青春時代というものがろっくなのかもしれない 作:粗茶Returnees
人との距離感、関係性。それを言葉にするのは、カテゴリーを作って整理するため。
家族はお父さんとお姉ちゃん。お母さんは亡くなったけど、今も心の中にいる。リョウは友達の中でも一番の友達。いわば親友。あたしは友達のカテゴリーが広い方だと思う。クラスメイトもほとんどを友達だと思ってる。
ぼっちちゃんと喜多ちゃんは、友達で後輩でバンド仲間。どれか1つでって言われたら、友達って言うかなぁ。バンドの大事なメンバーだけど、知り合ったきっかけがバンドなだけで、仮にこの先何かがあって解散しちゃったとしても、あたしは友達であり続けると思う。だから友達。
こうやって区分ができるのに、彼だけはできない。幼馴染は幼馴染でも、忘れられてるから成り立たない。バイト仲間は距離がある。友達は……ちょっと寂しい。
あたしにとって何なんだろう。喜多ちゃんみたいに、ばしっと決められてない。
「伊地知の番だぞー」
「あ、うん。……あれ? またストライク取ったの?」
「力こそパワーってな」
「バカ丸出しじゃん」
「おれがスコア勝ってるが?」
「ぐっ、そうだけど……!」
スターリーから連れ出されたあたしは、2人でボウリング場に来てる。他のスポーツもゲームもできる大型アミューズメント施設。高校生は時間制限あるし、ここにあるものを全部回れる時間はない。
あたしはボウリングの初心者じゃないけど、上手いわけじゃない。友達間だと良い勝負になるんだけどなー。
「惜しかったな~。もう少しでスペアだったのに」
「狙うの難しいよね」
「端っこは特にな」
そう言いながらカーブでスペア取ってくるのはやめてほしい。勝てないのはいいとしても、ここまで差が出てくると自信をなくしちゃいそう。
「伊地知ならできるって」
「え~、そう言うならアドバイスしてよー」
「アドバイス? それなら」
どこを狙えばストライクになりやすいのか。それはあたしも知ってる。アドバイスされたのは、投げる時にどこを見たらいいのか。あとは手とか腕とか、そういう細かいところまで。
言われたことを咀嚼して投げてみると、うそみたいにあっさりとストライクが取れた。教えるの上手いんだね、今も。
「本当にストライク取ってる……!」
「あれ?」
なんかめっちゃ驚かれてる。そのために教えてくれたくせに!
「教えてくれた通りにしただけだよ」
「一発でその通りにできるのすごいな」
「教え方がいいからだよ」
「まぁな!」
ドヤられた。謙遜しないんだからー。
「このまま逆転できたりして」
「手加減はしないぞ?」
「そこはしてよ」
じーって見つめてたら結局手加減してくれた。押してみると弱いのは、やっぱり一緒なんだ。
優しいというか甘いというか。誰かに強く当たることは滅多にない。怒った時を除けば、心底相性が悪い人が相手の時。今年で強めに当たった人と言えば、あのライターさんかな。あの時はちょっと怒ってた。
「あーあ。全部負けたー」
「3ゲーム目は接戦だっただろ」
「手加減してくれたのに負けるのは悔しいよ」
「手加減しても勝ちたくなるのが男の
「負けず嫌いなだけでしょ」
「そうとも言う」
ボウリングが終われば休憩を挟んで、今度はゲームコーナー。アーケードゲームって言うみたいだけど、あんまあたしは分かってない。
「あっちの賑やかなのは?」
「
「え。なにそれ」
「伊地知には関わってほしくない世界」
「説明になってないんだけど……」
遠目に見ても何種類かのゲームが纏まって設置されてるのが分かる。ゲームの台数も多いし、人気があるゲームのはずだよね。なんでそんな呼び方されてるんだろ。
「いろいろ知ってるんだね」
「ボウリングのためによく来るし、待ち時間の間にゲームも定番の流れだからな」
「なるほどね。あっちのゲームはやったことあるの?」
「何回かは。面白いんだけど、うるさい人がそこそこいる。オンライン対戦でマナー悪い人もそこそこ。だからそれ以降はやってない」
「そうやって聞くと気になってくるんだけど……」
「それよりこっちのゲームやろーぜ。シューティング」
「露骨にそらすね!?」
本当に嫌そうな顔してる……。まぁあたしも興味本位ってだけだから、絶対にやりたいわけじゃない。後ろから見るくらいはしてみたかったかな。
ところでこのゲーム本当にシューティングなの? なんか大きな箱に見えるんだけど。
「これの中に入ってやるゲーム。座りながらできるし楽だぞ」
「難しいやつ?」
「カーソルが出るからまだ優しい方。リロードもしやすいし」
