 

「それはまだ厳しいみたいだから、いずれね」

 

「み、みたいですね。先輩、接着剤どこでしたっけ?」

 

「時々鬼畜だよね」

 

 すぐさまくっつけなくても、時間をおいて待っておけば後藤ちゃんも元通りになるんだけどなー。

 

「ところで喜多ちゃん、何かあった?」

 

「へ?」

 

「気のせいだったらそれでいいんだけどさ。何か悩みがあるみたいだから」

 

「あはは……、先輩にはお見通しでしたか」

 

「喜多ちゃんっていつも楽しそうに笑ってるからさ。ギャップで気づきやすかっただけだよ」

 

「先輩いつも私のこと見てくれてるんですね」

 

「え……まぁ、そりゃあ大切な後輩だし。結束バンドファンでもあるし」

 

 ストーカーみたいにガン見してるわけじゃなくて、だから犯罪臭するような行為はしてないんですよ。本当に。信じてください。

 

大切な後輩、かぁ

 

「喜多ちゃん?」

 

「いえ。こっちも頑張らないとなーって」

 

 こっちもとは。

 

「……悩みというか、気になってることがあるんです」

 

「行きつけのカフェの新メニュー?」

 

「そっちじゃなくて。え、新メニュー出るんですか? SNSに載ってなかったですよ?」

 

「うん。カフェのマスターがそう言ってた」

 

 メニューが出たら行くとしますか。喜多ちゃんとよく行ってるあのカフェ。段々マスターの目が温かくなってるんだよね。常連だからかな。

 

「も~、すぐ脱線しちゃうじゃないですか」

 

「ごめんなさい」

 

「この前ライブ映像を見たんですよ。店長が撮っていたのを元に」

 

 店長の後藤ちゃん盗撮のあれか。もう職権乱用というか犯罪に片足突っ込んでるのでは。

 

「それで、私の声が楽器に消されてるなって気づいて」

 

「ふむふむ」

 

「先輩、私の歌声を綺麗だって言ってくれてましたけど、どれぐらい聴こえてました?」

 

 これは……変に取り繕う方が駄目なパターンだな。正直に話したほうがいいやつだ。それに結束バンドのライブ中って、おれがドリンク担当になるからわりと離れてる。本当に聞こえていたのかと疑問に思われるのも無理ないな。

 

「曲調によって聞こえる箇所と聞こえない箇所はあったよ。サビとか熱の入りやすいとこはバッチリ。逆に落ち着くとこはあんまり」

 

「っ! そう……ですか」

 

「今まで黙ってたのは、おれがそういうことを言う立場じゃないから。結束バンドのマネージャーでもないし、アーティスト活動してるわけでもないし」

 

「私も今まで聞いてなかったですもんね。先輩はどうすれば改善できると思いますか? いっぱい練習したら変わりますか?」

 

「練習は大事だろうけど、闇雲にしても効果は薄いんじゃないかな。これはどういう分野でも当て嵌まることだと思う」

 

 勉強にしてもスポーツにしても、目的をはっきりとさせてそれに合った練習やら対策をするのがいい。なんて言ってもおれはアーティストじゃない。ボーカルのことはさっぱりわからない。

 

「そんなわけで、先輩ボーカルから話を聞くのがいいんじゃないかな」

 

「先輩ボーカルですか? でも私他のバンドの方を全然……」

 

 しれっと廣井さんがボーカル兼ねてること忘れてるよね。そうしたいのも分からなくはないとも。酔っぱらいは参考にしたくない。

 

「年が近い人で紹介できる人いるから。不安なら後藤ちゃんと一緒に会ってみるといいよ」

 

「ゔぇっ!?」

 

「2人とも会ったことあるよ。紹介するのは、新宿FOLTを拠点にしてるバンドマン。大槻ヨヨコだから」

 

「あっ、ショーイチさん」

 

 それで覚えちゃったのか後藤ちゃん。

 大槻から苦情入るなこれは。

 

 

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