「へ~。よし! 塗り絵ゲームで鍛えたあたしのエイム力を見せてあげる!」
箱の中に入って並んで座る。お互いに100円ずつ入れて、ボタンを押したらゲームスタート。
こういうゲームってストーリーもあるんだ。なんか偉いっぽい人が研究成果を語ってる。
「スキップするか」
「え?」
「え? もしかして見たかった?」
「うん。でも流れてると気になるくらいだからいいよ」
「じゃあステージクリアしたら、そこからは流すわ」
さらっとステージクリアを宣言してる。ところでこのシューティングゲーム。箱だけじゃなくて、ゲームの世界でも雰囲気が暗いような……。
「ぇ……きゃぁぁぁあ!!」
「耳が……!」
「なんでゾンビ!? あたしが怖いの苦手って……!」
「ゲームなら大丈夫かなって……」
「ゾンビはお化け屋敷より怖いじゃん! ばかぁぁ!!」
「あ、ちょい。2Pモードソロプレイはきつい!」
「自分でやって!」
「そうする!」
あたしが銃を横に置いちゃったから、それを取るためにあたしの後ろから手が回される。拾うとそのまま本当に2丁でシューティングを始めちゃって、こうなると自然とあたしと体が触れ合う。
「悪い伊地知! ステージクリアまでは我慢して!」
「う、うん」
ゲーム画面は怖いから見れなくて、そうなると視線の置き場に困る。視線を動かしてる間も、ゲームの音は関係なく耳に入って来る。ゾンビゲームは言わばパニックもの。必死な声とか非現実的な声がさらに恐怖心を煽ってくる。
それなのにあたしは、むしろ安心が勝ってた。落ち着きを取り戻して、上がってた息も整えられていく。
一緒だ。昔もそうだった。あたしは怖がるとよく側にひっついてて、落ち着かせてくれてた。あたしにとって安心できた場所の1つ。それは今でも変わらないみたい。
「ふー。ステージクリア。どうする? ストーリー見るか出るか」
「……見る」
「見るのか。怖いなら無理しなくていいぞ」
「ううん。今は大丈夫」
「そっか。腕どけるからこれで離れられるぞ。待たせてごめんな」
「……」
「あの、伊地知さん?」
「ばか」
「えぇ……」
あたしが動かなかったから、諦めて今の態勢でゲームを続行。昔の自分はよく耐えたものだよ。こんなに胸がドキドキするのに。
これは心臓に悪いや。怖い時に落ち着ける方法なのに、違う理由で落ち着けなくなるなんて。
昔のことはよく覚えてる。忘れたくない大切な記憶たち。あたししか知らない。共有できない孤独だけど愛おしい記憶たち。よく覚えていて、成長した今との違いを教えさせられる。
例えば声。声変わりしてるから昔より低い。例えば体つき。女子とは違ってガッチリしていて、成長した男の子なんだなって示される。
変わっていないものだってもちろんある。それは同一人物なんだから当然。そう。当たり前のことなんだ。
「ねぇ」
「ゔぇっ!?」
「そんな反応する?」
「耳元で急に囁かないでくれます!?」
「むぅ」
喜多ちゃんの気持ちにようやく向き合える。あたしはこれまで逃げてただけなんだ。過去を見てただけだった。
あたしの気持ちだって本物だ。誰にも負けない。忘れられたとしても、あたしの気持ちは変わらない。リセットされるというのなら、何度だって0から始める。そしてあたしのことを好きになってもらう。
「あ、死んだ。それで、伊地知は何言おうとしてた?」
「うーん、やっぱりいいや。喜多ちゃんにルール違反しちゃうかもだし」
「なんで喜多ちゃん?」
「なんでだろうねー。考えてみて」
「そうしてみる」
ゲームが終わればそこからは2人でご飯を食べに行って、下北まで戻る。家まで送ってくれて、あたしはそこでお礼を言った。
「楽しめたか?」
「うん! おかげさまで」
「それならよかった」
「ドラムも楽しめよって、そう言いたかったんだよね? ありがとう」
「っ! 気づかれてるとこれはこれで恥ずいな……」
「えへへ。あたしは2級の資格持ちだからね~」
「どんな資格だよ」
「あたし主催の資格。1級持ちはご家族」
「なんかデジャヴ」
どこかの誰かさんが、いつぞやに言ってたぼっちちゃん検定と同じだからね~。
「なんにせよ、伊地知が楽しめたのは本当によかった。伊地知は楽しそうに笑ってるのが一番似合うからな」
「~~っ、も~。何でそういうこと言うかな」
「え、これ駄目なやつ?」
「駄目じゃないから困るの!」
「そんなめちゃくちゃな……」
もっと話してたいけど、帰るのが遅くなっても悪いよね。明日また学校で会えるんだから。
「明日学校来るよね?」
「そりゃあな。また明日」
「うん! また明日。おやすみー!」
きっと本人は気づいてない。